暗号資産規制はなぜ金商法に移行するのか? 改正の背景・全体像と事業者への影響
ファイナンス当社では暗号資産(仮想通貨)を活用した新規サービスを検討しています。2026年7月に、暗号資産に関する規制を資金決済法から金融商品取引法(金商法)へ移す改正法が成立したと聞きました。なぜ規制の枠組みを大きく変更することになったのでしょうか。また、改正後は具体的に何が変わり、暗号資産交換業者以外の事業者にも影響が及ぶのでしょうか。
今般の法改正は、暗号資産の取引実態が価格変動によるリターンを期待した投資対象としての利用を中心とするものになっていることを踏まえ、暗号資産に係る規制を資金決済法から金商法へ移すものです。本改正によって暗号資産が有価証券として規制されるわけではありませんが、金融商品として明確に位置付けられることに伴い、暗号資産交換業者は金商法上の金融商品取引業者として位置付けられ、財務規制等を含め規制が全般的に強化されます。
また、本改正は、暗号資産交換業者だけでなく、暗号資産の発行者等に対して情報公表規制を課すとともに、暗号資産の借入れや一定のウォレットシステム提供等、従来は資金決済法上の業規制の対象外であった業務にも規制が拡張されます。他方、現行法上、暗号資産に該当しないNFTや、資金決済法上の電子決済手段は、今回の改正の対象ではありません。
解説
目次
2026年7月15日、「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律」(以下「本改正法」といいます)が国会で成立し、7月23日に公布されました。本改正法には、企業のサステナビリティ情報の開示・保証など、複数の改正項目が含まれていますが、本記事では、本改正法の対象のうち、暗号資産に係る規制の見直しに関し、特に金融商品取引法(以下「金商法」といいます)の改正(以下「改正金商法」といいます)を中心に解説します。なお、暗号資産に係る規制の見直しに係る規定は、公布日(2026年7月23日)から1年以内に施行されます。
改正金商法の内容は多岐にわたり非常に複雑ですが、改正に至った背景・経緯を踏まえたうえで、①なぜ暗号資産を資金決済法から金商法の規制対象へと移管するのか、②金商法への移管によって暗号資産に対する規制がどのように変わるのか、③新たにどのような事業者が規制対象となるのか、④何が今回の改正の対象外なのか、といった点を押さえることが重要です。
改正の背景・経緯
金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ報告」(2025年12月10日。以下「WG報告」といいます)および金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案説明資料」(2026年4月)等によれば、国内の暗号資産取引口座の開設数は延べ1,400万口座を超え、利用者の取引動機のほとんどは長期的な値上がりへの期待によるものとされています。米国等では暗号資産ETFが上場され機関投資家の資金流入も拡大する一方、国内では暗号資産の保有者は年収700万円未満の層が約7割を占めるとされる中、SNS等を通じた詐欺的勧誘による被害も課題となっていました。
このように、暗号資産は、決済手段としての利用よりも国内外において投資対象としての利用が進展しており、また詐欺的な投資勧誘等が生じていることを踏まえ、暗号資産に係る規制について、決済手段を規律する資金決済法から、投資性の強い金融商品を幅広く対象とする横断的な投資者保護法制の構築を理念としている金商法へと移管したうえで、暗号資産の特性に応じて、有価証券とは異なる金融商品として規制することとなりました。
改正金商法の全体像
改正金商法による暗号資産規制の見直しは、以下のとおり大きく5つの柱で構成され、市場の公正性と被害者救済の実効性を高める内容となっています。
② 現行法上の暗号資産交換業者を「暗号資産取引業者」として金融商品取引業の枠組みに移管して財務規制等を追加・強化
③ 暗号資産の借入れや暗号資産現物の投資運用・投資助言など、これまで業規制の対象外であった業務にも規制を拡張する
④ 暗号資産に係るインサイダー取引規制の新設を含む不公正取引規制の強化
⑤ 無登録業者への対応の強化
以下では、この5つのポイントごとに概要を説明します。なお、各ポイントの詳細な要件や実務対応については、別途のQ&Aにおいて解説します。
改正金商法の主なポイント
| |
主な改正内容 |
主な対象者 |
|---|---|---|
| ① 情報公表規制の導入 | 暗号資産を発行者の有無により2つの類型に分類し、特定暗号資産発行者等による情報公表規制を新設。発行者のいない暗号資産についても暗号資産取引業者が暗号資産情報等を公表。 | ・発行者 ・暗号資産取引業者 |
| ② 暗号資産取引業者に対する規制強化 | 暗号資産交換業を「暗号資産取引業」として金融商品取引業に移管。金融商品取引責任準備金の積立義務や自己資本規制比率の算出などの財務規制等を追加し、実質的に規制強化。 | 暗号資産取引業者 |
