取締役会議事録には何を記載すればよいか
コーポレート・M&A取締役会を開催したのですが、議事録は、いつまでに、どのように、何を記載して作成すればよいのでしょうか。
取締役会が開催された日時・場所など、会社法施行規則101条3項、4項に定められた事項を、書面又は電磁的記録にて記載・記録してください。
解説
目次
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取締役会議事録の作成方法
取締役会議事録は、書面または電磁的記録をもって作成しなければなりません(会社法369条3項、会社法施行規則101条2項)。
「電磁的記録」とは、「電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるもの」をいい(会社法26条2項カッコ書)、法務省令では、「磁気ディスクその他これに準ずる方法により一定の情報を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに情報を記録したもの」と定めています(会社法施行規則224条)。
具体的には、フロッピー・ディスクや、磁気ドラムメモリ、ICカード、CD-Rなどがこれに当たります1。
取締役会議事録の作成時期
取締役会議事録の作成時期について、会社法上、特に規定はありません。
ただし、備置・閲覧(会社法371条)との関係で、取締役会の日から合理的な期間内に作成しなければならず、1か月後の次回の取締役会の際に各取締役、監査役の押印を得て完成させるのでは遅いと考えられています2。だいたい1週間以内を目安に作成する会社が多いようです。
なお、代表取締役の選定など、登記事項に関する取締役会決議が行われた場合、取締役会議事録が登記申請書の添付書面となることから(商業登記法46条2項)、登記申請期間である2週間以内(会社法915条1項・911条3項)に取締役会議事録を作成することが事実上強制されています。
取締役会議事録の記載事項
記載内容
取締役会議事録の記載事項は、会社法施行規則101条3項、4項に定められています。
原則 (規則101条3項) |
みなし決議 (法370条、規則101条4項1号) |
報告の省略 (法372条1項、規則101条4項2号) |
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※法=会社法、規則=会社法施行規則
テレビ会議等で参加した取締役がいる場合
会社法施行規則101条3項1号かっこ書において、「当該場所に存しない取締役・・・が取締役会に出席をした場合における当該出席の方法を含む」と規定されていますが、取締役会議事録においては、さらに、審議前と審議後に、それぞれ以下のような記載をするのが通例です。
これらを記載するのは、法務省民事局参事官室の平成8年4月19日付け「規制緩和等に関する意見・要望のうち、現行制度・運用を維持するものの理由等の公表について」、平成14年12月18日付け民商3044号民事局商事課長回答「電話会議の方法による取締役会の議事録を添付した登記の申請について」に依拠して取締役会議事録を作成するためです。
電話会議やテレビ会議での取締役開催については、「取締役会の開催方法(電話会議・テレビ会議・代理出席など)」をご覧ください。
テレビ会議の場合
審議前
審議後
電話会議の場合
審議前
審議後
取締役・監査役の署名・記名押印
出席役員の議事録の署名・記名押印
議事録が書面で作成されている場合、出席取締役・出席監査役は、署名または記名押印をしなければなりません(会社法369条3項)。
また、議事録が電磁的記録をもって作成されている場合には、電子署名をすることになります(会社法369条4項、会社法施行規則225条1項6号・2項)。
取締役会決議や報告が省略された場合(会社法370条、372条1項)も取締役会議事録は作成されますが(会社法施行規則101条4項1号、2号)、この場合の取締役会議事録には、取締役・監査役の署名・記名押印は必要ないと考えられています。取締役会が省略されている以上、出席者がおらず、署名等の義務を負う者がいないためです3。
もっとも、代表取締役選定決議の場合は別です4。代表取締役の変更登記をする際、取締役会議事録に前代表取締役の届出印による押印がない限り、同意した取締役全員が取締役会議事録に実印で押印し(監査役の記名押印は不要)、代表取締役の変更の登記申請書には取締役全員の印鑑証明書を添付しなければなりません。なお、この取締役会議事録・印鑑証明書に代えて、議事録作成者の記名のある取締役会議事録、会社法370条の取締役の同意書(各取締役の記名押印のあるもの)、印鑑証明書を併せて添付しても差し支えありません。
