株主総会資料の電子提供制度とWEB開示によるみなし提供制度との違い

コーポレート・M&A 更新

 最近開始された株主総会資料の電子提供制度は、従来からあったWEB開示によるみなし提供制度とは、どのように異なるのでしょうか。

 株主総会資料の電子提供制度は、株主総会資料を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載することによって、適法に株主に提供したものとする制度のことをいいます。WEB開示によるみなし提供制度では、株主総会資料のうち、ウェブで提供できる範囲が一部の事項に限られていましたが、電子提供制度では、原則としてその全部が対象となりました。

 現在、上場会社においては、一律に電子提供制度が適用されているため、WEB開示によるみなし提供制度は利用されていません。

解説

目次

  1. 株主総会資料の電子提供制度とは
  2. WEB開示によるみなし提供制度とは
  3. 株主総会資料の電子提供制度とWEB開示によるみなし提供制度の違い
  4. WEB開示によるみなし提供制度の概要
    1. WEB開示の対象
    2. WEB開示に必要な手続
    3. WEB開示をすべき期間

株主総会資料の電子提供制度とは

 株主総会資料の電子提供制度とは、株主総会資料を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載する方法(電子提供措置)によって、これを株主に対して適法に提供したものとする制度のことをいいます(会社法325条の2以下)。
 ここでいう株主総会資料とは、株主総会の日時・場所・議題等のほか、株主総会参考書類、事業報告、計算書類、連結計算書類等に記載すべき事項に係る情報(資料)のことをいいます(会社法325条の3第1項各号)。

 電子提供制度の下では、これらの株主総会資料については、原則として電子提供措置をとれば足り、株主から書面交付請求がなされない限りは、実際に株主に対して書面を発送することは求められません。その代わり、株主総会の日の3週間前の日または招集通知の発送日のいずれか早い日までに電子提供措置をとらなければならないとされています(会社法325条の3第1項)。

WEB開示によるみなし提供制度とは

 WEB開示によるみなし提供制度は、株主総会資料のうち一部の事項(株主総会参考書類に記載すべき事項および事業報告に表示すべき事項並びに計算書類の一部の情報)について、インターネット上のウェブサイトで一定期間継続して開示することにより、当該事項に関しては株主に対して提供したものとみなすという制度です(会社法施行規則94条1項・133条3項、会社計算規則133条4項・134条5項)。

 これは、もともと株主総会の運営に伴う会社の事務負担を軽減するとともに、開示の効率化・充実化を図る目的で導入された制度でした。しかし、2022年9月からは、上場会社に対しては、その進化版である株主総会資料の電子提供制度が一律に適用されることとなったことにより、今や上場会社においては、WEB開示によるみなし提供制度は利用されていません。

 現在では、WEB開示によるみなし提供制度は、非上場会社であって、かつ、株主総会資料の電子提供制度をとる旨の定款の定めがない会社に限って、利用することのできる制度となっています。

株主総会資料の電子提供制度とWEB開示によるみなし提供制度の違い

 いずれも株主への必要な情報提供についてウェブサイト上での開示のみで許容されるとする制度ですが、簡単に言えば、WEB開示によるみなし提供制度は、それが株主総会資料のうち一部の事項に限られる(下記4-1参照)のに対して、電子提供制度では、原則として株主総会資料の全部が対象になる(正確には会社法325条の3参照)という違いがあります。
 また、WEB開示によるみなし提供制度は、あくまで「することができる」という任意の制度でしたが、電子提供制度の下では、対象となる株主総会資料については原則として電子提供措置を行わなければならないものとされています。

 このような違いから、両制度は両立するものではなく、電子提供制度をとる旨の定款の定めがある会社(上場会社はすべてこれに当たります)においては、WEB開示によるみなし提供制度の適用を受ける余地はないものとされています 1

WEB開示によるみなし提供制度の概要

 以下では、ご参考までにWEB開示によるみなし提供制度の概要について説明します。

WEB開示の対象

 WEB開示の対象となる事項、対象外の事項は以下のとおりです。

WEB開示の対象 WEB開示の対象外
株主総会参考書類
(会社法施行規則94条1項)
右記以外の記載事項
  • 議案
  • 取締役選任議案における「社外取締役を置くことが相当でない理由」
  • 事業報告に表示すべき事項
  • ホームページのアドレス等
  • 監査役等が異議を述べた事項
事業報告
(会社法施行規則133条3項)
右記以外の記載事項
  • 会社の現況、会社役員に関する事項のうち会社法施行規則で具体的な項目が定められている事項
  • 監査役等が異議を述べた事項
計算書類
(会社計算規則133条4項、134条5項)
  • 個別注記表
  • 株主資本等変動計算書
  • 連結計算書類(これに係る会計監査報告、監査報告含む)
  • 計算書類
  • 上記計算書類に係る会計監査報告、監査報告

WEB開示に必要な手続

 WEB開示制度を導入するには、定款の定めが必要です(会社法施行規則94条1項ただし書・133条3項ただし書、会社計算規則133条4項ただし書・134条5項ただし書)。そのうえで、WEB開示により書類の記載を省略する事項についての取締役会決議を行い、招集通知に省略する事項を記載することで、株主総会参考書類の一部をWEB開示の対象とすることができます(会社法施行規則63条3号ホ)。
 そして、WEB開示を行っているホームページのアドレスを株主に通知する必要があります(会社法施行規則94条2項・133条4項、会社計算規則133条5項・134条6項)。

WEB開示をすべき期間

 WEB開示の対象事項は、招集通知とともに発出されるべき上記1記載の事項であることから、WEB開示をすべき期間は、「招集通知を発出する時から当該株主総会(定時株主総会)の日から3か月が経過する日までの間」とされています(会社法施行規則94条1項等)。


  1. 渡辺邦広・邉 英基・若林功晃・斎藤誠「株主総会資料電子提供制度の実務対応Q&A(1)総論」旬刊商事法務No.2300(2022年7月15日号)19頁 ↩︎

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する