民法改正によって明文化された詐害行為取消権

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 改正民法によって、詐害行為取消権の内容が明文化されたと聞きましたが、具体的にどのような内容が明文化されたのでしょうか。

 詐害行為取消権とは、債権者を害する債務者の行為(詐害行為)を、訴えによって取り消し、債務者の財産から逸出した物や権利を債務者の元に回復する権利です。
 旧民法では、詐害行為取消権に関する条文は424条から426条までの3つしかなく、旧民法424条は詐害行為の一般的な要件を定めてはいますが、詐害行為取消権の内容の多くが判例および解釈に委ねられていました。

 詐害行為の典型である財産減少行為ではなくても詐害行為になる場合があることを判例は認めていましたが、その要件は必ずしも明確ではありませんでした。改正民法は、判例法理に加えて、平成16年に成立した新しい破産法の否認権に関する内容を踏まえ、①財産減少行為、それよりも厳しい要件を課した、②相当価格処分行為、③偏頗行為という行為類型を定めました。また、①、③の複合型として、④過大な代物弁済があります。
 さらに、改正民法は、転得者に対する詐害行為取消請求の要件を明確にするほか、詐害行為取消しの効果については従来の判例の考えを変更しています。

解説

目次

  1. ① 財産減少行為
  2. ② 相当価格処分行為
  3. ③ 偏頗行為
  4. ④ 過大な代物弁済
  5. 転得者に対する詐害行為取消請求
  6. 事実上の債権回収機能
  7. 詐害行為取消しの効果
  8. 権利行使期間の短縮など

※本記事の凡例は以下のとおりです。

  • 改正民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正後の民法
  • 旧民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正前の民法

① 財産減少行為

 詐害行為の典型としては、財産減少行為があります。たとえば現金300万円のほかには財産がない甲が、乙に対し200万円の債務を負っているにもかかわらず、丙に250万円を贈与すると、乙に対する債務全額を弁済することができなくなるので、客観的には財産減少行為として詐害行為になります。さらに詐害行為の主観的要件として、甲の詐害の意思と丙の悪意が必要となります(旧民法424条)。

財産減少行為のイメージ

財産減少行為のイメージ

② 相当価格処分行為

 相当価格処分行為とは、次の例のように不動産を金銭などに換価し、債務者の隠匿の意思、受益者の悪意によって債権者を害することとなる行為です。たとえば、債務者Aの唯一の財産が時価500万円の建物で、これをBに500万円で売ったとします。建物がお金になっただけで、甲の財産額は減っていませんが、お金は隠すなどしやすいので、改正民法は、Aに隠匿の意思があり、受益者BもAの隠すなどの意思を知っていた場合には、詐害行為として取り消せるとしました(改正民法424条の2)。これは、破産法161条1項の否認の要件と同一です。
 旧民法においては、破産法161条1項の否認の要件は満たさないにもかかわらず、判例の基準に従うと詐害行為として取り消される可能性があるという不統一な状態になっていましたが、改正民法ではこのような状態が解消されました。

相当価格処分行為のイメージ

相当価格処分行為のイメージ

③ 偏頗行為

 QとRがそれぞれ同じく債務者Pに対して300万円の債権を有している中で、PがQのみに対して唯一の現金200万円で弁済した場合偏頗行為の例としてあげられます。PはQに債務を負っているので、この弁済は、Pの財産を減少させるものではありません。しかし、本来ならQとRに100万円ずつ弁済がなされるべきで、債権者の平等を損ねる偏頗行為に当たります。

 旧民法における判例は、債務者Pと受益者Qとが通謀して他の債権者Rを害する意思をもっていた場合は、詐害行為取消しの対象になるとしていました。一方、破産法162条1項1号は、債務者(破産者)が支払不能になった後に行われた偏頗行為を、否認の対象にしています。

 そこで、改正民法424条の3第1項は、その弁済が、Pが支払不能であった時に、PとQとが通謀してRを害する意図をもって行われたときには、取り消せることとしました。さらに、PのQに対する弁済が弁済期到来前に行われたような場合、悪質なので、支払不能になっていなくても取り消せるようなっており、改正民法424条の3第2項は、破産法162条1項2号と同じく、支払不能になる前30日以内であれば取り消せることとしています。

