印紙税の判断方法(2)- 個別契約書、重複事項の取扱い

税務
山田 重則弁護士 鳥飼総合法律事務所

 印紙税の判断をする際、他の文書も確認する必要があるのは、どのような場合でしょうか。

 印紙税の判断は、個々の文書ごとに行われるため、基本的には他の文書を確認する必要はありません。たとえば、文書Aの印紙税の判断をする際、当事者間で他に文書Bという文書を作成していたとしても、基本的には文書Bの内容を考慮する必要ないということです。
 しかし、例外的に他の文書を確認しなければならない場合もあります。たとえば、次のような場合があげられます。

  1. 他の文書を引用する旨の文言の記載がある場合
  2. 第1号文書、第2号文書または第17号の1文書の記載金額の判断をする場合
  3. 個別契約書の印紙税の判断をする場合
  4. 同じ事項を別の文書でも記載している場合

 本稿では、上記のうち3と4について解説します。なお、1と2については、「印紙税の判断方法(1)- 他の文書を引用している文書、記載金額の取扱い」で解説しました。

解説

目次

  1. 個別契約書の印紙税の判断をする場合
    1. 基本契約書と個別契約書の区別
    2. 個別契約書の判断時に基本契約書が及ぼす影響
  2. 同じ事項を別の文書でも記載している場合
    1. 原則的扱い(記載した以上は証明目的ありとされる)
    2. 例外的扱い(記載があっても証明目的なしとされる)
  3. まとめ

個別契約書の印紙税の判断をする場合

基本契約書と個別契約書の区別

 ある契約書の印紙税の判断を行う際、その契約書が「個別契約書」であるか、あるいは「基本契約書」であるかは重要な視点です。「基本契約書」であれば、継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)にあたる可能性があります。他方で、「個別契約書」であれば、本稿で解説するように、その文言を解釈する際に「基本契約書」の内容を考慮する必要があります。そこで、どのような契約書が「基本契約書」あるいは「個別契約書」にあたるかが問題となります。

 「基本契約書」とは、契約当事者間で何回も同じような取引が反復継続する場合に、それらの取引に共通して適用される取引条件を定める契約書のことをいいます。他方で、「個別契約書」とは、契約当事者間にて個々の権利義務を定める契約書のことをいいます。

 たとえば、部品の加工請負契約を締結したAB間で、目的物を「部品X」、単価を「1個あたり50,000円」と合意し、その後、その部品の発注の際にはその都度、数量だけを発注書と請書で合意するという方法で取引を行う場合があります。

 この場合、部品の発注の際には、請書の提出によって、その都度、「AはBに対してX部品●個を引渡し、BはAに対して●円の対価を支払う」という合意(契約)が成立することになります。請書は、AのX部品の引渡義務、Bの報酬支払義務という個々の権利義務を定める文書ですので、「個別契約書」にあたります。他方で、このようにしてAB間で成立する個々の個別契約の内容のうち、目的物を「X部品」、単価を「1個あたり50,000円」とする部分は、AB間の個別契約のすべてについて共通して適用される条件にあたります。したがって、目的物を「X部品」、単価を「1個あたり50,000円」とする当初の契約書は、「基本契約書」にあたります

 「基本契約書」と「個別契約書」の関係を図示すると以下のようになります。

基本契約書と個別契約書の関係

基本契約書と個別契約書の関係

個別契約書の判断時に基本契約書が及ぼす影響

   さて、先の事例では、AB間では、次のような契約書が作成されることになります。

 まず、AB間の「基本契約書」は、請負に関する基本契約書にあたりますので、通常、継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)として、4,000円の印紙税が課税されます。次に、Bの作成した「発注書」は、単なる申込書にすぎませんので、通常、不課税文書となります。なお、申込書が「契約書」にあたる場合については、「申込書が「契約書」になる場合とは 印紙の取扱いに要注意」にて詳細に解説しました。

