ベトナム新型コロナ対策・集中隔離手続と日本企業に求められる対応

国際取引・海外進出
盛 一也弁護士 明倫国際法律事務所

 ベトナムで事業展開する当社では、日本人駐在員が現地に赴任しています。ベトナムでは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として、どのような規制がなされているのでしょうか。また、隔離の状況や罰則などについて詳しく教えてください。

 新型コロナ対策のため、駐在員などがベトナムに入国した後、その入国者は、集中隔離がなされ、その完了後(2021年6月7日現在の規制では21日間の隔離が要請されています。)、さらに7日間、自宅等において自己隔離を続けなければなりません。また、居住地の自己隔離と健康監視に違反すれば、行政処分・刑事処分を科せられる危険があります。

 ベトナムに進出をする日系企業は、日本と異なる現地の規制を最低限把握し、自社からベトナムへの駐在員に対して、その駐在員の安全を守りながら企業として活動するためにその規制を周知徹底することで、駐在員が不測のトラブルに巻き込まれることを防ぐことが必要です。

解説

目次

  1. 日本企業や現地駐在員が注意すべき点
  2. 隔離中の駐在員の心理的負荷を軽減する方法
  3. 入国者に対する隔離と罰則
  4. 感染者との接触者・関係者の特定方法
  5. 隔離や健康報告に関する規制
  6. 隔離規制違反に対する罰則
  7. 日本人に対する刑事処分等の適用の可能性

 近時、ベトナムでは、自宅等での自己隔離を遵守しなかったり、新型コロウイルス感染症(COVID-19。以下「新型コロナ」といいます)の流行地からベトナム帰国後に、厳密な健康宣言を行わなかったりすることによって、新型コロナを他人に感染させたとして、刑事事件として立件されたケースが数件発生しています。

 以下、日本企業から多く相談を受けるケースを中心に解説していきます。

日本企業や現地駐在員が注意すべき点

Q1:ベトナムに入国して、集中隔離を完了した駐在員に対して、行政処分・刑事罰などを科せられないようにするために、ベトナム現地でビジネスを行う日本企業や駐在員が注意すべき点を教えてください。

 新型コロナ対策のため、駐在員などがベトナムに入国した後、その入国者は、集中隔離がなされ、その完了後(2021年6月7日現在の規制では21日間の隔離が要請されています。)、さらに7日間、自宅等において自己隔離を続けなければなりません。

 集中隔離が終了した後、駐在員などのベトナムへの入国者は次の7日~14日間、健康監視が継続されます。この期間中、他人との接触を制限し、次の規制を守ることで、行政処分または刑事罰を免れることができます。ベトナムでビジネスを行う日本企業は、これらについて駐在員に周知徹底しなければなりません。これを怠った場合、駐在員が拘束されるなどして、不測のトラブルを招く可能性があります。

 また、コンプライアンスの観点からも、この点についての周知徹底は不可欠です。場合によって、駐在員からベトナムにおける新型コロナに関する規制および手続きを遵守するという内容を含む誓約書を取得するなどの対策を行うことで、駐在員がベトナムの新型コロナに関する規制および手続きを遵守する可能性を高めることも考えられます。

 駐在員に周知すべき主な規制と対策は次の通りです。

  • 居住地で健康状態を自己監視し、集中隔離期間が終了したら、次の居住地の保健局に通知する必要があります。通常、入国者の招聘会社が、事前に集中隔離後のホテル、アパートに連絡し、居住地の保健局にも通知を行います。これらの通知は、渡越の手配をしたエージェントなどに依頼するか、または、現地法人や拠点にスタッフがいる場合は、これら現地スタッフを通じて行うように準備する必要があります。

  • 規定通り、定期的な健康報告を行うため、Bluezone、Vietnam Health Declaration等のアプリケーションをスマートフォンなどで設定する必要があります。会社としては、駐在員のこれらアプリのインストール状況も確認しておく必要があります。

  • 発熱、咳、喉の痛み、息切れ、倦怠感、悪寒、味覚の喪失の兆候がある場合は、すぐに滞在先のホテルまたは居住地の保健局に通知しなければなりません。この点は、事前に駐在員に対し、初期症状と思われる要素がある場合は、希望的な判断をせず、すぐにこれら通知をするように周知徹底をしておく必要があります。

