令和7年改正を受けた「公益通報者保護法に基づく法定指針」のポイント
危機管理・内部統制公益通報者保護法の令和7年改正を受けて法定指針の改正もなされましたが、特に押さえておくべき改正のポイントはどこでしょうか?
法定指針の改正点はいずれも重要であるのは当然として、特に企業の担当者が押さえるべきポイントは、①労働者等への周知・啓発の内容、②特定受託業務従事者(フリーランス)対応、③通報妨害・通報者探索の防止、④不利益取扱いの例示、⑤内部公益通報以外の公益通報に係る対応の5点であると考えられます。
解説
目次
改正法定指針の概要
令和7年改正公益通報者保護法(以下「改正法」といいます)を踏まえて、2026年3月31日に「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号)」(以下「法定指針」といいます)、および「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」(以下「指針解説」といいます)の改正版が公表されました(以下改正版の法定指針を「改正法定指針」といいます)。
法定指針は、公益通報者保護法11条4項の規定に基づき、同条1項に規定する公益通報対応業務従事者の定めおよび同条2項に規定する事業者内部における公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者等に対する周知その他の必要な措置に関して、適切かつ有効な実施を図るために必要な事項を定めたものです。
改正法定指針の構成は下記のとおりです。
第2 用語の説明
第3 従事者の定め(法第11条1項関係)
第4 内部公益通報対応体制の整備、労働者等に対するその周知その他の必要な措置(法第11条第2項関係)
法定指針の改正箇所は、消費者庁ウェブサイトで公表されている「【新旧対照表】法定指針の改正」で正確に把握することができます。法定指針の主な改正点は、下図のとおりです。

以下では、改正法定指針の特に押さえておくべきポイントを上図の法定指針の主な改正点に沿って解説します。これらのポイントは、内部通報規程の見直しにも通じる内容のため、以下の関連記事も併せて参照ください。
労働者等に対して事業者が周知・啓発すべき事項(公益通報対応体制)の明確化
改正法11条2項で労働者等への周知義務が新たに定められたことを受け、改正法定指針第4.3(3)は労働者等のみならず、役員、退職者、特定受託業務従事者、および特定受託業務従事者であった者に対しても周知・啓発が必要である旨を定めています。
2 事業者は、前項に定めるもののほか、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、第3条第1号及び第6条第1号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない。
改正前の法定指針では、「法及び内部公益通報対応体制について、労働者等及び役員並びに退職者に対して教育・周知を行う」と定めるにとどまっていましたが、改正法定指針第4.3(3)では、対象者が労働者等、役員、退職者並びに特定受託業務従事者および特定受託業務従事者であった者に拡大され、周知・啓発の対象となる事項として、以下の事項が列記されるに至りました。
チ 記録の保管、見直し・改善及び運用実績の労働者等、特定受託業務従事者及び役員への開示に関する措置の内容 1
これまで社内教育として、役職員ら向けに公益通報の対応体制等について教育を行ってきた企業は、そのコンテンツを見直すとともに、特定受託業務従事者への周知・啓発も新たに追加する必要があります。
詳細な周知・啓発の方法については以下の関連記事を参照ください。
特定受託業務従事者(フリーランス)に通報者が拡大することへの対応
改正法では、特定受託業務従事者や特定受託業務従事者であった者も通報窓口利用者に追加され(改正法2条1項3号)、改正法定指針第2においてこれらの定義が新設されています。
三 特定受託業務従事者(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)第2条第2項に規定する特定受託業務従事者をいう。以下同じ。)又は特定受託業務従事者であった者 当該特定受託業務従事者に係る特定受託事業者(同条第1項に規定する特定受託事業者をいう。以下同じ。)又は特定受託事業者であった者に業務委託(同条第3項に規定する業務委託をいう。以下この号及び第五条において同じ。)をし、又は当該通報の日前一年以内に業務委託をしていた事業者
| 特定受託業務従事者 | 法 2 第2条第1項に定める「特定受託業務従事者」をいい、その者の同項に定める「役務提供先等」への通報が内部公益通報となり得る者 |
| 特定受託業務従事者であった者 | 「特定受託業務従事者」であった者をいい、その者の法第2条第1項に定める「役務提供先等」への通報が内部公益通報となり得る者 (その者の同項に定める「役務提供先」が同項第3号又は第4号に定める事業者である者 (労働者等、退職者又は特定受託業務従事者を除く。)) |
これらの者が公益通報の主体に追加されたことにより、企業としてこれらの者のために制度を整備する必要が生じました。
具体的には、これらの者を対象として、下記の対応を行う必要があります。
- 内部通報制度の運用実績の開示(法定指針第4.3(2)ハ)
- 周知・啓発(法定指針第4.3(3))(上記2-1、「改正公益通報者保護法における役職員らへの周知・啓発のポイント」参照)
- 内部公益通報対応体制の仕組みや不利益な取扱いに関する質問・相談への対応(法定指針第4.3(4))
内部通報制度の運用実績の開示
