改正公益通報者保護法における役職員らへの周知・啓発のポイント
危機管理・内部統制公益通報者保護法の令和7年改正に伴い、役職員らへの周知・啓発(教育・研修を含む)をどのように見直すべきでしょうか?
公益通報者保護法の令和7年改正を踏まえて改正された法定指針において、労働者等や役員へ周知・啓発すべき事項が列記されました。受付窓口の連絡先、不利益な取扱いの防止措置、範囲外共有・通報妨害・通報者探索の防止措置などが定められており、これまでの周知・啓発に不足がないか確認する必要があります。
また、改正法定指針では、周知・啓発の対象者が特定受託業務従事者(フリーランス)や、特定受託業務従事者であった者(業務委託契約終了後1年以内)にまで広がった点にも注意が必要です。
周知・啓発の方法としては、対象者に応じて、研修や契約書の別紙・メールなど自社にとって適切な手段を検討し、対象者に抜け漏れなく周知・啓発することが考えられます。
解説
目次
周知・啓発の根拠と令和7年改正の変更点
令和7年改正公益通報者保護法(以下「改正法」といいます)を踏まえて、2026年3月31日に「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号)」(以下「法定指針」といいます)、および「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」(以下「指針解説」といいます)の改正版が公表されました(以下、それぞれの改正版を「改正法定指針」、「改正指針解説」といいます)。
改正法定指針第4.3(3)は、「労働者等に対する周知に関する措置等」として、周知・啓発を要する事項を列記しています。改正前の法定指針では、「法及び内部公益通報対応体制について、労働者等及び役員並びに退職者に対して教育・周知を行う」と定めるにとどまっていましたが、対象者が拡大し、周知・啓発の内容が列挙された点は押さえておく必要があります。
周知・啓発すべき内容
労働者等への周知・啓発の内容(コンテンツ)について、改正法定指針第4.3(3)では、「法及び以下の事項」という形で定めています。
「法」について周知すべき事項
改正法定指針第4.3(3)の「法」(公益通報者保護法)については、消費者庁「公益通報者保護制度Q&A」41-42頁のQ54において、以下の回答がなされています。
法定指針の列記事項
改正法定指針第4.3(3)の「以下の事項」については、「労働者等に対する周知に関する措置等」として以下のとおり列記されています。
これらの列記事項については、自社の内部通報規程に紐づけながら1つずつ説明していく形が想定されます。
これらのコンテンツを形式的に伝えるだけでは、「周知」はできたとしても、「啓発」まで行うことは難しいと思われます。改正指針解説22-23頁でも、「周知・啓発に当たっては、単に規程の内容を労働者等、役員、退職者並びに特定受託業務従事者及び特定受託業務従事者であった者に形式的に知らせるだけではなく、組織の長が主体的かつ継続的に制度の利用を呼び掛ける等の手段を通じて、公益通報の意義や組織にとっての内部公益通報の重要性等を労働者等、役員、退職者並びに特定受託業務従事者及び特定受託業務従事者であった者に十分に認識させることが求められる」と述べたうえで、以下の事項を呼び掛けることが例示されています。
- コンプライアンス経営の推進における内部公益通報制度の意義・重要性
- 内部公益通報制度を活用した適切な通報は、リスクの早期発見や企業価値の向上に資する正当な職務行為であること
- 内部規程や法の要件を満たす適切な通報を行った者に対する不利益な取扱いは決して許されないこと
- 通報に関する秘密保持を徹底すべきこと
- 利益追求と企業倫理が衝突した場合には企業倫理を優先すべきこと
- 上記の事項は企業の発展・存亡をも左右し得ること
これらの事項を書面やメールだけで伝えきることは困難と思われるため、自社の役職員ら向けには研修という形式をおすすめします。
周知・啓発の対象者
改正法定指針第4.3(3)では、①労働者等、②役員、③退職者、④特定受託業務従事者(フリーランス)、⑤特定受託業務従事者であった者が周知・啓発を行うべき対象者として列記されています。要するに、公益通報をすることができると定められているすべての者に対して、周知・啓発が必要ということです。
改正前は対象者に含まれていなかった④特定受託業務従事者および⑤特定受託業務従事者であった者に対する周知・啓発は、新たに実施する必要が生じたものであり、企業としては適切な方法を検討する必要があります。
対象者は、社内の者か否か、企業との関係性が続いているか否かという点で違いがあります。これをモデル化すると以下のとおりです。

労働者等・役員への周知・啓発の方法
社内の労働者等や役員については、企業として周知・啓発を行うことは容易です。この点に関し、改正指針解説24頁では、以下の方法が例示されています。
