株主総会・取締役会議事録 個別の決議事項の記載例(役員の責任関係)

コーポレート・M&A 公開 更新

 当社(株式会社)では、事業の拡大に伴い、専門的知見を有する方を社外取締役として招聘したいと考えています。しかし、候補者の方からは、万が一会社の経営が失敗した場合などに損害賠償責任を株主等から問われるリスクを考えると、取締役に就任することには躊躇を覚えるといわれてしまいました。その方にはぜひ社外取締役に就任してもらいたいのですが、賠償責任を過度に恐れることなく、安心して社外取締役への就任を承諾してもらえるようにするため、取締役が負う損害賠償責任を免除または限定する方法や、その他リスクを軽減する方法があれば教えてください。

  取締役の損害賠償責任を免除・限定する方法を含め、そのリスクを軽減する方法としては、以下6つの方法があります。

(1)定款の定めに基づく責任限定契約による一部免除
(2)総株主の同意による免除
(3)株主総会の特別決議による一部免除
(4)定款の定めに基づく取締役(会)の決定による一部免除
(5)補償契約
(6)役員等賠償責任保険契約(D&O保険)

 このうち、(5)と(6)は、令和元年の会社法改正により、新たにその導入のための手続等が定められました。なお、一般に社外取締役を確保するための手段として幅広く用いられている方法は、(1)の責任限定契約と(6)のD&O保険です。

解説

目次

  1. 役員等の会社・第三者に対する責任と、その責任を免除・限定する方法
  2. 定款の定めに基づく責任限定契約による一部免除(会社法427条)
  3. 総株主の同意による免除(会社法424条)
  4. 株主総会の特別決議による一部免除(会社法425条)
  5. 定款の定めに基づく取締役・取締役会の決定による一部免除(会社法426条)
  6. 補償契約(会社法430条の2)
  7. 役員等賠償責任保険契約(D&O保険)(会社法430条の3)

役員等の会社・第三者に対する責任と、その責任を免除・限定する方法

 取締役、会計参与、監査役、執行役または会計監査人(以下「役員等」といいます)がその任務を怠ったときは、会社に対して損害を賠償する責任を負います(会社法423条1項)。また、役員等がその職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法429条1項。なお、同条2項各号に定める虚偽記載・記録等の行為をした場合も原則として同様です)。このような役員等の会社・第三者に対する責任を免除・限定する方法や、そのリスクを軽減する方法には、以下に説明するようないくつかの方法があります。

定款の定めに基づく責任限定契約による一部免除(会社法427条)

 業務執行をしない役員等については、定款で定めることにより、善意でかつ重大な過失がないときにあらかじめ会社に対する責任の範囲を一定額に限定する旨の契約を会社と締結することができます(会社法427条1項)。実務上、社外役員を確保するための体制整備として、責任限定契約は多くの企業において広く利用されています。
 責任限定契約を利用するためには、その旨の定款の定めが必要です。定款の定めを新たに設ける場合には、定款変更にあたりますので、株主総会の特別決議が必要になります(会社法466条、309条2項11号)。なお、この定款変更議案を株主総会に提出するにあたっては、監査役、監査等委員または監査委員(以下「監査役等」といいます)の全員の同意を得る必要があります(会社法427条3項、425条3項)。

 上記定款の定めを設ける場合の株主総会議事録の記載例は、以下のとおりです。なお、当該定款の定めは登記事項となっており(会社法911条3項25号)、その登記手続の際には、定款変更を行った株主総会の議事録が添付書類となります(商業登記法46条2項)。

株主総会議事録記載例


第◯号議案 定款一部変更の件


 議長は、当社の非業務執行取締役との間で会社法第423条第1項の責任を限定する契約を締結するために定款の一部変更を行いたい旨、および本議案の提出については監査役全員の同意を得ている旨を説明し、本議案について議場に諮ったところ、出席した株主の議決権の3分の2以上の多数の賛成をもって、原案どおり承認された。

(下線は変更部分)

現行定款 定款変更案
(新設)
取締役との間の責任限定契約
第●●条の2 当社は、会社法第427条第1項の規定に基づき、取締役(業務執行取締役等であるものを除く)との間で、会社法第423条第1項の賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく賠償責任の限度額は、●●●万円以上で予め定める金額または法令が定める最低責任限度額のいずれかとする

総株主の同意による免除(会社法424条)

 役員等の会社に対する損害賠償責任の全額を免除するためには、総株主の同意が必要です(会社法424条)。したがって、上場会社等の株主数が多い会社では、役員等の責任の全額免除を得ることは相当にハードルが高いといえます。

株主総会の特別決議による一部免除(会社法425条)

 総株主の同意を得られない場合であっても、株主総会の特別決議を得ることにより、損害賠償責任の一部の免除を得ることができます(会社法425条1項、309条2項8号)。もっとも、役員等に故意・重過失がある場合にはこの責任の一部免除はできません。
 この一部免除の議案を株主総会に提出するには、監査役等の全員の同意を得る必要があります(会社法425条3項)。また、その決議に際しては、株主総会において、以下の事項を開示する必要があります(会社法425条2項)。

(1)責任の原因となった事実
(2)賠償責任の額
(3)免除することができる額の限度額およびその算定根拠
(4)免除の理由
(5)免除する額


 このような手続を経たうえで、株主総会で特別決議による承認が得られれば、責任の一部免除を得ることができますが、実際には困難な場合が多いと思われます。
 実際、この規定に基づく取締役の責任の一部免除がなされることは稀なようですが、上場会社における実例として、昭和ホールディングス株式会社の平成23年6月28日開催の定時株主総会において、取締役の責任の一部を免除する2つの議案が株主提案により上程されて可決された例があります。

