マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与の現状と手口

ファイナンス
大野 徹也弁護士 プロアクト法律事務所

 2021年8月30日に、日本におけるマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策の状況について審査した「第4次対日相互審査報告書」が、金融活動作業部会(FATF)から公表されていますが、マネー・ローンダリングやテロ資金供与対策の日本における現状、および両者の関係について教えてください。

 マネー・ローンダリング(資金洗浄)は、犯罪によって得た収益(犯罪収益)を、その出所や真の所有者をわからないようにして、捜査機関による収益の発見や検挙を逃れようとする行為を言います。わが国では、特殊詐欺グループや暴力団などの犯罪組織が、特殊詐欺や薬物犯罪などの犯罪によって莫大な犯罪収益を日々得ていますが、その犯罪収益の大半は、金融機関等の提供するサービスを通じて実際にマネー・ローンダリングされており、捜査機関による犯罪収益の発見や、犯罪組織の検挙を困難なものとしています。
 また、テロ資金供与とは、テロ行為の実行資金やテロ組織の活動資金等のために、資金等を調達・移動・保管・使用することを言います。

 両者は本質的には異なる行為類型ですが、行為や手口、およびその対策に共通する面があることから、2001年以降、一括した対策が取られるようになっています。

解説

目次

  1. FATF「第4次対日相互審査報告書」とは
  2. マネロンとは
  3. テロ資金供与とは
  4. マネロンとテロ資金供与の関係

 2021年8月30日、金融活動作業部会(Financial Action Task Force:FATF)の第4次「対日相互審査報告書」(「Anti-money laundering and counter-terrorist financing measures Japan Mutual Evaluation Report August 2021」。以下「審査報告書」といいます)が公表されました。同報告書の内容は、銀行をはじめとする各種金融機関、暗号資産取引所、そして、犯罪収益移転防止法によって取引時確認義務を課されている特定事業者の業務に多大な影響を与えるとともに、国民に提供される金融サービスそのものにも大きな変化をもたらすものと見られています。

 この度は、本稿を含む複数の記事にわたり、FATF「第4次対日相互審査報告書」の内容や金融実務に与える影響について、マネー・ローンダリング(以下「マネロン」といいます)およびテロ資金供与やその対策の意義を踏まえつつ、できるだけわかりやすく解説していきます。

FATF「第4次対日相互審査報告書」とは

 審査報告書は、FATFが、日本におけるマネロンおよびテロ資金供与対策(Anti-Money Laundering / Countering the Financing of Terrorism:AML/CFT)の状況について審査した結果がまとめられている報告書です。

 FATFは、2019年10月から11月にかけて日本に審査団を送り込み、FATFの定める国際基準に沿った法令整備が行われているか、また、日本の取組みはマネロン・テロ資金供与対策として有効に機能しているか、審査を行いました。審査報告書は2020年6月にも取りまとめられ、同年8月に公表される予定でしたが、審査結果を審議・採択するためのFATF全体会合(FATF Plenary)がコロナ禍で度々延期されていました。2021年6月に開催されたFATF全体会合でようやく審議・採択され、同年8月30日に公表されました。

 では、この審査報告書の内容はどのようなものであったのでしょうか。また、それが金融機関等の業務にどのような影響を与えることとなるのでしょうか。本稿では、それらを解説する前提として、まずはマネロンやテロ資金供与、そしてその対策の意義について、説明します。

マネロンとは

 マネロンとは、犯罪によって得た収益(犯罪収益)を、その出所や真の所有者をわからないようにして、捜査機関による収益の発見や検挙を逃れようとする行為を言います。

 日本では、暴力団、半グレ集団、特殊詐欺グループ、ハッカー集団などの犯罪組織が、覚せい剤等違法薬物の取引、繁華街でのみかじめ料徴収、振り込め詐欺等の特殊詐欺、コロナ関連の給付金詐欺、金融取引や暗号資産のアカウント乗っ取りによる資産流出など、様々な犯罪行為によって、日々、収益(犯罪収益)をあげています。

