ベトナムの海賊版(違法アップロード)規制状況と日本の著作権者が取り得る手段

国際取引・海外進出
盛 一也弁護士 明倫国際法律事務所

 ベトナムでは漫画・アニメ等の海賊版(違法アップロード)についてどのように規制されていますか。また海賊版の流通や取り締まりに関する状況、日本の著作権者が取り得る対策について教えてください。

 ベトナムにおいても、漫画・アニメ等の海賊版(違法アップロード)は法律により禁止されています(詳細は後述)。しかし、海賊版の流通が横行していることに対し、取り締まりについては不十分といえます。このような中で、日本の著作権者は、民事・刑事上の措置やその他の方策(詳細は後述)により自己の権利を守ることが肝要となります。

解説

目次

  1. ベトナムで漫画・アニメ等の海賊版(違法アップロード)を規制する法制度
  2. 罰則
  3. ベトナムでの海賊版(違法アップロード)を取り巻く状況
    1. ベトナムにおける海賊版の流通状況
    2. ベトナムにおける海賊版(違法アップロード)の取り締まり状況
    3. ベトナム国内での海賊版に関する認識
  4. 日本の著作権者が海賊版(違法アップロード)被害を防ぐために取り得る手段

ベトナムで漫画・アニメ等の海賊版(違法アップロード)を規制する法制度

 ベトナムにおいても日本と同様に、漫画やアニメ等の海賊版をインターネットにアップロードすることは禁止されています。具体的には、「著作者または著作権所有者の許可なしに著作物を複製すること」(知的財産法28条6項)や「著作物を、著作権所有者の許可なしに、(中略)放送ネットワークもしくはデジタル装置により公衆に通信すること」(同条10項)は著作権侵害になります。

 無権利の第三者が、日本のアニメなどを作者の許可なくアップロードする行為は、前記「複製」および「公衆に通信」を行う行為に該当し、著作権侵害にあたります。なお、ベトナムでは、日本と異なり著作権法が存在していませんが、「知的財産法」という包括的に知的財産を保護する法律において著作権に関する規定が定められています。

罰則

 著作権侵害への対応については、行政対応と司法対応とに大きく分かれます。行政対応においては、税関を除けば、監査機関、警察庁、市場管理局や人民委員会がこれを管轄しています。これらの機関は必要に応じて保全措置を講じ、行政罰などの行政処分を行います。

 司法対応においては、民事上または刑事上の責任追及を行い、民事上では賠償請求のほか侵害物の廃棄など侵害停止措置(知的財産法202条)等の請求を求めることになります。
 もっとも、民事司法上の対応については、2006年からの10年間で168件が受理されたにとどまり、活発な活用実態があるとは必ずしも言い切れない点が指摘されています。
 他方で、刑事罰については、5,000万VND〜3億VND(およそ25万円〜150万円)の罰金が科される可能性があります。

ベトナムでの海賊版(違法アップロード)を取り巻く状況

ベトナムにおける海賊版の流通状況

 ベトナムにおいて、日本のアニメや漫画などの海賊版の流通は非常に多く、近年では、ウェブサイト上にそれらの著作物をアップロードし、ベトナム人が理解できるようにベトナム語の字幕を付けたものが主流です。また、依然として、海賊版の本やCDの販売も多く、これらもベトナム語訳等が付され、ベトナム人が理解できる内容に変更されています。さらに、フェイスブックを通じた海賊版のやり取りも多く行われているようです。

 ベトナム映画局の調査では、2020年7月時点で、400以上のベトナム語のウェブサイトが、オンラインにより数万本の映画を公開しており、それらのほとんどは海賊版と考えられています。

ベトナムにおける海賊版(違法アップロード)の取り締まり状況

 ベトナム映画局によると、海賊版の閲覧手数料を得ている者もいるとのことですが、取り締まりが十分に行われていないのが現状です。

 ベトナム当局は違法アップロードが横行していることを認識していますが、件数が多く、いわゆるイタチごっこの状態にあります。たとえば、違法アップロードを行う者は、海賊版をアップロードするサイトを消去されても、ベトナム国外のサーバーに移すなど多様な対抗手段を用います。そして、このような違法アップロードを行う者を開示する手続も整備されておらず、違法アップロードを行う者を発見することは容易ではありません。

