金融活動作業部会(FATF)と相互審査の枠組みおよび審査結果が与える影響

ファイナンス
大野 徹也弁護士 プロアクト法律事務所

 2021年8月30日に、日本におけるマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策の状況について審査した「第4次対日相互審査報告書」が、金融活動作業部会(FATF)から公表されていますが、FATFの役割や審査基準、審査結果の影響について教えてください。

 FATFは、1990年にマネー・ローンダリング対策における国際協調を推進するために設立された政府間会合です。審査については法令整備状況審査と有効性審査があり、その評価によって「通常フォローアップ国」「強化(重点)フォローアップ国」「監視(観察)対象国」のいずれかに結論づけられます。

 FATFによる審査結果やその後の改善状況が芳しくない場合、対象国の金融機関は、各国金融機関による審査が厳格化されたり、その結果、当該国の金融機関との取引遅延、取引自体の回避に至るなどの影響を受ける可能性が考えられます。

解説

目次

  1. 金融活動作業部会(FATF)とは
  2. 金融活動作業部会(FATF)の役割
  3. マネロン・テロ資金供与対策に関する国際基準(FATF勧告)
  4. FATF相互審査とは
  5. 審査結果やその後の改善状況が芳しくない場合に生じる問題

 前稿では、金融活動作業部会(Financial Action Task Force:FATF)による「第4次対日相互審査報告書 1」の内容について解説する前提として、マネー・ローンダリング(以下「マネロン」といいます)およびテロ資金供与の現状や手口、両者の関係について解説しました。
 本稿では、FATFとFATF審査の枠組み、および審査結果により考えられる影響について解説します。

FATF第4次対日相互審査報告書の内容と金融機関等の対応

1記事目:「マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与の現状と手口
2記事目:「金融活動作業部会(FATF)と相互審査の枠組みおよび審査結果が与える影響」(本稿)

金融活動作業部会(FATF)とは

 前回の解説で、マネロンおよびテロ資金供与の概要と、官民一体となっての対策の必要性について説明しました。しかし、その対策は、一国だけが取り組んでもまったく意味がありません。A国がマネロン対策にしっかり取り組んでいたとしても、A国の犯罪組織は、マネロン対策の緩いB国でマネロンをして、マネロン後の資金をA国に持ち込めばよいだけだからです。

 そこで、1980年代以降、世界各国がマネロン対策に協調して取り組む必要性が認識されるようになり、薬物犯罪収益のマネロン対策を加盟各国に義務付ける国際条約(ウィーン条約)が締結されるなど、国際的な枠組みが徐々に出来上がっていきました。その一環として、1989年にフランス・パリで開催されたアルシュ・サミット(主要国首脳会議)で設置が決められた政府間会合が「FATF」です。

金融活動作業部会(FATF)の役割

 FATFは、1990年にマネー・ローンダリング対策における国際協調を推進するために設立された政府間会合で、本部はパリに置かれています。FATFには、現在37の国・地域と2つの国際機関(欧州委員会(EC)、湾岸協力理事会(GCC))が参加しており、日本も設立当初から参加しています。37か国と聞くと、参加していない国の方が多数であるような印象を受けますが、世界の9つの地域(アジア太平洋、カリブ、ユーラシア、東・南アフリカ、中央アフリカ、ラテンアメリカ、西アフリカ、中東・北アフリカ、欧州)に、地域単位でFATFと同様の取組みを行う「FATF型地域体」(FATF-Style Regional Bodies:FSRB)が設置されています。現在では200以上の国・地域がFATFまたはFSRBに参加していますので、ほぼすべての国・地域がFATFの枠組みに参加していることになります。

 FATFの活動内容は以下の4点で、特に重要なのは①と②です。

  1. マネロン・テロ資金供与対策に関する国際基準(FATF勧告)の策定および見直し
  2. FATF参加国・地域相互間におけるFATF勧告の遵守状況の監視(相互審査)
  3. FATF非参加国・地域におけるFATF勧告遵守の推奨
  4. マネロンおよびテロ資金供与の手口および傾向に関する研究

マネロン・テロ資金供与対策に関する国際基準(FATF勧告)