  • 居住地から外出しないようにします。仕事やその他の必須業務を行うために、外出する必要がある場合、事前に外出スケジュール、場所等をホテルまたは居住地の管理者、居住地の保健局に通知し、政府が出された5K(マスク・間隔・大勢で集まらない、消毒・医療宣言)の勧告を厳密に守る必要があります。外出については、ベトナムの行政当局もしっかりとした監視を行っていますが、会社としても、この点の定期的な確認とフォローアップなどを行うことが望ましいと言えます。

  • SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)のPCR検査を7日目(集中隔離日の終了日から)に受ける必要があります。通常、宿泊するホテルからこれについて案内してもらいます。

隔離中の駐在員の心理的負荷を軽減する方法

Q2:隔離は、駐在員本人にとって大きな精神的な負担があると聞きます。この点について、会社はどのようなフォローができるのでしょうか。

 確かに、ベトナムにおける隔離は、部屋から一歩も出ることはできず、精神的にもかなりの負担があると聞いています。

 隔離中は、ほとんどどの企業が「テレワーク扱い」として、営業時間中は就業義務を課すケースが多いと思われますが、その間でも、比較的柔軟に業務外活動(たとえば、日本の家族とテレビ会議で話をするとか、読書やインターネット閲覧など)を許可するなどして、なるべくストレスがたまらないように配慮することが望ましいと言えます。

 また、現地に他のスタッフがいたり、依頼できる知人がいる場合は、隔離食以外の料理やスイーツの差入れ(デリバリー)を行うなど、飽きのこない対策を講じてあげることも必要です。

 日本の会社側からの定時連絡やテレビ会議なども、この期間中はあまり駐在員にストレスがかからない程度のテーマや分量にするなどし、隔離中の駐在員の希望をこまめに聞くなどして、心理的に孤立感を抱かせないような配慮も重要です。

 「日本の本社や、現地のスタッフが支えてくれている」という気持ちを持てる環境においてあげることが、駐在員の心理的負荷の軽減のために重要と言えるでしょう。

入国者に対する隔離と罰則

Q3:ベトナムでは、駐在員などを含む入国者は集中隔離後も、7日以内の自宅隔離が必要と規制されていますが、自宅隔離中に外出して、他人に新型コロナを感染させた者は刑事事件として立件されるのでしょうか。

 いくつかの事例が報道されていますが、行政区域をまたいで移動をした者や入国者が刑事罰を科せられた、またはその疑いがあるとして調査が進められているケースとして、次のようなものがあります。

 たとえば、2021年5月23日に、ベトナム中部地域であるThanh Hoa省、Ngoc Lac区の警察は、N氏を、「人に危険な感染症を拡散する罪」で刑事事件として立件しました。発覚した事実は次の通りです。

 同月17日に、N氏はBac Giang省(ベトナムにおいて感染者の数が迅速に増加している省)からThanh Hoa省に戻りました。同氏は地元の保健機関へ健康宣言(自身の健康状態や移動経路等の各種事項についての申告)に行き、家で自己隔離を命ぜられました。しかし、N氏は自己隔離規定を守らずに、外出し、多数人と接触しました。その後、同月19日にN氏の陽性が判明しました。Ngoc Lac区の監督官庁はN氏に関係する51人の直接接触者(F1)、666人のF2(F1に接触した人)と1,228人のF3(F2に接触した人)を特定しました。その中から1人の陽性者が見つかったのです。

 別の例では、ホーチミン市において、同年3月30日に、ホーチミン市人民法院が、航空会社の客室乗務員であるH氏に対し、「人に危険な感染症を拡散する罪」の裁判を開始しました。同氏は、日本からベトナムへ向かう飛行機に搭乗した後、集中隔離場所で検疫にかけられました。集中隔離期間経過後、家に戻りましたが、同氏は所在地の自己隔離規制を守らず、3人と直接に接触するだけでなく、ホーチミン市内の様々な場所を来訪しました。その結果、同氏と接触した人のうち1人が陽性となりました。H氏には、懲役2年、観察期間4年の執行猶予付き判決が下されています。

感染者との接触者・関係者の特定方法

Q4:ベトナム政府はどのようにして感染者の接触者や関係者を特定しているのでしょうか。

 感染者数が増加しているベトナムでは、以下の方法で感染者と関係者を特定しています。

(1)F1(感染疑いのある人、流行地域から戻ってきた人、またはF0(感染者)と密接に接触した人)を探す方法

  • ステップ1:病気の発症の3日前から医学的に隔離されるまでの期間に感染者が行った、または参加した場所、イベント(疫学的場所)を特定する(直接または電話で患者に尋ねる、親戚/友人/近所の人/地区を通して尋ねる、医療記録/資料を参照するといった方法で特定します)。
  • ステップ2:疫学的場所を居住地の医療部門の人々(調整部門)に通知する。
  • ステップ3:調整部門は患者に尋ねる方法、疫学的場所や患者が住んでいる場所の人々に尋ねる方法、マスメディアによる公表、Bluezone、Vietnam Health Declaration等の健康報告アプリケーションを利用する方法で、F1を追跡・特定する。
  • ステップ4:F1のリストを確認し、完成させる。
  • ステップ5:集中隔離を行い、対象者を検査する。