 では、Aの作成した「請書」は、どのように判断されるでしょうか。まず、この「請書」それ自体には、「BのNo.123の発注書のとおりお請けします。」との文言があるのみで、Aが何を請け負ったのかは定かではありません。
 しかし、「BのNo.123の発注書のとおり」という文言があるため、Bの作成したNo.123の発注書の内容がこの請書に「引用」されることになります(印紙税法基本通達4条)。したがって、この「請書」には、AがBから部品Xを100個請負ったことが記載されているものとして扱われます。なお、「引用」については、「印紙税の判断方法(1)- 他の文書を引用している文書、記載金額の取扱い」にて詳細に解説しました。
 そして、この「請書」には、「基本契約書」の内容を「引用」する旨の文言はありませんが、その文言を解釈する際に「基本契約書」の内容が考慮されることになります。この点については、印紙税法基本通達3条において定められています(下線部は筆者が付しました)。

【印紙税法基本通達3条】
  1. 文書が課税文書に該当するかどうかは、文書の全体を一つとして判断するのみでなく、その文書に記載されている個々の内容についても判断するものとし、また、単に文書の名称又は呼称及び形式的な記載文言によることなく、その記載文言の実質的な意義に基づいて判断するものとする。

  2. 前項における記載文言の実質的な意義の判断は、その文書に記載又は表示されている文言、符号を基として、その文言、符号等を用いることについての関係法律の規定、当事者間における了解、基本契約又は慣習等を加味し、総合的に行うものとする

 このように個別契約書に記載された文言を解釈する際には、基本契約書の内容を考慮する必要があります。したがって、「請書」の「AがBから部品Xを100個請負った」という文言は、「基本契約書」の「目的物:部品X」、「単価:50,000円/1個」という内容が考慮されることで、「AがBから部品Xを、1個あたりの単価50,000円で、100個請負った」というように解釈されることになります。

 以上のとおり、「請書」それ自体の文言としては、「BのNo.123の発注書のとおりお請けします。」という文言にとどまりますが、「発注書」が「引用」され、また、「基本契約書」の内容が考慮されることで、印紙税法上は、「AがBから部品Xを、1個あたりの単価50,000円で、100個請負った」という記載があるものとして扱われます。そして、単価と数量を乗じることで、請負金額を明らかにすることができるため(印紙税法基本通達24条(6))、請負金額は500万円となります。したがって、この「請書」は、請負に関する契約書(第2号文書)として、2,000円の印紙税が課されます

 なお、この「請書」は、Aという契約当事者の一方のみが作成した文書ですが、このような契約当事者の一方のみが作成した文書であっても、印紙税法上の「契約書」にあたることは、「印紙税法上の「契約書」に関する誤解とは 多額の過怠税の要因に」にて詳細に解説しました。

同じ事項を別の文書でも記載している場合

原則的扱い(記載した以上は証明目的ありとされる)

 印紙税の実務では、記載した文言は客観的に判断されます。たとえば、契約当事者間では、真実、契約をする意思を有しておらず、形式的に契約書を作成したにすぎない場合、民法上は虚偽表示として当該契約は無効となります(民法94条1項)。しかし、印紙税法上は、請負に関する事項が記載されている以上、契約当事者間ではそれを証明する目的があったと判断され、第2号文書(請負に関する契約書)として扱われます。

 このように、印紙税の実務では、文書にある事項が記載された場合、原則として、それを証明する目的があるものと判断されます。
 印紙税法上は、通達において、以下のように、①記載だけでなく、②その証明目的が必要とされていますが、実務上は、記載があれば、通常はその証明目的も認められることになります(下線部は筆者が付しました)。

