パキスタンにおける競争法規制(カルテル、企業結合)の概要

国際取引・海外進出
村田 智美弁護士 西村あさひ法律事務所 宮﨑 貴大弁護士 西村あさひ法律事務所

 私は海外子会社のコンプライアンス・リスク管理を担当しています。パキスタンにおける競争法規制の概要を教えてください。

 パキスタンでは、支配的地位の濫用、カルテル等の防止を目的とするCompetition Act, 2010(以下「2010年競争法」といいます。)が存在します。また、日本の独占禁止法と同様のリニエンシー制度や、日本には存在しない情報提供者に対する報奨金制度が設けられており、競争法違反リスクを察知した場合には、速やかに専門家に相談する等の適切な対応をとる必要があります。
 また、パキスタンでは、日本の独占禁止法と同様、パキスタン市場に一定の影響を及ぼす企業結合について企業結合審査制度が存在します。同制度は、理論上、外国企業同士の企業結合であっても適用があるとされていることから、M&Aを行う場合には、対象会社がパキスタン企業であるか否かを問わず留意する必要があります。

解説

目次

  1. 競争法および執行機関
  2. 違反行為
  3. 執行手続および制裁
  4. リニエンシー制度
  5. 情報提供者に対する報奨制度
  6. 企業結合審査制度

競争法および執行機関

 パキスタンでは、自由競争の維持・促進を目的として2010年競争法が制定され、同法に基づく執行機関として、Competition Commission of Pakistan(以下「CCP」といいます。)が設置されています。

違反行為

 2010年競争法では、以下の4つの行為が規制されています。

  1. 支配的地位の濫用
  2. 競争制限的協定
  3. 欺瞞的取引方法
  4. 競争制限的企業結合

(1)支配的地位の濫用

 支配的地位の濫用規制は、支配的地位にある事業者が関連市場における競争を阻害、制限、減殺または歪曲することを禁止しています。
 1つまたは複数の事業者が、競合他社、顧客、消費者、供給者から相当程度独立して行動でき、かつ、関連市場におけるシェアが40%を超える場合には、支配的地位にあるものとみなされます(2010年競争法3条および2条(e)項)。

(2)競争制限的協定

 競争制限的協定規制は、事業者または事業者団体が、関連市場における競争を阻害、制限もしくは減殺する目的または効果を有する合意をすることを禁止しています。
 たとえば、価格協定、市場分割、生産量等の制限、入札談合、技術開発または投資の制限などがあげられています(2010年競争法4条)。

(3)欺瞞的取引方法

 欺瞞的取引方法規制は、たとえば虚偽のまたは誤解をもたらしうる情報を流すなど、事業者による欺瞞的な取引手法を禁止しています(2010年競争法10条)。

(4)競争制限的企業結合

 競争制限的企業結合規制は、事業者が,関連市場における支配的地位を形成または強化することによって競争を実質的に減殺する合併を行うことを禁止しています(2010年競争法11条)。
 一定の要件を満たす企業結合については、下記6のとおり、事前企業結合審査があります。

執行手続および制裁

 2010年競争法違反が疑われる場合、CCPは立入調査を含む調査権限が付与されており、CCPが競争法違反の事実があると判断した場合には、事前に通知を行い、聴聞の機会を与えたうえで、以下の制裁金納付命令を発することができます(2010年競争法38条)。

  1. 事業者に対する排除措置命令および/または
  2. 事業者、その役員または従業員に対して75,000,000パキスタンルピー(約48,750,000円相当)以下または事業者の年間売上高の10%を超えない金額

 CCPの命令に対して不服がある場合には、CCPの委員1名が発した命令については上訴審(Appellate Bench)に対して、CCPの委員2名以上が発した命令または上訴審が発した命令については競争上訴裁判所(Competition Appellate Tribunal)に対して不服申立てができます(2010年競争法41条、42条)。
 CCPの命令に従わない場合には、CCPは、さらに1,000,000パキスタンルピー(約650,000円相当)以下の制裁金納付命令を発することができます(2010年競争法38条1項(b))。2010年競争法上、刑事責任も定められており、制裁金納付命令に従わなかった事業者、役員または従業員に対して、1年以下の懲役または25,000,000パキスタンルピー(約16,250,000円相当)以下の罰金が科される可能性があります(2010年競争法38条5項)。

リニエンシー制度

 パキスタンでは、リニエンシー制度(不正に関わった事業者が一定の要件の下で不正を自己申告する見返りとして制裁金の減免等を得る制度)が導入されており、CCPは、競争制限的協定の当事者である事業者のうち、当該違反事実について最初にCCPに自主申告した者について、制裁金の額を減免する権限を有しています。
 リニエンシー制度の具体的な要件および手続は、リニエンシー規則(Competition (Leniency) Regulations, 2019)に定められています。

 制裁金の免除を受けるためには、以下の要件すべてを充足する必要があります。

  1. CCPが違反事実について立証に足りる情報を有していない時点で、競争制限的協定の当事者である事業者のうち、当該違反事実について最初にCCPに証拠を提供すること。
  2. 当該違反事実について、当該事業者が入手可能な情報、書類および証拠をすべて提供すること。
  3. 当該違反事実に関するCCPによる手続の間、継続的に協力すること。
  4. CCPに申告した時点以降、当該違反行為に参加しないこと。
  5. 競争制限的協定の当事者である他の事業者に対して、当該違反行為への参加を強要していないこと。