- その内容を労働者等及び役員の立場・経験年数等に応じて用意する(階層別研修、理解度テスト等)
- 周知のツールに多様な媒体を用いる(イントラネット、社用PCのスクリーンセーバー、社内研修、携行カード・広報物の配布、ポスターの掲示、外部専門家を活用した動画等)
- 内部公益通報対応体制の内容、具体例を用いた通報対象の説明、公益通報者保護の仕組み、その他内部公益通報受付窓口への相談が想定される質問事項等をFAQにまとめ、イントラネットへの掲載やガイドブックの作成を行う
2-2で述べたとおり、筆者は、周知・啓発の方法としては、対面での研修をおすすめしています。一般に対面での研修という形式を採ることで、研修講師がフェイストゥーフェイスで熱を込めてプレゼンをすることができ、研修参加者に強くメッセージを届けることが可能となります。内部通報制度という企業のコンプライアンス・ガバナンスを支える重要な仕組みをしっかり周知し、さらに啓発していくためには研修が最適な方法であると考えます。
改正指針解説では「階層別研修」が例示されていますが、役員と一般従業員を分けて内部通報研修を行う方法のほか、役員向け・管理職向け・一般従業員向けのコンプライアンス研修の中にそれぞれの役職や職責に応じた内部通報制度のコンテンツを入れ込む方法も一案です。
もっとも、すべての対象者に対面研修を行うことは、規模やスケジュール調整、入社時期の関係で難しいと思われるため、オンライン研修、eラーニングの併用等が現実的な方法と思われます。
役職員数が多数に及ぶ企業、社用パソコンの貸与がない職場など研修が難しい場合には、ポスターの掲示、携行カード・広報物の配布といった手段が検討に値します。
ポイントは、「内部通報制度のことを知らなかった」という者がいない状態を作るにはどうすればよいかという視点を持つことです。そのうえで、自社の実情を分析し、継続的・複層的な周知・啓発策を講じることが重要です。「公益通報者保護制度Q&A」42頁のQ55でも、「実情に応じた方法」が必要である旨が示されています。
退職者・特定受託業務従事者(フリーランス)への周知・啓発の方法
退職者
退職者は、労働者等・役員と異なり、企業と雇用契約や委任契約を締結していないため、退職合意書等で定めていない限り、企業が何かしらの義務を課したり、協力を求めたりすることができません。退職者に研修を受講させることなどは多くの企業で現実的ではないでしょう。
この点に関し、改正指針解説24頁では、「退職者に対する周知・啓発の方法として、例えば、在職中に、退職後も公益通報ができることを周知・啓発すること等が考えられる」と記載されています。また、消費者庁「公益通報者保護制度Q&A」42頁のQ57では、「インターネット上の自社ウェブサイトに記載すること」も例示されています。
実務的には、労働者等・役員への周知・啓発のコンテンツの中に「退職後1年間は公益通報ができる旨」を含める形が企業にとっては採用しやすい方法であると思われます。
特定受託業務従事者
特定受託業務従事者は、社外の者のため、企業の社内研修を受講したり、社内向けの周知文面を読んだりすることができないケースが多いように思われます。そのようなケースでは、上記4の社内向けの方法とは別途の検討が必要となります。
この点に関し、改正指針解説24頁では、「例えば、業務委託契約に係る書面やメール等に公益通報受付窓口の連絡先等を記載することや、特定受託業務従事者が定期的に閲覧するイントラネット等において公益通報受付窓口の連絡先等を記載すること等が考えられる」と記載されています(消費者庁「公益通報者保護制度Q&A」42頁のQ56でも同じ回答が示されています)。
実務的には、特定受託業務従事者との契約締結時に契約書の別紙等で内部通報制度の周知文面を付けたり、メールで知らせたりするフローを整えることで、企業が業務を委託するすべての特定受託業務従事者に対して抜け漏れなく周知・啓発をすることが可能となるように思われます。
特定受託業務従事者であった者
現在取引中の特定受託業務従事者(フリーランス)に加えて、業務委託契約が終了してから1年以内のフリーランスであった者も通報主体に含まれることとなりました(改正法2条1項3号)。
特定受託業務従事者であった者は、上記5-1の退職者と同様に、企業との契約関係がないため、新たな周知・啓発は事実上難しいケースが多いと思われます。
この点に関し、改正指針解説24頁では、「例えば、業務委託期間中に、業務委託契約終了後も公益通報ができることを周知・啓発すること等が考えられる」と記載されています(消費者庁「公益通報者保護制度Q&A」42-43頁のQ58でも同じ回答が示されています)。
実務的には、特定受託業務従事者への周知・啓発のコンテンツの中に「業務委託契約終了後1年間は公益通報ができる旨」を含める形が企業にとっては採用しやすい方法であると思われます。
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