ベトナム労働法における解雇制度と過去事例

国際取引・海外進出
盛 一也弁護士 明倫国際法律事務所

 ベトナム労働法における解雇制度について教えてください。

 ベトナム労働法には法定の解雇事由が定められており、日本と同様に解雇の有効性が厳格に判断される傾向があります。近時は、ベトナムの裁判所が労働事例について多くの判断をし、特に解雇の有効無効についての判断が増加しています。そのため、日系企業にとってもこれらの裁判所の判断を参考に解雇の有効性を事前に想定することができます。なお、日本と異なり、試用期間中には、解雇の規制が適用されません。

解説

目次

  1. 法定の解雇事由と過去事例
  2. 解雇が無効だと判断された事例と、その場合の取扱い
  3. 試用期間中における労働契約の強制的な終了

法定の解雇事由と過去事例

 現在、ベトナムでは、2019年労働法および政令No.145/2020/NĐ-CP号等の詳細規定により、解雇に関する内容が規定されています。

 法定の解雇事由は、次の通りとなります(労働法125条)。

  1. 労働者が職場で窃盗・横領・賭博、故意に基づく傷害の惹起・麻薬使用を行う場合
  2. 労働者が、就業規則に規定されている使用者の営業・技術機密の漏洩、知的所有権の侵害行為、使用者の財産・利益に関して重大な損害を惹起する行為、もしくは特別に重大な損害惹起のおそれがある行為、または職場でのセクシャルハラスメントを行う場合
  3. 昇給期間の延長または免職の懲戒処分を受けた労働者が、懲戒処分が解消されない期間内に再犯をする場合(再犯とは、労働者が、労働法126条の規定に従った懲戒処分解消がなされていないのに懲戒処分された違反行為を再度行うことをいいます。労働法126条によれば、引き続き労働規律違反がない場合、処分の日から戒告処分を受けた労働者は3か月後、昇給期間の延長の懲戒処分を受けた労働者は6か月後、免職の懲戒処分を受けた労働者は3年後に、当然に懲戒処分は解消されます)
  4. 労働者が、正当な理由なく、30日間に合計5日、または365日間に合計20日、仕事を放棄した場合。日数は仕事放棄の最初の日から計算されます(正当な理由があるとみなされるのは、自然災害、火災、権限を有する医療機関の確認がある病気および就業規則が規定するその他の場合です)。

 上記のうち、実務上は④による解雇が多いとされています。④の要件のうち、「正当な理由」という要件は規範的なものですが、裁判実務では、この要件を限定的に解釈する傾向にあります。

 たとえば、ビン・ズオン省人民裁判所の2018年11月27日付判決30/2018/LĐ-PT号では、労働者が病気に罹患し、病院がそれを証明する書面を発行していても、会社の就業規則に従った休暇届けを出さずに、出勤しなかった場合には、仕事を放棄したこととして、解雇決定が適法だとみなす旨の判断がなされました。

 また、ホーチミン市人民裁判所の2018年11月30日付判決1158/2018/LĐ-PT号およびビン・ズオン省人民裁判所2019年8月6日付判決06/2019/LĐ-PT号においては、社長が労働者とのメールやり取りの中で、今後の労働契約の終了もしくは解雇に言及した場合であっても、労働者が労働契約の終了や解雇の正当性について交渉・検討を完了していないにもかかわらず休暇届を提出せずに出社しない場合は、正当な理由なく仕事を放棄したとみなされる旨を判断しています。

 他に、使用者から不適法な解雇決定を受けた労働者がただちに出勤しなくなる場合にも、(そもそも適法な解雇決定が存在しないため)解雇決定の取消請求を認めず、仕事の放棄について労働者に責任があるとして、賠償請求が認められない旨の判断がなされたものもあります(ビン・フオック省ドン・フー県人民裁判所の2019年5月17日付判決01/2019/LĐ-ST号)。

 これらの事件につき、(労働者によれば)労働者が出社する際に使用者が雇用する警備員に入館を差し止められた旨の主張がなされていますが、裁判所は、それらの証拠がないものとして、その旨の主張を認めませんでした。他方で、ビン・ズオン省人民裁判所の2018年11月20日付判決29/2018/LĐ-PT号では、労働者に対して今後出社しないように命ずる社長のメールが提出され、その証拠等により、仕事の放棄が認められず、解雇決定が違法だと判断しています。

