近時の裁判例を踏まえた、偽装請負の判断基準と労働契約申込みみなし制度による直接雇用リスク

人事労務

当社では人件費に制約があり従業員数を増やせない中で、一部業務を外注先に委託していますが、現場からは業務を効率的に処理するために外注先従業員に直接指示をしてよいのかなど、委託業務の進め方について質問されることがあります。業務委託には「偽装請負」のリスクがあると理解していますが、どのような点に注意して対応すればよいでしょうか。

まずは「偽装請負」とは何かを正しく理解することが大切です。そのうえで、適法な「業務委託」と違法な「偽装請負」とを区別する基準を把握し、「偽装請負」とならない形で業務委託を実施することが求められます。発注者が外注先従業員に対し直接業務上の指示をしている場合、「偽装請負」に該当する可能性が大きいと考えられます。

 「偽装請負」は労働者派遣法に違反する行為であり、貴社が外注先従業員に労働契約の申込みをしたとみなされ、直接雇用関係が成立するリスクがある点には特に注意が必要です。

解説

目次

  1. はじめに
  2. 偽装請負とは何か
    1. 業務委託契約
    2. 労働者派遣契約
    3. 偽装請負
  3. 適法な業務委託と違法な偽装請負を区別する基準
    1. 37号告示(行政解釈)
    2. 裁判例上の判断基準
    3. 偽装請負を避けるうえで注意すべきポイント
  4. 労働契約申込みみなし制度と発注者・外注先従業員間の直接雇用リスク
    1. 労働契約申込みみなし制度
    2. 偽装請負等の目的
    3. 偽装請負等の目的の判断方法
    4. 直接雇用リスクを回避するうえで注意すべきポイント
  5. 終わりに

はじめに

 発注者が自社の業務の一部を外注する際、形式上は外注先企業との間で「業務委託(準委任)契約」や「請負契約」を締結していたとしても、外注業務に従事する外注先の従業員に対して発注者が指揮命令をしている場合、実態としては「労働者派遣」に該当します。この場合、その実態に反して労働者派遣法上の種々の法規制は遵守されないことになり、違法な「偽装請負」と評価されることになります。

 そして、昨今の労働者派遣法改正を背景に、偽装請負と認定された場合に発注者と外注先従業員との間に直接の雇用関係の成立を認める高裁判決が登場しました。業務委託契約・請負契約(以下「業務委託契約」といいます)を締結した発注者において、外注先従業員を直接雇用することは通常予定していないと考えられ、偽装請負の問題についてはこれまで以上に注意深い対応が求められます。

 偽装請負が問題となる典型事例としては以下のようなものがあり、様々な業種・場面で問題になっています。

  • 発注者であるメーカーの工場で外注業務に従事している外注先従業員(工場労働者)に対し、発注者が業務上の指揮命令をすることが問題となるケース
  • システム開発において発注者のオフィスに常駐して外注業務に従事している外注先従業員(システム・エンジニア)に対して、発注者が業務上の指揮命令をすることが問題となるケース
  • 建設業・警備業など労働者派遣が禁止されている業種において、業務委託契約が労働者派遣に該当しないよう配慮が求められるケース
  • 外資系企業の日本法人において、日本の労働者派遣法に類似した法制度を有しない本国親会社から偽装請負と評価され得る内容の指示を受けて対応に苦慮するケース など

 本稿では以下、「偽装請負とは何か」を整理したうえで、適法な業務委託契約と違法な偽装請負を区別するための基準について解説し、最後に発注者と外注先従業員との間で直接雇用関係が認められる可能性を生じさせた労働契約申込みみなし制度について説明します。

偽装請負とは何か

 偽装請負とは、形式上は業務委託契約が締結されていても、発注者が外注先従業員に対して指揮命令をしており、実態が「労働者派遣」に該当する場合をいいます。なお、労働者派遣法上、「労働者派遣」は以下のように定義されています(同法2条1号)。

「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」

 実態が「労働者派遣」に該当する場合、本来は労働者派遣法上の種々の規制を遵守する必要があるにもかかわらず、「業務委託」「請負」の名を借りて偽装し、労働者派遣法上の規制を免れていることから「偽装請負」と呼ばれています。

 偽装請負には発注者、外注先、外注先従業員の3者が関係し、やや複雑な面があるため、以下では業務委託契約、労働者派遣契約および偽装請負について、それぞれ3者間の関係を図示しながら説明していきます。

