文書の一部(抜粋)の証拠提出

訴訟・争訟

 私は、医療機器メーカーの法務部門に所属しています。
 先日、当社の製品を使用している病院で患者が死亡し、その遺族が、当社製品の欠陥が死亡の原因であると主張して損害賠償請求訴訟を当社に提起したため、現在係争中です。
 遺族側は、当社製品の一部部品が脆弱だったために、これが破損して機器が異常な挙動を示し、患者を死亡させたと主張しています。しかしながら、当社は、患者が死亡した直後から、複数の専門家に依頼して原因調査を行っており、その結果は数百ページにもわたる報告書(公開はしていません)に取りまとめられています。その報告書中には、遺族側が問題視している部品の品質に問題がなかったことが明記されています。
 もっとも、報告書の別のページには、相当程度症状が進行した患者(なお、死亡した患者はこれにはあたりません)に対して当社製品を使用する際には特別の注意が必要である旨や、その使用上の注意については使用説明書等でもっと強調したほうがよいといった提言が記載されています。
 私としては、これらの記載が遺族側や裁判官の目に触れると、当社製品上の指示・警告表示が不十分だったのではないかといった不要な争点を生じさせるおそれがあるため、報告書を証拠提出することには消極的です。しかしながら、当社役員は、部品の品質について記載されたページだけ抜粋して証拠提出すればよいではないかと言っています。
 そのような、ある文書の一部のみを訴訟の証拠として提出することは可能なのでしょうか。

 文書の一部のみを証拠とすることは可能であり、大部の文書につき、証明したい事実に関係する部分のみを抜粋して証拠提出することなどは、実務上一般的に行われています。
 ただし、ある文書中に自身に有利な記載と不利な記載とがある場合に、前者のみ抜粋したものを証拠として一部提出することについては、最終的に残部も証拠提出することを余儀なくされる可能性があるため、安易に行うべきではないと考えられます。

解説

目次

  1. 文書の証拠提出の方法
    1. 文書の種類
    2. 文書の写しによる証拠提出
  2. 文書の一部の証拠提出
    1. 一般的な提出方法
    2. 実務上の留意点

文書の証拠提出の方法

文書の種類

 民事訴訟における文書の証拠調べ(書証)に際して、証拠の申出を行う当事者は、まずは文書の写しを作成し、証拠説明書とともに裁判所および相手方当事者に対して提出する必要があります(民事訴訟規則137条1項)。これは、あくまで事前検討の便宜のために行われるものです。これに対し、正式な証拠調べのために行う「文書の提出」は、「原本、正本又は認証のある謄本でしなければならない」とされています(民事訴訟規則143条1項)。
 ここで、原本とは、作成名義人によって最初に、かつ確定的に作成された文書のことをいい、通常は一つしかないものですが、たとえば契約書などで、契約当事者の人数分、調印版が作成されたときなどは、原本が複数存在することとなります。
 他方、原本の写しには、謄本、抄本、正本といった種類があります。謄本とは、原本の存在および内容を証明するために、原本の内容をそのまま写した文書のことをいい、コピー機によって原本を複写したものは謄本に当たります。このような謄本のうち、公証権限を有する公務員が公証の付記をしたものを、認証のある謄本(認証謄本)といい、たとえば市町村長が公証の付記をした戸籍謄本は、認証謄本に当たります。また、謄本が原本全部の写しであるのに対し、必要な一部のみを写したものは、抄本といいます。そして、正本とは、原本に代えて、原本と同じ効力を有するものとして公証官が作成した文書のことをいいます。民事訴訟の判決を例に取れば、裁判官が署名捺印した判決書の原本は裁判所内に保管されるところ、訴訟当事者には裁判所書記官が作成する写しが交付され、これを用いて強制執行が行われたりしますが、このような判決書の原本の写しを判決正本といいます。

原本 作成名義人によって最初に、かつ確定的に作成された文書
原本の写し 謄本 原本の存在および内容を証明するために、原本の内容をそのまま写した文書
抄本 原本の必要な一部のみを写した文書
正本 原本に代えて、原本と同じ効力を有するものとして公証官が作成した文書

文書の写しによる証拠提出

 上記のとおり、民事訴訟規則上は、文書の証拠調べに際しては「原本、正本又は認証のある謄本」を提出しなければならないこととされていますが、実務においては、これらに該当しない単なる文書の写し(謄本)が提出されることもままあります。すなわち、証拠の申出を行う当事者が、そもそも文書の写ししか保持していない場合には、その写しを原本「として」提出するほかありません。また、文書の原本を保持している場合であっても、相手方当事者において写しを取り調べることに異議がなく、原本の存在および内容について当事者間に争いがないときは、写しを原本「に代えて」提出することも許容されています。
 もっとも、文書の写しについては、偽造・変造が容易であることから、その文書の証拠としての重要性にもよるでしょうが、原本を保持しているはずの当事者が写しによる証拠提出をしようとしたときは、相手方当事者が原本を提出するよう異議を述べる可能性も相当程度あるように思われます。このこともあり、文書の証拠提出をしようとする当事者は、その文書の原本を保持している場合には、原本を提出してその取調べを求める(期日に原本を法廷に持参し、裁判官および相手方当事者にその確認を求める)ほうが一般的ではあります。

文書の一部の証拠提出

一般的な提出方法

 たとえば大部の文書につき、証明したい事実に関する記載がある箇所は文書中のごく一部にすぎず、その一部のみを証拠として提出したいという場合はあり得ます。このような場合に、文書の原本としては、大部の文書の全体がそれであると考えざるを得ないのかもしれませんが、前記のとおり、実務では写しによる証拠提出も認められていることから、証拠としたい箇所のみコピーしたものを証拠提出することも可能です。このような場合、証拠説明書には、提出証拠が文書の原本の抄本であることを付記しておくのが一般的です。
 上記の場合、厳密には写しによる証拠提出ということになるため、期日において原本を提出してその取調べを受ける必要はないようにも思われます。もっとも、実務上は、証拠の申出を行う当事者が原本(文書の全体)を保持している場合は、偽造・変造の疑いを避ける目的もあり、証拠とした箇所に付箋を貼る等した原本を期日に持参して、裁判官および相手方当事者の確認を得るといったことも行われています。

実務上の留意点

 設例のように、自ら保持する大部の文書中に自身に有利な記載と不利な記載とがある場合に、前者のみ抜粋したものを証拠として一部提出することも、上記のことからすれば可能ではあります。
 しかしながら、このような場合に、相手方当事者が、証拠提出されていない残部についても内容を確認したいと考える可能性は相応にあります。そして、相手方当事者が、残部も含めた文書の全体を対象として文書提出命令の申立て(ある文書を提出するようその所持者に対して求める命令の発出を裁判所に求める申立て。民事訴訟法221条)を行い、その申立てが認められる可能性はないとはいえません。また、文書提出命令の申立てまではなされないとしても、相手方当事者が残部も含めた文書の全体を証拠提出するよう(事実上の)要求をし、裁判所もこれに同調したような場合、(そのような証拠提出が強制されないからといって)不自然にその要求を拒絶すれば、裁判所が不信感を抱き、一部提出した証拠の信用性が大きく減殺され、ひいてはその証拠を根拠とする主張の信用性さえ損なわれかねないことから、文書全体の証拠提出の要求に応じざるを得なくなることも考えられます。
 このように、最終的に残部の証拠提出を余儀なくされる可能性があることを考えれば、自身に有利な記載と不利な記載とがある文書につき、前者のみ抜粋したものを安易に証拠として一部提出すべきではないと考えられます

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