 ただし、上記の要件をすべて充足しない場合であっても、一定の要件を充足する場合には、CCPの裁量により、制裁金の減額を受けることができます。
 リニエンシー制度が導入されて以来、リニエンシーが認められた公表事例は、ドイツ系企業であるSiemens(Pakistan)Engineering Company Limitedに対する2012年の事例のみです 1

情報提供者に対する報奨制度

 パキスタンでは、情報提供者に対する報奨金支払規則(Competition(Reward Payment to Informant)Regulations, 2014)が定められており、CCPは、競争制限的協定に関する違反事実に関し情報提供した者に対して、当該案件の重大性および提供された情報の有用性を考慮し、200,000パキスタンルピー(約130,000円相当)から5,000,000パキスタンルピー(約3,250,000円相当)の報奨金を情報提供者に対して支払うことができます。

企業結合審査制度

(1)企業結合審査の要件

 一定の基準を満たす企業結合を行おうとする事業者は、当該企業結合を進めることを合意したまたは法的拘束力を持たない覚書を締結した後直ちに、CCPに対して届出を行い、承認を得なければなりません(2010年競争法11条2項、3項)。
 CCPに対する届出義務が生じる要件は、概ね以下のとおりです(企業結合規則(Competition(Merger Control)Regulations, 2016)4条2項各号)。

  1. 事業者単体の総資産(営業権を除く)の額が300,000,000パキスタンルピー(約195,000,000円相当)以上または合併を計画している事業者の資産との合計が1,000,000,000パキスタンルピー(約650,000,000円相当)以上の場合;または
  2. 事業者単体の前年売上額が500,000,000パキスタンルピー(約325,000,000円相当)以上、または合併を計画している事業者の前年売上額との合計が1,000,000,000パキスタンルピー(約650,000,000円相当)以上の場合;および
  3. 取得しようとする株式の額または資産の額が100,000,000パキスタンルピー(約65,000,000円相当)以上である場合;または
  4. 株式取得の場合、取得しようとする株式の合計が議決権付株式総数の10%を超える場合

(2)企業結合審査のプロセス

 企業結合審査は二段階に分かれます。
 まず、第一次審査にて、届出受理から30営業日以内に、競争制限効果が生じる合併に該当しないことが明らかな場合、CCPは、当該企業結合を承認しなければなりません(同規則11条4号、5号)。
 次に、当該企業結合が競争制限効果を生じない旨の結論を出せない場合、CCPは、第二次審査に移行し(同規則12条1号)、当該事業者に対して、第二次審査に移行する旨の通知を行ってから90日以内に決定を下さなければなりません(同規則12条3項ないし5項)。
 CCPは、第二次審査の結果、当該合併が競争制限的効果を有すると判断した場合であっても、事業者が大要以下の要件を立証した場合には、当該企業結合を承認することができます(同規則15条)。

  1. 企業結合が、商品の生産や流通、サービス提供の効率化に実質的に寄与すること;
  2. かかる効果が、より制限的でない他の合理的な手段により達成できなかったこと;
  3. かかる効果が、競争制限効果による悪影響を上回ることが明らかであること;または
  4. 事業者の事業が実際のまたは差し迫った財政破綻に直面している場合で、当該事業の破綻にとって、当該企業結合が最も反競争的でない選択肢であること

(3)外国企業同士の企業結合に関する取扱い

 企業結合審査制度は、パキスタンにて設立された会社か否かを問わず、パキスタンにて全部または一部の事業を行う会社すべてに適用されます(企業結合規則1条3項)。
 たとえば、2019年、Uber Technologies Inc.(アメリカデラウェア州設立会社)がAugusta Acquisition B.V.(オランダ設立会社)からCareem Inc.(イギリス領ヴァージン諸島設立会社)の事業を譲り受けた際、Careem Inc.がパキスタンにおいてシェアライド事業を営んでいることから、CCPに対して企業結合審査の届出を行い、その承認を得ています。
 したがって、日系企業が、日系企業またはパキスタン以外の外国企業と企業結合を行う場合についても、日系企業自身または対象会社のグループ会社がパキスタンで事業を行っている場合には、CCPに対して届出を行い、事前に承認を得なければならない場合があるため留意が必要です。


  1. 空気絶縁開閉装置および変圧器の入札談合事案に関して、CCPが調査を開始し、理由提示命令(show cause notice)を出した後、Siemens(Pakistan)Engineering Company Limitedがリニエンシーを申請し、CCPが制裁金免除を認めた事例です。なお、CCPは同事案においてリニエンシーを認めるにあたって、パキスタンにおける最初のリニエンシー申請事案であり、本件において免除を認めることが将来の事案において違反者がリニエンシーを申請するインセンティブとなること、申請者の主張は大部分において賛同できるものであり申請者が行った協力は賞賛に値するものであると言及しています。 ↩︎

この実務Q&Aを見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する