| ③ 規制対象業務の拡張 | 暗号資産の借入れ、暗号資産現物に対する投資助言・投資運用などを業規制の対象に追加。また、暗号資産の管理を行うための重要なシステムの提供業者に対する事前届出制を導入。 | ・暗号資産レンディング業者 ・暗号資産現物に対する投資助言・運用業者 ・ウォレットシステム提供者等 |
| ④ インサイダー取引規制を含む不公正取引規制の強化 | 暗号資産に係るインサイダー取引規制を新設し、課徴金・犯則調査等を整備。 | ・発行者の関係者 ・暗号資産取引業者の関係者 ・投資家 |
| ⑤ 無登録業者への対応の強化 | 無登録業者に対する罰則の強化、金商法に違反する無登録業者による売付け等について、民事効規定(原則無効として立証責任を転換)の対象に追加など。 | 無登録業者等 |
情報公表規制の導入―発行者の有無で情報提供の主体が分かれる
改正金商法は、暗号資産のうち「特定の者のみが発行する権限を有するもの」その他内閣府令で定めるものを「特定暗号資産」と定義します(改正金商法2条50項)。特定暗号資産について募集・売出しを行う場合、特定暗号資産発行者は、原則として、あらかじめ「特定暗号資産情報」を公表しなければなりません(同法27条の39第1項)。発行後も定期情報・臨時情報の公表が求められます(同法27条の50、27条の51)。
他方、ビットコインのように特定の発行者が存在しない暗号資産については、これを取り扱う暗号資産取引業者が、その性質・機能・リスク等に関する「暗号資産情報」を作成・公表する仕組みが設けられています(同法27条の60)。
暗号資産交換業者に対する規制強化
現行の「暗号資産交換業」は、改正後、「暗号資産取引業」として金商法上の金融商品取引業に組み込まれます(改正金商法28条5項)。暗号資産取引業者には、顧客の金銭の分別管理・信託や顧客の暗号資産の分別管理といった暗号資産特有の顧客資産保全に係る各種規制(同法43条の14以下)に加えて、金融商品取引責任準備金の積立て(同法46条の5)、自己資本規制比率に関する規制(同法46条の6)等の金商法上の財務規制が適用されます。
そのため、既存の暗号資産交換業者にとっては、単なる登録の移し替えではなく、金融商品取引業者としての内部管理・財務管理・コンプライアンス体制への移行が必要となります。また、前述のとおり、暗号資産取引業者は情報公表規制の対象となり、暗号資産取引業者関係者についてインサイダー取引規制の対象ともなることから、これらの情報管理に関する管理体制全体も見直す必要があります。
規制対象業務の拡張―これまで規制対象外だった暗号資産の借入れ等も業規制の対象に
現行資金決済法上、単に利用者から暗号資産を借り入れる行為は、原則として暗号資産交換業には該当しません。そのため、利用者から暗号資産を借り入れ、ステーキングや再貸付け等により運用し、一定期間経過後に貸借料を付して返還する暗号資産レンディングサービスについては、暗号資産の借入れそれ自体を理由とする業規制はありませんでした。
これに対し、WG報告は、個人投資家等から借り入れた暗号資産をステーキングや再貸付け等により運用するビジネスについて、再貸付先の貸倒れやスラッシング等により借入事業者の返済能力に影響が生じるリスクがあること等を踏まえ、利用者保護の観点から規制することが適当としました。これを受け、改正金商法では暗号資産の借入れが新たに暗号資産取引業の対象に含まれます(同法2条8項25号)。
なお、借入れ等のみを行う一定の業務については「暗号資産取引特例業務」(同法29条の6第7項)として、金融商品取引責任準備金・自己資本規制比率に係る規定を適用しない(同条4項)など、業務の性質に応じた調整も設けられています。
また、改正金商法では、暗号資産取引業者に顧客暗号資産の管理に必要な情報システムを提供する者や、その情報システムの保守・管理を行う一定の外部委託先についても、新たな規律が設けられます。改正金商法は、こうした業務を「暗号資産管理関係業務」として位置付け、その提供者について届出制を導入する(同法66条の94)とともに、暗号資産取引業者側にも委託先に関する規律を設けています(同法43条の12等)。
このほか、改正金商法は、暗号資産現物を対象とする投資助言・投資運用行為を金融商品取引業の対象に追加し(同法2条8項11号乃至15号等)、暗号資産の売買・交換の媒介等についても金融商品仲介業の枠組みに取り込まれます(同法2条11項2号、66条以下)。
インサイダー取引規制を含む不公正取引規制の強化
改正金商法171条の7以下は、特定暗号資産発行者、暗号資産取引業者、大量売買等を行う者の関係者について、それぞれ一定の未公表の重要事実を知った場合の取引を禁止する仕組みを設けています。一定の情報伝達・取引推奨行為も禁止されます(同法171条の7第3項、同法171条の10など)。例えば、暗号資産取引業者の役職員が、ある暗号資産について自社が新たに取扱いを開始することを公表前に知り、その情報を利用して自己勘定で当該暗号資産を購入する場合には、インサイダー取引規制との関係が問題となります。
