銀行グループはフィンテックに関する事業をどこまで行うことができるのか

ファイナンス

 当行(銀行)は、フィンテック(FinTech)を取り扱う企業に関心があり、出資して子会社化したいのですが、できますか?

 また、システム管理を行う当行の子会社は、フィンテックに関する決済関連の事務を受託できますか?

 業務範囲の規制の観点から、アドバイスをお願いします。

 貴行がフィンテック企業を子会社化することや、貴行子会社がフィンテックに関する決済関連などの事務を受託することは、現時点(平成28年3月時点)では、できないか、制限がかかります。

 しかし、銀行グループがそれらを行いやすくするための銀行法等の改正案が、平成28年3月4日、通常国会に提出されました。成立した場合、ビジネス機会の増加が見込まれ、また、銀行グループのあり方(銀行持株会社の方が有利かどうか)にも影響を与える可能性があります。

解説

目次

  1. はじめに
  2. 現時点での銀行グループの業務範囲の規制の概要
    1. 銀行本体の業務範囲の限定
    2. 子会社化・兄弟会社化できる会社の限定と、それ以外の会社への出資の制限銀行本体の業務範囲の限定
    3. 従属業務に関する収入依存度規制
  3. 銀行グループの業務範囲の見直しの提案
    1. IT企業等への出資の容易化
    2. 銀行グループ内外の決済関連事務等の受託の容易化
  4. おわりに

はじめに

 最近、Finance(金融)Technology(IT)を掛け合わせたフィンテック(FinTech)に注目が集まっています。

 そのフィンテックに関し、平成28年3月4日、銀行法等の改正案が通常国会に提出されました。改正案が改正する事項は多岐にわたりますが、その一つとして、フィンテックによるイノベーションに対応することを目的として、銀行グループが行える業務の範囲を見直す改正が提案されています。

 以下では、現時点(本稿を作成した平成28年3月時点。以下同じです)での銀行グループの業務範囲の規制の概要と、改正案が提案している業務範囲の見直しについて説明します。
 

 なお、銀行グループからフィンテック企業への業務委託につきましては、「銀行から業務委託を受ける場合に留意すべきポイント」をご参照ください。

現時点での銀行グループの業務範囲の規制の概要

銀行本体の業務範囲の限定

 銀行本体の業務範囲は、預金の受入れ・資金の貸付けなどの固有業務、銀行業に付随する業務など、法令が認める一定のものに限定されています(銀行法10条~12条)。
 このように、銀行本体が自らフィンテックに関する事業を営むことには、厳しい制約があります。

子会社化・兄弟会社化できる会社の限定と、それ以外の会社への出資の制限銀行本体の業務範囲の限定

 また、銀行(銀行持株会社)が子会社化できる会社は、次の会社(銀行持株会社の場合には、それらのほか、現物商品取引をもっぱら営む会社)に限られています(銀行法16条の2第1項、52条の23第1項、52条の23の2)。

  1. 他の銀行
  2. その他一定の金融機関
  3. 従属業務または金融関連業務をもっぱら営む会社
  4. その他一定の会社
  • 従属業務」とは、従属する銀行、その子会社等の業務に係る事務のうち、その業務の基本に係ることのないものであり、かつ、その業務の遂行上必要となるものです(営業用不動産管理、ATM保守・点検、現金小切手等集配等)。
  • 金融関連業務」とは、銀行業、有価証券関連業、保険業または信託業に付随・関連する業務です(サービサー業、プリペイドカード業、リース業、イスラム金融等)。

 子会社化できる会社でない国内の一般事業会社に対しては、銀行(銀行持株会社)やその子会社は、原則として、 議決権ベースで5%超(15%超)の出資ができません5%ルール15%ルール。銀行法16条の3、52条の24)。

 そのため、そのような事業会社であるフィンテック企業の子会社化はできません(海外の一般事業会社の子会社化も現時点では難しいと考えられます)。

従属業務に関する収入依存度規制

 上記 2-2 の「従属業務」とは、その会社にとって、従属する銀行やその子会社等の業務に関する事務のことです。営業用不動産の管理、システム関連業務、ATMの保守・点検、現金小切手等集配などが含まれます。

 この従属業務をもっぱら営む会社を銀行の子会社・兄弟会社とするには、 収入依存度規制(その会社の親銀行グループからの収入が総収入の50%以上であることなど)を充たす 必要があります(銀行法16条の2第10項、52条の23第9項、平成14年金融庁告示第34号)。

 そのため、この収入依存度規制を充たさない場合には、銀行の子会社・兄弟会社が、銀行のシステム管理やATM保守などの従属業務を受託することはできません。

銀行グループの業務範囲の見直しの提案

 上記 2 に記載の規制のうち、 2-1 の銀行「本体」の業務範囲については、銀行法等の改正案は改正していません。

 しかし、改正案は、銀行「グループ」がIT分野のイノベーションに応じた業務展開ができるようにすることを目指し、上記 2-2 の規制に変更を加えています。また、上記 2-3 の規制にも変更が加えられる見込みです。以下、順に説明します。  

IT企業等への出資の容易化

 まず、上記 2-2 の規制について、銀行・銀行持株会社がIT企業などに戦略的な出資をしやすくするための法改正が提案されました。
 認可(グループの健全性への影響に問題がなく、優越的地位の濫用や利益相反による弊害のおそれがないことなどが条件となる見込み)を受ければ、 「情報通信技術その他の技術を活用」した「銀行の営む銀行業の高度化」や、「銀行の利用者の利便の向上」に「資する」(または「資すると見込まれる」)業務を営む会社を子会社などにできるようにするという提案です(改正案による改正後の銀行法16条の2第1項12号の3、同条7項、同条10項、52条の23第1項11号の3、同条6項、同条9項)。

 法改正が成立した場合、フィンテック企業を子会社などとして新たな事業を行えるため、ビジネス機会の増加が想定されます。
 なお、親会社が銀行持株会社の場合には、銀行の場合よりフィンテック企業に対する出資割合が高くても、認可を受けられる可能性があると言われています。その意味で、銀行グループのあり方(銀行持株会社の方が有利かどうか)にも影響を与える可能性があります。

銀行グループ内外の決済関連事務等の受託の容易化

 次に、銀行法等の改正案による改正後の銀行法(具体的には、同法16条の2第11項、52条の23第10項)に基づく告示で手当てされるものと思われますが、金融審議会における議論によれば、銀行の子会社・兄弟会社が、「従属業務」を銀行グループ内外から受託しやすくするため、上記 2-3 の一律50%以上の収入依存度規制が引き下げられる見込みです。

 実現された場合、銀行の子会社がシステム管理やATM保守などの決済関連事務等を受託しやすくなり、ビジネス機会の増加が想定されます。

おわりに

 上記のとおり、提案された制度変更は、フィンテック関連ビジネスや銀行グループのあり方にも影響を与える可能性があります。銀行グループの業務範囲の見直し(上記 3 )が実現した場合に、どの程度銀行グループの業務範囲が広げられるかは、現時点では明らかではありませんが、業務範囲が広げられる方向での改正であることは間違いありません。銀行グループによる、子会社を通じてのイノベーションの促進が期待されます。

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