圧倒的に多い記名押印・印鑑の種類
実務的には、署名による例よりも記名押印の方式のほうが多いです5。
この押印の際の印鑑には原則として制限がないので、実印・認印のいずれでも構いません。ただし、代表取締役の選定に関する取締役会議事録は、登記の際の添付書面となることから、実印で押印することになります(商業登記規則61条4項3号)。
途中退席した場合
途中出席・途中退席の取締役・監査役は、その旨を明記した上で、署名・記名押印をすることになります。
取締役会議事録の冒頭で、取締役・監査役の人数およびそれぞれの出席者の人数を記載しますが、その後に、「なお、取締役○○は、第○号議案○○の件の審議の途中で退席したため、第○号以降の議案の決議および報告事項の報告については参加しなかった」などと記載します。
取締役会議事録の備置
取締役会の日(書面決議の場合は、決議があったものとみなされた日)から10年間、取締役会議事録(書面決議の際の同意書を含む)を本店に備え置かなければなりません(会社法371条1項)。
株主総会議事録と異なり、支店での備置は不要です(会社法318条3項参照)。
取締役会議事録の閲覧・謄写
株主は、権利行使のため必要があるときは、原則として、営業時間内は、いつでも、その取締役会議事録の閲覧謄写を請求できます(会社法371条2項)。ただし、監査役設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社においては、株主は、裁判所の許可を得なければ、取締役会議事録の閲覧謄写を請求できません(会社法371条3項)。
また、会社債権者も、役員・執行役の責任を追及するために必要があるときは、裁判所の許可を得て、取締役会議事録の閲覧謄写を請求できます(会社法371条4項)。
この閲覧謄写許可申立事件は、通常の訴訟ではなく、非訟事件となります。
なお、監査役設置会社等が、裁判所の許可を得ていない株主・会社債権者らの閲覧謄写請求に任意に応じるのは、もちろん自由です。
取締役会議事録作成の効果
任務懈怠責任の証拠となり得る
株主らが取締役や監査役の任務懈怠責任(会社法423条1項)を追及する場合、取締役会議事録を証拠の一つとするのが普通でしょう。
この点、取締役会議事録に異議をとどめなかった場合、その決議に賛成したものと推定されます(会社法369条5項)。その結果、さらに、利益相反取引によって会社に損害が生じたときの任務懈怠が推定されることになります(会社法423条3項3号)。
また、利益相反取引の場合に限らず、取締役会において決議された事項に漫然と賛成したことを任務懈怠として主張されることもあるので、会社法上は「議事の経過の要領・結果」の記載で足りるとはいえ、取締役会議事録には、できる限り詳細を記載しておくのが望ましいと思います。
記載漏れ・虚偽記載の場合のペナルティ
なお、議事録に記載すべき事項を記載せず、あるいは、虚偽の記載をした場合、100万円以下の過料に処せられます(会社法976条7号)。
もっとも、この記載漏れや虚偽記載により、取締役会決議の効力に影響があるわけではありません。
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江原健志・太田洋「平成13年商法改正に伴う政令・法務省令の制定〔上〕」8頁(商事法務No.1627)、弥永真生『コンメンタール会社法施行規則・電子公告規則〔第2版〕』1070頁(商事法務、平成27年) ↩︎
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東京弁護士会会社法部『新・取締役会ガイドライン』316頁(商事法務、平成26年) ↩︎
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相澤哲・石井裕介「株主総会以外の機関」21頁(商事法務No.1761)、相澤哲ほか『論点解説 新・会社法』370頁(商事法務、平成18年) ↩︎
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松井信憲『商業登記ハンドブック〔第3版〕』173頁(商事法務、平成27年) ↩︎
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落合誠一『会社法コンメンタール8 –機関(2)-』306頁〔森本滋〕(商事法務、平成21年)参照 ↩︎

プラム綜合法律事務所
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