銀行代理業の許可はどのような場合に必要となるか
ファイナンス当社は一般事業会社ですが、A銀行の代理店として銀行業務の一部を代行することを検討しています。「銀行代理業」には許可が必要であるとききましたが、どのような場合に「銀行代理業」に該当するのでしょうか?
銀行の固有業務である預金、貸付、為替取引を内容とする契約の締結の代理または媒介を行う場合には「銀行代理業」に該当し内閣総理大臣の許可が必要となります。
解説
銀行代理業とは
銀行代理業とは、銀行のために、①預金又は定期積金等の受入れを内容とする契約の締結の代理又は媒介、②資金の貸付け又は手形の割引を内容とする契約の締結の代理又は媒介、③為替取引を内容とする契約の締結の代理又は媒介のいずれかを行う営業をいいます(銀行法2条14項)。
ここで、「銀行のために」に関し、「銀行代理業は、銀行のために行うものであり、銀行の顧客(銀行取引の相手方)の委託のみにより、当該顧客のために行う行為はこれに該当しません。」と解されています(金融庁平成18年5月17日付「コメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」)。
「代理」とは、顧客に対して、銀行にかわって銀行業務を行い、その法律効果をすべて直接に銀行に帰属させる業務をいい、「媒介」とは、他人間の法律行為の締結に尽力する事実行為をいいます(小山嘉昭(平成24年)、詳解銀行法【全訂版】、きんざい)。
また、「為替取引」の定義に関し、「銀行法2条2号にいう『為替取引を行うこと』とは、顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動する依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行することをいう」とされています(最高裁平成13年3月12日判決・判時1745号148頁)。
銀行代理業は、内閣総理大臣の許可を受けた者でなければ、営むことができません(銀行法52条の36第1項)。
銀行のために、以下のいずれかを行う営業
- 預金又は定期積金等の受入れを内容とする契約の締結の代理又は媒介
- 資金の貸付け又は手形の割引を内容とする契約の締結の代理又は媒介
- 為替取引を内容とする契約の締結の代理又は媒介
銀行代理業制度の趣旨
銀行代理業の規制
以前の銀行代理業は、銀行の100%子会社のみがこれを行うことができ(出資規制)、かつ、銀行代理業以外の業務の兼営が禁止されていましたが(兼業規制)、平成18年施行の改正銀行法により、これらの規制が撤廃され、一般事業者も銀行代理業を行うことができるようになりました。
現行の銀行代理業制度は、一般事業者の銀行代理業への参入を広く認めることにより、利用者の銀行サービスに対するアクセスの確保・向上および銀行サービスの販売チャネルの多様化・拡大に貢献するものとされています。
参入には内閣総理大臣による許可、個別承認が必要
もっとも、銀行代理業は、銀行の固有業務である預金、与信、為替取引の一端を担うため、顧客保護の観点から、適格者を審査するために内閣総理大臣による許可制とされています(銀行法52条の36第1項)。
また、銀行代理業及び銀行代理業に付随する業務以外の業務についても、銀行代理業に支障を及ぼすおそれがないかどうかを審査するため、内閣総理大臣による個別承認制がとられています(銀行法52条の42第1項)。
許可の要否の判断基準
許可の要否についての考え方は、平成28年3月の金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(以下「主要行監督指針」といいます)Ⅷ-3-2-1-1に示されています。
また、許可の要否の判断に際しては、「預金又は定期積金等の受入れ、資金の貸付け又は手形の割引、若しくは為替取引を内容とする契約(以下「預金等の受入れ等を内容とする契約」という。)の成立に向けた一連の行為における当該行為の位置付けを踏まえた上で総合的に判断する必要があり、一連の行為の一部のみを取り出して、直ちに許可が不要であると判断することは適切でないことに留意する」必要があります(主要行監督指針Ⅷ-3-2-1-1(1))。
主要行監督指針Ⅷ-3-2-1-1より抜粋
例えば、以下の①から⑤のいずれか一つの行為でも業務として行う者は、原則として、法第52条の36第1項に規定する銀行代理業の許可を受ける必要があることに留意する。
① 預金等の受入れ等を内容とする契約の締結の勧誘
② 預金等の受入れ等を内容とする契約の勧誘を目的とした商品説明
③ 預金等の受入れ等を内容とする契約の締結に向けた条件交渉
④ 預金等の受入れ等を内容とする契約の申込みの受領(単に契約申込書の受領・回収又は契約申込書の誤記・記載漏れ・必要書類の添付漏れの指摘のみを行う場合を除く。)
⑤ 預金等の受入れ等を内容とする契約の承諾
① 顧客のために、預金等の受入れ等を内容とする契約の代理又は媒介を行う者については、銀行代理業の許可は不要である。
ただし、例えば、銀行と当該者との間で合意された契約上又はスキーム上は顧客のために行為することとされている場合でも、当該者が実務上、その契約若しくはスキームに定められた範囲を超えて又はこれに反し、実質的に銀行のために代理・媒介業務を行っている場合には、許可が必要となる場合があることに十分留意する必要がある。
(注) 「顧客のために」とは、顧客からの要請を受けて、顧客の利便のために、顧客の側に立って助力することをいう。
② 媒介に至らない行為を銀行から受託して行う場合には、銀行代理業の許可を得る必要はない。
例えば、以下の イ.から ハ.に掲げる行為の事務処理の一部のみを銀行から受託して行うに過ぎない者は、銀行代理業の許可が不要である場合もあると考えられる。
イ.商品案内チラシ・パンフレット・契約申込書等の単なる配布・交付
(注) このとき、取扱金融機関名や同金融機関の連絡先等を伝えることは差し支えないが、配布又は交付する書類の記載方法等の説明をする場合には、媒介に当たることがあり得ることに留意する。
ロ.契約申込書及びその添付書類等の受領・回収
(注) このとき、単なる契約申込書の受領・回収又は契約申込書の誤記・記載漏れ・必要書類の添付漏れの指摘を超えて、契約申込書の記載内容の確認等まで行う場合は、媒介に当たることがあり得ることに留意する。
ハ.金融商品説明会における一般的な銀行取扱商品の仕組み・活用法等についての説明
③ 銀行から委託を受けて、営業所又は事務所内にATMのみを設置する行為については、当該ATMが施行規則第35条第1項第4号の「無人の設備」に該当する場合には、銀行代理業の許可は不要である。
まとめ
銀行の固有業務である預金、貸付、為替取引を内容とする契約の締結の代理または媒介を行う場合には「銀行代理業」に該当し内閣総理大臣の許可が必要となりますが、どのような営業が「銀行代理業」として許可が必要となるかどうかについては、 (1) 銀行のために、(2) 銀行の固有業務を内容とする契約の締結の(3) 代理又は媒介に該当するかどうか、上記主要行監督指針を参照し個別具体的に検討する必要があります。