業務委託契約

 業務委託契約においては下図のとおり、外注先従業員に対して指揮命令するのは雇用関係を有する外注先です。外注先は発注者から依頼された業務を会社として受託しているのであり、自社従業員に指揮命令して自らこれを遂行するのが本来の姿です。

※厚生労働省・都道府県労働局「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」を基に作成

労働者派遣契約

 労働者派遣契約においては下図のとおり、派遣労働者と雇用関係を有しているのは派遣元です。この場合、派遣元・派遣先は労働者派遣法で定められた様々な法規制の遵守が求められる一方、派遣先は派遣労働者に対して指揮命令し、自社の業務を遂行させることができます。

※厚生労働省・都道府県労働局「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」を基に作成

偽装請負

 偽装請負においては形式上、3者間の法律関係は業務委託契約の場合と同じです。この場合、発注者は本来、外注先従業員に業務上の指揮命令をすることはできません。にもかかわらず実態として指揮命令している場合、偽装請負と評価されることになります。

※厚生労働省・都道府県労働局「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」を基に作成

適法な業務委託と違法な偽装請負を区別する基準

 では、業務委託契約が締結されている中で、どのような場合に発注者が外注先従業員に対して業務上の指揮命令をし、偽装請負を行ったと評価されるのでしょうか。

37号告示(行政解釈)

 一口に指揮命令と言っても様々な微妙な問題が含まれているのですが、指揮命令関係の有無の判断にあたり参考となる基準として、厚生労働省は「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号、最終改正 平成24年厚生労働省告示第518号。以下「37号告示」といいます)を公表しています 1

 37号告示はやや読みづらい面があるものの、2条で具体的な判断基準を列挙しています。大枠としては、外注先が外注業務の処理に関して、以下に示す同条1号・2号、および各号の中でさらに細分化された各基準のすべてを満たさない限り、形式が業務委託契約とされていても実態は労働者派遣にあたると定められています 2

  1. 自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること
  2. 請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること

 1号で求められているのは、端的にいえば、外注先が業務を受託した以上、発注者ではなく外注先が外注先従業員に対して指揮命令し、外注業務を遂行することです。具体的には1号の下で、業務遂行上の指揮命令、勤怠管理上の指揮命令および職場管理上の指揮命令などに着目した6つの基準が規定されています。

 他方、2号で求められているのは、外注先が業務を受託した以上、外注先が自らの受託業務として、発注者から独立して業務を遂行することです。具体的には2号の下で、業務処理に要する資金の自己調達・自己支弁、業務処理に関する事業主としての法的責任の負担、および(1)資器材の自己調達または(2)自己の専門的技術・経験による業務処理のいずれかの基準を満たし、単に肉体的な労働力を提供するものではないこと、といった基準が設けられています。

 なお、37号告示について厚生労働省はこれまで公表していた2つのQ&A 3 に加え、2021年には3つ目のQ&A 4(以下、「疑義応答集」といいます)を公表しており、これらは37号告示の各基準を読み解いていくうえで大変参考になります。また、3つ目のQ&Aはアジャイル型のシステム開発 5 に特化した内容となっており、システム開発の関係業界において参考になるだけでなく、他業界(特に外注先従業員が自律的に判断して業務を遂行しているケース)においても参照する価値があると考えられます。

 37号告示は偽装請負に関する厚生労働省の行政解釈を示すものであり、労働局や労働基準監督署による調査等において基準とされるものと考えられます。

裁判例上の判断基準

 他方で裁判所も近時、労働契約申込みみなし制度(4-1で後述)による発注者・外注先従業員間の直接雇用の成否が争われた事例において、適法な業務委託と違法な偽装請負を区別する基準に関する判断を相次いで示しています。

 1つの裁判例の流れは、37号告示を参照しつつ、それに沿った判断基準によって適法な業務委託か、違法な偽装請負かを判断していくものです。東リ事件第一審判決 6、同事件控訴審判決 7 およびハンプティ商会ほか1社事件判決 8 がこれに該当します。
 他方、37号告示を参照せずに判断している裁判例もあり、日本貨物検数協会事件第一審判決 9 および同事件控訴審判決 10 は労働者派遣法上の「労働者派遣」の定義(同法2条1号)に基づき、端的に外注先従業員が発注者の指揮命令を受けて発注者の業務に従事していたのか否かをもって偽装請負について判断しています。