 まず、FATFは、マネロン・テロ資金供与に関して参加国が遵守すべき国際基準(FATF勧告 2)を策定しています(①)。
 FATFは設立された1990年に最初のFATF勧告を策定し、その後、順次改定を繰り返してきました。現在適用されている勧告は2012年2月に策定されたもので(このうち勧告15は2018年10月に改正されています)、新「40の勧告」とも呼ばれています。新「40の勧告」は、その名のとおり40か条からなる基準となっており、参加国に対して、各項目に沿った法令の整備を行うよう求めています。

 項目は次の図のとおりですが、たとえば、「顧客管理」「本人確認・取引記録の保存義務」「金融機関における内部管理規定の整備義務、海外支店・現地法人への勧告の適用」「金融機関における資金洗浄、テロ資金供与に関する疑わしい取引の届出」などといった金融機関の取組みに関する法令整備を求めるものから、「犯罪収益の没収・保全措置」「資金洗浄(マネロン)・テロ資金供与の捜査」「犯人引渡」など、もっぱら捜査機関の捜査権限に関する法令整備を求めるものまで、マネロン・テロ資金供与対策として考えられるあらゆる対策が網羅されています。

勧告 勧告の概要 勧告 勧告の概要
1 リスク評価とリスクベース・アプローチ 21 届出者の保護義務
2 国内関係当局間の協力 22 DNFBPにおける顧客管理
3 資金洗浄の犯罪化 23 DNFBPによる疑わしい取引の報告義務
4 犯罪収益の没収・保全措置 24 法人の受益所有者
5 テロ資金供与の犯罪化 25 法的取極の受益所有者
6 テロリストの資産凍結 26 金融機関に対する監督義務
7 大量破壊兵器の拡散に関与する者への金融制裁 27 監督当局の権限の確保
8 非営利団体(NPO)の悪用防止 28 DNFBPに対する監督義務
9 金融機関の守秘義務 29 FIUの設置義務
10 顧客管理 30 資金洗浄・テロ資金供与の捜査
11 本人確認・取引記録の保存義務 31 捜査関係等資料の入手義務
12 PEPs(重要な公的地位を有する者) 32 キャッシュ・クーリエ(現金運搬者)への対応
13 コルレス契約 33 包括的統計の整備
14 代替的送金サービス 34 ガイドラインの策定義務
15 新技術の悪用防止 35 義務の不履行に対する制裁措置
16 電信送金(送金人情報の付記義務) 36 国連諸文書の批准
17 顧客管理措置の第三者依存 37 法律上の相互援助、国際協力
18 金融機関における内部管理規定の整備義務、
海外支店・現法への勧告の適用
38 外国からの要請による資産凍結等
19 勧告履行に問題がある国・地域への対応 39 犯人引渡
20 金融機関における資金洗浄、テロ資金供与に
関する疑わしい取引の届出
40 国際協力(外国当局との情報交換)

 新「40の勧告」の概要 (出典:警察庁「犯罪収益移転防止に関する年次報告書 令和2年」)

 新「40の勧告」の原文は、以下のとおり構成されています。

  • 新「40の勧告」の項目一覧(P4~6)
  • 各項目の具体的な内容(P10~30)
  • 各項目についてより詳細に解説した「解釈ノート」
    (P31~114。Interpretive Notes to the FATF Recommendations)

 財務省は、各項目の具体的な内容の部分(P10~30)と、「解釈ノート」部分(P31~114)について、仮訳を作成・公表しています。

FATF相互審査とは

 FATFは、参加国に対して単にFATF勧告を遵守するよう求めるのみならず、FATF勧告の遵守状況を監視することとしています。その監視手法は、①FATF参加国による審査団を構成し、審査対象国に実際に乗り込んで審査し、②その結果を報告書としてとりまとめ、公表し、③さらにその改善状況についてフォローアップを行うという極めて厳格なものとなっています。参加国同士がお互いに審査しあうという意味で、「相互審査」(mutual evaluation)と呼ばれています。

 FATFは勧告を改訂する都度、相互審査を行ってきており、日本にも、過去1993年、1997年、2008年と計3回の審査が実施されてきました。現在は、前述した2012年2月策定の新「40の勧告」の遵守状況を確認するための相互審査が順次進められており、その一環として2019年に日本に対する審査が行われました。これが4回目の審査ということで「第4次対日相互審査」と呼ばれています。