開示の方法については、改正前と異なる点はありませんが、開示の期間、機微な情報の扱いについては引き続き留意が必要です。特に、開示の内容・方法を検討する際には、公益通報者を特定させる事態が生じないよう十分に留意する必要があります。
特定受託業務従事者・特定受託業務従事者であった者への周知・啓発の方法
特定受託業務従事者は企業内部で勤務をしていないことが一般的です。改正指針解説では、周知・啓発の方法として業務委託契約に係る書面やメール等に公益通報受付窓口の連絡先等を記載することや、特定受託業務従事者が定期的に閲覧するイントラネット等において公益通報受付窓口の連絡先等を記載すること等を例示しています。
また、特定受託業務従事者であった者に対する周知・啓発の方法としては、業務委託期間中に業務委託契約終了後も公益通報ができることを周知・啓発すること等が例示されています。
実務上のポイントは以下の記事を参照ください。
仕組みや不利益な取扱いに関する質問・相談について
内部公益通報対応体制の仕組みの質問・相談についても改正前と異なる点はなく、内部公益通報受付窓口以外において対応することや、内部公益通報受付窓口において一元的に対応することのいずれも可能となります。
この点についても特定受託業務従事者・特定受託業務従事者であった者に周知する必要があります。
事業者が取るべき防止措置(通報妨害・通報者探索の防止)の追加
改正法では、新たに「通報妨害」と「通報者探索」の禁止というルールが定められるに至りました(改正法11条の2、11条の3)。
- 第2条第1項各号に定める事業者は、当該各号に掲げる者に対して、正当な理由がなく、公益通報をしない旨の合意をすることを求めること、公益通報をした場合に不利益な取扱いをすることを告げることその他の行為によって、公益通報を妨げてはならない。
- 前項の規定に違反してされた合意その他の法律行為は、無効とする。
第11条の3(通報者探索の禁止)
第2条第1項各号に定める事業者は、正当な理由がなく、公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為をしてはならない。
改正法定指針第4.2(2)においては、これらに加えて令和7年改正より前より防止措置が必要とされていた範囲外共有と併せて、以下の規律が置かれるに至りました。
企業は、自社の内部通報規程において、上記の措置を定めるとともに、実際も範囲外共有、通報妨害、通報者探索がなされないよう対策を講じる必要があります。
不利益な取扱いの例示による明確化
改正法定指針では、「不利益な取扱い」に関し、同指針第2において以下の具体例が示されています。
- 地位の得喪に関すること(解雇、退職の強要、正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要、期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと、あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に当該回数を引き下げること、本採用・再採用の拒否、懲戒解雇、休職、労働者派遣契約の解除、業務委託に係る契約の解除等)
- 人事上の取扱いに関すること(降格、不利益な配置の変更・出向・転籍・長期出張等の命令、昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと、不利益な自宅待機を命ずること、けん責等の懲戒処分、派遣労働者として就業する者について派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと、公益通報者に係る労働者派遣をする事業者に派遣労働者の交代を求めること等)
- 経済待遇上の取扱いに関すること(減給、賞与・一時金・退職金等において不利益な算定を行うこと、業務委託に係る取引の数量の削減、業務委託に係る取引の停止、業務委託に係る報酬の減額、役員報酬の減額等)
- 精神上・生活上の取扱いに関すること(事実上の嫌がらせ等)
通報を理由とする不利益な取扱いの禁止は、令和7年改正より前から存在するルールであり、その具体例は改正前の指針解説に記載はされていました。
改正法定指針では、「不利益な取扱い」の定義の中に具体例を組み込んだことがポイントであり、企業としては、通報を理由とする、あらゆる不利益な取扱いの禁止を徹底する必要があります。
特に、令和7年改正により、通報を理由とする解雇・懲戒を行った者に対する刑事罰を新設する規定(改正法21条)、および民事訴訟における立証責任を転換する規定(改正法3条3項)が置かれるに至ったところ、解雇や懲戒という場面でもその理由に「通報をしたこと」が含まれていないかを慎重に吟味することが求められます。
内部公益通報以外の公益通報に係る対応
改正法定指針第4.1(2)~(4)では、内部公益通報以外の公益通報に係る通報対象事実について調査・是正等の対応が必要な場合には、「組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置」、「公益通報対応業務の実施に関する措置」、および「公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置」を講じなければならない旨が定められています。
「内部公益通報以外の公益通報」とは、行政機関や報道機関等への通報といった、いわゆる「外部通報」が想定されており、企業として、外部通報がなされたことを何かしらの理由で認識するに至り、その内容に関して自社として調査・是正等の対応を行うという判断を下した場合には、改正法定指針第4.1(2)~(4)のルールを遵守する必要があります。
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