無登録業者への対応の強化
改正金商法において、無登録業者に対する罰則が大幅に引き上げられます。具体的には、無登録で暗号資産交換業を行った場合の法定刑は、現行資金決済法上、3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金またはその併科ですが(資金決済法107条12号)、改正金商法においては、無登録で暗号資産取引業を含む金融商品取引業を行った場合として、10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金またはその併科へと大幅に引き上げられます(改正金商法197条1項4号の4)。
また、暗号資産に係る不公正取引等が証券取引等監視委員会の犯則調査の対象に追加されます(同法210条1項)。そして、無登録営業や不公正取引といった金商法違反行為は、裁判所による緊急差止命令の対象となり(同法192条)、その申立て権限は証券取引等監視委員会に委任されています(同法194条の7第4項2号)。
さらに、無登録業者が「未公表暗号資産」の売付け等を行った場合、当該売付け等に係る契約は原則として無効とし、無登録業者側において、当該売付け等が顧客保護に欠けるものでないこと等を証明した場合に限り有効となるという、立証責任を転換した民事効規定が新設されます(同法171条の15第1項)。
このほか、暗号資産の発行者や金融商品取引業者等から対価を受けて、暗号資産の取引判断に関する意見をインターネット等で表示する場合には、対価を受けている旨の表示が義務付けられます(同法171条の12)。有価証券に関する現行金商法169条と同様の、いわゆるステルスマーケティング規制です。
また、法律事項ではありませんが、暗号資産が詐欺的な投資勧誘の支払手段として悪用されることを防ぐため、新規口座開設直後の外部ウォレットへの移転に一定の熟慮期間を設けること等の措置が内閣府令で手当てされる方向が示されており、今後の政府令案の内容が注目されます。
改正金商法の対象となるデジタル資産―NFT・電子決済手段は改正金商法の対象外
今回の改正によって、ブロックチェーン上で発行・移転されるデジタル資産のすべてが金商法の規制対象となるわけではありません。改正金商法上の「暗号資産」の定義(同法2条49項)は、現行資金決済法上の暗号資産の定義を基本的に引き継ぐものです。したがって、現行法上、暗号資産に該当しないNFT(Non-Fungible Token)については、今回の改正によって新たに暗号資産として改正金商法の規制対象となるものではありません。
また、法定通貨の価値と連動するいわゆるステーブルコインのうち、資金決済法上の「電子決済手段」(同法2条5項)に該当するものも、今回の暗号資産規制の金商法移管の対象ではありません。電子決済手段については、引き続き資金決済法上の電子決済手段等取引業等の規制が適用されます。
したがって、今回の改正は、「デジタル資産全般を金商法へ移す改正」ではなく、「現行資金決済法上の暗号資産を金商法へ移す改正」といえます。
改正金商法と実務への影響―暗号資産交換業者だけの問題ではない
以上のとおり、今回の改正は、既存の暗号資産交換業者の規制を金商法に移管・強化するだけでなく、暗号資産の借入れ、投資助言・投資運用、仲介、ウォレットシステム等の提供といった、これまで規制対象ではなかった事業にも規制の射程を広げます。一方で、暗号資産取引業が金融商品取引業の一類型として整備されたことは、証券会社や運用会社など既存の金商法プレーヤーにとって、暗号資産ビジネスへの参入経路が制度上明確になることも意味します。
本改正の影響を受ける主な事業者ごとの実務上の影響の概要は以下の表を参照ください。
改正金商法による各事業者に及ぼす主な影響
| 事業者の類型 | 主な影響・求められる対応 |
|---|---|
| 特定暗号資産発行者 | ・暗号資産の発行者等について情報公表規制の対象となり、虚偽記載等には民事責任、課徴金、刑事罰が課される ・公表する情報の正確性を担保するための体制整備 |
| 暗号資産交換業者(暗号資産取引業者) | ・第一種金商業者並みの(一部はこれを超える)規制が適用されるため、特に内部管理体制の高度化、財務規制(金融商品取引責任準備金、自己資本規制比率)への対応が必須 ・インサイダー取引の未然防止体制の構築も必要 |
| 暗号資産レンディング事業者 | 暗号資産の借入れが暗号資産取引業に含まれることとなったため、業登録とそれに伴う体制整備が必要 |
| ウォレットサービス事業者等(暗号資産管理関係業務提供者) | 自社サービスの「暗号資産管理関係業務」該当性を検討し、必要な届出と規制対応を進める必要 |
| 投資運用業者・投資助言業者 | ・投資運用業および投資助言業の対象として暗号資産の取扱いが可能となる ・暗号資産を対象とする場合の金商法上の手続 ・義務に係る政府令案の動向を注視 |
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