金融活動作業部会(FATF)による第4次対日相互審査結果の概要

ファイナンス
大野 徹也弁護士 プロアクト法律事務所

 2021年8月30日に、日本におけるマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策の状況について審査した「第4次対日相互審査報告書」が、金融活動作業部会(FATF)から公表されていますが、具体的な審査結果や総合評価について教えてください。

 FATFによる対日相互審査では、2012年2月に策定された新「40の勧告」に照らした「法令整備状況」の審査と、マネロン・テロ資金供与対策が有効に機能しているかどうかを11項目で審査する「有効性」の審査に基づいて総合的に評価が下されます。

 第4次対日相互審査により、日本は「強化(重点)フォローアップ国」となり、今後、5年後のフォローアップ報告までの間に、3回程度の改善報告を行う必要があります。

解説

目次

  1. FATF第4次対日相互審査の実施スケジュール
  2. 第4次対日相互審査報告書の国内での公開状況
  3. 第4次対日相互審査結果① - 法令整備状況
  4. 第4次対日相互審査結果② - 有効性
  5. 第4次対日相互審査結果③ - 総合評価
  6. 他国の審査結果

 前稿では、金融活動作業部会(Financial Action Task Force:FATF)とFATF相互審査結果の意義や枠組みについて説明しました。本稿では、第4次対日相互審査の結果について、解説します。

FATF第4次対日相互審査報告書の内容と金融機関等の対応

1記事目:「マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与の現状と手口
2記事目:「金融活動作業部会(FATF)と相互審査の枠組みおよび審査結果が与える影響
3記事目:「金融活動作業部会(FATF)による第4次対日相互審査結果の概要」(本稿)

FATF第4次対日相互審査の実施スケジュール

 2019年、FATFによる、日本に対する4回目の相互審査が実施されました。2019年7月から10月にかけて、日本政府がFATFに事前に提出していた「自己申告書」に関する質疑応答が実施された後、10月下旬から11月中旬にオンサイト審査(審査団による現地調査)が実施されました。オンサイト審査ではFATF審査団が実際に来日し、1週目は関係当局との面談、2週目は金融機関等との面談、3週目は講評等が行われています。
 日本政府がFATFに提出した「自己申告書」や、オンサイト審査の具体的な内容は公表されておらず、オンサイト審査2週目の金融機関等との面談についても、どの金融機関が面談対象とされたのか、明らかにされていません。オンサイト審査では、面談でのやりとりがそのまま審査報告書に反映され、わが国そのものに対する評価につながってしまうとされていますので、FATFから面談対象として選定され、実際に対応した金融機関やその担当者の方々は、想像を絶するような緊張の日々を送られたのではないかと推察します。

 その後、審査結果は2020年6月に予定されていたFATF全体会合(FATF Plenary)で採択され、同年8月に公表される予定でした。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で全体会合が延期されることとなり、2021年6月21日から25日にかけて開催されたFATF全体会合で採択され、同年8月30日にようやく公表の運びとなりました。

第4次対日相互審査報告書の国内での公開状況

 FATF「第4次対日相互審査報告書」は、その全文がFATFのウェブサイトで公開されています(FATFのウェブサイト上では、「概要 1」も公開されていますが、これは、全文のP3~14を抜き出したものです)。
 審査報告書は全文英文で、289頁とかなりの大部となっています。しかし、審査報告書冒頭の「Executive Summary」(概要)については、財務省が日本語仮訳を作成・公表しており、また、これとは別に、金融庁が本文の一部について日本語仮訳を作成・公表しています。本稿執筆時点で、政府による仮訳が作成・公表されている範囲は、以下のとおりです。

仮訳作成省庁 仮訳名称 対象原文部分(頁)
par.:パラグラフ№
財務省 対日相互審査報告書の概要(仮訳・未定稿) ◯「Executive Summary」(P3~14)
金融庁 FATF第4次対日審査結果報告書(IO.3該当箇所)2021年8月 ◯「Executive Summary」(P3~14)のpar.1C、
28~35、41fの部分
◯「Chapter.6,SUPERVISION」(P137~154)から「DNFBPs」の各項とBoxを除いた部分
FATF第4次対日審査結果報告書(IO.4該当箇所)2021年8月 ◯「Executive Summary」(P3~14)のpar.1b、
23~27、41aの部分
◯「Chapter.5,PREVENTIVE MEASURES」(P119~136)から「DNFBPs」の各項と表を除いた部分

