役員の損害賠償責任を軽減する方法(責任限定契約)

コーポレート・M&A 公開 更新

 友人から、自分が経営している会社の取締役になってもらいたいと依頼されたのですが、大きな責任を負いたくはありません。事前にできる対策はありますか。

 打診されているのが業務執行を担当しない取締役ということであれば、会社との間で責任限定契約を締結することができますので、取締役の責任をある程度軽減することができます。
 また、各保険会社が提供しているD&O保険に加入することも考えられます。

解説

目次

  1. 取締役役員の責任とその責任を軽減する方法
  2. 責任限定契約
    1. 要件
    2. 責任の限定(効果)
    3. 事前及び事後の開示
    4. 退職慰労金に係る株主総会の承認
  3. D&O保険
  4. まとめ

目次

  1. 取締役役員の責任とその責任を軽減する方法
  2. 責任限定契約
    1. 要件
    2. 責任の限定(効果)
    3. 事前及び事後の開示
    4. 退職慰労金に係る株主総会の承認
  3. D&O保険
  4. まとめ

取締役役員の責任とその責任を軽減する方法

 会社の活動は広範にわたるため、その業務執行者、あるいは、業務執行の決定者たる取締役らが責任を負う範囲も広くなります。

 取締役の損害賠償責任については、「取締役が損害賠償責任を負う場合とは」もあわせてご覧ください。

 取締役など、会社役員になろうとする方としては、「取締役になるのはいいけど、万が一の場合に個人では賠償しきれないような負債を抱えてしまったらどうしよう・・・・」と不安になり、その責任の軽減を望むのではないでしょうか。

 この場合、会社法上、事前に準備できる責任軽減策としては、以下の方法があります。

  • 役員等の免除に関する定款の定めを設ける(会社法426条)
  • 責任限定契約締結に関する定款の定めを設けた上で(会社法427条)、同契約を締結する

 本稿では、業務執行をしない役員らが利用できる 2 の責任限定契約に着目して、以下説明します。

 取締役の損害賠償責任に関しては、「業務を執行する取締役の責任を軽減する方法」もあわせてご覧ください。

責任限定契約

 会社法上、事前の責任軽減策として、その取締役らが職務を行うにつき善意・無重過失のときは、定款で定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を責任の限度とする責任限定契約」が用意されています(会社法427条)。

 その要件は、以下のとおりです。

  1. 非業務執行取締役らの任務懈怠責任であること
  2. 職務を行うにつき善意・無重過失であること
  3. 定款の定めがあること
  4. 会社・非業務執行取締役間の契約であること

要件

非業務執行取締役らの任務懈怠責任であること

 責任限定契約を締結できるのは、「取締役(業務執行取締役等であるものを除く。)、会計参与、監査役又は会計監査人」となっており(会社法427条1項)、業務執行取締役等は除外されています
 なお、「業務執行取締役等」とは、「当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役・・・若しくは執行役又は支配人その他の使用人」をいいます(会社法2条15号イ)。

 平成26年の会社法改正前は、「社外取締役、会計参与、社外監査役又は会計監査人」が契約対象でしたが、業務執行取締役等ではない全ての取締役、社外監査役ではない監査役も対象に含まれるようになりました1
 業務執行取締役等は、会社の日常業務を執行する立場にあるのですから、それ以外の役員等より責任は重くなるのはやむを得ません。

 また、責任限定契約により責任が限定されるのは、会社に対する任務懈怠責任(会社法423条)に限られます。したがって、取締役らが第三者に損害を発生させてしまった場合に、その損害賠償責任を軽減することはできません。定款の内容や責任限定契約は、会社外の第三者からすればあずかり知らないことですから、当然のことと言えるでしょう。

職務を行うにつき善意・無重過失であること

 「善意」とは、法律用語では、ある事実を知らないことを意味し、ここでは、任務懈怠の事実の認識がないことをいいます。責任限定契約による恩恵を受けるには、善意で、かつ、重大な過失がないことが必要となります。

 具体的にどういった場合が善意・無重過失と評価されるか一概には言えませんが、他の役員らに対する監視・監督義務違反といった不作為の任務懈怠責任の場合にはこれが争われ、善意、あるいは、重過失がないと評価されることもあるように思います。他方、役員らが私的利益を得ていた場合や犯罪行為等に起因する場合は、悪意・重過失とされるでしょう2

定款の定めがあること

定款変更のための手続

 責任限定契約を締結するには、そのことを定款において定めなければなりません。

定款の規定例
(責任限定契約)
第○条 当会社は、会社法第427条第1項の規定により、取締役(業務執行取締役を除く。)との間に、同法第423条第1項の賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく責任の限度額は、○○万円であらかじめ定めた金額又は法令が規定する額のいずれか高い金額とする。

※ 法令が規定する額(最低責任限度額)については責任を免れない以上、下線部分については規定せず、会社法上許される最大限の責任の限定を認める会社も多い。

 会社が責任限定契約を導入しようという場合には、定款変更が必要となるので、株主総会の特別決議を得なければなりません(会社法309条2項11号・466条)。また、株主総会招集通知の際に株主総会参考書類を交付する場合(会社法301条1項)、そこに「提案の理由」を記載しなければなりません(会社法施行規則73条1項2号)。