 日本における2020年1年間の「財産犯」(窃盗、詐欺、横領など、財産を侵害する犯罪)の被害総額は約1,267億円にのぼり、そのうち現金被害額は約870億円とされています(警察庁「令和2年の刑法犯に関する統計資料」(2021年8月))。また、2020年における振り込め詐欺等の特殊詐欺被害額は約285.2億円にものぼり、今もなお1日8,000万円近くの被害が発生し続けています。これらは、あくまで警察が認知した事件を集計したものであり、被害に遭ったことを誰にも言えずにいる被害者や、被害に遭ったことに気付いてすらいない高齢被害者などもいますので、実際の被害総額はさらに大きなものになると考えられます。

特殊詐欺の被害額の推移(出典:警察庁「令和2年における特殊詐欺認知・検挙状況等について」)

特殊詐欺の被害額の推移(出典:警察庁「令和2年における特殊詐欺認知・検挙状況等について」)

 また、違法薬物取引について見てみると2019年に押収された覚せい剤は2,293kg(末端価格1g=6万円換算で1,375.8億円相当)、同じく2020年は437kg(同じく262.2億円相当)となっています(警察庁「令和2年における組織犯罪の情勢」(2021年4月))。これはあくまで「捜査機関が検挙し、押収した量」であり、実際の流通量・販売量は、この何倍・何十倍にもなるものと考えられます。

 さらに、指定暴力団の構成員は2020年末時点で1万3,300人(準構成員をあわせると2万5,900人)とされていますが、構成員は日々資金獲得活動に奔走し、そこで得られた犯罪収益を「上納金」として上位者や上部組織に納付しています。2015年、ある指定暴力団の組長が脱税の容疑で逮捕されましたが、この事件では、2010~2014年の間、上納金で得た無申告の所得が約8億円あったと認定されています。もちろん、これは氷山の一角にすぎません。

 犯罪者や犯罪組織が、このようにして獲得している犯罪収益は、そのままの状態で保管したり、送金したり、支払に充ててしまうと、資金の流れから犯罪行為が捜査機関に発覚してしまい、自身が検挙されたり、犯罪収益が没収されてしまうおそれがあります。しかし、人目のつかないところにただ隠しているだけでは、せっかく稼いだ犯罪収益を使うことができず、これでは逮捕されるリスクを冒してまで犯罪を完遂した意味がありません。つまり、犯罪者や犯罪組織は、獲得した犯罪収益を、「見つからないようにしつつ、使えるようにする」必要があり、それを実現することによって、ようやく「荒稼ぎした金を自由に使う」という犯罪の目的を達成することができるのです。

 そこで、犯罪者や犯罪組織が行うのがマネロンです。たとえば、その犯罪収益が自分とは無関係であるかのように装うため、他人名義の預金口座を入手して、そこに詐取金などの犯罪収益を入金させ、他人に引き出させ、さらに他の口座に通常の取引を装って入金するような場合が典型です。さらに、海外の金融機関との送金取引を組み合せたり、自分の名前が出てこないペーパー・カンパニーの名義を使ったりすれば、その資金が誰のものであるのかは、さらにわかりにくくなるでしょう。

 預金や為替だけではありません。複雑な金融商品や暗号資産を購入して、それを口座間で受け渡してもよいかもしれません。不動産や高価な貴金属の購入・賃借を咬ませるようなスキームも考えられそうですし、そのスキームを構築するために、金融、税務そして法律の専門家の助力を得ることも、十分検討の価値がありそうです。先に紹介した暴力団組長は、下部組織から納付される上納金を、幹部の親族名義の口座で管理させる方法でマネロンしていました。

 このように、日本においても、日々莫大な犯罪収益が生まれており、その犯罪収益は、その大半が闇の世界に溶けていき、見えなくなっています。百億円単位の特殊詐欺の詐取金や、千億円単位の違法薬物の売上金は、誰の目にも触れることがありません。暴力団の構成員が上部組織に毎月納めている莫大な額の上納金も、上述した検挙事例を除けば、それがいったいどこにどう保管されているのか、わからないままです。

