クレームをつけている株主が出席する総会運営の注意点

コーポレート・M&A

 当社にクレームをつけている株主が株主総会に出席することが予想されており、当日、その株主によって議事進行が不当に妨害されたり、議長に危害が加えられたりする可能性があります。そこで、社員株主を優先的に入場・着席させて対応しようと思っていますが、何か問題はありますか。その他、株主総会の円滑な運営を確保するために、どのような対策が考えられますか。

 議事進行の妨害等の事態が発生するおそれがあることを理由にして社員株主を優先的に入場・着席させることには問題がありますので、避けるべきです。株主総会の円滑な運営を確保するための対策としては、①会場設営の工夫、②警備・取締りの強化、③議長による議事整理権の適切な運用、が考えられます。

解説

目次

  1. 円滑な議事進行を妨害しがちな株主
  2. 社員株主の優先入場・着席について
  3. 株主総会の円滑な運営を確保するために
    1. 会場設営の工夫
    2. 警備・取締りの強化
    3. 議長による議事整理権の適切な運用

円滑な議事進行を妨害しがちな株主

 近年では総会屋の数は減少しており、それに代わって株主総会の場においては一般株主による質問や発言が増加する傾向にあると言われていますが、その一方で、いわゆるモンスター株主クレーマー株主と言われるような、円滑な議事進行を妨害しがちな特殊株主が存在するのもまた事実です。

社員株主の優先入場・着席について

 たしかに社員株主を優先的に入場させて議長席に近い会場前方に着席させることは、議事進行の妨害を阻止するための有用な対策のように思えます。
 しかしながら、議決権を有する株主には等しく株主総会に出席する権利が与えられることから、同じ株主総会に出席する株主については、合理的な理由がない限り、同一の取扱いをすべきと考えられています。

 実際に、社員株主を他の株主よりも優先的に入場させて前方に着席させた措置について、適切なものではなかったと判断した判例があります(四国電力事件・最高裁平成8年11月12日判決)。
 この判例は、たとえ議事進行の妨害等の事態が発生するおそれがあるとしても、それをもって社員株主を優先的に入場および着席させることの合理的な理由には当たらないと述べています。

 したがって、上記の事例において、社員株主を優先的に入場・着席させるという対応は避けるべきと考えられます。
 なお、社員株主による「賛成」「異議なし」「議事進行」等の発声も、総会屋が横行していた従来は議長の議事進行を助けるためによく行われていましたが、これにより株主の質問の機会などが全く奪われてしまうような場合には、決議の方法が著しく不公正であるとして決議取消事由にもなりうるとされていますので、注意が必要です。

株主総会の円滑な運営を確保するために

 上記のとおり、株主総会の円滑な運営を確保するための対策として、社員株主を優先的に入場・着席させるという対応は避けるべきです。現実的な対策としては、①会場設営の工夫、②警備・取締りの強化、③議長による議事整理権の適切な運用、が考えられますので、以下、それぞれについて簡単に説明します。

会場設営の工夫

 まずは、株主席からの妨害行為をできる限り抑止・予防できるように、会場設営の設計を工夫することが考えられます。例えば、議長席・役員席と株主席との間に一定のスペースを設ける、段差を設ける、柵やロープを張る等の対策が考えられます。

 ただし、あまり極端なやり方では、あたかも一般株主との対話を拒絶するかのような印象を与えかねず、かえって株主との間で問題が生じる可能性もありますので、出席が予想される特殊株主の具体的な動向や接触状況等を踏まえて、適度な会場設営を行うことが重要です。

妨害行為を抑止・予防するための会場設営の工夫例

妨害行為を抑止・予防するための会場設営の工夫例

警備・取締りの強化

 次に、会場の警備や取締りを強化することが考えられます。具体的には、何かあったときに対応できるように会場内に社員を多めに配置する、警備会社に警備を依頼する、事前に警察に相談して待機または必要に応じて出動してもらう等の対策が考えられます。

 また、円滑な議事運営を確保する観点から、株主の入場の際には、株主の所持品についても一定の注意を払う必要があります。凶器や爆発物等の危険物はもちろんのこと、その他円滑な議事運営に支障をきたすおそれのある物品については、秩序維持権を有する議長の合理的裁量の範囲内で、会場への持込みを制限することができると解されています。

 したがって、受付等において万が一そういった物品の所持が発見された場合には、当該物品の会場内への持込みは認めず、受付で一時的に預かるといった対応が考えられます。さらに進んで、全ての来場者に対して一律に手荷物検査を実施することについては、円滑な議事進行の妨害を防止するために必要な範囲内であれば認められると解されていますが、受付事務の円滑化や一般株主に対する配慮から、もし実施するとしても簡単な検査にとどめるべきでしょう。

議長による議事整理権の適切な運用

 議長は、株主総会の秩序を維持し、議事を整理する権限を有します(会社法315条1項)。また、議長の命令に従わない者やその他株主総会の秩序を乱す者については、議長の権限で退場させることもできます(会社法315条2項)。

 そこで、議事進行中に不規則発言を繰り返し行う株主や、議長席に向かって有形力の行使を行う等の秩序を乱す株主に対しては、議長は、これらの権限を根拠として、発言や行動の制止を命じることができ、さらに、その命令に従わない場合には退場を命じることができます。

 ただし、当該妨害行為の具体的な状況や程度にもよりますが、議長による退場命令は、株主の議事参加権を剥奪する結果となりますので、その発動は慎重になされるべきであり、原則として最終手段と考えるべきでしょう。

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