相手に無断で録音した音声データの証拠提出

訴訟・争訟

 当社は県内で複数のスーパーマーケットを展開しているのですが、顧客から少額の損害賠償請求訴訟を提起されてしまいました。原告となった顧客は、かなり悪質なクレーマーで、訴訟提起前にも当社のお客さまサービスセンターに何度も電話をかけてきており、あまりに乱暴な口調であったことから、途中からは当社総務部門の担当者が電話対応を代わるようにしておりました。その顧客は、電話での会話の中で脅迫めいたことも口にしていたため、担当者は、顧客には告げずに、通話内容を録音しておりました。
 今般の訴訟における顧客側の主張書面を見ますと、当社スーパーで購入した商品に不具合があったと記載されているのですが、事前に電話で話していた内容と全く異なり、およそ信用できない主張であると考えております。裁判所にもそのことを分かってもらうために、通話内容を録音した音声データを証拠として提出してもよいでしょうか。

 相手に無断で録音した音声データであっても、民事訴訟においては、証拠として提出することができる場合が多いものと思われますが、証拠提出の当否については、慎重な判断を要するものと思われます。

解説

目次

  1. 音声データの証拠提出
    1. 準文書としての証拠調べ
    2. 証拠提出の方法
  2. 無断録音の音声データ
    1. 証拠能力
    2. 実務上の留意点

音声データの証拠提出

準文書としての証拠調べ

 民事訴訟における証拠として最も多く利用されるのは、文書であると思われます。文書とは、堅い言い方をすれば、文字その他の記号によって人の思想や認識を有形物に表示したもの、ということになります。
 他方、音声や画像、映像(これらが記録された媒体)は、上記の定義からすれば文書には該当しませんが、これらも証拠として重要な意味を持つことがままあります。この点、民事訴訟法231条は、「図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の情報を表すために作成された物件で文書でないもの」(一般に、準文書と呼ばれます)が証拠として提出された場合に、これを文書の証拠調べ(書証)に準じる方法で取り調べる旨を定めています。そして、ここでいう図面等は例示であるところ、近時は、音声や画像、映像をデジタル化し、データとして記録することの方が多いと思われますが、そのような音声データ等を記録した媒体(CD-ROM、DVD-R、USBメモリ等)も、準文書に該当し、証拠として提出することができます

証拠提出の方法

 音声データを証拠として提出する方法は、2とおりあります。
 1つは、記録媒体を証拠として提出する方法です。この場合に、民事訴訟規則149条1項では、裁判所または相手方の求めがあるときに限り、反訳書面その他録音等の内容を説明する書面を提出しなければならないとされています。もっとも、実務上は、求められるよりも前に、記録媒体と反訳書面とを併せて証拠提出することも多いように思われます。
 もう1つは、反訳書面のみを証拠として提出する方法です。この場合、相手方は、記録媒体の複製物の交付を求めることができるとされています(民事訴訟規則144条)。この複製物は、証拠ではなく、あくまで反訳文書の内容を確認するための手段として相手方に交付されます。相手方は、複製物を確認し、反訳書面の記載に不正確な箇所などがあれば指摘することができることになります。
 記録媒体を証拠提出する場合、その証拠調べは、正式に行うとすれば、法廷等で音声を再生することになり、やや迂遠であることから、実務上は、反訳書面のみを証拠提出することの方が多いように思われます。

無断録音の音声データ

証拠能力

 民事訴訟法には、証拠能力(ある資料につき、これを民事訴訟の証拠として利用することができるといえる資格)を制限する規定は存在しません。そのため、話者に無断で発言内容を録音することなどは人格権侵害として違法と評価されることがあり得るものの、そのように違法に収集された証拠であっても、ただちに証拠能力が否定されることにはなりません
 違法収集証拠の証拠能力につき、東京高裁昭和52年7月15日判決・判時867号60頁は、「その証拠が、著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって採集されたものであるときは、それ自体違法の評価を受け、その証拠能力を否定されてもやむを得ないものというべきである」と判示しており、その後の下級審裁判例も、概ねこの判決の判断基準に従った判断を行っています。そして、上記東京高判の事案では、まさに無断録音テープの証拠能力が問題となりましたが、著しく反社会的な手段方法による人格権侵害があるとまではいえないとして、証拠能力が認められています。

実務上の留意点

 設例のようなクレーマーの発言内容を無断で録音することが適法か違法かについては、録音の経緯、内容、目的等の具体的状況によって判断が分かれ得るところであり、必ずしも違法ではないとの評価もあり得ます。もっとも、適法違法の議論はいったん措いて、上記2−1記載のことからすれば、無断録音の音声データの証拠能力自体は否定されず、これを証拠として提出することは認められると解される可能性が高いといえます。
 ただし、証拠提出が認められるとしても、実際に証拠提出するかどうかについては、慎重な判断が必要となります。万一、無断録音が違法と評価される場合には、証拠提出が認められたからといって、違法行為が行われたとの判断自体は変わるものではなく、そのことが、録音者の損害賠償責任を発生させる等のことが考えられるためです。また、違法とは評価されないとしても、発言内容を無断で録音された者との間で新たな紛争が発生するリスクは否定できません。
 設例の場合、クレーマーの発言内容については、対応した従業員の証人尋問によって証明する方法もあります。この場合、無断録音の音声データは、従業員の記憶喚起に役立てることができ、このような内部的な使用にとどめるということも1つの考え方です。無断録音の音声データを証拠提出するかどうかについては、録音の具体的状況(違法と評価されるリスクの程度)、訴訟の勝敗の見込み、問題の音声データが訴訟の結論に影響を及ぼし得る程度等を考慮して判断すべきものといえます。

この実務Q&Aを見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する