訴えてきた相手を訴え返すことの可否
訴訟・争訟 住宅メーカーである当社は、ある顧客からの注文を受け、住宅を建築しました。請負代金については、受注時に一部の支払いを受けましたが、残額は物件の完成後に支払われることとなっていました。ところが、その顧客は、完成した物件の引渡しを受けた後、当社の施工がずさんであり、欠陥住宅を買わされたと主張して、当社に対し、支払済の請負代金の返還を求める訴訟を提起してきました。
当社の施工には何らの問題もなく、顧客の主張は事実無根であるため、当社は応訴し、支払済の請負代金の返還義務について争っているところですが、そのこととは別に、未払いの残代金を顧客に支払ってもらう必要があります。そのためには、どうすればよいのでしょうか。
訴訟における原告の被告に対する請求(本訴請求)と一定の関連性を有する請求であれば、その訴訟の手続内で、被告から原告に対して反訴を提起し、同一の裁判所の審理を受けることができますが、反訴の提起が著しく訴訟手続を遅滞させることとなるときなどは、反訴は却下されるため、反訴提起の時機を失することのないよう注意する必要があります。
解説
反訴の提起
反訴とは
ある訴訟の被告が、その訴訟の原告に対し、その訴訟の手続内での同一裁判所による審理を求めて提起する訴えのことを、反訴といいます(民事訴訟法146条1項)。反訴については、訴えに関する規定を適用することとされていますので(民事訴訟規則59条)、原則として、訴状と同様の記載事項を記載した反訴状を裁判所に提出して反訴を提起することとなり、反訴状は原告に送達されます。一定の手数料(印紙代)の納付が必要となること(民事訴訟費用等に関する法律別表第一の6項)も、訴えを提起する場合と同様です。
訴状の記載事項については「訴状作成時に企業担当者において留意すべきこと」を、手数料(印紙代)の納付については、「訴えの提起に要する費用」をご参照ください。
反訴の提起の要件
被告は、原告が提起した訴訟(本訴)の目的である請求(本訴請求)、または本訴における被告の防御方法と関連する請求を目的とする場合に限り、反訴を提起することができます(民事訴訟法146条1項柱書本文)。ここで、本訴請求と関連する請求を目的とする場合の例としては、ある事故に基づく原告の被告に対する損害賠償請求に対し、逆に被告が原告に対して損害賠償請求を行う場合や、原告の被告に対する抵当権の確認の請求に対し、被告が原告に対してその抵当権の被担保債権の不存在確認請求を行う場合などがあります(設例の場合もこれに該当します)。また、防御方法と関連する請求を目的とする場合の例としては、原告の被告に対する金銭債権に基づく給付訴訟において、被告が原告に対する反対債権に基づく相殺の抗弁を主張するとともに、その反対債権につき、相殺後の残額の支払いを請求する場合などがあります。
また、反訴の提起は、「口頭弁論の終結に至るまで」、すなわち、事実審である控訴審(通常は高等裁判所における審理)が終了するまでに行う必要があること(民事訴訟法146条1項柱書本文)は、訴えの変更の場合と同様です。
さらに、これも訴えの変更の場合と同様、「著しく訴訟手続を遅滞させることとなるとき」は、反訴の提起は許されません(民事訴訟法146条1項2号)。このような場合は、反訴は不適法なものとして却下されます。控訴審が終了するまでの間はいつでも反訴を提起することができるというわけでは必ずしもないことに注意する必要があります。
訴えの変更については「訴訟の途中における請求金額の増額の可否」をご参照ください。
なお、手形訴訟および小切手訴訟、ならびに少額訴訟では、反訴を提起することはできません(民事訴訟法351条、367条2項、369条)。
実務的な対応
反訴の提起は、少なくとも控訴審の終結時までにしなければなりませんし、「著しく訴訟手続を遅滞させることとなる」と解される場合は却下されてしまいますので、適時適切に行う必要があります。
また、そのことを措くとしても、そもそも反訴は、原告の本訴請求と一定の関連性を有する請求を目的とするものであるところ、そのような請求があり得ることは、通常であれば、原告から本訴を提起された時点で被告において認識しているように思われます。それにもかかわらず、本訴が提起され、審理が相当進んでから被告が反訴を提起したという場合、裁判所からは、その反訴が苦し紛れのものであるかのように見られるおそれがないとはいえません。加えて、裁判所が和解勧試をする場合も、本訴しか係属していない場合と反訴も係属している場合とで、裁判所において原被告が合意し得ると見て両者に提示する和解案の水準は当然変わり得ることとなります。もちろん、反訴の勝訴可能性や原被告の関係性、その他個別具体的な事情がありますので一概には言えませんが、反訴の目的とするに適切な請求権を被告が原告に対して有する場合には、本訴の初期段階で反訴を提起するのが妥当なことが多いように思われ、少なくとも、訴えを提起された被告企業の担当者としては、早期に反訴提起の当否について代理人弁護士に相談すべきでしょう。
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