パキスタンにおける合弁事業(Joint Venture)組成のポイント

国際取引・海外進出
宮﨑 貴大弁護士 西村あさひ法律事務所

 パキスタンで合弁事業を組成するにあたり、留意すべき点を教えてください。

 パキスタンでは、Companies Act, 2017(以下「2017年会社法」といいます)により、株主総会における取締役選任時に累積投票制度(Cumulative Voting System)が義務づけられているなど、少数株主を保護するための制度が手厚く定められています。

解説

目次

  1. 合弁事業組成時に留意すべき少数株主保護制度
  2. 取締役選任の累積投票制度
  3. 累積投票制度を踏まえ、議決権と選任権の割合を検討する

合弁事業組成時に留意すべき少数株主保護制度

 少数株主が会社の経営や利益分配から不当に排除されないよう、多くの国は法律で、少数株主に対して会社経営に関与する一定の権利を認めています(少数株主保護制度)。いかなる制度を定めるかは、主に各国の政策判断によりますが、パキスタンの2017年会社法は、比較的少数株主に手厚い保護を与えています。本稿では、日系企業の進出時に選択されることが多いパキスタン企業との合弁事業組成時に留意すべきポイントとして、累積投票制度をとりあげます。

取締役選任の累積投票制度

 パキスタンの2017年会社法は、公開会社、非公開会社の区別にかかわらずすべての株式会社において、株主総会における取締役選任は、累積投票制度によることを定めています(2017年会社法159条5項)。

 同投票制度では、株主は、それぞれ「保有議決権数 × 選任される取締役の人数」で計算される数の議決権を有します。
 たとえば、取締役候補が5名(A1、A2、A3、A4、B1)おり、その中から4名を選任する場合を例とすると、以下のようになります。

  • 合弁会社:議決権付株式総数 4,000株
  • 株主A社:議決権付株式 3,000株保有、取締役候補A1、A2、A3、A4を推薦
  • 株主B社:議決権付株式 1,000株保有、取締役候補B1を推薦

 一般的な多数投票制度では、取締役候補ごとに多数決により選任が決まることから、この事例では、A社が単独で過半数を超える議決権を有するため、取締役には、A社が推薦する4名(A1、A2、A3、A4)が選任されることになります。一方で、累積投票制度の下では、選任される取締役の人数分を乗じた議決権を有することになるため、選任数が4名であれば、

  • A社:3,000株 × 4=議決権 12,000
  • B社:1,000株 × 4=議決権 4,000

 となり、A社およびB社は、投票時にこれらの議決権を取締役4名に割り振ることとなります。仮にB社が、取締役候補B1に対して議決権4,000を行使した場合、全議決権の4分の1がB1に投票されるため、B1は必ず選任されることとなります。

 日本においても、取締役選任時における累積投票制度自体は存在しますが、定款により排除可能で、かつ、実務上大部分の会社がこれを排除しています。一方、パキスタンの2017年会社法は、定款による同制度の排除を認めていない(累積投票制度は強行法規であり、定款自治は認められない)と考えられています

 また、パキスタンの株式会社においても、定款変更など一定の重要事項の変更には、株主総会における特別決議(special resolution)が必要となるところ、この特別決議には全議決権の4分の3(75%)以上の賛成を必要とします(2017年会社法2条66項)。特別決議を否決させる(拒否権を持つ)には、たとえば日本の株式会社では全議決権の3分の1超が必要ですが、パキスタンの株式会社では4分の1超で足りることから、この点でも、パキスタンの2017年会社法は、少数株主に比較的有利であるといえます。

累積投票制度を踏まえ、議決権と選任権の割合を検討する

 パキスタンにおいて合弁事業組成を検討する際には、以上を念頭に、出資割合や取締役数等を検討することになります。日系企業がマジョリティーを取る計画であれば、議決権の75%を取るか否か、または、パキスタン企業に特別決議上の拒否権を残して50%超75%未満に留めるかが、法務の観点からは重要な初期的検討事項となります

 また、株主間契約において、取締役総数や各当事者の選任数を協議する際に、各当事者が累積投票制度の下でどのような割合の選任権を有するかは交渉の重要なスタートポイントとなります。

 なお、取締役の人数についても2017年会社法に定めがあり、株式譲渡制限のある非公開会社(private company)でかつ株主が2名以上の場合には、最低2名の取締役を置く必要があります(2017年会社法154条1項(b))。また、株式譲渡制限のない公開会社(public company)の場合、非上場企業であれば最低3名、上場企業であれば最低7名の取締役を置く必要があります(同項(c)(d))。

 したがって、たとえば、公開会社で合弁事業を組成する場合、少数株主は、取締役数3名の場合、議決権割合の3分の1(約33%)を押さえれば、2017年会社法上取締役を1名選任する権利を有する点、また、上場企業の場合には、議決権割合が15%に留まる場合であっても、取締役7名の場合にはうち1名を選任する権利を有する点にも留意が必要です。

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