解雇が無効だと判断された事例と、その場合の取扱い

 無効だと判断された解雇決定の多くは、法定手続(解雇のために労働者と使用者で会議をする必要があるなど)を遵守しなかったことに起因するものです。

 たとえば、ビン・ズオン省人民裁判所の2019年8月21日付判決07/2019/LĐ-PT号では、労働者が会社の財産を横領した証拠があったとしても、適法な手続を経た解雇決定を行うのではなく、単に労働者を解雇する旨の通知をしたにとどまる場合について、解雇を無効と判断しました。

 また、解雇について通知がなく、さらに解雇会議を開かず、または労働者が1回目の会議に欠席しても、労働者の弁明を確認せずに解雇決定を行うことは、労働法に違反すると解されています(ドン・ナイ省人民裁判所の2018年11月05日付判決17/2018/LĐ-PT号、ハノイ市人民裁判所の2018年7月18日付判決13/2018/LĐ-PT号)。

 ただし、使用者による解雇処分のための会議の実施日の通知が、日程が迫った3営業日前であったものの、労働者が会議に出席し、異議を申立てなかった場合、解雇決定が適法と解されています(ホーチミン市人民裁判所の2019年4月22日付判決352/2019/LĐ-PT号)。このように、解雇処分を行うとき、会社側は手続上の規定に特に注意する必要があると考えられます。

 解雇決定が無効と判断された場合について、その後の取扱いは、使用者による解雇以外の違法かつ一方的な労働契約の終了の場合と同様に処理されます。具体的には、使用者は、労働者が締結済みの労働契約に従って再び働くことを受け入れなければなりません。また、使用者は、労働者が働くことができなかった日数の賃金・社会保険・医療保険・失業保険を支払い、労働契約に従った賃金の少なくとも2か月分を労働者に追加で支払わなければなりません。

 一方、労働者は、退職手当・失業手当を受領済みである場合、勤務の再開後に使用者に対してそれら手当を返還する必要があります。締結済みの労働契約の役割・業務が残っていないが労働者が依然として働くことを希望する場合、労働契約を修正・補充するために両当事者は合意をしなければなりません。

 労働者が引き続きの勤務を希望しない場合は、使用者は、上記のように支払わなければならない金銭の他に、労働契約を終了するために労働法46条が規定する退職手当を支払わなければなりません。
 使用者が再び労働者を受け入れることを希望せず、労働者がそれに同意する場合は、労働法46条の規定に従った退職手当の他に、両当事者は、労働契約を終了するために労働者に支払う追加の賠償額を合意する必要があり、それは労働契約に従った賃金の少なくとも2か月分の賠償が必要となります(労働法41条)。

 なお、有効に解雇した後の取扱いは、他の労働契約の終了の場合と同様です。すなわち、原則として、労働契約の終了や解雇決定の日から14営業日以内に、両当事者はそれぞれの当事者の権利利益に関連する事項のすべてを清算する責任を有します。また、使用者は以下の責任を負います。

  1. 社会保険・医療保険・失業保険の費用を納入する期間の確認手続を終了し、また使用者が労働者のその他の書類の原本を保持している場合には返還する
  2. 労働者が要求する場合には、労働者の労働過程に関連する各資料の写しを提供する(資料の写しの作成・送付の費用は使用者が支払う必要があります(労働法48条3項))

試用期間中における労働契約の強制的な終了

 試用期間中の労働契約の強制的終了については、解雇とは別の規制により解決されます。労働法27条2項によれば、いずれの当事者も、事前の通知を要せず、また、損害賠償なく、試用契約もしくは労働契約を終了・取り消すことができるとされているためです。

 ハノイ市人民裁判所の2018年1月12日付判決01/2018/LĐ-PT号は、試用期間中に労働者が勝手に会社のコンピューターシステムを操作し、そのことが会社の規則に違反するとして、解雇された事例です。これに対し、労働者は、解雇決定に異議申立てをし、会社に対する損害賠償を請求しました。裁判所は、本件会社が、試用期間中に解雇をする必要がないことを理由に解雇決定を取り消し、また、試用期間中の労働契約の強制的な終了が認められていることから、解雇の正当性を審査することなく、現在の労働法と同様の内容を有する2012年労働法(旧法)29条2項に基づき、本件会社の主張を認め、労働者の請求を棄却しました。

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