新型コロナで在宅勤務を行う社員から副業の許可を求められた際の実務対応

人事労務
樋口 陽亮弁護士 杜若経営法律事務所

 当社は、新型コロナウイルスの感染拡大予防の観点から、社員に対して在宅勤務を命じています。そうしたところ、先日社員から副業をしたいとの申し出がありました。副業を認めるか否かの判断や、副業を認めた場合の運用について注意すべきポイントはありますか。

 副業の内容を個別具体的に検討して、副業を認めないことが過度な制約とならないよう注意する必要があります。副業を認める場合には、労働者からの申告等により副業・兼業の内容や労働時間を把握することにより、長時間労働による健康被害や労働時間規制等の問題が生じないように配慮をすべきです。

解説

目次

  1. 副業・兼業を認めるか否か
  2. 労働時間規制・割増賃金との関係で注意すべきポイント
  3. 健康管理との関係で注意すべきポイント
  4. 副業・兼業の内容や状況の確認方法
    1. 労働者からの副業・兼業先の届出
    2. 労働者からの申告等による労働時間の通算
  5. 在宅勤務者に対して副業・兼業を認める際に特に注意すべきポイント
  6. 労働者災害補償保険法の改正について
  7. まとめ

 本記事の執筆時点において、新型コロナウイルスの感染拡大予防の観点から、休業もしくは在宅での勤務、あるいは労働時間短縮などの措置を講じている企業が多くあります。そういった企業で働く社員にとっては、時間にゆとりができる一方で、残業代がでないこと等による収入の減少が生じています。そのため、社員からは副業・兼業を望む声が多くあがっているのが現状です。

 実は副業・兼業に関する取り組みは、働き方改革の一環として、新型コロナウイルスの感染拡大の前から政府が主導してその普及促進を図られていたところでした。本記事では、令和2年9月に改定された厚生労働省による副業・兼業に関するガイドラインの内容も踏まえながら、副業・兼業におけるポイントを解説していきたいと思います。

副業・兼業を認めるか否か

 社員の副業・兼業を認めるか否かについて、まずは社内ルール(就業規則・雇用契約書)を確認する必要があります。

 副業・兼業に関する方針は企業によって様々であり、禁止としている企業もあれば、届出制や許可制をとっている企業もあります。ここで注意が必要なのは、労働者が労働時間以外のプライベートな時間をどのように利用するかは基本的には自由ということです(京都地裁平成24年7月13日・労判1058号21頁など)。そのため、企業が社内ルールとして副業・兼業を一律禁止としていても、実はそのような規制が無効であることもあります

 したがって、企業としては、社員の求める副業・兼業の内容を個別具体的に検討して許可をするか否かを判断する必要があります。この点について、厚生労働省の定める「副業・兼業の促進に関するガイドライン(平成30年1月策定・令和2年9月改定)」(以下、「ガイドライン」といいます)では、制限が許される例として以下のケースをあげています。

① 労務提供上の支障がある場合
② 業務上の秘密が漏えいする場合
③ 競業により自社の利益が害される場合
④ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

労働時間規制・割増賃金との関係で注意すべきポイント

 副業・兼業を行う場合、労働者の全体としての労働時間が長時間となる恐れがあります。この点、労働基準法38条1項では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されており、特に労働時間規制や割増賃金の支払義務との関係で注意が必要です 1

 ここでは本業先と兼業先のどちらの労働が時間外になるのか、どちらが割増賃金を支払うのかという点が問題になります。当該問題について、ガイドラインでは、以下のような解釈が示されています。

労働時間の通算
  • 副業・兼業の開始前に、自社の所定労働時間と他社の所定労働時間を通算して、法定労働時間を超える部分がある場合には、その部分は後から契約した会社の時間外労働となる。
  • 副業・兼業の開始後に、所定労働時間の通算に加えて、自社の所定外労働時間と他社の所定外労働時間を、所定外労働が行われる順に通算して、法定労働時間を超える部分がある場合には、その部分が時間外労働となる。

 たとえば、前者のケースでは、甲事業所で「所定労働時間8時間」という労働契約を締結している労働者が、新たに乙事業所と同一労働日に「所定労働時間4時間」という契約をして、それぞれの労働契約のとおりに労働した場合などが考えられます。

 この場合、先に契約した甲事業所での1日の労働時間は8時間であり法定労働時間内であるため、甲事業所に割増賃金の支払義務はありません。他方、後に契約した乙事業所は、36協定を締結・届出しなければ当該労働者を労働させることはできず、また、乙事業所での労働は法定時間外労働となるため、4時間分の割増賃金を支払うことになります。

労働時間規制・割増賃金との関係で注意すべきポイント

 このほか、ガイドライン Q&Aでは、後者のケースを含めいくつかの具体例が掲載されています。

健康管理との関係で注意すべきポイント

 企業は、労働者に対して安全配慮義務を負っており(労働契約法5条)、労働者が長時間労働により健康を害さないよう配慮する義務があります。たとえば、副業・兼業を認めた労働者が長時間労働であり身体に負荷がかかっていることを認識しながら、何らの配慮をしないまま、労働者の健康に支障が生じた場合などは同義務違反に問われる可能性があります