 なお、FATFに加盟していないFATF型地域共同体(FSRB)加盟国については、FSRBがFATFと同様の手法で加盟国の相互審査を行っています。

具体的な審査基準 - 法令整備状況審査と有効性審査

 FATF相互審査はFATFが定める「メソドロジー 3」と呼ばれる審査手法をとりまとめた文書と、「プロシージャ― 4」と呼ばれる手順書に従って実施されます。

 メソドロジーにおいては、新「40の勧告」の各項目に沿って法令が整備されているかどうかを確認する「法令整備状況」(Technical compliance:TC)の審査手順に加えて、それらマネロン・テロ資金供与対策が有効に機能しているかどうかを11項目で審査する「有効性審査」(Effectiveness)を行う旨が定められています。
 つまり、新「40の勧告」の項目に沿った法律が作られていれば、その項目をクリアしたことになるわけですが、たとえ法律が作られていたとしても、それら法律が機能しておらず、結果的にマネロン・テロ資金供与対策としての実効性がなければ、「有効性」をクリアできないこととされています。

 有効性審査は、具体的には、11項目の「短期的目標」(Immediate Outcome:IO)を達成できているかどうかにより、審査されます。それぞれのIOには、「コア・イシュー」と呼ばれる細目があり、コア・イシューの達成度の審査を通じて、IOの達成度が審査されることになります。

有効性審査における短期的目標(Immediate Outcome:IO)の項目

IO.1 マネロン・テロ資金供与リスクの認識・協調
IO.2 国際協力
IO.3 金融機関・DNFBPsの監督
IO.4 金融機関・DNFBPsの予防措置
IO.5 法人等の悪用防止
IO.6 特定金融情報等の活用
IO.7 マネロンの捜査・訴追・制裁
IO.8 犯罪収益の没収
IO.9 テロ資金供与の捜査・訴追・制裁
IO.10 テロ資金の凍結・NPO
IO.11 大量破壊兵器に関与する者への金融制裁

 相互審査は、新「40の勧告」に基づく40項目の法令整備状況と、メソドロジーに基づく11項目の有効性について、それぞれ1項目ずつ、以下の4段階で評価が実施されます。4段階のうち、上2つが合格水準、下2つが不合格水準とされています。

法令整備状況
/ 新「40の勧告」の40項目
A:Compliant(C)
B:Largely Compliant(LC)
C:Partially Compliant(PC)
D:Non Compliant(NC)
有効性
/ IOの11項目
A:High Level of Effectiveness(HE)
B:Substantial Level of Effectiveness(SE)
C:Moderate Level of Effectiveness(ME)
D:Low Level of Effectiveness(LE)

 以上の審査結果を踏まえて、審査団は審査対象国を「通常フォローアップ国」(regular follow-up)、「強化(重点)フォローアップ国」(enhanced follow-up)のいずれかに結論付けます。
 次の基準のいずれにも該当しない場合は「通常フォローアップ国」、いずれか1つに該当すれば「強化(重点)フォローアップ国」と結論付けられます 5

強化(重点)フォローアップ国 該当性基準
  • 法令整備状況でCまたはDが8個以上
  • 法令整備状況で新「40の勧告」3,5,10,11,20のいずれか1個でもCまたはD
  • 有効性でCまたはDが7個以上
  • 有効性でDが4個以上
    → 1つでも該当すると「強化(重点)フォローアップ国」

 「強化(重点)フォローアップ国」の中でも、さらに評価が低い場合には、「監視(観察)対象国」とされ、FATFが「グレーリスト」と呼ぶリストに掲載される場合があります。監視(観察)対象国の該当基準は公開されていませんが、日本の財務省が作成した資料 6 によると、概要、以下のような基準で判断されるとされています。第4次相互審査では、アイスランドとトルコが監視(観察)対象国とされています。

監視(観察)対象国 該当性基準
  • 法令整備状況でCまたはDが20個以上
  • 有効性でCまたはDが9個以上、かつ、Dが2個以上
  • 有効性でDが6個以上
  • → 1つでも該当すると「監視(観察)対象国」

