取締役会招集手続が違法だった場合に決議の効力はどうなるか
コーポレート・M&Aある取締役会の唯一の議題が利益相反取引の承認であり、特別利害関係を有する取締役に対しては招集通知を送りませんでした。後になって、特別利害関係を有する取締役に対しても招集通知を送らなければならないと知ったのですが、すでに行った取締役会決議は無効なのでしょうか。
取締役会の招集手続や内容が違法だった場合、原則として、その取締役会は無効となります。
もっとも、その瑕疵が軽微であれば、取締役会は有効であると考えられています。
ご質問のケースでは、もともと議決に加わることのできない取締役に招集通知が送付されなかったに留まります。その取締役に招集通知が送付されたとしても決議の結果には影響が出ないと考えられますので、その瑕疵は軽微といえ、取締役会決議は有効であると思われます。
解説
目次
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はじめに
取締役会については、その招集や決議につき、法令や定款に則って適切に行う必要があります。
取締役会の招集、決議などの方法については、「取締役会の招集・決議・報告を簡略化する方法」「議題を定めずに取締役会招集通知を送ることができるか」「特別利害関係と取締役会決議」をご覧ください。
とはいえ、人間のやることですから、ミスをおかしてしまうこともあるかと思います。各手続において、なんらかの瑕疵があった場合、取締役会決議の効力はどうなってしまうのでしょうか。
瑕疵ある取締役会決議は原則として無効
特別利害関係を有する取締役は「定足数算定及び決議成立要件数の算定において取締役の数から除外されるが、そのことは、…招集手続を不要ならしめるものではないと解すべきである」とされており(東京地裁昭和63年8月23日判決)、特別利害関係を有する取締役に対しても招集通知を発する必要があります。
したがって、設問の場合、取締役会の招集手続が違法ということになります。
取締役会の招集手続や決議の内容が違法だった場合については、株主総会決議に瑕疵がある場合と異なり、会社法上、規定がありません。 そこで、原則として、瑕疵ある取締役会決議は無効であると考えられています。
取締役会が無効の場合の争い方
取締役会が無効の場合の訴訟制度は、会社法上用意されていません。そのため、誰から誰に対しても、いつでも、どのような方法によっても、取締役会決議の無効を主張することができます。確認の利益が認められる限り、取締役会決議無効確認訴訟によることもできます。
この点に関し、最高裁昭和47年11月8日判決は、株主総会決議取消請求を認容した上で、その株主総会決議により選任された取締役らで行われた代表取締役選定決議の無効確認請求も認めました。
取締役会決議無効確認訴訟の判決の対世効
取締役会決議無効確認の訴えが会社法上規定されたものでない以上、その訴えの判決に対世効(判決の第三者に対する効力)を認める規定もありません。もっとも、代表取締役の選定決議の無効など、画一的な確定が要請されるものについては、対世効を認める(会社法838条類推適用)のが有力な見解です1。
軽微な瑕疵であれば有効となる場合も
参考となる判例
瑕疵ある取締役会決議は原則として無効ですが、軽微な瑕疵では、取締役会決議は無効にならないと解されています。
最高裁昭和44年12月2日判決は、取締役の一部の者に対して招集通知を発しなかったという事案において、「特段の事情のないかぎり、右瑕疵のある招集手続に基づいて開かれた取締役会の決議は無効になると解すべきであるが、この場合においても、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、右の瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、決議は有効になると解するのが相当である」と判示しています。
「特別の利害関係」を有する取締役の扱い
設問の利益相反取引の承認決議(会社法365条1項、356条1項2、3号)においては、その取締役は「特別の利害関係」を有するものとして、議決に加わることができません(会社法369条2項)。
そして、特別利害関係を有する取締役は、議決に加わることができないだけでなく、出席権も認められていません(退席を命じられたら応じなければなりません)。
詳しくは、「特別利害関係と取締役会決議」をご覧ください。
したがって、仮に、特別利害関係を有する取締役に対して招集通知を発し、その取締役が取締役会の場に赴いたとしても、その取締役会決議の結果に影響はないと考えられるので、招集通知を発しなかったという瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、その決議は有効であると考えられます。
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江頭憲治郎『株式会社法〔第6版〕』420頁(有斐閣、平成27年) ↩︎
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