社外取締役に対する業務執行の委託が認められるための要件

コーポレート・M&A
松下 知輝弁護士 三宅坂総合法律事務所

 当社(取締役会設置会社)は、現在、当社の業務執行取締役から買収提案を受けています。取引の公正性を図るために、当社社外取締役を中心とする独立委員会を立ち上げて買収提案の内容を検討しておりますが、今後、契約の交渉等の対外的な業務が発生すると考えられます。このような対外的な業務を社外取締役に委託してもよいのでしょうか。

 旧会社法においては、株式会社と業務執行取締役との間に利益相反関係がある場合等に、業務執行を社外取締役に委託することが可能かについて、解釈上の疑義がありました。
 しかし、改正会社法において、一定の要件を満たす場合に、適法に社外取締役に業務執行を委託できることが定められました。
 ご質問のケースでは、取締役会の決議を経て、適法に社外取締役に業務を委託することができると考えられます。

解説

目次

  1. 改正の背景
  2. 委託の要件等
  3. おわりに - 期待される効果

※凡例

  • 改正会社法:会社法の一部を改正する法律(令和元年12月11日法律第70号)に基づく改正後の会社法
  • 旧会社法:会社法の一部を改正する法律(令和元年12月11日法律第70号)に基づく改正前の会社法
  • 改正会社法施行規則:会社法施行規則等の一部を改正する省令(令和2年11月27日法務省令第52号)に基づく改正後の会社法施行規則

改正の背景

 取締役による買収(いわゆる「MBO」)等、株式会社と業務執行取締役との間に利益相反関係が生じる場面において、中立性を確保するために、社外取締役が会社側の中心となって、主体的に活動をすることがあります。
 しかし、取締役が「社外」取締役に該当するためには、当該株式会社またはその子会社の業務執行取締役等にあたらないこと等、会社法で定められた要件(いわゆる「社外性」要件。会社法2条15号)を満たす必要があります。
 上記のような利益相反関係が生ずる場面において、社外取締役が主体的な役割を果たすことは、まさしく社外取締役に期待されている役割です。それにもかかわらず、旧会社法においては、対外的行為を伴う活動をすると、形式上、「業務執行取締役等」に該当し、「社外性」要件を欠くことになるのではないかという解釈上の疑義がありました。
 そこで、改正会社法では、一定の要件(後記2参照)を満たす社外取締役への業務執行の委託については、社外性要件における「業務の執行」に該当しないことが明文で定められ、解釈上の疑義が払拭されました(改正会社法348条の2第1項)

委託の要件等

 改正会社法では、社外取締役への業務執行の委託が認められる要件として、以下の旨が定められています(改正会社法348条の2第1項。また、指名委員会設置会社と執行役が利益相反関係にある場合についても、下記と同様の定めがあります(同条2項))。

  1. 株式会社(指名委員会等設置会社を除く)が、
  2. 当該株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるとき、その他取締役が業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるとき、
  3. 取締役の決定(取締役会設置会社においては取締役会の決議)によって、当該株式会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができる

 なお、上記②は、利益相反取引(会社法356条1項2号および3号)に限られず、MBOや少数株主の締出しを行う場合等、広く社外取締役による監督機能の発揮が期待される場合が含まれると解されています。
 上記①から③の要件を満たす業務執行の委託は、社外性要件における「業務の執行」に該当しないことが明文で規定され(改正会社法348条の2第3項)、社外取締役は社外性要件と抵触するリスクなく業務執行を受託できることになりました(ただし、業務執行取締役(指名委員会設置会社では執行役)の指揮命令による委託は、この限りではありません(同条第3項))。

おわりに - 期待される効果

 上記の新たな規律は、「セーフ・ハーバー・ルール」(当該ルールに従う限り、法令等との抵触が問題とならないもの)として設けられたものであり、当該規律に従わなかったからといって、当然に法令等と抵触するわけではありません。すなわち、解釈上、社外性要件と抵触しないと考えられる範囲であれば、前記2の各要件を満たさずとも、社外取締役に業務を委託することは可能です
 ただし、社外性要件と抵触するかどうかは法的な評価であり、その判断基準は不明確です。そのため、社外性要件との抵触を慎重に判断する会社は、従前、社外取締役への業務委託全般を避けてきたと考えられます。
 改正会社法では、各要件を満たすことで、解釈上の疑義なく、社外取締役に業務執行を委託できるようになりましたので、社外取締役にはより幅広い場面で主体的な役割を担うことが期待されます。

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