令和8年改正金商法の「特定暗号資産」とは?発行者・暗号資産取引業者の情報公表規制を解説
ファイナンス令和8年改正金商法で新設された「特定暗号資産」とは何ですか。発行者や暗号資産取引業者には、どのような情報公表規制が課されますか。
特定暗号資産とは、特定の者のみが発行する権限を有する暗号資産(これに類するものを含みます)をいい、発行者等の中央集権的な管理者が存在する暗号資産が該当し、ビットコインやイーサリアム等の広く分散化が進んでいる暗号資産は含まれません。
令和8年改正金商法により、特定暗号資産の発行者には、有価証券の発行開示・継続開示規制に類似する情報公表規制が導入され、募集・売出し前の「特定暗号資産情報」、事業年度ごとの「特定暗号資産定期情報」、投資判断に重要な影響を及ぼす事実が発生した場合の「特定暗号資産臨時情報」の公表が求められます。また、販売所または取引所サービスを提供する現行の暗号資産交換業者は、暗号資産売買等業務を行う金融商品取引業者(以下「暗号資産取引業者」といいます)として、取り扱う暗号資産の情報(「暗号資産情報」「暗号資産臨時情報」)を公表する義務を負います。
虚偽の情報公表に対しては、民事責任・課徴金・刑事責任を含むエンフォースメント規定が整備されています。
解説
目次
特定暗号資産とは
特定暗号資産とは、特定の者のみが発行する権限を有する暗号資産(これに類するものを含みます)をいい(改正金商法12条50項)、発行者等の中央集権的な管理者が存在する暗号資産が該当することが想定される一方で、ビットコインやイーサリアム等の広く分散化が進んでいる暗号資産は含まれません。
具体的な特定暗号資産の類型は、以下の3類型が想定されていますが、その範囲は内閣府令に委任されていることから、個別の暗号資産が特定暗号資産に該当するかは、内閣府令の定めも踏まえて検討する必要があります。
| 概要 | 根拠となる法令 |
|---|---|
| 特定の者のみが発行権限を有する暗号資産 | 改正金商法2条50項 |
| パーミッション型ブロックチェーンによる暗号資産 | 同項から内閣府令に委任 |
| ERC-20等の規格に基づき発行される暗号資産 | 同項から内閣府令に委任 |
そのうえで、特定暗号資産を発行し、または発行しようとする者等が特定暗号資産発行者と定義され(改正金商法2条51項)、有価証券における発行開示規制(金商法4条以下)に類似した発行者主体の情報公表規制が課されることとなります。
特定暗号資産発行者が行う情報公表
特定暗号資産発行者は、特定暗号資産に関し、下記公表対象情報(以下「特定暗号資産情報等」といいます)について、情報公表規制の適用を受けます。
| 改正金商法 | 公表対象情報(公表時期) | 有価証券において相当する規制 | |
|---|---|---|---|
| 27条の39第1項本文 | ① | 特定暗号資産情報(特定暗号資産の募集・売出しを行う前) | 発行開示規制 |
| 27条の50 | ② | 特定暗号資産定期情報(各事業年度終了後、原則として3か月以内) | 継続開示規制 |
| 27条の51 | 特定暗号資産臨時情報(投資判断に重要な影響を及ぼす事実が発生した場合に遅滞なく) | ||
①の情報には、暗号資産の性質・機能・供給量等の特定暗号資産の基本的な情報、暗号資産に関連する業務の状況、発行者の商号・経理の状況等が含まれます。
また、特定暗号資産発行者は、すでに公表されている場合等の例外的な場合を除き、①の公表前に、「特定暗号資産の募集・売出し」、すなわち、新たに発行される特定暗号資産の「有償の提供の申込み若しくはその有償の取得の申込みの勧誘」または既発行の特定暗号資産の「売付けの申込み若しくはその買付けの申込みの勧誘」(以下、総称して「特定暗号資産取得勧誘等」といいます)のうち、改正金商法2条52項各号のいずれかに該当するものを行うことが禁止されます(有価証券に関する届出前勧誘の禁止に相当)。
①・②の情報公表規制は、特定暗号資産発行者と投資家との間の情報の非対称性を解消することを目的としています。このため、有価証券と同様、投資のプロとして取り扱われる銀行等の適格機関投資家のみを相手方とし、それ以外の者への譲渡のおそれが少ないいわゆるプロ私募・私売出しや、多数の者に保有されるおそれが少ない少人数私募・私売出しについては、当該目的が当てはまらないため、「特定暗号資産の募集・売出し」には含まれず、①・②の情報公表規制の対象外となります(改正金商法2条52項2号参照)。
もっとも、この場合にも勧誘時に情報公表が行われていないこと等の告知義務が課される点には注意する必要があります(改正金商法27条の49)。
また、上記の情報公表規制の趣旨の潜脱防止の観点から、プロ私募・私売出しまたは少人数私募・私売出しを経て適格機関投資家が取得した特定暗号資産について、当該適格機関投資家が適格機関投資家以外の者を相手方として行う勧誘についても情報公表規制の適用があることには留意が必要です(改正金商法27条の39第2項)。
このほか、特定暗号資産情報等を公表した特定暗号資産発行者は、特定暗号資産情報等の事後届出(改正金商法27条の55)や訂正(同法27条の52)、公表の継続(同法27条の54第1項)の義務を負います。
特定暗号資産の募集・売出し等の情報公表義務

特定暗号資産発行者に求められる監査証明
特定暗号資産発行者は、特定暗号資産の募集・売出しに際して公表する特定暗号資産情報のうち、貸借対照表・損益計算書その他の財務計算に関する一定の情報について特別の利害関係のない監査法人・公認会計士による監査証明を受ける必要があります(改正金商法27条の59)。