【印紙税法基本通達2条】
 法に規定する「課税文書」とは、課税物件表の課税物件欄に掲げる文書により証されるべき事項(以下「課税事項」という。)が記載され、かつ、当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書のうち、法第5条《非課税文書》の規定により印紙税を課さないこととされる文書以外の文書をいう。
【印紙税法基本通達12条】
 法に規定する「契約書」とは、契約当事者の間において、契約(その予約を含む。)の成立、更改又は内容の変更若しくは補充の事実(以下「契約の成立等」という。)を証明する目的で作成される文書をいい、契約の消滅の事実を証明する目的で作成される文書は含まない。
 なお、課税事項のうちの一の重要な事項を証明する目的で作成される文書であっても、当該契約書に該当するのであるから留意する。
【印紙税法基本通達23条】
 課税物件表の第1号、第2号及び第15号に規定する「契約金額」とは、次に掲げる文書の区分に応じ、それぞれ次に掲げる金額で、当該文書において契約の成立等に関し直接証明の目的となっているものをいう。

例外的扱い(記載があっても証明目的なしとされる)

 印紙税の実務上の原則的扱いは上記のとおりですが、例外的に文書に記載されていてもそれを証明する目的はないと判断される場合もあります。

 たとえば、次の文書では、請負金額が1,000万円であることを証明する目的はあるといえるでしょうか。

工事請負変更契約書


 甲と乙は、下記の「工事請負契約書」の第3条を、次のとおり変更することについて合意した。

1 契約日  ×年×月×日
2 請負金額 1,000万円
3 変更する事項
  ● 変更前(引渡期日)
  完成物の引渡期日は、△年△月△日とする。

  ● 変更後(引渡期日)
  完成物の引渡期日は、〇年〇月〇日とする。
  …

 この工事請負変更契約書には、請負金額1,000万円という記載があります。そのため、上記の原則的扱いによれば、この変更契約書は請負金額が1,000万円であることを証明する目的もあると判断されることになります。

 しかし、この変更契約書で「請負金額 1,000万円」という記載がされているのは、単にこの変更契約書によって変更をしようとしている「工事請負契約書」を特定するために記載されているにすぎないということができます。また、この契約書よりも前に作成されている「工事請負契約書」にて請負金額が1,000万円であることが記載されている場合には、甲と乙としては、元の契約書にて請負金額を証明しようとしているのであり、変更契約書で改めて証明しようとしているのではない、といえます。

 したがって、このケースでは、元の「工事請負契約書」で請負金額が1,000万円であることが記載されている場合には、変更契約書では請負金額が1,000万円であることを証明する目的はなく、これは記載金額にはあたらないと判断されることになります(印紙税法基本通達23条)。この変更契約書は、記載金額なしの請負に関する契約書(第2号文書)として200円の印紙税が課税されます。

 このように、ある文書に記載された事項を既に作成済みの別の文書にて記載している場合には、後の文書ではその事項を証明する目的はないと判断される場合もあります。印紙税基本通達においても同様の考え方を示すものがあります(下線部は筆者が付しました。)。

【印紙税法基本通達第1号の3文書の3】
 いわゆる債務承認弁済契約書で、消費貸借に基づく既存の債務金額を承認し、併せてその返還期日又は返還方法(代物弁済によることとするものを含む。)等を約するものは、第1号の3文書(消費貸借に関する契約書)に該当する。
 なお、この場合の返還を約する債務金額については、当該文書に当該債務金額を確定させた契約書が他に存在することを明らかにしているものに限り、記載金額に該当しないものとして取り扱う

 そのため、契約当事者間で複数の文書が作成されている場合には、すでに作成済みの別の文書に同じ事項が記載されていないか検証する必要があります

まとめ

 印紙税の判断は、個々の文書ごとに行われるため、基本的には他の文書を確認する必要はありません。しかし、場合によっては、その文書だけではなく、他の文書の記載も考慮した上で印紙税の判断をしなければならない場合もあります。今回は、個別契約書を判断する場合に基本契約書の内容を考慮するという視点、すでに作成済みの別の文書にて記載がされていないか検証するという視点について解説をしました。その文書を見るだけでは印紙税の判断を正確に行うことができない、という点には留意する必要があります。

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