株主総会招集にかかる取締役会決議事項を代表取締役へ委任できるか
コーポレート・M&A当社は取締役会設置会社ですが、株主総会を招集するにあたり、取締役会決議において、日時・場所など一定の事項の決定を代表取締役に委任し、当該事項について代表取締役が決定した場合、株主総会を招集することはできますか。
原則として、取締役会は、株主総会の招集にあたって決定すべき事項の決定を代表取締役に委任することはできません。取締役会において決定すべき事項を代表取締役が決定して招集した株主総会で決議がなされた場合には、招集手続の法令違反となり、株主総会決議が取り消される可能性があります。
解説
取締役会決議を欠く株主総会の招集
取締役会設置会社においては、取締役会が株主総会の招集を決定し、その決定を代表取締役が執行する形で招集することになります(会社法296条3項、298条4項)。そして、取締役会の決議を経ずに代表取締役が招集した株主総会で決議がなされた場合には、招集手続の法令違反として、決議取消事由となると考えられています(最高裁昭和46年3月18日判決・民集25巻2号183頁)。
では、いかなる場合に招集決議が不存在と判断されるのでしょうか。具体的には、株主総会の招集について取締役会決議がなされた場合であっても、日時・場所など一定の事項について代表取締役にその決定を委任した場合には、招集手続の法令違反に該当するのかどうかについて検討します。
招集事項の決定の委任の可否
株主総会の招集にあたっては、以下の事項について、取締役会の決議により定める必要があると規定されています(会社法298条1項各号、298条4項)。
- 株主総会の日時および場所
- 株主総会の目的である事項
- 書面による議決権行使を認める場合にはその旨
- 電磁的方法による議決権行使を認める場合にはその旨
- その他法務省令で定める事項
また、会社法施行規則は、決定を取締役に委任することができる事項を限定的に規定しています(会社法298条1項5号、会社法施行規則63条3号柱書カッコ書)。
このような会社法および同法施行規則の規定の構造からすると、 明示的に決定を取締役に委任することが認められている事項を除き、会社法298条1項各号において定められている事項の決定を代表取締役に委任することはできないと解するのが自然です1。
関連裁判例の検討
裁判例の概要
この問題に関連する裁判例として、名古屋高裁平成25年6月10日決定・判時2216号117頁があります。
事案としては、同族会社で取締役会設置会社(抗告人)において、ある取締役を解任する旨の株主総会決議をしたことに対し、解任の対象となった取締役が、当該決議の取消請求権を被保全債権として、株主総会決議の効力停止の仮処分を求め、その可否が争われた事案です。
抗告審において、抗告人(会社)は、「従前、株主総会の具体的な日時・場所は代表取締役に一任される運用が続いていたことが考慮されるべき」であるとして、違法性は存在しないと主張していました。
しかし、抗告審の裁判所は、「本件総会は、同族会社である抗告人の経営を巡って、親族間で新たな利害対立や経営方針についての意見の相違が生じ得る状況にあったといえるし、実際にも、そこで決議された内容も関係者にとって重要なものであったことを考慮すると、仮に抗告人の株主総会に係る従前の運用が主張のとおりだとしても、これをもって、本件総会の招集に係る手続的瑕疵が不存在ないし治癒されたと評価することはできない」として、抗告人の主張を排斥しました。
裁判例の検討
この裁判例について、同族会社の経営権に争いがない状況では、一定の範囲での委任を許容するものとも読めるという評釈があります2。
たしかに、会社法制定以前の旧商法231条では、株主総会招集にあたって取締役会が決定すべき事項が明示的に定められておらず、取締役会において総会の時期と議案の大綱を定めて株主総会の開催を決定した上で、その他の細目の決定は代表取締役に一任し、代表取締役がこの決議に従って細目を決定した招集した株主総会は有効な株主総会と解すべきであるとの見解が示されていました3。
しかしながら、取締役会における決定事項が明示的に規定された会社法の下においては、明示的に決定を取締役に委任することが認められている事項を除き、会社法298条1項各号において定められている事項の決定を代表取締役に委任することはできないと解すべきです。
上記名古屋高裁決定の事例が摘示するような、同族会社の経営を巡って、親族間で利害対立や経営方針についての意見の相違が生じ得る状況にあったかどうか、実際に決議された内容が関係者にとって重要なものであったかどうかといった事情は、裁量棄却(会社法831条2項)の可否において考慮されるべき事情であると考えるべきであり、招集手続の法令違反に該当すること自体は否定し難いように思われます。

弁護士法人中央総合法律事務所