ベトナム国内での海賊版に関する認識

 違法アップロード作品をダウンロードして利用することは、多くのベトナム人にとってよくあることですが、中には違法であると認識している人もいます。違法ダウンロードがよく行われる理由は複数ありますが、無料で利用できることやユーザー側に罰則が科せられることが現状でほとんどないためです。

 なお、ダウンロード行為は「複製」、すなわち「著作物またはレコードの1つまたは複数の写しの作成」および「電子形式による当該著作物の写しの作成」行為にあたり(知的財産法4条)、同法25条(1)(a)および(d)に規定されている使用(科学的研究目的での写し作成や学校教育目的での引用等)に該当しない限り同法に反する(同法28条6項)ものとなります。また、同法28条8項に定める「著作物を、著作権所有者の許可なしに、かつ、法律に基づいてロイヤルティおよび報酬を支払わず並びにその他の物的給付をしないで利用する」違法行為についても検討しなければなりません。ただし、前述のように運用として罰則が科せられることは少ないようです。

 また、ベトナムにおいても、海賊版のアップロードやダウンロードが社会問題になっているのは事実ですが、法律家や専門家の間で問題にされている程度であり、一般のベトナム人にとっての関心は高くありません。
 他方で、SNSやテレビを通じて、次のような著作権関連の具体例がとりあげられています。

具体例1
 ベトナム人映画プロデューサーのNgoc Hiep氏が、自身の関わる映画が公開初日からインターネット上で違法にアップロードされており、それによる興行収入の低下を懸念していることを、著作権保護についてのインタビューで答えました。
 彼女の話によると、ベトナム映画プロデューサーは、映画製作のための資金調達、品質、ロジスティクスに関する懸念に加えて、著作権に関する懸念も常に抱えているということです。それは、公開初日から、隠れて撮影されたものがオンラインで投稿され、海賊版が作成される可能性があるためです。

具体例2
 米国通商代表部(USTR)は2021年1月14日、「模倣品・海賊版の悪名高き市場に関する報告書(2020 Review of Notorious Markets for Counterfeiting and Piracy)」を公表しました。当該報告書では、phimmoi.netおよび phimmoizz.netという2つのベトナム語ストリーミングウェブサイトが、何千もの無許可映画やテレビシリーズを公開し提供していると明確に指摘しました。
 2019年8月、著作権所有者はphimmoi.netサイトの運営者に対してベトナム当局に刑事告発を行ったため、ベトナム当局はこのサイトの活動に関する公式調査を開始し、同サイトをブロックしました。ただし、その後、当該ウェブサイト運営者がphimmoizz.netという別のサイトを作成し、同様の違法活動を行っているようです。

 このように、違法アップロードがベトナム社会において問題になることも増えており、今後、この問題がよりクローズアップされる可能性が高いといえます。

日本の著作権者が海賊版(違法アップロード)被害を防ぐために取り得る手段

 海賊版を完全になくすことは現実的ではありません。しかしながら、著作権者は、日本の視聴者のみならず、ベトナムを含む世界中の視聴者が海賊版の閲覧を控えるように啓発活動および政府等に対するロビー活動をすることで、海賊版による著作権侵害を減少させることが可能です。このような啓発活動およびロビー活動は、長期的に行う必要があるものの効果が認められています。

 たとえば、WHOによると、タバコについて、地道な啓発活動およびロビー活動を通じて、世界的に喫煙者数の減少が確認されています。そのため、海賊版を撲滅するためには、著作権者が日本国政府や広告会社と協力し、映像等を通じたPRを行ったり、Googleなどのプラットフォームを提供する企業と提携して視聴者に対して著作権を侵害してはならないという情報モラルを高めるための教育を行ったりする方法が考えられます。

 さらに、ベトナムにおいて自社が制作・提供する漫画・アニメ等の違法アップロードを発見した場合に取るべき対応方法としては、刑事罰が適用されるようなケースについては当局への告発等をすることが考えられ、また、実損の回復というよりは抑止的効果を考えて民事裁判等で争うということも考えられます。ただし、これらの方法で海賊版を完全に消滅させることは難しいため、長期的な視点での海賊版防止という観点から、上記のような啓発活動やロビー活動も重要になります。

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