内部統制システムで決めなければならない具体的内容は
コーポレート・M&A内部統制システムの内容として、具体的に何を決めればいいのでしょうか。
内部統制システムの項目の全体については、「内部統制システムを整備するために決める項目は」をご覧ください。
機関設計によって決める項目は異なり、それぞれ、下表のとおり、会社法、同施行規則に規定されています。
取締役会非設置会社 | 会社法348条3項4号 会社法施行規則98条 |
取締役会設置会社 | 会社法362条4項6号 会社法施行規則100条 |
監査等委員会設置会社 | 会社法399条の13第1項1号ロ・ハ 会社法施行規則110条の4 |
指名委員会等設置会社 | 会社法416条1項1号ロ・ホ 会社法施行規則112条 |
解説
目次
- はじめに
-
具体的内容
- 取締役の職務の執行に係る情報の保存・管理に関する体制
- 損失の危険の管理に関する規程その他の体制
- 取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
- 使用人の職務の執行が法令・定款に適合することを確保するための体制
- 企業集団における業務の適正を確保するための体制
- 取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制
- 監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項
- 補助使用人の当該会社の取締役からの独立性に関する事項
- 監査役の補助使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項
- 監査役への報告に関する体制
- 報告をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制
- 監査役の職務の執行について生ずる費用の前払又は償還の手続その他の当該職務の執行について生ずる費用又は債務の処理に係る方針に関する事項
- その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制
はじめに
本稿では、具体的に、どのようなことを定めればよいのか、会社法施行規則に定められている項目に従って内容を説明します1。
「内部統制システムに関する基本的な考え方及びその整備状況」などと題して、ウェブサイト上でこれを公表している会社も多数あるので、以下の説明に加えて、各社のウェブサイトを見ると、より具体的なイメージがわくと思います。
なお、取締役・取締役会においては、目標の設定、目標達成のための必要な内部組織やその権限等、基本方針・大綱を決定すれば足り、具体的な人選まで決定する必要はありません2。
【関連リンク】
具体的内容
取締役の職務の執行に係る情報の保存・管理に関する体制
①取締役が意思決定・業務執行・監督を行う場合において、それらの行為をしたことをどのような形で記録として残すか、②その記録を何年間、どこに保存するか、③その記録を検索し、閲覧するには、どのような方法をとるか、④使用人の行為をどのように記録・保存・閲覧するか、などについて決定することになります。
また、具体的な体制の方針として、文書管理規程や情報管理規程を設けることが考えられます。
損失の危険の管理に関する規程その他の体制
①会社の業態に応じて生ずる可能性があるリスクとして、どのようなものが考えられるのか、②リスクの現実化を未然に防止するための手続・機構、③リスクが現実化した場合の対処方法、④当該手続や対処方法を実施するための人的・物的体制に関する事項等について決定することになります。
具体的な体制の方針としては、リスク管理規程・内部監査規程の整備やリスク管理部門としての内部監査室の設置といったことが考えられます。内部監査室の設置については、下記2-4にも一部含まれるかもしれません。
取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
会社経営の基本戦略策定のための組織体制、取締役の職務執行に関する決裁体制といったものが挙げられます。
具体的には、取締役会規程・職務権限規程の整備や、経営会議・事業部会の設置、執行役員制度の導入・整備といったことが考えられるでしょう。
使用人の職務の執行が法令・定款に適合することを確保するための体制
具体的には、法令遵守マニュアルの作成や使用人相互間の適切な監督体制、コンプライアンス・マニュアル、倫理規程の作成・配布、コンプライアンスに関する教育・研修体制、内部通報制度の整備等が考えられるところです。
企業集団における業務の適正を確保するための体制
従前、会社法施行規則98条1項5号等において「当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制」と定められていたものが、平成26年の会社法改正により、「株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要な」体制として、会社法348条3項4号等に定められたものです。
近時、企業集団(グループ企業)による経営が進展し、特に、持株会社形態が普及してきているところ、親会社・その株主にとっては、子会社の経営の効率性・適法性が重要なものとなっていることから、法務省令である会社法施行規則ではなく、法律である会社法において規定することにしたとのことです3。
本項目については、その会社が親会社か子会社かで、決定する体制の内容が異なります。
親会社の場合