 すべての審査対象国は審査報告書採択から5年後にフォローアップ審査を受けることになります。これに先立ち、通常フォローアップ国は、審査報告書採択から3年後に指摘事項に対する改善報告が義務付けられ、強化(重点)フォローアップ国は、5年以内に3回程度の改善報告を行うことが義務付けられます。
 当然、強化フォローアップ国となると、急ピッチで不備を指摘された事項に関する法令整備を進めたり、さらにその有効性を高めるための施策を進める必要が生じ、その国の金融機関等にかかる負荷もより大きなものとなっていきます。

審査結果やその後の改善状況が芳しくない場合に生じる問題

 では、FATF相互審査の結果が芳しくない場合、対象国にはどのような不利益が生じるのでしょうか。

 FATFは、勧告19「勧告履行に問題がある国・地域への対応」において、「金融機関は、FATFが求めるところにしたがって、特定の国の自然人、法人および金融機関との取引において厳格な顧客管理を行うことを求められなければならない」としています。また、その解釈ノートにおいて、「懸念国または懸念国の人との業務関係または金融取引を制限すること」「懸念国の金融機関とのコルレス関係を見直し、修正すること、または必要があれば停止を求めること」「懸念国に拠点を置く金融機関の支店および子会社に対する検査および/または外部監査の強化を求めること」等を参加国に求めています。

 つまり、FATF審査の結果、マネロン・テロ資金供与対策が不十分とされてしまうと、その国・地域やその国民・法人は、他のFATF参加国から、金融取引を規制・制限されてしまうこととなりかねないのです。この勧告を無視して金融取引を継続していると、今度は取引を許した側の国・地域が勧告19に違反していることとなり、マネロン・テロ資金供与対策が不十分と見られてしまいますので、参加各国はこの勧告を当然に遵守します。

 金融ネットワークはボーダレスであり、マネロン・テロ資金供与は国境をまたいで行われています。そのため、各国がいかにマネロン・テロ資金供与対策に取り組んでいたとしても、マネロン・テロ資金供与対策が不十分な国との間で漫然と金融取引を行っていれば、その国を通じて自国にマネロン資金やテロ資金が入り込んできてしまい、自国が取り組んできたマネロン・テロ資金供与対策が無効化されてしまうおそれがあります。そこで、FATFは、上記のような勧告19を定め、その遵守を各国に求めているのです。

 財務省は、FATF審査結果やその改善状況に問題があると、「各国金融機関が、当該国の金融機関に対し、マネロン対策に関する説明や体制整備を求めるなど審査を厳格化」し、「その結果、当該国の金融機関との取引が遅延したり、取引自体を回避する動きに至る可能性」があると指摘しています 7
 そこで、参加各国は、自国の金融機関、ひいては自国の企業や個人が、世界の金融ネットワークを通じた金融取引・経済活動を阻害されることがないよう、FATF勧告を遵守し、相互審査に真摯に対応し、指摘された事項への改善に取り組もうとしているのです。

 今回の日本の審査結果は「強化(重点)フォローアップ国」でした。次稿では、その具体的な内容について見ていきます。


  1. 金融活動作業部会(FATF)「Anti-money laundering and counter-terrorist financing measures Japan Mutual Evaluation Report August 2021」(2021年8月) ↩︎

  2. 金融活動作業部会(FATF)「The FATF Recommendations」(2012年2月、2021年6月最終更新) ↩︎

  3. 金融活動作業部会(FATF)「FATF Methodology for assessing compliance with the FATF Recommendations and the effectiveness of AML/CFT systems」(2013年2月、2020年11月最終更新) ↩︎

  4. 金融活動作業部会(FATF)「Procedures for the FATF Fourth Round of AML/CFT Mutual Evaluations」(2021年1月最終更新) ↩︎

  5. 金融活動作業部会(FATF)・前掲注4)par.83以下 ↩︎

  6. 財務省国際局「金融活動作業部会について」関税・外国為替等審議会 外国為替等分科会 配布資料(2020年6月14日) ↩︎

  7. 財務省国際局・前掲注6 ↩︎

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