請負契約・業務委託契約が「雇用契約」とならないようにするためのポイント
人事労務当社では最近業務が増えていますが、従業員を雇用するのは予算上困難なため、外部スタッフに手伝ってもらうことを考えています。請負や業務委託の契約締結にあたってどのような点に注意すればよいでしょうか。
請負契約や業務委託契約等を締結することを予定されているようですが、「請負契約」や「業務委託契約」といった名称で契約を締結したとしても、その内容や実態が、外部スタッフを指揮命令下に置いて働かせ、それに対して報酬を支払うものである場合は、実質的にみて「雇用契約」であると評価されます。そうすると、一連の労働関係法規が適用されることにより不測のトラブルが生じるおそれがあります。
このような事態を回避するには、「雇用契約」該当性の判断基準を理解したうえで、業務の依頼について外部スタッフの諾否の自由を確保したり、業務の遂行場所や時間について制限せず、外部スタッフが業務に要した時間と報酬額とを連動させないようにしたりするなど、いかにして既存の従業員の「働き方」との差別化を図るかがポイントです。
解説
目次
雇用契約か否かがなぜ重要なのか
人の働き方が多様化し、さまざまな形態の下で人は働くようになりました。人が「働く」ことに関して締結する契約には、いくつかの類型がありますが、労働法 1 の視点からは、その契約が雇用契約 2 なのかそうではないのかがとても重要です。
なぜなら、労働法は、雇用契約の一方当事者である「労働者」をさまざまな側面で保護しているため、雇用契約であるか否かによって、「働く」人が、どのような場面でどのような法的保護を受けるのかが大きく異なるからです。
実際に、過去の裁判においても、「業務委託契約」や「請負契約」を締結して働いていた人が、実質的には雇用契約であったとして、労働法による保護を求めた事例は多数あり、裁判所も、雇用契約であったと認定したものが少なからずあります 3。少なくとも一方当事者が「この契約は雇用契約ではない」と思っていたのに、後に裁判等で雇用契約であると認定されることは、契約当事者双方にとって非常に大きな影響を及ぼします。
本稿では、「雇用契約」となるのはどのような場合かを整理し、不測のトラブルの防止に役立てていただけることを期待します。
雇用契約か否かを考える際の視点
契約の名称は契約の性質決定とは直結しない
人が自分の労務を提供し、それに対して対価を得ることに関する契約について、民法では、請負、委任および雇用の3類型について規定が置かれており、これらの契約類型は「労務供給契約」などと呼ばれています。
実務上は、「業務委託契約」という名称の契約をよく見かけますが、「業務委託契約」は民法で規定された契約類型(典型契約)ではなく、その具体的内容に応じて上記3類型のいずれかに、または、いずれでもない無名契約に分類されます 4。各類型の主な性質は以下のとおりです。
請負、委任および雇用の各契約の主な性質
契約の目的 | 仕事の具体的な進め方に関する発注(使用者)側の指図の程度 | 典型例 | 発注側(使用者側)からの 契約解消の難易度 |
|
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請負契約 | 仕事の完成 | 弱 (原則として受注者が決定) |
大工 | 請負人が仕事を完成するまでは損害賠償をすればいつでも解除可(民法641条) |
委任契約 | 労務提供 | 弱 (原則として受任者が決定) |
医師、弁護士 | いつでも解除可(ただし、一定の場合に損害賠償を要する)(民法651条) |
雇用契約 | 労務提供 | 強 (使用者側の指揮命令に基づいて行う) |
会社員 | 民法上は、契約期間の定めのない場合はいつでも解約できるが(民法627条)、労働法により使用者側からの解約は大幅に制限されている(労働契約法16条=解雇権濫用法理、労働基準法20条=解雇予告) |
「請負契約」や「業務委託契約」といった名称で契約を締結していれば、その契約が雇用契約になることはないのではないか、と思うかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
当事者が契約に付した名称は、契約の性質決定にあたり、1つの参考材料にはなりますが、それに囚われることなく、労務提供の実態に照らして雇用契約であるか否かが判断されます 5。特に、労働法を構成する法律の中には強行法規が多く含まれており 6、当事者の意思で適用を排除することはできません。
労働法による広範な労働者保護
日本では、「働く」者が雇用契約の一方当事者である「労働者」であるか否かによって、法的な保護の有無や度合いが大きく異なる法体系となっています。
一例を挙げると、まず、就労者が締結している契約が雇用契約である場合は、就労の対価、すなわち賃金の額は最低賃金法の定めを下回ることはできません(最低賃金法4条)。また、一定時間以上働かせた場合には、割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条)。これらは、労働者保護の見地から労働法が契約内容に関する私的自治に介入するものといえます。
次に、契約の解消に関しては、期間の定めのない雇用の場合にはいわゆる解雇権濫用法理(労働契約法16条)が、期間の定めのある雇用の場合にはいわゆる雇止め法理(同法19条)が適用され、使用者側からの契約解消は大幅に制限されています。
さらに、労働者が業務上負傷した場合には、使用者に無過失責任としての災害補償責任が生じ(労働基準法75条以下)、それをカバーするものとして労働者災害補償責任保険法により労災保険制度が整備されています(使用者には労災保険への加入義務があります)。
