株式交付無効の訴えとはどのような制度か
コーポレート・M&A 当社は、他の会社との間で「株式交付」を行いましたが、当社の株主の1人から「私が知らないところで行われた。」「なかったものにしてくれ。」「話し合いに応じてくれないのであれば、裁判所に訴えることも考える。」などと言われています。
調べていく中で、「株式交付無効の訴え」という方法があることを知りました。万が一のために備え、株主から訴えられた場合の対応を検討しておきたいのですが、これはどのような制度なのでしょうか。
「株式交付無効の訴え」は、令和元年改正会社法によって株式交付制度が創設されたことに伴い、株式交付の無効を訴えるための方法として新たに設けられたものです。従前の会社法に定められた、株式会社の成立後における株式の発行や株式交換の無効の訴えと同様、法律関係を早期に安定させることや画一的な処理を図ることを狙いとして、訴えによってのみ行うこととされている他、提訴期間等にも一定の制約が課されています。
解説
※凡例
- 改正会社法:会社法の一部を改正する法律(令和元年12月11日法律第70号)に基づく改正後の会社法
- 旧会社法:会社法の一部を改正する法律(令和元年12月11日法律第70号)に基づく改正前の会社法
株式交付制度の概要
株式交付制度は、株式会社(以下「株式交付親会社」といいます)が、会社法199条1項に基づく新株発行等の募集によらずに、他の株式会社(以下「株式交付子会社」といいます)の株式の譲渡人に対して当該株式会社の株式を交付できることとする制度です(改正会社法2条32号の2)。株式会社が、自らの株式を対価とする手法により、円滑に他の株式会社をその子会社とすることができるようにするために創設されました。
株式交付制度の概要は「【改正会社法で新設】株式交付とは?株式交換との違い、利用できる場面は?」、株式交付の具体的な手続は「株式交付の手続きの流れ」をご参照ください。
株式交付の効力の発生
株式交付の効力は、株式交付親会社が株式交付計画において定めた「効力発生日」(改正会社法774条の3第1項11号)に発生します。
すなわち、株式交付親会社は、効力発生日に、給付を受けた株式交付子会社の株式および新株予約権等を譲り受け、当該株式および新株予約権等の譲渡人(株式交付子会社の株主)は、株式交付計画における対価の定めに従い、株式交付親会社の株式その他の対価を取得することになります(改正会社法774条の11第1項~4項)。
株式交付無効の訴え
概要
株式交付を行う場合、当事者となる会社の状況、対価の設定などに応じて、株式交付計画の作成・株主総会における承認、事前開示・事後開示手続、買収会社による通知、債権者異議手続といった法定の各種手続を経ることを要します。
この点、改正会社法は、すでに効力が発生した株式交付の手続に瑕疵があった場合において、株式交付の無効は、「株式交付無効の訴え」をもってのみ主張することができることとしています(改正会社法828条1項13号)。
これは、旧会社法における株式会社の成立後における株式の発行や株式交換の無効の訴え(828条1項2号・11号)と同様に、民法に基づく無効(民法95条)の主張を許容することによる不安定さを排除し、法律関係を早期に安定させることや画一的な処理を図ることを狙いとしたものです。
なお、株式交付無効の訴えは株式交付「全体」の無効に関する制度ですが、株式交付における株式交付子会社の株式の「個別」の譲受けの取消し、無効等については、原則として、意思表示の瑕疵を理由とした民法に基づく取消し、無効といった主張が認められています。もっとも、会社法上、法律関係の安定を図る観点から、民法上の原則を排除し、株式会社の成立後における株式の発行に関する場合(会社法211条)と同様に、取消期間の限定といった一定の制約が課されています(改正会社法774条の8)。
提訴期間
株式交付無効の訴えを提起できる期間(提訴期間)は、株式交付の効力発生日から6か月とされています(改正会社法828条1項13号)。
提訴権者、被告
本来、法律行為の無効の主張はまったくの第三者から行うことも可能とされていますが、株式交付と関わりのない第三者からの無効主張を認めることは法律関係の不安定さを招く可能性があることから、会社法では、株式交付無効の訴えを提起することができる者(提訴権者)を制限しています。具体的な提訴権者は以下のとおりです(改正会社法828条2項13号)。
- 株式交付の効力発生日において株式交付等親会社の株主、取締役等であった者
- 株式交付に際して株式交付親会社に株式交付子会社の株式または新株予約権等を譲り渡した者
- 株式交付親会社の株主等、破産管財人または株式交付について承認をしなかった債権者
また、株式交付無効の訴えの被告は、株式交付親会社とされています(改正会社法834条12号の2)。なお、株式交付子会社は、株式交付に係る取引の当事者ではないため、被告とはされていません。
無効事由
株式交付の無効事由については、会社法上、明示的な規定は設けられておらず、解釈に委ねられています(他の「会社の組織に関する行為の無効の訴え(改正会社法828条)における無効事由」と同様です)。
この点、無効事由の典型例としては、以下のようなものが考えられます。
- 株式交付計画について法定の要件を欠くこと
- 株式交付計画を承認する株主総会の決議に瑕疵があること
- 株式交付計画の内容等を記載した事前開示書面・事前開示書面が備え置かれていないこと
- 債権者異議手続をとらなければならないときに、これをとらなかったこと
無効判決の効力
株式交付無効の訴えに係る請求を認容する判決を確定したときには、法律関係の安定性を確保する観点から、かかる認容判決の効力は第三者に対しても及ぶものとされています(対世効、改正会社法838条)。また、同様の観点から、かかる認容判決が確定したときには、対象となった株式交付は(遡及することなく)将来に向かってのみその効力を失うこととされています(将来効、改正会社法839条)。
この場合、株式交付親会社が当該株式交付に際して当該株式交付親会社の株式(旧株式交付親会社株式)を交付したときは、当該株式交付親会社は、当該判決の確定時における当該株式交付の際に給付を受けた株式交付子会社の株式および新株予約権等を返還しなければならないものとされています(改正会社法844条の2第1項前段)。
まとめ
株式交付が事後的に無効となった場合には会社の組織運営が非常に不安定な状況に置かれることになるため、株式交付を行おうとする会社としては、万が一にも株式交付が無効となることのないよう、入念に準備し、適切に法定の手続を履行することを要します。
また、「株式交付無効の訴え」が提起された場合には、当該訴えの中で、無効事由の有無を中心とした詳細な議論が行われるケースも十分に想定されます。
これから株式交付を行おうとする場合、「株式交付無効の訴え」が提起された場合のいずれの場面においても、基本的に、弁護士、税理士、公認会計士といった各方面の専門家の協力を得ながら、慎重に進めていくことが望ましいものと考えられます。

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