 財務省が仮訳を作成・公表している「Executive Summary」(概要)は、その名のとおり審査報告書の「概要」がまとめられたものですので、この仮訳を読むことで、審査報告書の全体像を把握することができます。金融庁の仮訳範囲が複雑になっているのは、仮訳の範囲を金融庁所管領域に限ろうとしたことによるものと見られます 2 が、いずれにせよ、有効性審査のうち金融機関に関係する部分は概ね金融庁の仮訳範囲に含まれていますので、金融機関の方は最初は金融庁の仮訳を読むとよいでしょう。
 政府による全文仮訳の早期作成・公表が強く期待されるところです。

第4次対日相互審査結果① - 法令整備状況

 まず、法令整備状況(Technical Compliance:TC)の審査、すなわち、新「40の勧告」3 の各項目に沿った法令が整備されているかどうかを項目ごとに以下の4段階で評価(A、Bは合格水準、C、Dは不合格水準)する審査結果は、以下のとおりでした。
 一覧表の「R.1」「R.2」…は、新「40の勧告」の項目番号に対応しています。

法令整備状況
/ 新「40の勧告」の40項目
A:Compliant(C)
B:Largely Compliant(LC)
4個
24個
C:Partially Compliant(PC)
D:Non Compliant(NC)
N/A(該当なし)
10個
1個
1個


No 内容 結果 No 内容 結果
R1 リスク評価とリスクベース・アプローチ B (LC) R21 届出者の保護義務 A (C)
R2 国内関係当局間の協力 C (PC) R22 DNFBPにおける顧客管理 C (PC)
R3 資金洗浄の犯罪化 B (LC) R23 DNFBPによる疑わしい取引の報告義務 C (PC)
R4 犯罪収益の没収・保全措置 B (LC) R24 法人の実質的所有者 C (PC)
R5 テロ資金供与の犯罪化 C (PC) R25 法的取極の実質的所有者 C (PC)
R6 テロリストの資産凍結 C (PC) R26 金融機関に対する監督義務 B (LC)
R7 大量破壊兵器の拡散に関与する者への金融制裁 C (PC) R27 監督当局の権限の確保 B (LC)
R8 非営利団体(NPO)の悪用防止 D (NC) R28 DNFBPに対する監督義務 C (PC)
R9 金融機関の守秘義務 A (C) R29 FIUの設置義務 A (C)
R10 顧客管理 B (LC) R30 マネロン・テロ資金供与の捜査 A (C)
R11 本人確認・取引記録の保存義務 B (LC) R31 捜査関係等資料の入手義務 B (LC)
R12 PEPs(重要な公的地位を有する者) C (PC) R32 キャッシュ・クーリエ(資金運搬者)への対応 B (LC)
R13 コルレス契約 B (LC) R33 包括的統計の整備 B (LC)
R14 代替的送金サービス B (LC) R34 ガイドラインの策定義務 B (LC)
R15 新技術の悪用防止 B (LC) R35 義務の不履行に対する制裁措置 B (LC)
R16 電信送金(送金人情報の付記義務) B (LC) R36 国連諸文書の批准 B (LC)
R17 顧客管理措置の第三者依存 N/A R37 法律上の相互援助、国際協力 B (LC)
R18 金融機関における内部管理規定の整備義務、海外支店・現法への勧告の適用 B (LC) R38 外国からの要請による資産凍結等 B (LC)
R19 勧告履行に問題がある国・地域への対応 B (LC) R39 犯人引渡 B (LC)
R20 金融機関における資金洗浄、テロ資金供与に関する疑わしい取引の届出 B (LC) R40 国際協力(外国当局との情報交換) B (LC)

第4次対日相互審査結果② - 有効性

 次に、有効性(Effectiveness)の審査、すなわち、メソドロジーが定める11項目の短期的目標(Immediate Outcomes: IO)4 の各項目に沿って、マネロン・テロ資金供与対策の有効性を、項目ごとに以下の4段階で評価(A、Bは合格水準、C、Dは不合格水準)する審査結果は、以下のとおりでした。

