全部取得条項付種類株式の価格決定申立てを行う場合の手続

コーポレート・M&A
森 駿介弁護士 岩田合同法律事務所

 当社が保有している株式の発行会社が、全部取得条項付種類株式を用いてキャッシュアウトを行おうとしているのですが、当社を含む株主に交付される取得対価が低すぎると感じます。そこで、当社では裁判所に株式取得価格決定申立てを行うことを検討中なのですが、その場合の手続について教えてください。

 株式取得価格決定申立てを行うには、原則として、全部取得条項付種類株式の取得を決議する株主総会に先立って、取得に反対する旨を発行会社に通知し、かつ株主総会で取得に反対した上で、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対して申立てを行う必要があります。取得される株式が振替株式であるときは、申立人は、発行会社から株主資格を争われる場合に備えて、個別株主通知を行っておくべきです。

解説

目次

  1. 全部取得条項付種類株式を用いたキャッシュアウトと取得対価への不満
  2. 株式取得価格決定申立ての手続
  3. 株式取得価格決定申立事件の審理
  4. 裁判所が決定する価格
    1. 公正な価格
    2. 価格の算定
  5. 株主が取得する対価

全部取得条項付種類株式を用いたキャッシュアウトと取得対価への不満

 上場会社が非公開化を目的として少数株主を締め出す方法には、全部取得条項付種類株式(会社法108条1項7号)を用いてキャッシュアウトする方法があります。キャッシュアウトにより株主としての地位を失う少数株主は、その替わりに発行会社から金銭等(以下「取得対価」といいます)を対価として受け取ります(会社法171条)。
 しかし、取得対価の金額等その価値が不当に低廉であるにもかかわらずキャッシュアウトが決議されてしまった場合などには、決議に反対した少数株主がこれに不満を抱くことも想定されます。
 このような場合に、少数株主が裁判所に対し、取得対価として公正な価格を決定するよう求めることを「株式取得価格決定申立てといいます。株式取得価格決定申立てには法令で一定の手続が定められていますので、以下ではその手続について解説します。

株式取得価格決定申立て

株式取得価格決定申立ての手続

 株式取得価格決定申立てを行いたい株主は、全部取得条項付種類株式の取得を決議する株主総会に先立って、取得に反対する旨を発行会社に通知するとともに、実際に株主総会で取得に反対することが必要です(会社法172条1項1号)。
 ただし、株主総会で議決権を行使することができない株主(単元未満株主等)は、このような手続を踏む必要はありません(会社法172条1項2号)。
 上記手続を踏んだ株主または株主総会で議決権を行使することができない株主は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対して株式取得価格決定申立てを行うことができます(会社法172条1項柱書)。

 なお、振替株式を発行する上場会社が、株式取得価格決定申立事件の審理において、申立人の株主資格(株主たる地位)を争った場合には、当該申立人はその審理終結時までに個別株主通知を行わなければ申立てが不適法として却下されてしまうので(最高裁平成22年12月7日決定・民集64巻8号2003頁)、注意が必要です。

株式取得価格決定申立事件の審理

 株式取得価格決定申立てがなされると、訴訟手続とは異なる非訟事件手続という手続において審理されることになります。そして、株主から株式取得価格決定申立てを受けた裁判所は、価格を決定するために、審問の期日を開いて、申立人である株主と発行会社の陳述を聴かなければなりません(会社法870条2項4号)。
 すなわち、株主と発行会社は、書面で自己の主張を裁判所に提出することができるのはもちろんのこと、非訟事件手続の期日において裁判官に直接口頭で認識等を述べることもできます(金子修編著『一問一答非訟事件手続法』17頁(商事法務、2012))。

 複数の株主が株式取得価格決定を行った場合にも、それぞれの事件が必ず1つの手続で審理されるわけではありませんが、特段の事情がない限り、一般的には、数個の事件の審問および裁判は併合して行われています(東京地方裁判所商事研究会編『類型別会社非訟』111頁〔難波孝一〕(判例タイムズ社、2009))。

裁判所が決定する価格

公正な価格

 裁判所が決定するのは、取得される株式の「公正な価格」です。一般に、この公正な価格は、当該株式の客観的価値に加えて強制取得により失われる今後の株価上昇に対する期待を評価した価額をも考慮して決定すべきものと考えられています(東京高裁平成20年9月12日決定・金判1301号28頁、東京地裁平成19年12月19日決定・判時2001号109頁〔レックスHD株式取得価格決定申立事件〕。なお、最高裁平成20年9月12日決定・金判1326号35頁は同事件の原決定を是認し、抗告を棄却しました)。

価格の算定

 株式取得価格決定申立事件の審理は、株主や発行会社の主張・立証を中心として進行しますので、裁判所が一から十まで資料を集めて株価を算定し直すということはありません(松田亨=山下知樹編『実務ガイド 新・会社非訟 会社非訟事件の実務と展望【増補改訂版】』264頁〔松田亨=西村欣也=柴田義明=山下知樹〕(きんざい、2016))。
 そのため、裁判所も、当事者が株式価値について私的鑑定を行っている場合には、可能な限り、その私的鑑定書を提出するよう求める運用をしています(東京地方裁判所商事研究会・前掲111頁〔難波〕、松田=山下・前掲254頁〔松田=西村=柴田=山下〕)。

株主が取得する対価

 株式取得価格決定申立てを行った株主は、株主総会で決定された取得対価を取得することはできず(会社法173条2項)、取得対価が株式、社債、新株予約権または新株予約権付社債等である場合にも、当該株主については金銭により処理されることとなります。
 また、発行会社は、裁判所により株式取得価格が決定されるまでは、公正な価格と認める額を支払うか、当該額の弁済の提供をすることにより、裁判所の決定する価格に対する取得日後年6%の利息のうち当該額に対する部分の支払を免れることができます(会社法172条5項)。株主がその支払の受領を拒絶したとしても、発行会社がこれを弁済供託すれば利息の発生は停止しますので、その場合には株主が利息の発生を停止させる効果を妨げることはできません。

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