なお、当該募集・売出しに係る払込の総額が少額であるものとして政令で定める要件を満たす場合は、監査証明は不要とされています。この少額要件については、株式投資型クラウドファンディングに類似する枠組みが採られることが予定されており、この枠組みの概要は以下のとおりです。
| 投資上限の区分 | 上限額 | 備考 |
|---|---|---|
| 投資家1人/1件当たり | 原則50万円以下 | 50万円超は、当該投資家の収入または純資産の5%を限度(特定投資家は無制限) |
| 年間総額の上限 | 200万円 | - |
発行者の公表情報に関する暗号資産取引業者が行う情報公表
暗号資産取引業者は、特定暗号資産の募集・売出しの取扱い等を行おうとする場合には、特定暗号資産発行者による公表済みの特定暗号資産情報を、取引仲介者として投資者に取得勧誘を行う前に公表する義務を負います(改正金商法27条の39第4項)。これは、典型的にはIEO(Initial Exchange Offering:暗号資産取引業者が発行者の依頼に基づいて投資者に販売する行為をいいます)のスキームを念頭に、特定暗号資産発行者が公表した情報を暗号資産取引業者においても投資者にわかりやすい形で提供することを求めるものです。
また、特定暗号資産発行者がすでに公表されている特定暗号資産について、IEO等を伴わずに暗号資産売買等業務(販売所または取引所サービス)を行う暗号資産取引業者(いわゆる勝手上場を行う暗号資産取引業者)は、当該業務を新たに行おうとする場合には、あらかじめ当該特定暗号資産発行者が公表した特定暗号資産情報等を公表する義務を負います(改正金商法27条の53第1項)。
このほか、暗号資産取引業者は、暗号資産売買等業務を行っている期間中も、特定暗号資産発行者が新たに公表した特定暗号資産情報等の公表義務を負い(同法27条の53第3項)、公表の継続(同法27条の54第2項)についても義務を負います。
暗号資産取引業者が自ら行う情報公表
暗号資産取引業者は、特定暗号資産に該当しない暗号資産や、国内で特定暗号資産の募集・売出しが行われていない特定暗号資産に関し、下記情報(以下「暗号資産情報等」といいます)について公表義務を負います。
公表義務の対象(公表時期)
| 改正金商法 | 公表対象・時期 | |
|---|---|---|
| 27条の60第1項 | ① | 暗号資産情報(暗号資産売買等業務として新たに取り扱う前) |
| 27条の61 | ② | 暗号資産臨時情報(暗号資産取引業者が投資判断に重要な影響を及ぼす事実の発生を知ったときに遅滞なく) |
①の情報には、たとえば、暗号資産の性質・機能、供給量、基盤技術等が含まれます。
このほか、暗号資産取引業者は、公表済みの暗号資産情報等に関し、事後届出(改正金商法27条の64)や訂正(同法27条の62)、公表の継続(同法27条の63)について義務を負っています。
虚偽の情報公表に対する罰則と責任
上記で概観した情報公表規制については、その実効性の確保の観点から、虚偽の特定暗号資産情報および暗号資産情報の公表等に対し、民事責任、課徴金制度および刑事責任を含む包括的なエンフォースメント規定が整備されており、その概要は以下のとおりです。
特定暗号資産に係る民事責任
| 改正金商法 | 適用場面 | 責任主体 | 責任の性質 | 損害額の法定・推定 |
|---|---|---|---|---|
| 27条の41 | 特定暗号資産情報を事前に公表せずに行う募集・売出し | 特定暗号資産発行者等の違反行為者 | 無過失責任 | - |
| 27条の42 27条の43 |
虚偽の特定暗号資産情報の公表(募集・売出しの場合) | 特定暗号資産発行者 | 無過失責任 | あり |
| 27条の45 | 同上 | 特定暗号資産発行者の役員等・売出人・監査法人等 | 立証責任が転換された過失責任 | - |
| 27条の46 | 虚偽の特定暗号資産情報等の公表(募集・売出しの場合以外) | 特定暗号資産発行者 | 立証責任が転換された過失責任 | あり |
| 27条の48 | 同上 | 特定暗号資産発行者の役員等・監査法人等 | 立証責任が転換された過失責任 | - |
(注)特定暗号資産発行者に対する賠償請求権の時効については、改正金商法27条の44、27条の47が規律しています。
暗号資産情報に係る民事責任
| 改正金商法 | 適用場面 | 責任主体 | 責任の性質 | 損害額の法定・推定 |
|---|---|---|---|---|
| 27条の66 | 暗号資産情報公表前の暗号資産の売付け | 違反行為者 (暗号資産取引業者) |
無過失責任 | - |
| 27条の67 | 暗号資産情報等の虚偽記載 (業務継続中の局面) |
暗号資産取引業者 | 通常の過失責任 | あり |
また、虚偽の特定暗号資産情報の公表等については、刑事罰(たとえば、虚偽の特定暗号資産情報の公表は、改正金商法197条1項4号の3に基づき、10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金または併科)のほか、課徴金制度(改正金商法172条の13~172条の19)が整備されています。
-
本稿では、2026年7月23日に公布された「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律」のうち金融商品取引法に係る改正部分を「改正金商法」といいます。 ↩︎
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