 以上のように近時の裁判例の判断は統一されていませんが、いずれの裁判例においても発注者が外注先従業員に対し、外注業務の遂行に関して指揮命令していたか否かが重視されており、この点が重要な判断基準であることは間違いのないところです

 他方、37号告示に列挙されている他の基準の取扱いについて裁判例は一致していないようにも見受けられます。また、37号告示は列挙されている基準の中の1つでも満たさなければ偽装請負と判断されると定めていますが、37号告示を参照する裁判例がそこまで厳格な立場に立っているのかは必ずしも明らかではありません。とはいえ、37号告示は偽装請負に関する行政解釈を示すものであり、労働局による調査等において基準とされるものであることから、37号告示の基準を満たす形で業務委託契約を締結し、運用していくことが望ましいと考えられます 11

偽装請負を避けるうえで注意すべきポイント

 ここでは東リ事件控訴審判決において37号告示の各基準をめぐって大阪高裁が示した判断の具体例を題材に、偽装請負と判断されないために注意すべきポイントをいくつかご紹介します。

(1)現場責任者を置くだけでは不十分であること

 外注先従業員が発注者の工場やオフィスで外注業務に従事する場合、疑義応答集を踏まえ、外注先が現場責任者を置き、発注者からの注文や連絡を受ける際の窓口役とする旨の規定が業務委託契約に盛り込まれることが実務上、多くあります。これは、現場責任者が他の外注先従業員に指揮命令することにより、発注者が指揮命令する事態を回避し、外注者自身が外注先従業員に業務遂行上の指示をすることを求める37号告示の基準(2条1号イ(1))を満たすことを意図しているものと考えられ、東リ事件においてもかかる現場責任者が置かれていました。

 しかし、大阪高裁は、形式的には現場責任者が置かれていたとはいえ、実質的には発注者から現場責任者を通して一般の外注先従業員に対する具体的な作業の指示が行われており、37号告示の基準は満たされていないと判断しました。

 このように、形式的に現場責任者を置くだけでは37号告示の基準は満たされない可能性があります。現場責任者が真の意味での外注先責任者として、現場での作業の遂行に関する指示、外注先従業員の管理、発注者との注文に関する交渉等の権限を有し、それを適切に行使できる体制を構築することが重要であると考えられます

(2)労働時間を単に把握するだけでは不十分であること

 37号告示2条1号ロは、外注先が自ら、外注先従業員の労働時間等に関する指示その他の管理を行うことを求めています。東リ事件の事案では、発注者従業員はICカードシステムにより勤怠管理されていた一方、外注先従業員は外注先がタイムカードで勤怠管理しており、また外注先従業員が時間外労働する際は外注先の社長の許可が求められていました。

 しかし、大阪高裁は、上記事情があったとしても、現場の実態に鑑みると外注先の社長は外注先従業員の「労働実態を把握、管理しておらず、」「単に労働者の労働時間を形式的に把握していたにすぎず、労働時間を管理していたとは認めることはできない」として、37号告示の基準は満たされていないと判断しました。

 勤怠管理については37条告示においても、外注先が労働時間を単に形式的に把握するだけでは足りない旨が明記されています。労働実態の把握を踏まえ、実質的な意味での労働時間の管理を外注先が行うことが重要であると考えられます

(3)資器材の形式的な賃貸借契約では不十分であること

 37号告示2条2号ハ(1)は外注先が外注業務の処理に用いる資器材を自己の負担で調達すべきと規定しており、これを踏まえて実務上、発注者が外注先に資器材を賃貸する契約が締結される事例が見受けられます。東リ事件でも外注先は製造ラインを発注者から月額使用料2万円で賃借していました。

 しかし、大阪高裁は、使用料の積算根拠が不明であるうえ、貸与された製造機械の修理費の一切を発注者が負担していたとして、外注先が資器材を自己の負担で調達したと評価することはできないと判断し、偽装請負を肯定する一事情としました。

 上記を踏まえると、単に賃貸借契約の形式を整えるだけではなく、合理的な対価を積算し、また修理費用を含め、外注先が資器材を自己の負担で調達したといえる実態を備える必要があると考えられます

