株主総会の開催を禁止するにはどのような制度があるか

コーポレート・M&A
和氣 礎弁護士 桃尾・松尾・難波法律事務所

 私はA株式会社(以下「当社」といいます)の監査役を務めています。当社は3年程前より代表取締役Bによる放漫経営が問題となっていました。そして、本年に入り、代表取締役Bは当社によるX株式会社吸収合併の計画(以下「本件合併計画」といいます)を独断で進めるようになりました。
 代表取締役Bは、当社の臨時株主総会を開催し本件合併計画の承認決議を得ようとしていましたが、当社とX株式会社の合併によるシナジー効果等が不透明なことから当社の既存株主からは反対の声が強く、合併の承認が認められない可能性が高い状況となっていました。

 この状況を受け、代表取締役Bは、本件合併計画に反対することが見込まれる株主に対しては株主総会の招集通知を送付せず、本件合併計画に肯定的な株主に対してのみ株主総会の招集通知を送付して、株主総会を開催して本件合併計画の承認決議を得ようとしています。
 代表取締役Bによる上記行動を阻止するために私が監査役としてとり得る手段は何かあるのでしょうか。

  株主総会を招集する際、取締役は、株主に対してその招集通知を発する必要があります。本件のように、一部の株主に対して招集通知が発せられていないことは、株主総会決議の取消事由または株主総会決議の不存在事由となり得ます。そのため、本件での対抗策としては、株主総会が実施された後に、その決議に関し本案訴訟または仮処分を提起することも考えられます。
 もっとも、このような事後的な対応では十分な救済とならない場合があり得ます。そのような場合には、株主総会の実施前に株主総会開催禁止の仮処分命令の発令を得ることが考えられます。

解説

目次

  1. 非招集権者による株主総会に関する仮処分
  2. 株主総会に関する仮処分の類型
  3. 株主総会開催禁止の仮処分

非招集権者による株主総会に関する仮処分

 株主総会の決議に瑕疵がある場合(招集手続に瑕疵がある場合、議案の内容に違法がある場合、決議の方法に違法がある場合等)に非招集権者がその効力を争う方法として、会社法は、決議不存在の確認の訴え(会社法830条1項)、決議無効の確認の訴え(会社法830条2項)および決議の取消しの訴え(会社法831条1項)といった事後的な救済手段を設けています。
 もっとも、このような株主総会決議がいったん成立したのちの事後的な対応によっては、十分な救済が受けられない場合があることは否定できません。そこで、株主総会に関しても、民事保全法23条2項の「仮の地位を定める仮処分」として、各種の仮処分の申立てが可能と考えられています。

株主総会に関する仮処分の類型

 株主総会に関する「仮の地位を定める仮処分」としては、①株主総会開催禁止の仮処分、②株主総会決議禁止の仮処分、③株主総会決議効力停止の仮処分、④議決権行使禁止の仮処分、といったものがあげられます。
 違法な株主総会または株主総会決議が実施されようとしている場合監査役または株主がその株主総会の実施前においてとり得る対抗手段は①株主総会開催禁止の仮処分または②株主総会決議禁止の仮処分であり手続全体に関する違法がある場合には①を、特定の決議事項について違法がある場合には②を行うこととなります。
 設問の事例の場合、一部株主への招集通知が発せられていないという株主総会の手続全体に関する違法が存在する場面ですので、監査役のとり得る仮処分としては①が考えられることとなります(なお、①の類型の仮処分を認容した事例としては、詳細な事実関係は不明なものの東京地裁平成20年12月3日決定・資料版商事法務299号337頁があります)。

株主総会開催禁止の仮処分

 株主総会開催禁止の仮処分は、取締役の違法行為の差止請求権等を被保全権利とした仮処分となります。この差止請求権は、株式会社に「著しい損害」が生ずるおそれがある場合に、株主および監査役または監査委員に認められています(会社法360条1項または385条1項もしくは407条1項)。
 なお、監査役設置会社等において、株主が差止めを行おうとする場合「著しい損害」ではなく、「回復することができない損害」(会社法360条3項)が必要となります。この「著しい損害」ないし「回復することができない損害」の要件(以下「損害要件」といいます)について、確立された判断基準はないものの、「当該株主総会の開催を許すと、決議の成否を左右し得る議決権を有する株主が決議から違法に排除されることになるなどのために、違法若しくは著しく不公正な方法で決議がされること等の高度の蓋然性があって、その結果、会社に回復困難な重大な損害を被らせ、これを回避するために開催を禁止する緊急の必要性があることが要求される」とする考え方があります(東京高裁平成17年6月28日決定・判時1911号163頁。なお、本決定は厳密にいうと「保全の必要性」に関する文脈で上記検討を行っており、そのうえで、実定法上の差止請求権の要件である損害要件(本決定の事案では「回復することができない損害」)が、かかる「保全の必要性」と同内容であるとしています)。
 いずれにしても、単に株主総会の開催手続に違法があるだけで株主総会開催禁止の仮処分の発令が得られるわけではなく、事後救済では不十分であって事前差止めの発令を得る必要があることの具体的事情を裁判所に示す必要があります

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