業務を執行する取締役の責任を軽減する方法

コーポレート・M&A

 代表取締役として会社を経営しているのですが、高額となり得る損害賠償責任についての対策はないでしょうか。

 事後的に、株主全員の同意により責任の全部免除を得る(会社法424条)、株主総会の特別決議により責任の一部免除を得る(会社法309条2項8号・425条1項)という方法がありますが、事前の対策として、①取締役が2人以上の監査役設置会社などであれば、株主総会決議を得なくても責任の一部免除を得られるよう定款の定めを設ける(会社法426条1項)、②D&O保険に加入しておく、ということが考えられます。

解説

目次

  1. 業務執行取締役等の責任を軽減する方法
  2. 取締役等による免除に関する定款の定め
    1. 定款の定めによって責任の一部を免除する要件
    2. 責任の一部免除(効果)
    3. 事前及び事後の開示
    4. 退職慰労金に係る株主総会の承認
  3. D&O保険

目次

  1. 業務執行取締役等の責任を軽減する方法
  2. 取締役等による免除に関する定款の定め
    1. 定款の定めによって責任の一部を免除する要件
    2. 責任の一部免除(効果)
    3. 事前及び事後の開示
    4. 退職慰労金に係る株主総会の承認
  3. D&O保険

業務執行取締役等の責任を軽減する方法

 会社の活動は広範にわたるため、その業務執行者、あるいは、業務執行の決定者たる取締役らが責任を負う範囲も広くなります。取締役らとして、最初から、会社、あるいは、第三者に対して損害を与えるつもりで各々の業務にあたることはないでしょうが、業務執行の過程で、損害賠償責任を負うこともあり得ます。

 そこで、会社法は、取締役らが過大な損害賠償責任を負うことで経営等について萎縮しないよう、会社法426条1項において、機動的な責任の一部免除を定款で定める方法を認めています。

 非業務執行取締役等の責任を軽減するためには、責任限定契約という方法もあり、そちらのほうが有効な事前防御手段となりますが、これについては、「役員の損害賠償責任の軽減するための方法(責任限定契約)」をご覧ください。

取締役等による免除に関する定款の定め

 会社法上、取締役2人以上の監査役設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社は、その取締役らが職務を行うにつき善意・無重過失の場合においては、責任の原因となった事実の内容、当該役員等の職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認めるときは、最低責任限度額を限度として、取締役会非設置会社にあっては取締役の過半数の同意、取締役会設置会社にあっては取締役会決議によって免除することができる旨を定款で定めることができます(会社法426条1項)。

 上記の責任の一部を免除されるための要件をまとめると、以下のとおりです。

  1. 取締役2人以上の監査役設置会社・監査等委員会設置会社 ・指名委員会等設置会社であること
  2. 役員等の任務懈怠責任であること
  3. 職務を行うにつき善意・無重過失であること
  4. 定款の定めがあること
  5. 責任原因事実の内容、職務執行の状況その他の事情を勘案して、一部免除の必要性が認められること
  6. 取締役会非設置会社にあっては取締役の過半数の同意、取締役会設置会社にあっては取締役会決議(ただし、当該責任を負う取締役は除外)があること

定款の定めによって責任の一部を免除する要件

(1) 取締役2人以上の監査役設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社であること

 取締役が1人しかいない会社では、自らの責任の一部免除を自分で判断することになってしまいかねません。この点については、上記要件6のとおり、責任が問題となる取締役は判断権者から除外されますが、そうすると、取締役が1人の会社における取締役自身の責任については、一部免除がなされないこととなります。そのため、会社法は、はじめから、取締役が2人以上いる会社にのみ、取締役または取締役会による責任の一部免除を認めています。

 また、監査役などを置いていない会社では恣意的な責任免除がなされてしまう可能性を否定できません。そのため、取締役等による責任の一部免除の定めを定款に設けることのできる会社は、監査役設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社に限定されています。

(2) 役員等の任務懈怠責任であること

 会社法426条1項に従い責任の一部を免除され得るのは、「役員等」であり、「取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人」がこれに当たります(会社法423条1項)。責任限定契約と異なり、業務執行取締役等についても、本規定の適用があるということです。