労働契約申込みみなし制度と発注者・外注先従業員間の直接雇用リスク

労働契約申込みみなし制度

 労働契約申込みみなし制度は労働者派遣法の2012年改正で導入された制度で、偽装請負が行われ、さらに一定の要件が満たされた場合、発注者が外注先従業員に対し労働契約の申込みをしたものとみなされます(労働者派遣法40条の6第1項5号。施行は2015年10月1日)。そして、偽装請負が終了した日から1年を経過する日までに外注先従業員が上記申込みを承諾すれば、発注者・外注先従業員間で直接の雇用関係が成立することになります(同条2項、3項)。

※厚生労働省・都道府県労働局「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」を基に作成

偽装請負等の目的

 偽装請負が行われたと判断される場合に、労働契約申込みみなし制度が適用されるうえで最大の争点となるのが、発注者における労働者派遣法等の適用を免れる目的(以下「偽装請負等の目的」といいます)の要件です(労働者派遣法40条の6第1項5号)。すなわち、客観的に偽装請負が行われただけでは足りず、発注者の主観において、偽装請負を行い、労働者派遣法等の適用を免れるという目的があったことが必要とされています。

偽装請負等の目的の判断方法

 偽装請負等の目的という主観的要件については、一定の前提条件の下で偽装請負等の目的の存在が推認されるとする高裁判例が複数あります。以下、具体的に検討していきます。

(1)東リ事件控訴審判決

 同事件で大阪高裁は、「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には、特段の事情がない限り、……組織的に偽装請負等の目的で当該役務の提供を受けていたものと推認するのが相当である。」と判示しました。

 「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けて」いれば偽装請負等の目的が推認されることになり、読み方によってはかなり広く偽装請負等の目的を認める判断基準とも思えます。ただし、大阪高裁は偽装請負等の目的について判断するうえで約18年間もの長期にわたる偽装請負状態の継続について言及しており、「日常的かつ継続的」と認められる状況はかなり限られるとの指摘もされています 12

 本件ではかかる推認に基づき偽装請負等の目的の存在が肯定され、発注者・外注先従業員間で労働契約が成立したと認定されました。

(2)日本貨物検数協会事件控訴審判決

 同事件で名古屋高裁は、偽装請負等の目的について「適用潜脱目的」という用語を用いつつ、「(偽装請負に関する)客観的事実の認識があり、かつ、それにもかかわらず適用潜脱目的ではないことをうかがわせる事情が一切存在しないような場合にも、その存在(筆者注:適用潜脱目的の存在)を推認することができる」と判示し、偽装請負等の目的の存在を肯定しています。

 偽装請負が行われている場合には、偽装請負に関する客観的事実を認識している場合が多いとも思われます。「適用潜脱目的ではないことをうかがわせる事情が一切存在しない」という限定があるとはいえ、外注先従業員に有利(発注者に不利)になり得る判断であると考えられます。

(3)ハンプティ商会ほか1社事件判決

 同事件で東京地裁は、上記両高裁判例のように一定の推認の条件に言及することはせず、種々の事情を検討のうえ、法人の代表者または法人から契約締結権限を授権されている者の認識を基準として、偽装請負等の目的の存在を否定しました。なお、東京地裁は同目的の存在を否定する際、発注者が「過去に労働基準監督署ないし労働局から個別の指導を受けたこともなかった」と言及しています。すなわち、過去に労働局等から指導を受けている場合、偽装請負等の目的の存在が肯定されるリスクが高くなると考えられます。

 上記のとおり、偽装請負等の目的の判断方法はまだ固まっていないものの、結論としてその存在を肯定する複数の高裁判決が出ている点は注目すべきと考えられます。

直接雇用リスクを回避するうえで注意すべきポイント

 労働契約申込みみなし制度による直接雇用リスクを回避するうえで最善の策は、偽装請負とは何かを理解し、適法な業務委託と区別する判断基準を適切に把握して、そもそも偽装請負が行われないように努めることです。過去に労働局等から指導を受けている発注者においては、特に再発防止に意を注ぐべきと考えられます。

 なお、すでに偽装請負が行われている場合、業務委託契約を労働者派遣契約に切り替える対応が考えられます。ただし、東リ事件控訴審判決では、労働者派遣契約への切り替えの前後において同じ態様で業務が遂行されていた点を捉えて、偽装請負等を認定する一事情としており、発注者としては難しい対応を迫られることになります。