 それは、要するに、日本の犯罪組織が、自分たちの犯罪収益を、安全にマネロンする手法・手段をきちんと確保しており、それが機能している、ということを意味します。そして、そのようなマネロンは、金融機関や、犯罪収益移転防止法上の特定事業者が提供しているサービスを用いることで、日々、行われているものと見られます。現金のまま隠匿し、輸送するという原始的なマネロン手法も実行されているとは思いますが、現金のままで行えるマネロンの額や手法には自ずと限界があり、用紙1枚、クリック1つで、国境も超えて資金を移動できる金融サービスが、まったく利用されていないとは思えません。

 このようなマネロン行為は、それ自体が犯罪とされています。日本では、たとえば、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組犯法」といいます)10条1項が、「犯罪収益等の取得もしくは処分につき事実を仮装し、または犯罪収益等を隠匿したものは、5年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する」などと規定しています(犯罪収益等隠匿罪)。つまり、たとえば、特殊詐欺を行って、その犯罪収益を隠匿(マネロン)すると、詐欺罪(刑法246条1項)に加えて、犯罪収益等隠匿罪(組犯法10条1項)も成立することになります。この犯罪収益等隠匿罪等のマネロン犯罪は、金融機関の店舗やATM、そしてネットバンキング等のオンラインサービスを「現場」として、つまり金融機関等の職員の目の前で、行われていることになります。

 この世にマネロンの手段がある限り、犯罪組織は犯罪を止めようとはしないでしょう。言い換えれば、犯罪組織からマネロンの手段を奪ってしまえば、犯罪組織が犯罪を行い、犯罪収益を得ようとする動機を大きく削ぐことができます。

 このように、犯罪者や犯罪組織によるマネロン行為を未然に予防し、マネロンが行われたらこれを凍結・没収し、犯罪被害者の手に取り戻していく、そして、組織犯罪の費用対効果が悪化させ、組織犯罪を減らし、なくしていく、そのために国や民間事業者が一体となって様々な取り組みを行なっていく、これがマネロン対策です。

テロ資金供与とは

 テロ資金供与とは、テロ行為の実行資金やテロ組織の活動資金等のために、資金等を調達・移動・保管・使用することを言います。

 2001年9月11日、米国同時多発テロが発生しました。米国の捜査機関や諜報機関が捜査を進め、その過程で、テロを実行したテロリストが支援者から巨額の資金供与を受けていたことが明らかになりました。そして、テロリストが資金供与を受ける過程では、マネロンと同様、資金の出所や真の所有者がわからないよう、複雑な資金移動が行われていることも明らかとなりました。

 現代社会において、テロを実行するには巨額の資金が必要と考えられます。したがって、テロを未然に防止するためには、テロリストそのものを摘発するだけではなく、テロリストに対して資金を提供する行為そのものを、マネロンと同様の手法で規制し、抑止していくことが必要です。テロ資金供与行為を規制することでテロを未然に防止し、テロリストの活動を抑止すること、またそのために国や民間事業者が一体となって様々な取り組みを行なっていくこと、これがテロ資金供与対策です。

マネロンとテロ資金供与の関係

 マネロンは過去に行われた犯罪の収益を洗浄する行為であるのに対し、テロ資金供与は将来行われる犯罪(テロ)のために資金を提供する行為であって、両者は本質的には異なる行為類型です。実際、国際的なマネロン対策の必要性が認識されるようになったのは1980年代であったのに対し、テロ資金供与対策の必要性が認識されるようになったのは2001年の米国同時多発テロ以降のことです。しかし、両者は、資金の出所や真の所有者がわからないよう、複雑な資金移動を行うという行為やその手口は共通する面があり、したがってその対策も共通する面があることから、2001年以降、両者一括した対策が取られるようになっています。

マネロンとテロ資金供与の関係

 次稿では、以上を踏まえて、FATFと審査報告書の意義について解説します。

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