訴訟の途中における請求金額の増額の可否

訴訟・争訟

 当社は食品メーカーですが、約3年前、ある商品の原材料に問題があって健康被害を発生させてしまい、現在も被害者の方々への補償を続けているところです。当社は、原材料の仕入先との間で、当社の被った損害の賠償を求めて交渉を続けてきましたが、先方は強硬姿勢で、ごく少額の賠償金しか支払うつもりはないとのことであり、議論は平行線を辿っています。不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は3年間であるため、当社としては、そろそろ訴訟を提起せざるを得ないと考えているのですが、被害者の方々への補償はまだしばらく続くことが想定され、当社の損害は現在進行形で拡大し続けています。当社として、ひとまずは現時点での損害額の支払いを請求する訴訟を提起したうえで、その後の損害の拡大に伴い、訴訟の途中で請求金額を増額することはできるのでしょうか。

 訴訟の途中でも、請求の拡張を申し立てることにより、請求金額の増額を行うことは可能ですが、その申立てが著しく訴訟手続を遅滞させることとなるときなどは請求の拡張は許容されないため、申立ての時機を失することのないよう注意する必要があります。

解説

目次

  1. 訴訟係属中の請求内容の変更(訴えの変更)
    1. 請求の追加的変更
    2. 請求の交換的変更
    3. 請求の拡張・減縮
  2. 訴えの変更の要件
  3. 実務的な対応

訴訟係属中の請求内容の変更(訴えの変更)

 ある訴訟の原告が、訴訟係属中に請求の内容を変更することを、訴えの変更といいます(民事訴訟法143条)。訴えの変更は、書面をもって申し立てなければならず(民事訴訟法143条2項)、その申立書は、訴状と同様、被告に送達される必要があります(民事訴訟法143条3項)。 訴えの変更の種類としては、以下のようなものがあります。

請求の追加的変更

 たとえば、建物の賃貸人が賃借人に対し、当初は賃料を請求していたところ、これに加えて、(賃料未払いにより賃貸借契約を解除したことを前提に)建物の明渡請求も行う場合のように、従来からの請求を維持しつつ、それに別個の請求を加えることを、請求の追加的変更といいます

請求の交換的変更

 たとえば、建物の所有者が不法占拠者に対し、当初は建物の明渡しを請求していたところ、不法占拠者の管理不行き届きにより火災が発生して建物が焼失してしまったため、建物明渡請求に代えて損害賠償請求を行う場合のように、従来からの請求に代えて新たな請求を行うことを、請求の交換的変更といいます
 請求の交換的変更は、旧訴訟(従来の請求に係る訴訟)の取下げと、新訴訟(新たな請求に係る訴訟)の提起とを同時に行うものであると整理することができますので、基本的には旧訴訟の取下げについての被告の同意が必要となります(民事訴訟法261条2項)。もっとも、被告の同意が得られない場合は旧訴訟が存続することとなるにすぎず、請求の追加的変更を行ったのと同じ結果となります。

請求の拡張・減縮

 たとえば、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟において、当初の請求額が1000万円であったのを、損害の拡大に伴って3000万円に増額したり、損害の一部が補てんされたことに伴って500万円に減額するなど、従来からの請求の数量的範囲を拡張または減縮することも可能であり、前者を請求の拡張、後者を請求の減縮といいます
 請求の減縮については、訴訟の一部取下げであって訴えの変更とは性質が異なるとする見解もありますが、広義では訴えの変更にあたるといえ、いずれにせよ、訴訟の一部取下げとしての性質を有することから、基本的には被告の同意が必要となります(民事訴訟法261条2項)。これに対し、請求の拡張を行う場合には、被告の同意は法律上必要とはされていません
 なお、請求の拡張を行う場合、訴訟の目的の価額(訴額)が増えるのが通常ですので、増額分に相当する手数料(印紙代)を納付する必要があります(民事訴訟費用等に関する法律別表第一の5項)。手数料(印紙代)の納付については、「訴えの提起に要する費用」をご参照ください。

訴えの変更の要件

 民事訴訟法143条1項本文は、「原告は、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまで」訴えの変更を行うことができる旨規定しています。すなわち、訴えの変更を行うためには、まず「請求の基礎に変更がない」こと(請求の基礎の同一性)が必要です。この請求の基礎の同一性は、新旧両請求につき、請求を理由づける事実(主要事実)や主要な争点が同一であったり、証拠資料に一体性がある場合に認められます。また、「口頭弁論の終結に至るまで」とは、事実審である控訴審(通常は高等裁判所における審理)が終了するまでのことを意味します
 さらに、訴えの変更は、「これにより著しく訴訟手続を遅滞させることとなるとき」は、行うことができません(民事訴訟法143条1項ただし書)。どのような場合に「著しく訴訟手続を遅滞させることとなる」のかは、個別具体的な訴訟の経過・内容次第ではありますが、控訴審における訴えの変更の可否については、比較的厳格に判断される傾向がありますし、第一審であっても、証人尋問等が終了し、判決を下すのに適した時期になって初めて、新たな立証を必要とするような新請求に係る訴えの変更を行おうとする場合は、「著しく訴訟手続を遅滞させることとなる」と解される可能性が否定できません。すなわち、控訴審が終了するまでの間はいつでも訴えの変更を行うことができるというわけでは必ずしもないことに注意する必要があります

実務的な対応

 設例において、訴えを提起した後、訴訟の途中で請求金額を増額することは、請求の拡張にあたります。かかる請求の拡張につき、請求の基礎の同一性は当然認められるものと思われますが、だからといっていつでも請求の拡張を行うことができるかといえばそうではなく、少なくとも控訴審の終結時までに申立てをしなければならないという時的限界はありますし、「著しく訴訟手続を遅滞させることとなる」と解される場合は、請求の拡張が許容されません。したがって、設例のように損害が拡大し続けている場合に、最終的な損害総額の確定まで請求の拡張の申立てを行わずにいると時機を失するということもあり得、適切なタイミングで、見込み額を含める等して、支払いを受けたい金額のすべてが請求に乗るよう請求の拡張の申立てを行った方がよい場合もあるように思われます
 なお、請求の拡張が許容されなかった場合に、拡張分につき、その後請求ができなくなるわけではなく、消滅時効の問題がない限り、別訴訟を提起することによってその支払いを求めることは可能です。もっとも、この場合、一から主張立証をやり直さなければならなくなりますし、別訴訟が既存の訴訟と同一の裁判所に係属するとは限りませんので、両訴訟で判断が区々に分かれる可能性があることにも注意しなければなりません。

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