例えば、以下の項目について決定することが考えられます。
- 子会社における業務の適正確保のための議決権行使の方針
- その会社(親会社)に対する通知等を要する子会社の経営上の重要事項の決定
- その会社(親会社)に対して定期的な報告を要求する子会社の業務執行状況・財務状況
- その会社(親会社)の内部監査部門などによる子会社に対する監査
- その会社(親会社)の取締役・監査役等と子会社の監査役等との連絡・情報交換の体制
この項目に該当する規程の名前としては、関係会社管理規程やグループ会社管理規程でしょう。
子会社の場合
例えば、以下の項目について決定することが考えられます。
- 親会社の計算書類又は連結計算書類の粉飾に利用されるリスクへの対応
- 取引の強要等親会社による不当な圧力に関する予防・対処方法
- 親会社の役員等との兼任役員等の、その会社(子会社)に対する忠実義務の確保に関する事項
- その会社(子会社)の監査役と親会社の監査役等との連絡・情報交換の体制
取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制
監査役非設置会社が決定すべき体制です。
この機関設計では、取締役が、会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちに株主に報告しなければならないので(会社法357条1項)、その報告を円滑・適切に行うための体制の整備が必要となります。
具体的には、報告の際の文書送付手続等を決定することが考えられます。
監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項
監査役設置会社が決定すべき体制です。
①監査役が補助使用人を求めた場合に補助使用人を置くのか、②監査役専属の補助使用人を置くのか、他の部署と兼務か、③補助使用人の人数や地位等について決定することが考えられます。
具体的には、監査役直属の監査役室を設置し、専従する使用人を置いたりすることが考えられます。
なお、監査役が使用人を置くことを求めなかった場合には、取締役・取締役会がこれを置くことを決定する必要はありません。これにより不十分な監査しか行えなかった場合には、監査役の責任になります。
補助使用人の当該会社の取締役からの独立性に関する事項
監査役設置会社が決定すべき体制です。
①補助使用人の移動についての監査役の同意の要否、②取締役の補助使用人に対する指揮命令権の有無、③補助使用人の懲戒についての監査役の関与等について決定することが考えられます。
監査役の補助使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項
監査役設置会社が決定すべき体制です。
①監査役に報告すべき事項の範囲、②報告すべき事項に応じた報告方法、③使用人が直接監査役に報告するか否か等についての決定をすることが考えられます。
監査役への報告に関する体制
①監査役に報告すべき事項の範囲、②使用人が、直接監査役に報告するものとするか(ヘルプラインの設置)、③監査役による各会議体(取締役会に加えて、経営会議、事業部会、関係会社の会議体その他の会議体)への出席権限等について決定することが考えられます。
報告をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制
①監査役への報告を理由とする解雇等の不利益な処分の禁止や、②会社・子会社の役職員から監査役への報告が、その者に対する人事権を持たない者を介してなされるような体制等について決定することが考えられます。
監査役の職務の執行について生ずる費用の前払又は償還の手続その他の当該職務の執行について生ずる費用又は債務の処理に係る方針に関する事項
そもそも、監査役は、会社に対し、その職務についての費用の前払請求や、支出した費用・利息の償還請求等を行うことができますが(会社法388条)、これに関する方針を定め、監査役にとって、費用面による制約を考慮しやすくすることで、その実効的な職務執行を期待するものです。
その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制
上記以外の事項で、監査役の監査が実効的に行われることを確保するための包括規定です。監査役と内部監査室との間での内部監査計画・内部監査結果の共有や、監査のための外部専門家の起用等について決定することが考えられます。
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相澤哲ほか『論点解説 新・会社法』332頁以下(商事法務、平成18年)、落合誠一『会社法コンメンタール8 –機関(2)-』227頁以下〔落合誠一〕(商事法務、平成21年)、坂本三郎ほか『別冊商事法務397 立案担当者による平成26年改正会社法関係法務省令の解説』3頁以下(商事法務、平成27年)、弥永真生『コンメンタール会社法施行規則・電子公告規則〔第2版〕』495頁以下(商事法務、平成27年)参照 ↩︎
-
相澤哲ほか『論点解説 新・会社法』335頁(商事法務、平成18年) ↩︎
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坂本三郎ほか『別冊商事法務397 立案担当者による平成26年改正会社法関係 法務省令の解説』176、177頁(商事法務、平成27年) ↩︎
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