有効性/ IOの11項目 A:High Level of Effectiveness(HE)
B:Substantial Level of Effectiveness(SE)
0個
3個
C:Moderate Level of Effectiveness(ME)
D:Low Level of Effectiveness(LE)
8個
0個


No 内容 結果
IO.1 マネロン・テロ資金供与リスクの認識・協調 B (SE)
IO.2 国際協力 B (SE)
IO.3 金融機関・DNFBPの監督 C (ME)
IO.4 金融機関・DNFBPの予防措置 C (ME)
IO.5 法人等の悪用防止 C (ME)
IO.6 特定金融情報等の活用 B (SE)
IO.7 マネロンの捜査・訴追・制裁 C (ME)
IO.8 犯罪収益の没収 C (ME)
IO.9 テロ資金の捜査・訴追・制裁 C (ME)
IO.10 テロ資金の凍結・NPO C (ME)
IO.11 大量破壊兵器に関与する者への金融制裁 C (ME)

第4次対日相互審査結果③ - 総合評価

 3、4の結果を前稿で紹介した以下の基準に当てはめると、日本は「強化(重点)フォローアップ国」となります。したがって、今後日本は、5年後のフォローアップ報告までの間に、3回程度の改善報告を行う必要があるということになります。改善報告を行うのは日本国政府となりますが、その改善対象は当然のことながら金融機関等の業務にも及ぶこととなります。

強化(重点)フォローアップ国 該当性基準
  • 法令整備状況でCまたはDが8個以上 →該当(11個)
  • 法令整備状況で新「40の勧告」R3,5,10,11,20のいずれか1個でもCまたはD  →該当(R5がC)
  • 有効性でCまたはDが7個以上 →該当(8個)
  • 有効性がDで4個以上 →非該当(0個)
     →1つでも該当すると「強化(重点)フォローアップ国」

 強化(重点)フォローアップ国とされるのは、日本を含め、19か国となりました(対日相互審査報告書公表日時点)。

通常フォローアップ国:8か国・地域 スペイン、イタリア、ポルトガル、イスラエル、英国、ギリシャ、香港、ロシア
強化(重点)フォローアップ国:19か国 ノルウェー、オーストラリア、ベルギー、マレーシア、オーストラリア、カナダ、シンガポール、スイス、米国、スウェーデン、デンマーク、アイルランド、メキシコ、サウジアラビア、中国、フィンランド、韓国、ニュージーランド、日本
監視対象国:2か国 アイスランド、トルコ

他国の審査結果

 なお、FATFやFATF型地域体(FSRB)による各国の相互審査結果は、FATFのウェブサイト 5 に一覧表形式(ExcelとPDF)で掲載されています。法令整備状況と有効性の各項目の評価も掲載されており、国名部分から報告書にリンクもされています。
 一覧表では、複数の評価結果が掲載されている国がありますが、これは相互審査結果(MER)とフォローアップ審査結果(FUR◯、◯はフォローアップの回数)が示されていることによります。MERとFURを比較することで、相互審査後の改善状況が確認できるようになっています。

 実務上、他国の審査結果を参照することはあまりないと思いますが、対日相互審査の結果をより深く検討・研究する必要がある場合に、たとえば、日本の審査結果で低評価とされた項目について他の国がどのような評価を受けているのかを確認し、もし高評価を受けている国があれば、その国の報告書を確認することで、その国が実際にどのような取り組みをしていたのかを確認する、といった活用が可能です。

FATF「Consolidated assessment ratings」

FATF「Consolidated assessment ratings

 次稿では、対日相互審査報告書の内容について、押さえておくべきキーワードの観点から分析していきます。


  1. 金融活動作業部会(FATF)「Executive-Summary-Mutual-Evaluation-Report-Japan-2021」(2021年8月30日) ↩︎

  2. 金融庁の仮訳は、これに加え、原文との対応関係が示されていないため、原文のどの部分を仮訳したものかが一見してわかりません。原文の一段落ごとに付されているパラグラフ番号を仮訳に記載するなどの工夫を期待したいところです。 ↩︎

  3. 詳細は「金融活動作業部会(FATF)と相互審査の枠組みおよび審査結果が与える影響」を参照ください。 ↩︎

  4. 前掲注3)参照 ↩︎

  5. 金融活動作業部会(FATF)「Consolidated assessment ratings」(2021年10月最終更新) ↩︎

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