株主総会の招集通知は省略できる?決議・報告の省略と共に解説
コーポレート・M&A 更新当社は、2社が共同で設立したJV(非公開会社)で、取締役会(取締役3人)、監査役(1人)を設置しています。この度、任期1年の取締役の再任(重任)等を議題として定時株主総会を開催する予定です。両株主には事前に相談しており、特に問題なく賛成されるとのことです。
最も簡単に定時株主総会を開催し、終了させたいのですが、招集通知などを省略することはできるのでしょうか。
株主全員の同意により、株主総会の招集手続を省略することができますし、書面等による同意により、決議すらも省略することができます。また、定時株主総会においては、事業報告の内容を報告しなければなりませんが、この報告についても省略することができます。
したがって、通知、同意などの書面のやり取りの時間を考慮しなければ、1日ですべての手続を終えることも可能です(計算書類に関する手続は別途考慮する必要があります)。
解説
目次
株主総会手続の概要
株主総会手続の原則
株主総会は、株式会社の最高の意思決定機関です。株式会社においては必ず設置する必要があり、定款変更や取締役・監査役の選解任等、株式会社の組織・運営・管理等の重要事項を決定します(会社法295条1項)。
株主総会には、毎事業年度の終了後に一定の時期を定めて年に1回必ず開催される「定時株主総会」と、必要に応じて随時開催される「臨時株主総会」があります。
株主総会の開催にあたっては、招集決定を行ったうえで取締役が招集し、招集通知を発出します。株主総会は、あらかじめ決められた日時と場所において、議長が進行し、決議事項については決議を、報告事項については報告を行います。
株主総会については、「株主総会の開催場所について」や「株主総会の決議方法は?普通決議、特別決議、特殊決議の違いと決議事項一覧」もあわせてご覧ください。
株主総会手続の省略
株主総会手続の原則的な流れは上記のとおりですが、一定の条件を満たす場合、招集、決議、報告の各手続を省略することができます。たとえば、取締役会・監査役設置会社における定時株主総会の最も簡略な手続の流れは以下のとおりです。
株主総会招集手続の期間短縮または省略
招集期間の短縮
公開会社において、取締役は、株主総会の日の2週間前までに招集通知を発出しなくてはなりません(会社法299条1項)。
非公開会社においては、招集通知の発出期限は株主総会の日の1週間前です。非公開会社かつ取締役会非設置会社においては、定款でさらに短縮することができます。なお、非公開会社であっても、書面や電磁的方法による議決権行使を認める場合は、株主総会の日の2週間前までに招集通知を発出する必要があります。
1項 株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の2週間(前条第1項第3号又は第4号に掲げる事項を定めたときを除き、公開会社でない株式会社にあっては、1週間(当該株式会社が取締役会設置会社以外の株式会社である場合において、これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間))前までに、株主に対してその通知を発しなければならない。
なお、取締役会設置会社においては、この招集通知の際に、(連結)計算書類と事業報告(監査報告・会計監査報告を含みます)を提供しなければなりません(会社法437条、444条6項、会社法施行規則116条4号・8号、会社計算規則133条、134条)。他方、取締役会非設置会社においては不要です。
招集手続の省略
(1)株主全員の同意による省略
株主全員の同意があれば、招集手続を省略することができます(会社法300条)。ただし、書面や電磁的方法による議決権行使を認める場合には、招集手続を省略することはできません(同条ただし書)。
前条の規定にかかわらず、株主総会は、株主の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。ただし、第298条第1項第3号又は第4号に掲げる事項を定めた場合は、この限りでない。
この同意は、明示的になされた場合だけでなく、黙示の同意でもよいと考えられています。もっとも、紛争予防の観点からは、書面で同意を得ておくのが望ましいでしょう。
(2)全員出席総会
株主(その代理人を含みます)全員が株主総会の開催に同意して出席している場合(いわゆる全員出席総会)、招集手続がなくても株主総会を開催することが、解釈上認められています(最高裁昭和60年12月20日判決・民集39巻8号1869頁)。
招集手続の目的が、株主に出席の機会を与えるとともに、その議事・議決に参加するための準備の機会を与えることにあるので、株主全員がその開催に同意して出席する以上は、招集手続がなくても問題ないという理由からです。
なお、この解釈によって招集手続を省略するためには、株主総会への全員出席が必要ですが、(1)の会社法300条による場合には、株主総会への全員出席は求められません。