(2)F2(F1と接触した人)を探す方法

  • 方法1:F1の対象者に対する調査を行い、F2の情報をF1自ら記入させる。
  • 方法2:F1を探す方法と同じように現地の監督官庁が対象者を探す。そうして作成したF2のリストを現地の監督官庁に渡して、在留場所での自己隔離を行わせる。

隔離や健康報告に関する規制

Q5:ベトナムでは、隔離や健康報告に関してどのような規制がありますか。

 対象者によって隔離規制が異なるものの、現状では、主に5つのカテゴリに分類した規制がなされています。この規制は、ベトナム人だけでなくベトナムに駐在する日本人についても適用されます。

  • F0(感染者):対象者は病院で隔離され、医師の指示に従い治療が必要となります。
  • F1:対象者は、居住地の医療部門にただちに通知し、陰性の検査結果が出されるまで、指定地域で隔離される必要があります。集中隔離期間は、流行の深刻さによりますが、通常14〜21日です。
  • F2:居住地の医療部門に通知し、自宅で健康状態を監視し、自己隔離を行います。自己隔離期間は、通常7日~14日です。F1の陰性検査結果が出された場合、F2は自己隔離を終了することができます。
  • F3:F2に接触した者。居住地の医療部門に報告し、健康を自己監視し、発熱、咳、息切れ、倦怠感等の症状が表れた場合はすぐに報告する必要があります。
  • F4:F3に接触した者。健康の自己監視を行う必要があります。

隔離規制違反に対する罰則

Q6:日本では、新型コロナに感染して外出しても刑罰までは科されない可能性が高いですが、ベトナムでは、上記の例のように新型コロナに関する隔離規制に違反した場合、どのような規制がなされていますか。

 ベトナムでは、首相により、新型コロナがグループA(極めて急速に、広範囲にわたるだけでなく、死亡率が高いまたは、病気の原因が不明なもの)の危険な感染症であり、また、世界的大流行が認められる旨の宣言がなされました。新型コロナが世界中で発生して以来、ベトナム国内でも病状の深刻化を防ぐため、新型コロナの予防・管理全国運営委員会から、エピデミック予防・管理に関する規制を厳格に遵守することを求める多数の緊急の公文書が発出されています。

 その1つが、医療隔離の遵守に関する規制です。
 行政処分としては、医療隔離措置、監督官庁の強制的な医療隔離措置の適用を拒否または回避する行為に対し、5百万ドンから1千万ドン(≒2万5千円から5万円)の罰金が科せられます。

 刑事責任については、個人が自宅での隔離に関する規則を遵守しなかったまたは医学的宣言を規定通りに宣言しなかったことで、他人に新型コロナを感染させた場合は、刑法の240条1項c号に規定されている「人に危険な感染症を拡散する罪」に処すとされています。この犯罪の最低刑罰は、5千万ドンから2億ドン(≒25万円から100万円)の罰金または5年以下の懲役に処すというものです。最高刑は10年から12年の懲役です。さらに、有罪判決を受けた場合、1年以上5年以下の期間、一定の職務の担当、職業、仕事への就業が禁止されることがあります。

日本人に対する刑事処分等の適用の可能性

Q7:行政処分または刑事処分などはベトナムに駐在する日本人にも適用されますか?

 ベトナム法またはベトナムが加盟する国際条約に基づく外交または領事免除の対象となる場合を除き、日本人を含む外国人であっても、ベトナムの領土内で行政規制違反または犯罪該当行為を行った場合は、ベトナムの法律の規定に従って、行政処分を科せられるか、刑事罰が科されます

 したがって、日本人であっても、自己隔離中に自宅等を無断で離れれば、行政処分・刑事罰に科せられる危険があり、特に、駐在員が懲役刑を科せられた際の対応などは困難を極めることが予想されます。そのため、ベトナム現地でビジネスを行う日系企業は、現地におけるビジネスを円滑に行うためにも駐在員に対して、前記のような行政処分・刑事罰の存在等について十分に周知等を行う必要があります。

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