議題を定めずに取締役会招集通知を送ることができるか
コーポレート・M&A取締役会招集通知を作成中なのですが、当社の取締役会規則には、議題を示して通知する旨の規定があります。これに違反して、議題を特定しないで招集通知を送った場合にはどうなりますか。
取締役会規則に反し、議題を特定せずに招集通知を発した場合、その招集手続は違法であると考えられます。そのため、取締役会決議が無効とされる可能性があります。
違法な取締役会決議の効力については、「無効な取締役会決議に基づく代表取締役の行為は無効なのか」をご覧ください。
解説
目次
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取締役会招集通知の内容
会社法上は規定がない
取締役会招集通知の内容について、会社法には特に規定されていません。
そのため、基本的には、招集通知として最低限の情報である開催日時と場所さえ伝えるものであれば、会社法上は問題ありません。
会社法上は、議題や議案をあらかじめ特定する必要はないということです。
「議題」と「議案」の違い
「議題」と「議案」の用語の違いですが、「議題」とは、取締役会の目的事項のことをいい、「議案」とは、議題についての具体的な事項をいいます。具体例を挙げると、「代表取締役選定の件」が「議題」、「取締役Aを代表取締役に選定する件」が「議案」となります。
用語 | 内容 | 具体例 |
---|---|---|
議題 | 取締役会の目的事項 | 代表取締役選定の件 |
議案 | 議題についての具体的な事項 | 取締役Aを代表取締役に選定する件 |
定款・取締役会規則による議題の特定の要請
議題の特定を要求する定めに反する招集通知
取締役会の審議の充実を図るためには、事前に議題・議案を通知し、参考資料を配布するのが望ましいことは間違いないでしょう。
そこで、会社の基本ルールである定款や会社の内規である取締役会規則において、取締役会を招集する際には目的事項(議題)を通知する旨定める会社も少なくありません(定款よりも取締役会規則で定めるほうが多いように思います)。
実際、取締役会の招集に際し、議案を通知するのは20%程度であるものの、議題について示している会社は約80%あります(このデータの対象は上場会社。資本金5億円未満の上場会社(回答は7社のみ)に絞ると、議題を通知するのが4社、議案まで通知するのが3社です)1。
このような定めがある場合、取締役会招集の際に目的事項(議題)を通知しなければ、適法な招集通知があったとは認められないと考えられています 2。
招集通知で特定されていない議題の審議・決議
では、ある議題を審議・決議するとして招集された取締役会において、特定された議題以外の事項を審議・決議することはできるのでしょうか。
結論としては、可能です。
定款や取締役会規則において、あらかじめ議題を特定することを要求するのは、取締役会に出席する取締役に事前の準備の便宜を与えるためです。それ以上に取締役会における決議内容を拘束する効力まで有するものではないと考えるのが相当であり、また、取締役は、取締役会において、業務執行等に関する諸般の事項が議題となり得ることを当然に予想すべきです。
そうだとすると、招集通知に記載されていない事項が取締役会で審議・議決されたとしても、当該決議は違法とはならないものというべきです(名古屋地裁平成9年6月18日判決参照)。
まとめ
上記のとおり、定款や取締役会規則において、招集通知の際に議題の特定を要求する定めがある会社については、
- 議題が特定されていない招集通知は無効
- 取締役会では緊急動議(取締役会招集通知で特定されていない事項の審議・決議)も認められる
という結論になります。
いずれも、取締役会に出席する取締役にとっては事前準備ができないケースであるにもかかわらず、結論が反対になるのは不合理に思えるかもしれません。
しかし、招集通知発出のタイミングでは、定款・取締役会規則に従う時間的余裕があるので、それに従うべきであるのに対し、実際の取締役会においては、迅速・機動的な意思決定が重要となる局面もあることから、緊急動議を認める必要性があるということでしょう。
取締役会招集通知の内容が問題になるのは、多くが代表取締役の解職の場合ですが、詳しくは「代表取締役の選定・解職と特別利害関係」をご覧ください。

弁護士法人プラム綜合法律事務所
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