 この点、日本貨物検数協会事件の事案で外注先は、外注先従業員の同意を得ず、また知らせることもしないまま発注者との業務委託契約を終了し、労働者派遣契約に切り替えました。その結果、偽装請負が終了した日から1年を経過する日までという、みなし申込みに対する承諾の期限を外注先従業員は認識できないままに同期限が経過し、結局、外注先従業員による承諾の意思表示がなされていないとして、直接雇用の成立が否定されています。

 かかる手法は、名古屋高裁の立場を前提とする限りは有効であるように見えなくもありません。しかし、名古屋高裁自身が「隠蔽」と否定的に評価するような手法であるうえ、最高裁判所の判断はいまだ示されていません。また、外注先(派遣元)における外注先従業員(派遣労働者)に対する派遣労働者であることの明示義務(労働者派遣法32条)に違反する対応であり、同様の対応を取ることには様々なリスクが伴うものと考えられます。

終わりに

 東リ事件控訴審判決で労働契約申込みみなし制度による直接雇用が認められる以前にも、労働局による指導により直接雇用に至った事例が複数あることが、厚生労働省の資料 13 で示されています。かかる直接雇用リスクに対応していくうえでは、東リ事件控訴審判決のように、業務委託契約の形式面にとどまらず現場責任者や資器材の賃貸借契約等の実質・実態にまで踏み込んで厳格に審査される可能性がある点に注意が必要です。かかる実質面は法務部による契約書審査では必ずしも明らかにならない可能性があるため、法務部・事業部間の緊密な情報交換・連携や、事業部の偽装請負問題に対する理解を深めるための啓発活動等が求められると考えられます

 偽装請負および労働契約申込みみなし制度の詳細については、今後の最高裁判所の判断等をフォローしていく必要があります。しかし、制度そのものはすでに存在する以上、速やかに所要の対応策を講じていくことが求められます。


  1. 37号告示では「請負」にのみ言及されていますが、厚生労働省は業務委託(準委任)契約にも適用されると説明しています。「『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』(37号告示)に関する疑義応答集(第2集)」問1に対する回答参照。 ↩︎

  2. 「労働者派遣」に類似する概念である「労働者供給」(職業安定法4条7号)について、職業安定法施行規則4条1項で業務委託契約と区別するための4要件が規定されており、37号告示は上記4要件を基礎に策定されたものとされています。 ↩︎

  3. 『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』(37号告示)に関する疑義応答集」および「『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』(37号告示)に関する疑義応答集(第2集)」 ↩︎

  4. 『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』(37号告示)に関する疑義応答集(第3集)」 ↩︎

  5. 一般に、開発要件の全体を固めることなく開発に着手し、市場の評価や環境変化を反映して開発途中でも要件の追加や変更を可能とするシステム開発の手法である、などと説明されています。 ↩︎

  6. 神戸地裁令和2年3月13日判決・労判1223号27頁 ↩︎

  7. 大阪高裁令和3年11月4日判決・労判1253号60頁 ↩︎

  8. 東京地裁令和2年6月11日判決・労判1233号26頁 ↩︎

  9. 名古屋地裁令和2年7月20日判決・労判1228号33頁 ↩︎

  10. 名古屋高裁令和3年10月12日判決・労判1258号46頁 ↩︎

  11. なお、東リ事件の第一審判決は偽装請負は行われていなかったと判断した一方で、控訴審判決(および本稿で紹介しているその他の裁判例)は偽装請負が行われていたと認定しています。この点、東リ事件の労働者側訴訟代理人弁護士によれば、兵庫労働局は同事案において労働者派遣法違反の事実は確認できなかったと判断していたとのことであり(村田浩治「東リ事件大阪高裁判決で獲得したもの」労働法律旬報2003号(2022年)8頁)、偽装請負を否定していたものと考えられます。このように、仮に労働局から偽装請負の指摘を受けなかったとしても、裁判所によって判断が覆される可能性がある点には留意すべきと考えられます。 ↩︎

  12. 竹内(奥野)寿「労働者派遣法40条の6第1項5号に基づき労働契約の成立を認めた裁判例―東リ事件」ジュリスト1566号(2022年1月)5頁 ↩︎

  13. 第300回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会 資料3「労働契約申込みみなし制度について」3頁 ↩︎

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