定款の定めに基づく取締役・取締役会の決定による一部免除(会社法426条)

 上記4は、株主総会の特別決議があれば役員等の責任を一部免除することができるというものですが、それとは別に、あらかじめ定款の定めをおくことによって、責任の一部免除の決定権限を取締役会(取締役会非設置会社においては取締役。以下同じ)に授権する方法もあります(会社法426条)。つまり、定款の定めに基づき、役員等の責任の一部免除について、株主総会の決議を必要とせず、最初から取締役会の判断に委ねるというものです。
 ただし、このような授権を受けた取締役会による決議に対して総株主の議決権の3%以上の議決権を有する株主が異議を述べた場合には、この方法による一部免除はできません(会社法426条7項)。

 なお、この定款の定めは、取締役が2人以上存在し、かつ監査役等が設置されている会社に限り導入することができます(会社法426条1項)。また、この定款の定めを新たに導入する定款変更議案を株主総会に提出する際、および実際にこの定款の定めに基づき一部免除についての議案を取締役会に提出する際(取締役会非設置会社においては取締役の同意を得る際)には、監査役等の全員の同意を得る必要があります(会社法426条2項、425条3項)。

補償契約(会社法430条の2)

 株式会社は、取締役会(取締役会非設置会社においては株主総会)の決議を経ることにより、役員等との間で、あらかじめ役員等が責任追及の請求を受けた場合などに備え、その場合には役員等に対して会社が一定の費用等を補償することを約する旨の補償契約を締結することができます(会社法430条の2)。

 補償契約により会社が補償することを約することのできる費用等には、①いわゆる防御費用(職務執行に関し、法令の規定に違反したことが疑われ、または責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用)と、②いわゆる賠償金または和解金(第三者に生じた損害を賠償する場合における損失)があります(会社法430条の2第1項各号)。ただし、①については、補償することができるのは通常要する費用の範囲内に限られ、また、②については、会社が役員等に対して求償することができる部分や、その職務を行うにつき役員等に悪意または重過失があった場合については補償することができない、といった制限があります(会社法430条の2第2項各号)。
 なお、補償契約の締結にあたっては、役員等の責任の免除や限定のための他の方法とは異なり、監査役等の同意は必要とされていません。

 取締役会設置会社においては、補償契約の内容を決定するには、取締役会の決議が必要となります。その際、締結当事者となる取締役は、当該決議について特別の利害関係を有することになるため、議決に加わることができません(会社法369条2項)。

取締役会議事録の記載例

第●号議案 補償契約を締結する件

 議長は、当社の取締役Aとの間で、会社法第430条の2に基づく補償契約を添付のとおり締結したい旨を説明し、本議案について諮ったところ、出席取締役の全員が異議なく賛成し、承認可決された。なお、取締役Aは本議案の特別利害関係人であるため議決に参加しなかった。

役員等賠償責任保険契約(D&O保険)(会社法430条の3)

 役員等賠償責任保険契約(D&O保険)とは、株式会社が保険者との間で締結する保険契約のうち、役員等がその職務の執行に関し責任を負うことまたは当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が填補することを約するものであって、役員等を被保険者とするものをいいます(会社法430条の3)。

 なお、当該保険契約を締結することにより被保険者である役員等の職務の適正性が著しく損なわれるおそれがないものとして、生産物賠償責任保険(PL保険)や企業総合賠償責任保険などの保険は、上記の定義から除外されており(会社法施行規則115条の2参照)、上記の保険は、いわゆるD&O保険やそれに準ずる保険のことを指すものと理解して構いません。ただし、会社法の適用があるD&O保険は、上述の定義のとおり「株式会社が」保険契約を締結するものとされていますので、役員等が自ら保険契約者となって保険契約を締結するタイプのD&O保険は適用対象外となります。
 かかるD&O保険については、従来から上場会社を中心に広く普及していましたが、改めて今般の会社法改正により、保険契約の内容を決定するための手続等が明確化されたものです。

 取締役会設置会社においては、D&O保険の内容を決定するには(新規で契約する場合に限らず、更新する場合も含みます)、取締役会の決議が必要となります。その際、被保険者となる取締役は、当該決議について特別の利害関係を有することになるため、議決に加わることができません(会社法369条2項)。

取締役会議事録の記載例

第●号議案 D&O保険に係る保険契約を締結する件

 議長は、当社の取締役Aを被保険者として、会社法第430条の3に基づく役員等賠償責任保険契約を添付のとおり保険会社との間で締結したい旨を説明し、本議案について諮ったところ、出席取締役の全員が異議なく賛成し、承認可決された。なお、取締役Aは本議案の特別利害関係人であるため議決に参加しなかった。

 なお、取締役の全員を被保険者とするD&O保険の場合には、取締役の全員が特別利害関係人となってしまうため、各取締役を被保険者とする部分ごとに議決を分けて、被保険者とする取締役以外の取締役で順次、別個に議決するという方法が考えられます。もっとも、この点については、取締役の全員が被保険者となる場合には、全員が共通の利害関係を有しているため、会社法369条2項の規定は適用されず、全員が議決に加わることができるとする見解もあります。

この実務Q&Aを見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する