 この点について、ガイドラインにおいて、長時間労働等によって労務提供上の支障がある場合には、副業・兼業を禁止または制限できることとしておくことや、副業・兼業の状況について労働者からの報告等により把握し、労働者の健康状態に問題が認められた場合には適切な措置を講ずること等を講じる例が示されています。

副業・兼業の内容や状況の確認方法

労働者からの副業・兼業先の届出

 副業・兼業の運用や労働者の健康管理を適切に行うため、企業としては、労働者からの申告等により副業・兼業の内容を確認しておくべきです。そのためには、社内ルールに届出制を定めるなどして、副業・兼業先に関する所定の事項を労働者から届け出させる仕組みを整えておくことが望ましいといえます。

 どのような事項を届け出されるかという点について、ガイドラインでは以下のものをあげていますので、これらを参考に確認内容を確定しておくとよいでしょう。

労働者から確認する事項

  • 他の使用者の事業場の事業内容
  • 他の使用者の事業場で労働者が従事する業務内容
  • 労働時間通算の対象となるか否かの確認

  •  労働時間通算の対象となる場合には、併せて次の事項について確認し、各々の使用者と労働者との間で合意しておくことが望ましい。
  • 他の使用者との労働契約の締結日、期間
  • 他の使用者の事業場での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻
  • 他の使用者の事業場での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数
  • 他の使用者の事業場における実労働時間等の報告の手続
  • これらの事項について確認を行う頻度
(厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン(平成30年1月策定・令和2年9月改定)」から)

労働者からの申告等による労働時間の通算

 上記のような届出は、労働時間の通算においても重要な意味を持ちます。すなわち、労働時間の通算方法について、ガイドラインでは、⾃らの事業場における労働時間と労働者からの申告等により把握した他の使⽤者の事業場における労働時間とを通算することによって行うという考え方が示されました。労働者自身からの申告等をベースに労働時間を把握することを基本としている点は重要なポイントといえます。

 このほかガイドラインでは、労働時間の申告等や通算管理の負担を軽減する方法として、「管理モデル」というものも紹介されています。

 この「管理モデル」は、副業・兼業の開始前に、A社(先契約)の法定外労働時間とB社(後契約)の労働時間とで調整を行い、労働時間について上限規制(単月100時間未満、複数月平均80時間以内)の範囲内でそれぞれ上限を設定し、それぞれについて割増賃金を支払うというものです。副業・兼業の開始後は、他社の実労働時間を把握しなくても労働基準法を遵守することが可能となります。

 なお、導入にあたっては労働者に対してA社(先契約)が管理モデルによることを求め、労働者および労働者を通じてB社(後契約)が応じるなど、関係者間での事前調整が必要となります。

在宅勤務者に対して副業・兼業を認める際に特に注意すべきポイント

 在宅勤務者であることとの関係で特に気をつけなければならないのは、副業・兼業先での労働実態の把握だけではなく、本業先においても在宅勤務中の労働時間管理をきちんと行わなければ意味がないという点です。

 また、在宅勤務を取り入れている場合、在宅勤務者に対する管理者の目が行き届かなくなりがちです。そのため懸念されるのは、社員が勤務時間中に副業・兼業を行ってしまうケースです。社員は、当然ながら勤務時間中は当該企業の職務に専念する義務を負っていますので、勤務時間中に副業・兼業を行った場合にはこの義務に抵触することになります。

 このような問題を防ぐために在宅勤務時の労務管理を適切な方法で行うことはもちろんですが、副業・兼業先の所定労働日や所定労働時間などを社員にきちんと申告してもらう一定の違反があった場合には副業・兼業を禁止しまたは制限することができる旨を就業規則や労働契約等にあらかじめ規定しておくなどの措置を講じておく必要があります。

労働者災害補償保険法の改正について

 労働者災害補償保険法において、労働者保護のための有利な法改正があったことも実務上チェックしておく必要があります(「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和2年法律第14号)」)。
 令和2年9月1日以降、労災保険の給付額や労災認定の際の負荷の判断方法が変わります。具体的には、労災保険の給付額について、これまでは災害が発生した勤務先の賃金額のみを基礎に給付額等が決められていましたが、改正によりすべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎に給付額等を決められることになります。また、労災認定の判断においても、複数の勤務先がある場合、すべての勤務先の労働時間やストレス等を総合的に評価して行うようになります

まとめ

 副業・兼業先での労働内容については、なかなか使用者側で把握が困難なため、労働者からの申告等により労働契約の内容な実態を把握していく必要があります。また、在宅勤務者からの副業・兼業の申し出である場合には、自社における在宅勤務時の労務管理を適切な方法で行うこともより大切になります。


  1. ただし、労働基準法が適用されない場合(フリーランス等)や労働基準法は適用されるが労働時間規制が適用されない場合(管理監督者(労働基準法41条2号)にあたる場合等)には、労働時間の通算の規制からは除外されます。 ↩︎

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