(1)は別日に株主総会が開催することが予定されている場合に招集手続の省略を認めるもの、(2)は株主全員および取締役その他株主総会に出席すべき人が一堂に会している場合に、その場で株主総会を開催してしまうことを認めるものです。
口頭・電話による招集
取締役会非設置会社において、書面や電磁的方法による議決権行使を認めない場合、招集通知を書面でしなくてもよいことになっています(会社法299条2項)。
そのため、この場合、株主全員の同意がなくても、口頭や電話などの方法により招集手続を行うことができます(後に問題になりそうな決議事項があるような場合には、紛争に備えて書面によることが望ましいとは思います)。
他方、取締役会設置会社では、株主総会招集通知は書面でしなければなりません(会社法299条2項2号)。
2項 次に掲げる場合には、前項の通知は、書面でしなければならない。
1 前条第1項第3号又は第4号に掲げる事項を定めた場合
2 株式会社が取締役会設置会社である場合
株主総会決議の省略
みなし決議(書面決議)とは
①取締役または株主が株主総会の目的事項について提案をした場合において、②当該提案につき株主全員が書面または電磁的記録により同意したときは、当該提案を可決する旨の株主総会決議があったものとみなされます(会社法319条1項)。これをみなし決議または書面決議といいます。
1項 取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。
株主が多数の会社では事実上不可能ですが、一人株主の中小企業や同族会社、完全子会社や複数の会社によるJVなどでは、この株主総会決議の省略を行うことが現実的に可能ですし、実際によく行われています。
みなし決議(書面決議)の手続
みなし決議(書面決議)を行う場合の手続は以下のとおりです。
- みなし決議についての取締役会決議
- 株主への提案書送付
- 株主からの同意書回収
- 株主総会議事録の作成
株主総会の招集手続は不要であり、招集通知の代わりに、②提案書と③同意書を株主に送付し、③同意書を回収します(電磁的な方法でも可)。
提案書と同意書の記載例
同意書は、10年間、その本店に備え置かなければなりませんが、支店に備え置く必要はありません(会社法318条2項・3項、319条2項)。
会社法319条に従った場合、株主総会決議があったものとみなされるのであって、株主総会決議がないものとされるわけではありません。そのため、株主総会議事録を作成する必要があります(会社法318条1項、会社法施行規則72条4項1号)。議事録は、10年間、その本店に備え置かなければならず、支店にも、その写しを5年間備え置かなければなりません(会社法318条2項・3項、319条2項)。
同意書と株主総会議事録の備置義務
本店での備置 | 支店での備置 | |
---|---|---|
同意書 | 10年間 | 不要 |
議事録 | 5年間(写し) |
みなし決議(書面決議)を行った場合の議事録の記載例
株主総会への報告の省略
上記のみなし決議は、あくまで株主総会決議の省略ですので、株主総会に報告すべき事項があれば、その報告のための株主総会を開催する必要があります。もっとも、株主全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知し、株主全員の書面または電磁的記録による同意があれば、報告を省略することも可能です(会社法320条)。
取締役が株主の全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知した場合において、当該事項を株主総会に報告することを要しないことにつき株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該事項の株主総会への報告があったものとみなす。
つまり、定時株主総会における事業報告の内容の報告(会社法438条3項)も省略することができるということです。これは、旧商法下においても解釈上認められていたところですが、2005年に成立、2006年に施行された会社法において明文で認められたものです。
以下では、定時株主総会のみなし決議の提案書類および同意書をサンプルとして記載します。
提案書兼同意書の記載例
なお、報告を省略した場合も、株主総会議事録の作成は必要です(会社法施行規則72条4項2号参照)。
その他、定時株主総会後の手続として以下のようなものがあります。
- 株主総会議事録の作成・本店および支店での備置(本店では決議省略同意書も)(会社法318条1~3項、319条2項)
- 取締役会議事録の作成・本店での備置(会社法369条3項、371条1項)
- 決算公告(会社法440条1項、会社計算規則136条)
- 役員の変更登記(会社法915条、911条3項13~23号)

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