 責任限定契約のための定款変更の理由としては、「業務執行を行わない取締役が期待される役割を十分に発揮できるようにするとともに、今後も引き続き適切な人材を確保できるようにするため、責任限定契約を締結することができる規定を新設する」などと記載するのが一般的です。

株主総会前の監査役等の同意

 安易に責任の限定がなされないよう公正性を確保するために、監査役設置会社にあっては、取締役との間で責任限定契約を締結できる旨の定款変更を行うにあたっては、その旨の議案を株主総会に提出する前に(各)監査役の同意を得なければなりません(会社法427条3項・425条3項)。同様に、監査等委員会設置会社にあっては各監査等委員の同意を、指名委員会等設置会社にあっては各監査委員の同意が必要となります。

 この同意があることについても、株主総会参考書類に記載します(一般社団法人日本経済団体連合会 経済法規委員会企画部会作成に係る平成28年3月9日付け「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」 103頁参照)。

会社と非業務執行取締役らとの間で契約が締結されていること

 責任限定契約の締結は、書面によらなければならないわけではなく、口頭でも可能です。もっとも、重要な契約なので、書面で契約内容を明らかにするのが望ましいと思いますし、実務上もそれが一般的です。

 責任限定契約の締結は重要な業務執行に該当するので、取締役会設置会社においては取締役会決議(会社法362条4項)、取締役会非設置会社においては取締役の過半数の決定(会社法348条2項)による必要があります3

責任の限定(効果)

 責任限定契約において定めることができるのは、損害賠償額を「定款で定めた額の範囲内であらかじめ株式会社が定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする」ことです。

 責任限定契約における最低責任限度額は、大まかに説明すると、以下のように計算されます(会社法427条1項・425条1項・会社法施行規則113条、114条)。

最低責任限度額 = (報酬等※1 + 退職慰労金 / 在職年数※2)× 2 + (報酬等に含まれない新株予約権の行使・譲渡によって得た利益)

※1 「報酬等」については、責任の原因となる事実が発生した日を含む事業年度とその前の事業年度の二事業年度のうち、高い金額とする。
※2 在職年数が2年以下の場合には、「在職年数」には「2」が入るものとし、退職慰労金を2で割る。

 責任限定契約の要件が満たされた場合、非業務執行取締役らの損害賠償責任は、責任限定契約の内容に従って当然に縮減されます。会社の行為は特に必要ではありません4

事前及び事後の開示

事前の開示

 取締役らを選任する際、株主総会参考書類を交付する場合において、その候補者との間で責任限定契約を締結しているとき、または、締結する予定があるときは、その契約の内容の概要を記載しなければなりません(会社法施行規則74条1項4号等)。

 また、責任限定契約に関する定款の定めは、登記事項となっています(会社法911条3項25号)。

事後の開示

 責任限定契約を締結した会社が、当該契約の相手方である当該取締役らの任務懈怠により損害を受けたことを知ったときは、その後最初に招集される株主総会において、以下の項目を開示しなければなりません(会社法427条4項)。

  • ア 責任原因と賠償責任額
  • イ 免除可能額の限度と算定根拠
  • ウ 当該契約の内容と契約締結理由
  • エ 当該取締役らが責任を負わないとされた額

退職慰労金に係る株主総会の承認

 責任限定契約によって取締役らが損害賠償責任の限定を受けた後に、会社が当該取締役らの退任の際に退職慰労金を給付しようとする場合には、株主総会の承認を得なければなりません(会社法427条5項・425条4項)。

D&O保険

 会社法上用意されている制度ではありませんが、役員らの損害賠償責任を軽減するものとしては、保険会社が提供している会社役員賠償責任保険(D&O保険)があります。
 保険会社によって詳細は異なりますが、各保険会社は、概ね、株主代表訴訟が提起され、役員が会社に対して損害賠償責任を負うとされた場合に保険金が支払われる保険商品を提供しています。

 また、任務懈怠責任(会社法423条)のみならず、第三者に対して責任を負う場合(会社法429条)も保険の対象となることや、重過失があるとして責任限定契約の適用がない場合であっても、悪意がない限りは保険金が支払われることも、D&O保険の特徴です。

まとめ

 以上のとおり、役員らは、一定の要件の下、責任限定契約を締結することで、過度の負担を負わないようにあらかじめ防御することができ、また、D&O保険を利用することで、損害賠償責任の負担を大部分軽減させることができます。

 これらの制度をうまく利用することで、重い責任を負うことをおそれて委縮することなく、会社経営をしていただきたいと思います。

<追記>
2018年2月23日(金)15:55:「2-2 責任の限定(効果)」の最低責任限度額の計算方法について修正いたしました。

  1. これに伴い、責任限定契約についての定款の定めがある場合に義務づけられていた社外取締役・社外監査役である旨の登記が廃止されました(改正前の会社法911条3項25号、26号)。 ↩︎

  2. 江頭憲治郎『株式会社法〔第6版〕』474、475頁(有斐閣、平成27年)参照 ↩︎

  3. 岩原紳作『会社法コンメンタール9 -機関(3)-』323頁〔黒沼悦郎〕(商事法務、平成26年) ↩︎

  4. 岩原紳作『会社法コンメンタール9 -機関(3)-』324、325頁〔黒沼悦郎〕(商事法務、平成26年) ↩︎

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