このほか、労働者である場合は、妊産婦等の保護として産前・産後休業制度や育児休業制度が整備され、使用者は、これらの休業制度等の利用を認めなければならず、また、利用した労働者に対する解雇等の不利益取扱いが禁止されています(男女雇用機会均等法9条、育児介護休業法10条等)。
このように、労働法は、労使間には交渉力の格差があることを前提に、労働法が労働者の交渉力を補完するべく、さまざまな側面から労働者を保護しています。他方、民法は、契約当事者が対等であることを前提としていますので、法による介入を最小限に留めているといえます。
契約内容の明確化の重要性
働き方の多様化によりフリーランスとの取引におけるトラブルも顕在化するようになりました。トラブルの中には、そもそも契約内容が明確ではないことに起因しているものが少なくありません。
雇用契約の場合は、契約の締結に際して、使用者に労働条件明示義務が課されており(労働基準法15条)、また、雇用契約ではない場合も、下請法が適用される取引では、契約内容に関する書面の交付義務が課されています(下請法3条、5条等)。しかし、契約内容の書面化に関する主な法規制は、現状ではこの程度であり、取引開始時に契約書を取り交わすといった取引慣行が存在する領域は未だ小さいでしょう。
2021年3月26日に公表されたいわゆるフリーランスガイドライン 7 においても、書面による契約内容の明確化が促されており、フリーランスガイドラインの末尾では、契約書のひな形が示されています。
発注者側にとっても、契約内容を明確化し、取引開始時点で受注者側と契約内容を摺り合わせておくことは、その後に生じるトラブルを回避するために重要です 8 9。
どのような場合に「雇用契約」となるか - 「労働者」性
上記に見たように、雇用契約であるか否かによって、契約の解消や契約条件の変更、保険等への加入義務の有無は大きくことなることになります。それでは、どのような場合に「雇用契約」となるのでしょうか。
労働契約法は、雇用契約(労働契約)の成立に関し、以下のとおり定めています。
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
労働基準法には、雇用契約(労働契約)の定義規定はありませんが、「労働者」を以下のとおり定義しています。
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
労働契約法が2007(平成19)年にできた新しい法律であることもあり、雇用契約か否かに関する従来の議論は、いかなる者が労働基準法9条の「労働者」の定義に該当するかという観点から議論されてきました。この関係で、どのような場合に「雇用契約」となるかという論点は、「労働者性の問題」と呼ばれています 10。
上記で引用した2つの条文を見比べますと、「使用される」ことと「賃金を支払われる」ことが雇用契約の根本的な性質であることがわかります。
そして、いかなる場合に「使用される」と「賃金を支払われる」に該当するかの具体的な判断基準に関して、実務上参照されているのは、昭和60年12月19日付労働省労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(以下「労基研報告」といいます。)です。フリーランスガイドラインも、この労基研報告に基づいて、現行法上「雇用」に該当する場合の判断基準を示しています。
労基研報告は、「使用される」とは「指揮命令下の労働」であり、「賃金支払」を報酬の労務に対する対償性であるとして、両者を総称して「使用従属性」と呼んでいます。そのうえで、それぞれの判断基準を下表のとおり整理しています。
裁判においても、この判断基準に基づいて総合考慮することによって雇用契約か否かが判断されています 11。
労働基準法上の労働者性の判断基準
使用従属性に関する判断基準 | 指揮命令下の労働であるか | 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無 | 具体的な仕事の依頼、業務従事の指示等に対して拒否する自由があるか |
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業務遂行上の指揮監督の有無 | 業務の内容および遂行方法に対する指揮命令の有無 | ||
使用者の命令、依頼等により通常予定されている業務以外の業務に従事することがあるか | |||
時間的・場所的拘束性の有無 | 勤務場所および勤務時間が指定され、管理されているか | ||
代替性の有無 | 本人に代わって他の者が労務を提供することが認められているか、自らの判断で補助者を使うことが認められているか | ||
報酬の労務対償性 | 報酬の性格が使用者の指揮監督の下に一定時間労務を提供していることに対する対価であるか |
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労働者性の判断を補強する要素 | 事業者性の有無 | 機械、器具の負担関係 | 相当高価な機械、器具を自ら所有し業務に用いているか |
報酬の額 | 同様の業務に従事している正規従業員よりも相当高額か |
雇用契約としての性質決定を避けるポイント
雇用契約としての性質決定を避けるには、上記の判断基準を参考にしながら、極力、雇用契約としての性質を排除する、という視点が重要です。
たとえば、最も基本的な部分としては、新たな業務を進めるにあたり受注者側の諾否の自由を確保するということが挙げられます。
雇用契約においては、通常、労働者は業務に関して使用者の指揮命令に従わなければならず、諾否の自由はありません(従業員が諾否の自由を発揮しようとすれば、懲戒処分や、場合によっては解雇等の対象となります)。諾否の自由の有無は、雇用契約か否かの基本的な分水嶺といえますので、取引上、新たな業務の受発注にあたり、都度、受注者側の意思を確認したり、また、受注者が拒否してもそれによってペナルティが生じないものとしたりする仕組みとすることを検討します。
