大株主からの相対取得とTOB規制
ファイナンス当社以外のある上場会社の大株主が所有する株式を相対取引またはToSTNeT取引(東京証券取引所の立会外取引)で取得(以下「相対取得等」といいます)したいと考えていますが、公開買付け(以下「TOB」といいます)が必要となり、相対取得等ができなくなるのは、どのような場合ですか。
取得前後の株券等所有割合等によって、相対取得等ができるか否かが変わります。具体的には、以下のとおりです。
- 相対取得等をした場合の株券等所有割合が5%を超えない場合
相対取得等をすることが可能です。 - 相対取得等をした場合の株券等所有割合が5%超で3分の1を超えない場合
ToSTNeT取引による取得の場合は、可能です。
相対取引の場合も、61日間に10人以内からの取得であれば、可能です。 - 急速買付けに該当する場合
急速買付けに該当する場合は、相対取得等により取得することはできません。 - 相対取得等をした場合の株券等所有割合が3分の1を超える場合
下記5により相対取得等が可能である場合を除き、相対取得等をすることはできません。 - 相対取得等の前の株券等所有割合が50%超の者が取得する場合で、相対取得等をした場合の株券等所有割合が3分の2未満である場合
61日間に10人以内からの取得であれば、相対取得等をすることが可能です。 - 相対取得等をした場合の株券等所有割合が3分の2以上である場合
相対取得等により取得することはできません。
解説
目次
相対取得等と公開買付け規制
公開買付け規制は、基本的に、相対取得等をした場合の株券等所有割合が5%を超える場合、3分1を超える場合に適用があります。また、すでに50%を超える株券等所有割合を有する者が、3分の2未満まで株式を取得する場合にはTOBを強制されないという例外があります。したがって、まず、5%、3分の1、50%、3分の2というラインを意識する必要があります。
そのうえで、それぞれについて、著しく少数の者から取得する場合が例外とされていたり、ToSTNeT取引については許容されていたり、急速買付けといわれる取引が禁止されていたりなどの例外的な定めがありますので、これらに留意する必要があります。
以下、具体的に見てみましょう。
相対取得等をした場合の株券等所有割合が5%を超えない場合
公開買付け規制では、最初のラインとして株券等所有割合が5%となるラインが設定されています(金融商品取引法27条の2第1項1号)。この数値は、それを超えない場合は会社支配権に影響を及ぼさないと考えられることから設定されています。そのため、相対取得等をした場合の株券等所有割合が5%を超えない場合は、公開買付け規制は適用されず、相対取得等をすることが可能です。
相対取得等をした場合の株券等所有割合が5%超で3分の1を超えない場合(注:元から5%超である場合を含む)
相対取得等をした場合の株券等所有割合が5%超で3分の1を超えない場合、その取得が相対取得か、ToSTNeT取引かで結論が変わります。
まず、相対取引の場合、当該取得が著しく少数の者からの取得、具体的には61日間に10人以内からの取得であれば、TOBを行う必要はなく、相対取引が可能であり(金融商品取引法施行令6条の2第3項、1項4号)、10人を超える場合には、TOBが必要になります(金融商品取引法27条の2第1項第1号)。
これに対して、ToSTNeT取による取得引の場合は、公開買付け規制は適用されず、TOBを行う必要はありません。
したがって、10人以下の少数の大株主から取得する場合には、相対取得でもToSTNeT取引でも取得をすることが可能です。他方で、61日間の間に10人を超える創業者一族や関係者などから取得をするような場合には、相対取得による取得はできず、ToSTNeT取引により取得する必要があります。もっとも、あらかじめ合意をしたうえでToSTNeT取引により多数の株主から取得することも禁止されるとする見解もありますので、注意が必要です。
なお、上記は、相対取得等によって5%のラインをまたぐ場合に限りませんので、相対取得等の前から5%超の株式を所有している場合も同様です。
急速買付けに該当する場合
相対取得等によって、株券等所有割合が3分の1を超えない場合でも、以下の要件に当てはまる買付けは「急速買付け」として、TOBを行う必要があります(金融商品取引法27条の2第1項4号、6号、同施行令7条2項、3項、4項、7項2号)。
- 3か月以内に、株券等の買付け等または新規発行取得により全体として10%を超える株券等の取得を行い、
- 当該全体の取得のなかに、5%を超える相対取引またはToSTNeT取引等による取得が含まれており、
- 当該全体の取得の後における株券等所有割合が3分の1を超えること
したがって、上記3に該当する場合でTOBを行う必要がない場合であっても、相対取得等によって5%を超える取得をし、また、市場内での取得や新株発行と組み合わせて、3か月以内に、10%を超える株券等の取得を行うことになる場合には、TOBが必要になり、そのような相対取得等はできないことになります。
急速買付けの規制イメージ
相対取得等をした場合の株券等所有割合が3分の1を超える場合(注:元から3分の1超である場合を含む)
公開買付け規制においては、5%の次のラインとして、株券等所有割合が3分の1超となるラインが設定されています(金融商品取引法27条の2第1項2号)。3分の1という数値はこれを超えると特別決議について拒否権を有することになり、会社支配権に影響を及ぼすこと等から設定されています。相対取得等をした場合の株券等所有割合が3分の1を超える場合、下記6により相対取得等が可能である場合を除き、TOBが必要となり、相対取得等をすることはできません。
なお、これは、相対取得等によって3分の1のラインをまたぐ場合に限りませんので、相対取得等の前から株券等所有割合が3分の1を超える者が相対取得等をするためには、下記6によりTOBが不要になる必要があります。
相対取得等の前の株券等所有割合が50%超の者が取得する場合で、相対取得等をした場合の株券等所有割合が3分の2未満である場合
上記5については例外が設けられており、相対取得等の前の株券等所有割合が50%超の者が取得する場合で、相対取得等をした場合の株券等所有割合が3分の2未満であり、当該取得が61日間に10人以内からの取得であれば、TOBを行う必要はなく、相対取引等を行うことが可能とされています(金融商品取引法施行令6条の2第1項4号)。
これは、50%超を保有する者は、元から会社の支配権を有しているので3分の2未満までの取得であれば、新たに支配権に変動を与えるものではないため、公開買付規制の例外とするものです。他方で、3分の2以上となる場合は、特別決議を可決できるようになり、会社の支配権に変動を与えることになるため、例外には当たらず、原則どおり公開買付けが必要になります。
したがって、すでに親会社である株主が、10人以下の他の大株主からの相対取得等をするような場合で、取得後の株券等所有割合が3分の2未満である場合は、TOBを行う必要はなく、相対取得等が可能です。
相対取得等をした場合の株券等所有割合が3分の2以上である場合
相対取得した場合の株券等所有割合が3分の2以上である場合、上記 6の例外に当たらないため、上記5と同様に、TOBが必要になり、相対取得等を行うことはできません。
留意事項
本稿では、公開買付け規制の関係から大株主から相対取得等による株式取得ができなくなる場合について、株券等所有割合に応じて、その概要を解説しました。その他、株券等所有割合の計算方法、取得しようとする者と株券等所有割合を合算される特別関係者の範囲、譲渡人である著しく少数の者の数え方などについても、法令上、詳細な定めが設けられています。実際に、上記のようなラインを超えて取得するような場合には、専門家に具体的な事情を説明のうえ、確認を求めることが確実であると言えます。

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