 任務懈怠については、経営判断の原則が問題となることが多いのですが、この点については、「経営判断の原則とは」をご覧ください。

(3) 職務を行うにつき善意・無重過失であること

 「善意」とは、法律用語では、ある事実を知らないことを意味し、ここでは、任務懈怠の事実の認識がないことをいいます。

 具体的にどういった場合が善意・無重過失と評価されるか一概には言えませんが、他の役員らに対する監視・監督義務違反といった不作為の任務懈怠責任の場合にはこれが争われ、善意、あるいは、重過失がないと評価されることもあるように思います。

 他方、役員らが私的利益を得ていた場合や犯罪行為等に起因する場合は、悪意・重過失とされるでしょう1

(4) 定款の定めがあること

 取締役等による責任の一部免除をするためには、これが許されることを定款において定めなければなりません。

 この規定については、責任限定契約に関する定めと同一条文に規定されることが多いです。取締役等による責任の一部免除に関する規定を第1項とし、責任限定契約に関する定めを第2項とするのが一般的です。

定款の規定例

(取締役の責任免除)
第○条 当会社は会社法第426条第1項の規定により、取締役(取締役であった者を含む。)の同法第423条第1項の賠償責任を、法令の定める限度において、取締役会の決議によって免除することができる。
2 当会社は、会社法第427条第1項の規定により、取締役(業務執行取締役を除く。)との間に、同法第423条第1項の賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく責任の限度額は、法令が規定する額とする。
定款変更のための手続

 取締役の決定や取締役会決議により役員等の責任の一部を免除するためには、定款変更が必要となるので、株主総会の特別決議を得なければなりません(会社法309条2項11号・466条)。

 株主総会招集通知の際に株主総会参考書類を交付する場合(会社法301条1項)、そこに「提案の理由」を記載しなければなりません(会社法施行規則73条1項2号)。

 取締役等による責任の一部免除に関する定款変更の理由としては、「取締役が期待される役割を十分に発揮できるようにするとともに、今後も引き続き適切な人材を確保できるようにするため、責任限定契約を締結することができる規定を新設する」などと記載するのが一般的です。

定款変更に関する監査役等の同意

 なお、安易に責任の一部免除がなされないよう公正性を確保するために、この定款変更を行うに当たっては、その旨の議案を株主総会に提出する前に(各)監査役の同意を得なければなりません(会社法426条2項・425条3項)。同様に、監査等委員会設置会社にあっては各監査等委員の同意を、指名委員会等設置会社にあっては各監査委員の同意が必要となります。

 この同意があることについても、株主総会参考書類に記載します(一般社団法人日本経済団体連合会 経済法規委員会企画部会作成に係る平成28年3月9日付け「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」 103頁参照)。

(5) 責任原因事実の内容、職務執行の状況その他の事情を勘案して、一部免除の必要性が認められること

 その損害賠償責任の原因となった事実がそれほど重要なものではなかったことや、その役員がこれまで多大な功績を上げていたといった事情はもちろん、責任の一部免除を認めることで、現在及び将来に渡る会社経営の萎縮を防ぐことができることや、人材が確保しやすくなるといった事情も、「その他の事情」として勘案することができると考えられています 。

 事実上、この要件は、ほとんどの場合に充足できるのではないかと思います。

(6) 取締役会非設置会社にあっては取締役の過半数の同意、取締役会設置会社にあっては取締役会決議(ただし、当該責任を負う取締役は除外)があること

 本来、役員等の任務懈怠責任については株主総会の特別決議により一部免除することができますが(会社法309条2項8号・425条1項)、役員等の責任免除のために臨時株主総会を開催するのは時間・費用などの面から大変ですし、定時株主総会まで待つのでは、その間の経営に萎縮してしまうかもしれません。

