金融活動作業部会(FATF)による第4次対日相互審査結果で押さえるべき8つのキーワード

ファイナンス
大野 徹也弁護士 プロアクト法律事務所

 2021年8月30日に、日本におけるマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策の状況について審査した「第4次対日相互審査報告書」が、金融活動作業部会(FATF)から公表されていますが、読み解くうえで押さえておくべきポイントについて教えてください。

 FATFによる「第4次対日相互審査報告書」の内容を検討するうえでは、注目すべきいくつかのキーワードがあげられます。今後、日本においては、これらのキーワードを中心に対策が講じられていくことになるものと考えられます。本稿では8つのキーワードに焦点を当てて解説します。

解説

目次

  1. 審査報告書のキーワード
    1. 「その他の金融機関(大規模銀行以外の金融機関)」
    2. 「DNFBPs(Designated Non-Financial Businesses and Professions:特定非金融業者および職業専門家)」
    3. 「実質的支配者(Ultimate Beneficial Ownership:UBO)」
    4. 「疑わしい取引の届出(Suspicious Transaction Report:STR)」
    5. 「NPO法人」
    6. 「制裁」
    7. 「期限」
    8. 「暗号資産交換業者(Virtual Asset Service Provider:VASP)」
  2. まとめ

 前稿では、金融活動作業部会(Financial Action Task Force:FATF)による第4次対日相互審査の結果の概要について解説しました。本稿では審査報告書に現れているキーワードについて見ていきたいと思います。

FATF第4次対日相互審査報告書の内容と金融機関等の対応

1記事目:「マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与の現状と手口
2記事目:「金融活動作業部会(FATF)と相互審査の枠組みおよび審査結果が与える影響
3記事目:「金融活動作業部会(FATF)による第4次対日相互審査結果の概要
4記事目:「金融活動作業部会(FATF)による第4次対日相互審査結果で押さえるべき8つのキーワード」(本稿)

審査報告書のキーワード

 審査報告書の定量的な審査結果は前稿で解説したとおりですが、さらに、その内容を検討していくと、いくつかのキーワードが浮かび上がってきます。
 今後、日本においては、これらのキーワードを中心に対策が講じられていくことになるものと考えられます(引用元は、いずれも財務省「対日相互審査報告書の概要(仮訳・未定稿)」です)。
 以下、民間事業者に関連がある項目を中心に、主なキーワードをピックアップします。

「その他の金融機関(大規模銀行以外の金融機関)」

 大規模銀行以外の「その他の金融機関」について、以下のとおり、リスクや義務の理解が不十分であり、リスク低減措置を講じていない、と指摘されています。ここ数年、日本では、特に中小・地域金融機関のマネー・ローンダリング(以下「マネロン」といいます)・テロ資金供与対策の立ち遅れが指摘されてきたところですが、まさにこの点が正面から指摘された形となっています。
 なお、審査報告書にいう「金融機関」(Financial institutions)には、銀行等の預金取扱金融機関だけではなく、貸金業、リース業、資金移動業、信販業、金融商品取引業、保険業、両替業なども幅広く含まれていますので 1、これら業者にも同じ指摘が当てはまることに注意が必要です。

◯(par.1b)その他の金融機関においては、自らのマネロン・テロ資金供与リスクの理解が限定的である。

◯(par.23)その他の金融機関はリスクに基づいた低減措置を適用していない。これらの金融機関は、継続的顧客管理、取引モニタリング、実質的支配者の確認・検証等の、最近導入・変更された義務について、十分な理解を有していない。これらの金融機関は、AML/CFTの枠組みや取組を強化する必要があるとの一般的な認識は有しているが、新たな義務を履行するための明確な期限は設定していない。

「DNFBPs(Designated Non-Financial Businesses and Professions:特定非金融業者および職業専門家)」

 マネロン・テロ資金供与対策が求められるのは金融機関だけではありません。犯罪収益移転防止法が金融機関以外の一定の事業者を「特定事業者」として同法の規制下に置いている点からもわかるとおり、FATFは、一定の非金融機関や職業専門家(DNFBPs)についても、マネロン・テロ資金供与対策が講じられるよう、求めています。
 しかし、審査報告書は、日本のDNFBPsのマネロン・テロ資金供与対策に関する理解が不十分であり、その監督当局も十分な監督を実施していないとしています。

◯(par.1b)指定非金融業者及び職業専門家(以下、DNFBPs)は、マネロン・テロ資金供与リスクやAML/CFTに係る義務について低いレベルの理解しか有していない。…全てのDNFBPsが、疑わしい取引の届出義務の対象になっているわけではない。

◯(par.1c)DNFBPsの監督当局は、マネロン・テロ資金供与リスクの理解が限定的であり、リスクベースによるAML/CFTに係る監督を実施していない。

◯(par.4)一部のDNFBPsに疑わしい取引の届出義務が課されていないことを含め、DNFBPsが講じる特定の予防的措置には不備がある。

◯(par.26)全てのDNFBPsが、実質的支配者の概念に関する明確な理解があるわけではない。

「実質的支配者(Ultimate Beneficial Ownership:UBO)」

 金融機関等の特定事業者は、マネロン・テロ資金供与対策の一環として、取引時確認に際し、法人顧客の実質的支配者を確認する義務を負っています(犯罪収益移転防止法4条1項4号)。
 日本では、実質的支配者の確認は、「信頼に足る証跡を求めてこれを行うこと」とされていますが(金融庁「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」Ⅱ-2(3)ⅱ【対応が求められる事項】③)、そこで得られる証跡が、常に正確な実質的支配者を示しているとは限らない面があります。また、法執行機関(捜査機関等)が、その実質的支配者情報を把握するための制度というものも存在していません。
 そこで、審査報告書では、これらの制度の課題が指摘されています。