偏頗行為のイメージ

偏頗行為のイメージ

④ 過大な代物弁済

 改正民法424条の4は、債務者Xの唯一の財産が時価500万円の建物で、これを代物弁済として、300万円の債権者であるYに譲渡した場合、過大な代物弁済になるので、その過大部分(債権額をオーバーする200万円の部分)については、上記であげた偏頗行為の厳格な要件がなくても、上記①財産減少行為の一般要件である債権者を害する行為であり、債務者Xの詐害の意思と受益者Yの悪意があれば取り消せることにしました。

過大な代物弁済のイメージ

過大な代物弁済のイメージ

 なお、債権額300万円までの部分は、③偏頗行為の厳格な要件があれば取り消すことができます。これも破産法160条2項等と整合性をとったものです。

転得者に対する詐害行為取消請求

 上記②相当価格処分行為の例で、問題の建物が、受益者B→C1→C2に順次譲渡され、債権者DがC2に対し取消請求をした場合、旧民法における判例は、受益者は善意でも、転得者が悪意なら、転得者に対する取消権の行使を認めています。一方、破産法は、取引の安全を図る観点から、一旦善意者を経由した以上、その後に現れた転得者に対しては、たとえその転得者が悪意であったとしても、否認権を行使することができないとしています(破産法170条1項1号)。

 そこで、改正民法424条の5は、破産法と同様、取消権の行使には受益者および転得者全員の悪意を要することとしました。なお、破産法170条1項は、従前、転得者が前者の悪意を知っていたことも要件としていましたが(二重の悪意)、改正されて二重の悪意は不要となり、改正民法の要件と統一されました。

転得者に対する詐害行為取消請求のイメージ

転得者に対する詐害行為取消請求のイメージ

事実上の債権回収機能

 改正民法424条の9第1項前段は、旧民法下の判例法理を明文化し、取消債権者は、逸出した財産の返還として金銭の支払または動産の引渡しを、直接自己に対して求めることができるとしています。
 この点、旧民法下では、取消債権者は、直接支払いを受けた金銭を債務者に返還する債務と債務者に対する債権とを相殺することが認められていました。しかし、これは、取消債権者に優先弁済権を認める結果になる(事実上、債権回収機能を認めることになる)ので、批判があり、詐害行為取消権の場合には、先に弁済を受けた者が後に弁済を受けようとした者から詐害行為取消権を行使されると、後に弁済を受けようとした者のみが債権の回収を実現することになりかねないという問題(いわゆる遅いもの勝ち)も指摘されていました。
 今回の法案の検討過程でも、この相殺を禁止する規定の新設が検討されましたが、結局、見送られ、上記相殺による債権回収機能は、改正民法下においても維持されます。

詐害行為取消しの効果

 債務者Aが唯一の財産である建物をBに売却したので、債権者Dがその取消しを求めた場合、判例は、詐害行為取消しの効果は、債権者Dと受益者B(または転得者)との間においてのみ生じ、債務者Aには及ばないとし(相対的取消し)、したがって、詐害行為取消訴訟においてはB(または転得者)のみを被告とすれば足り、Aを被告とする必要はないとしていました。しかし、これについては、理論的な問題が指摘されていました。
 そこで、改正民法425条は、判例を変更し、詐害行為取消請求を認容する確定判決の効力は債務者Aにも及ぶとしました
 なお、このように債務者にも判決の効力が及ぶことから、詐害行為取消訴訟で勝訴しても、受益者が債務者に(上記事例であれば建物売買契約がないことになるので)目的物を返還してしまうことができ、債権者が受益者から直接勝訴の結果を得られるとは限らなくなります。このリスクについては、詐害行為取消訴訟と共に債務者の受益者に対する返還請求権を仮差押しておくなど、対策を講じることを検討する必要があります。

権利行使期間の短縮など

 詐害行為取消権の消滅時効は、現旧民法では債権者が取消しの原因を知った時から2年とされていましたが、改正民法では債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年と判例に従って正確に記載するなどしており(改正民法426条)、また除斥期間が20年から10年に短縮されました(同条)。

<追記>
2020年4月2日:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)の施行に伴い「現行民法」の記載を「旧民法」に改めました。

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