 この点、この規定を使えば取締役会決議(取締役会非設置会社にあっては取締役過半数の同意)で責任の一部免除が認められるところに最大のポイントがあります。

責任免除の対象となる取締役自身の同意・決議への関与

 この取締役の過半数の同意、取締役会決議において、責任を負う取締役自身は特別利害関係を有するので、関与することができません(会社法426条1項、369条2項)。

 定足数からも除外されるので、取締役2人の会社において、取締役1人の任務懈怠責任を一部免除しようとする場合、他方の取締役が1人で決定することになります。

責任免除規定適用に際しての監査役らの同意

 なお、取締役・執行役の責任を本規定により一部免除しようとする場合において、取締役会非設置会社にあっては取締役の同意を得るとき、取締役会設置会社にあっては取締役会にその議案を提出するときに、(各)監査役らの同意を得なければなりません(会社法426条2項・425条3項)。
 株主総会の定款変更議案を提出する際にも(各)監査役らの同意が必要となりますが、実際に定款の規定に基づき責任の一部免除をする際にも、その同意を要求することで、恣意的な責任免除を可及的に防止しています。

責任の一部免除(効果)

 取締役等による責任の一部免除の規定を設け、それに基づき取締役の過半数の同意または取締役会決議がなされた場合、役員等は、最低責任限度額の責任を負うこととなり、それを超える責任は免除されます

 この責任免除の効力が発生するのは、下記 2-3(2) の異議申立期間が経過した時です。

 最低責任限度額は、大まかに説明すると、以下のように計算されます(会社法426条1項・425条1項・会社法施行規則113条、114条)。

最低責任限度額 = 報酬等※1 + (退職慰労金 / 在職年数※2) × (年数※3) + (報酬等に含まれない新株予約権の行使・譲渡によって得た利益)

※1 「報酬等」については、責任を免除する旨の同意または取締役会決議がなされた日を含む事業年度とその前の事業年度の2事業年度のうち、高い金額とする。

※2 以下の区別に従って、在職年数がその年数以下の場合には、「在職年数」にはそれぞれの年数(代表取締役であれば「6」)が入るものとし、退職慰労金をその年数で割る。
  • 代表取締役・代表執行役:6
  • 業務執行取締役・代表執行役以外の執行役:4
  • 非業務執行取締役・会計参与・監査役・会計監査人:2

  • ※3 (年数)には、上記2の区別に従って、その数字(業務執行取締役であれば「4」)が入る。

 非業務執行取締役や会計参与、監査役、会計監査人については、責任限定契約における最低責任限度額と同額になることがほとんどです(「報酬等」をどの事業年度のものとするかが違うのみ)。  

事前及び事後の開示

(1) 事前の開示

 取締役等による責任の一部免除に関する定款の定めは、登記事項となっています(会社法911条3項24号)。

(2) 事後の公告・通知

 取締役の過半数の同意・取締役会決議により責任の一部を免除したときは、取締役は、遅滞なく、以下の項目を公告し、又は株主に通知しなければなりません(会社法426条3項・425条)。

  • 責任原因と賠償責任額
  • 免除可能額の限度と算定根拠
  • 責任免除の理由と免除額
  • 責任免除に異議がある場合には一定期間(1か月以上)内に異議を述べるべき旨

 非公開会社の場合には、公告は認められず、必ず株主に通知する必要があります(会社法426条4項)。

 総株主の議決権の3%の株主から異議があった場合、その役員等の責任の一部免除は認められないことになります(会社法426条7項)。

退職慰労金に係る株主総会の承認

 役員等の損害賠償責任が一部免除された後、その役員等の退任の際に会社が退職慰労金を給付しようとする場合には、株主総会の承認を得なければなりません(会社法426条5項・425条4項)。

D&O保険

 会社法上用意されている制度ではありませんが、役員らの損害賠償責任を軽減するものとしては、保険会社が提供している会社役員賠償責任保険(D&O保険)があります。

 保険会社によって詳細は異なりますが、各保険会社は、概ね、株主代表訴訟が提起され、役員が会社に対して損害賠償責任を負うとされた場合に保険金が支払われる保険商品を提供しています。

 また、任務懈怠責任(会社法423条)のみならず、第三者に対して責任を負う場合(会社法429条)も保険の対象となることや、重過失があるとして責任限定契約の適用がない場合であっても、悪意がない限りは保険金が支払われることも、D&O保険の特徴です。


  1. 江頭憲治郎『株式会社法〔第6版〕』474、475頁(有斐閣、平成27年)参照 ↩︎

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