次に、時間的・場所的拘束性に関しては、業務の内容によっては、「その日、そこで仕事をする」ことが必須となるものもあり、真に雇用契約ではない場合であっても、一定の拘束性が生じてしまう場合があります。また、労働者側も、在宅勤務やテレワークの普及等により、時間的・場所的拘束性は従来よりも弱まっていますので、雇用契約か否かを分ける決定的な基準とは言い難くなりつつあります。
もっとも、雇用契約の場合は、基本的には、時間的拘束が強まる、すなわち、労働時間が長くなればなるほど、報酬(賃金)が増えるという関係にあります。時間的(場所的)拘束と報酬とは通常強く結びついていますので、請負契約や業務委託契約等の場合の報酬額を、発注した業務への拘束した時間と連動させる場合(特に、契約上予定した時間よりも長く拘束する場合に報酬額を割り増すような場合)には、雇用契約としての性質を帯びてきますので留意してください。請負契約や業務委託契約等の場合には、基本的には、業務そのものの完成に着目し、(完成までに要した時間を問わず)完成したこと自体に対して対価を支払う、といった構造にする(近づける)方向で検討するとよいでしょう。
雇用契約としての性質決定を避けようとすると、発注者側としては、新たな業務を依頼しても拒否されるおそれが生じ、「使い勝手が悪い」ものとなりがちですが、使い勝手を良くしようとすればするほど、雇用契約に近づくリスクが高まることを理解し、一定の不便さを甘受する姿勢が重要と考えます。
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労働法という名称の法律はありません。労働基準法、労働契約法、労働組合法等の「労働者」に適用される一連の法律群を総称して「労働法」と呼びます。 ↩︎
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民法上は「雇用契約」、労働契約法上は「労働契約」と規定されています。両者の異同については議論がありますが、本稿では同一の性質と捉え、「雇用契約」との表現で統一します(両者を同一の契約類型と考える見解として、荒木尚志『労働法〔第4版〕』47~49頁(有斐閣、2020))。 ↩︎
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一例として、映画制作における撮影技師(フリーカメラマン)について労働基準法上の「労働者」に該当するとした新宿労基署長事件(東京高裁平成14年7月11日判決・労判832号13頁)(労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付の支給請求事案)。劇団員として公演に出演したり、大道具・小道具の準備等の裏方業務をしたりしていた者について労働基準法上の「労働者」に該当するとしたエアースタジオ事件(東京高裁令和2年9月3日判決・労判1236号35頁)(最低賃金法および労働基準法に基づく賃金(割増賃金)等請求事案)。詳しくは、第二東京弁護士会労働問題検討委員会編著『フリーランスハンドブック』(労働開発研究会、2021)22頁以下参照。 ↩︎
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民法で規定されている契約類型を「典型契約」または「有名契約」(民法上で名称が付与されている契約)といい、それ以外の契約を「非典型契約」または「無名契約」といいます。また、複数の典型契約の要素を含む契約を「混合契約」といいます。 ↩︎
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荒木・前掲注2)は、「就労関係の実態に照らして性質を決定する」というのが労働法のアプローチだとしています(49頁)。 ↩︎
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解雇権濫用法理を定めた労働契約法16条や解雇予告制度を定めた労働基準法20条、賃金の全額払いの原則を定めた同法24条等は強行法規の典型例です。 ↩︎
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内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」 ↩︎
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下請法を改正し、契約書の作成義務を拡大することが現在議論されています。 ↩︎
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契約書を作成する際、発注者側の都合のみを優先し、あまりに発注者側の利益に偏った内容とした場合は、公序良俗(民法90条)等の適用により無効となる場合がありますのでご留意ください。 ↩︎
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「労働者性の問題」には、労働基準法上の労働者性だけでなく、労働組合法上の労働者性の問題もありますが、後者は本稿では省略します(詳しくは前掲注3)『フリーランスハンドブック』33頁以下参照)。 ↩︎
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諸要素の総合考慮となるがゆえ、紛争化した場合の結論の予測可能性が確保しづらい問題だといえます。 ↩︎

五三・町田法律事務所