◯(par.1d)法人について、正確かつ最新の実質的支配者情報はまだ一様に得られていない。…法執行機関は、より複雑な法的構造を有する実質的支配者情報を備えるために必要な手段を有していない…。

◯(Par.38)日本は、金融機関、暗号資産交換業者、及び大半のDNFBPsに実質的支配者情報の収集と検証を求め、公証人が新しく設立される会社の実質的支配者情報をチェックするようにする等、実質的支配者情報を確実に利用可能にするためにいくつかの重要な措置を講じている。しかし、これらの措置はまだ完全には実施されておらず、金融機関、暗号資産交換業者、DNFBPsによる監督や予防的措置の適用に不備があるため(上記の「監督」及び「予防的措置」を参照)、全ての事案で適切かつ正確な実質的支配者情報が利用できるわけではない。

「疑わしい取引の届出(Suspicious Transaction Report:STR)」

 金融機関等の特定事業者は、疑わしい取引の届出義務を負っています(犯罪収益移転防止法8条)。日本の届出件数は年間40万件程度とされており 2、年々増加傾向にありますが、審査報告書では、その報告内容について、以下の指摘がなされています。

◯(par.1b)全体的にみて、疑わしい取引の届出は、基本的な類型や疑わしい取引の参考事例を参照して提出されている傾向がある。

◯(par.4)一部のDNFBPsに疑わしい取引の届出義務が課されていない。

「NPO法人」

 FATFは、NPO法人のテロ資金供与リスクを注視しており、新「40の勧告」の勧告8「非営利団体(NPO)の悪用防止」において、以下のとおり求めています。

各国は、テロリズムに対する資金供与のために悪用され得る団体に関する法律・規則が十分か否かを見直すべきである。非営利団体は特に無防備であり、各国は、これらが以下の形で悪用されないことを確保すべきである。

(a)合法的な団体を装うテロリスト団体による悪用

(b)合法的な団体を、資産凍結措置の回避目的を含め、テロ資金供与のためのパイプとして用いること、及び

(c)合法目的の資金のテロリスト団体に対する秘かな横流しを、秘匿・隠蔽するために用いること。

 日本社会において、このようなリスクを体感する機会は少なく、FATFや国際社会の懸念を肌感覚で感じることが難しい部分ではあるのですが、審査報告書では、この点を厳しく指摘しています。「金融活動作業部会(FATF)による第4次対日相互審査結果の概要」3の表を見るとわかるとおり、新「40の勧告」に基づく法令整備状況審査で、この勧告8は唯一のD評価(NC)を受けています。

◯(par.1i)日本は、リスクのある非営利団体(以下、NPO等)についての理解が十分ではなく、そのため、NPO等のテロ資金供与対策のための予防的措置を強化するために、当局がターゲットを絞ったアウトリーチを行うことができない。このため、日本のNPO等は、知らず知らずのうちに、テロ資金供与の活動に巻き込まれる危険性がある。

「制裁」

 審査報告書は、金融庁等の監督当局が、行政処分等の制裁措置を十分に活用していないと指摘しています。

◯(par.33)金融庁を含む金融監督当局は、銀行を含む金融機関に対する効果的かつ抑止的な一連の制裁措置を活用していない。

「期限」

 審査報告書は、日本政府の対応や、金融機関等の対策に「期限が設定されていない」という点を強調しています。金融庁は、審査報告書採択前の2021年4月28日、金融関連の各業界団体に対して「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に係る態勢整備の期限設定について」を通知し、2024年3月末までに金融庁のマネロン・テロ資金供与ガイドラインへの対応を完了するよう要請したり、別稿で説明する政府の「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画」においても、具体的な期限が設定されていますが、それはこれら指摘を踏まえてのものと見られます。

◯(par.1b)このような金融機関(筆者注:大規模銀行以外の金融機関)は、最近導入・変更されたAML/CFTに係る義務について十分な理解を有しておらず、これらの新しい義務を履行するための明確な期限を設定していない。

◯(par.32)、金融監督当局が課しているAML/CFTに係る義務について、金融機関が速やかにかつ完全に遵守するための明確かつ規範的な対応完了期限が示されていない。

「暗号資産交換業者(Virtual Asset Service Provider:VASP)」

 我が国における暗号資産交換業者への規制は、世界的に見ても先進的とされています。審査報告書でも、一定の不備の指摘はなされているものの、全体としてこれまでの取組みが前向きに評価されているように見受けられます。

◯(par.1b)暗号資産交換業者は、暗号資産取引に関連する犯罪リスクについて一般的な知識を有し、基本的なAML/CFTに係る義務を実施している。疑わしい取引の届出の総件数(年ベース)は増加傾向にあるところ、疑わしい取引の届出の大部分は金融分野からのものであり、暗号資産交換業者の届出の実績も良い。

◯(par.1c)日本は、暗号資産交換業者セクターに対し、対象を絞り適時な法令及び監督対応を実施した。不備の認められる暗号資産交換業者に対して迅速かつ強固な対応を行ってきたことは認められるものの、マネロン・テロ資金供与リスクに基づく監督上の措置は改善する必要がある。

まとめ

 以上、審査報告書の指摘事項について、8つのキーワードから見ていきました。各指摘事項の具体的な内容と、金融機関実務への影響については次々稿以降で詳しく解説していきます。
 次稿では、審査報告書の内容を踏まえた日本政府の対応について解説します。


  1. FATF「新40の勧告(The FATF Recommendations)」(2012年2月、2021年6月最終更新)P122参照 ↩︎

  2. 警察庁「犯罪収益移転防止に関する年次報告書 令和2年」 ↩︎

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