IFRS適用に関する法務上の留意点

ファイナンス
溝口 元気弁護士 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業

 現在、わが社の会計基準にIFRSを導入するかどうか検討しているのですが、法務部としてIFRS導入プロジェクトにどのように関わっていけばよいのでしょうか。

 IFRS導入に際しては、取引における法律関係を含め、法務部に対して法的知見を求められる場面も多数想定されます。そのため、IFRSがどのような存在なのか理解した上で、経理部や企画部に任せるだけでなく、全社的プロジェクトとして積極的に関与することが望ましいといえます。

解説

目次

  1. IFRSとは
  2. 日本企業におけるIFRSの適用
    1. IFRS適用を選択できるもの
    2. IFRS適用を選択できないもの
    3. 実務上の対応方法
  3. 契約書作成上の留意点
    1. 売買契約
    2. 研究開発契約
    3. その他
  4. 今後の展望

IFRSとは

 IFRS1とは、日本語で「国際財務報告基準」または「国際会計基準」といい、国際的に承認され、遵守されることを目的としている会計基準です。
 現在、約120か国でIFRSに従った会計報告が認められています。IFRSの適用により、国際的な企業間比較を容易にし、資金調達手段を多様化できるといった利点があります。

日本企業におけるIFRSの適用

IFRS適用を選択できるもの

 金融商品取引法会計においては、金融商品取引法193条に基づき、連結財務諸表規則2 1条の2および93条ならびにこれに基づく金融庁長官の指定3 にかかる告示3条および別表2により、「指定国際会計基準特定会社」となる一定の要件を充たした会社は、「指定国際会計基準」として連結財務諸表についてIFRSの適用を選択することができるとされています4
 また、会社法会計においても、「指定国際会計基準特定会社」は、IFRSに従って連結計算書類を作成することが可能です(会社計算規則120条1項)。

IFRS適用を選択できないもの

 これに対し、原則として、 個別財務諸表についてはIFRSの適用は認められていません 5 。また、法人税法上、収益・費用の額は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(法人税法22条4項)に従い計算され、株主総会等で承認された「確定した決算」(法人税法74条1項柱書)に基づいて申告する必要があります。
 したがって、現在の日本企業では、原則として、日本基準による個別財務諸表も作成する必要があります

実務上の対応方法

 そのため、実務上は、IFRSを適用する企業は、個別の会計帳簿を日本基準とIFRSのそれぞれに準拠したもので作成する、または、個別の会計帳簿を日本基準で作成し、決算時にIFRSに基づく財務諸表に組み替える等の対応が必要と考えられます。

契約書作成上の留意点

 IFRSは「原則主義」を採用しており、詳細な基準の解釈や運用は企業の判断に任されています。この判断は経済的実態を重視するとされていますが、各企業は、自社における基準の解釈・運用にかかる判断の根拠を論理的に説明する必要があるため、契約書において取引実態および権利義務関係を明確にすべきものと考えられます。以下では、その一例を挙げることにします。   

売買契約

 日本基準によると、売買取引の収益は、出荷基準(商品の出荷時に売上を計上)を採用している企業が大半と思われます。一方、現行のIFRSによると、売買の収益は、重要なリスク・経済的価値の移転等の5つの要件を充足した時点で計上するものとされています6 7
 取引にかかる契約書の有無にかかわらず、一般的に、引渡しまたは検収がなされた時点まではリスク等は移転しないものと思われます。そうすると、IFRS適用後は、出荷基準は適用できず、検収基準(買主の検収完了時に売上を計上)または引渡基準(買主への引渡時に売上を計上)を適用することになります。
 そこで、具体的にどの時点でリスク・経済的利益が移転するのかを、取引実態を反映して、契約書上も明らかにしておく必要があります。また、個別取引の売上計上のタイミングを管理するために、引渡し・検収のタイミングを認識するプロセス(納品や検収完了の通知等)を整備する必要が生じます。

研究開発契約

 日本基準によると、研究開発費は、すべて「費用」として処理されます。一方、IFRSによると、研究費は「費用」として処理されますが、開発費のうち、一定の要件を充たすものは「資産」として計上され、減価償却または減損テストを経て減損処理されることで費用化されます
 そのため、たとえば、共同で研究開発を行う場合には、研究費と開発費に留意し、コスト負担や果実の帰属を分配する契約を締結する必要があります。

日本基準とIFRSでの研究開発費の処理方法

図 日本基準とIFRSでの研究開発費の処理方法

その他

 上記以外にも、リース、のれん、工事請負契約等、個別に配慮すべき事項がそれぞれの契約類型ごとに多数あります。

今後の展望

 企業がグローバルな資金調達を行うためには、今後、ますますIFRSへの対応が必須となってきます。一方で、IFRSの基準自体も、目まぐるしく変更され続けています。
 上述のとおり、IFRS適用会社は、自社における基準の解釈・運用にかかる判断の根拠を論理的に基礎付ける必要があり、この判断に関して法的見地から検討し、その経済的実態を書面化できる法務部の役割は一層高まってくるものと思われます。


  1. 正式名称は、International Financial Reporting Standardsになります。 ↩︎

  2. 「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」 ↩︎

  3. 「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則に規定する金融庁長官が定める企業会計の基準を指定する件」(平成21年金融庁告示第69号) ↩︎

  4. 金融庁の企業会計審議会等では、IFRSの強制適用についても議論されてきましたが、これまでのところ実現の目途は立っていません。 ↩︎

  5. 例外として、金融商品取引法会計においては、連結財務諸表を作成しない「指定国際会計基準特定会社」は、IFRSに基づく個別財務諸表が認められます「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」1条の2の2および129条2項。 ↩︎

  6. なお、収益認識基準は、現在、「顧客との契約から生じる収益」(IFRS15号)として、改訂作業が行われています。 ↩︎

  7. 日本基準を厳格に解釈すると、出荷時基準を適用できない取引が多いとも考えられますが、実務上の運用として、日本基準ではある程度の幅を許容してきたものと考えられます。 ↩︎

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