印紙税法上の「契約書」に関する誤解とは 多額の過怠税の要因に

税務
山田 重則弁護士 鳥飼総合法律事務所

 どのような文書が印紙税法上の「契約書」に該当しますか。「契約書」というと、文書の表題が「契約書」となっている文書や契約当事者双方の署名、押印がある文書が思い浮かびますが、このような文書以外にも「契約書」に該当する文書はあるのでしょうか。

 「契約書」に該当するかどうかは、文書の表題だけから判断するのではなく、その文書が契約の成立を証明することができるかどうかによって判断します。また、契約の一方当事者だけが作成した文書であっても「契約書」に該当することがあります。このように、印紙税法上の「契約書」には、契約書と聞いて一般的に思い浮かべる文書よりも広い文書が含まれますので注意が必要です。実際、印紙税法上の「契約書」に関する誤解により多額の過怠税の納付を求められた事案がいくつも発生しています。

解説

目次

  1. 「契約書」に該当することが要件となる課税文書
  2. 印紙税法上の「契約書」とは
  3. 「契約書」の誤解によって発生したと推測される多額の過怠税事案
  4. 契約当事者の一方のみが作成する文書の「契約書」該当性
    1. 文書の表題
    2. 合意の成立を示す文言の有無
    3. 債務の承認の有無
  5. まとめ

「契約書」に該当することが要件となる課税文書

 印紙税法は、印紙税が課される文書として、不動産等の譲渡に関する契約書(第1号文書)から判取帳(第20号文書)までの20種類の文書を定めています。この20種類の文書のうち以下の課税文書に該当するといえるためには、その文書が「契約書」に該当することが必要になります。

  • 不動産等の譲渡に関する契約書(第1号文書)
  • 請負に関する契約書(第2号文書)
  • 合併契約書等(第5号文書)
  • 継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)
  • 信託行為に関する契約書(第12号文書)
  • 債務の保証に関する契約書(第13号文書)
  • 金銭または有価証券の寄託に関する契約書(第14号文書)
  • 債権譲渡または債務引受に関する契約書(第15号文書)

印紙税法上の「契約書」とは

 印紙税法上、「契約書」とは、下記のとおり定められています(印紙税法別表第一課税物件表の適用に関する通則5)。なお、①~③の番号は、説明の便宜のため、筆者が付しました。

①契約証書、協定書、約定書その他名称のいかんを問わず、②契約(その予約を含む。以下同じ。)の成立若しくは更改又は契約の内容の変更若しくは補充の事実(以下「契約の成立等」という。)を証すべき文書をいい、③念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書又は契約の当事者の全部若しくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解又は商慣習に基づき契約の成立等を証することとされているものを含むものとする。

 ①の点からは、契約書に該当するかどうかは文書の表題(名称)から判断するのではない、という点が読み取れます。すなわち、その文書の表題が「契約書」となっていなくても印紙税法上の「契約書」に該当する場合があるということになります。

 ②の点からは、契約が成立した際に作成される文書だけでなく、契約が成立した後に契約内容を変更するために作成される文書や当初の契約で不足していた点を事後に補充するために作成される文書も「契約書」に含まれるという点が読み取れます。契約当事者が何らかの合意に至り、その際に文書を作成した場合には、文書の作成の都度、印紙税が課されるということになります。

 ③の点からは、契約当事者の一方のみが作成する文書や契約当事者の署名を欠く文書であっても「契約書」に該当する場合があるという点が読み取れます。契約書というと、契約当事者双方が署名、押印する形式が最も一般的であるため、このような文書であっても「契約書」に該当するという点は見落としがちといえます。

「契約書」の誤解によって発生したと推測される多額の過怠税事案

 過去、多額の過怠税が発生したとして新聞報道された事案を分析しますと、「契約書」という要件に関する誤解がその要因となっていると思われる事案が散見されます。なお、過怠税とは、文書の作成時にその文書に印紙を貼るなどして印紙税を納付しなかったためにペナルティーとして課される税金をいいます(印紙税法第20条)。その金額は、通常、元々の印紙税額の1.1倍となりますが、印紙税と異なり、損金算入ができないという大きな違いがあります。
 新聞報道された事案の概要は下表の通りです。

番号 報道年 業種 文書の表題
(課税文書)
過怠税額
2012年 小売業 伝票(第2号文書) 約3,000万円
2012年 繊維製品製造業 お客様控え(第2号文書) 約3,200万円
2014年 金融業 審査結果のお知らせ(第1号の3文書) 約2億3,500万円

 ①の事案は、小売業を営む大手スーパーが全国の店舗で自転車修理を請け負った際、顧客に渡していた「伝票」に印紙を貼っておらず、税務調査において約3,000万円の過怠税の納付を求められたというものです。物品の修理を引き受ける契約は、法的には請負契約と判断されますので、請負に関する契約書(第2号文書)の該当性が問題となります。この事案では、文書の表題が「伝票」となっていた点、また、スーパー側という契約当事者の一方のみが作成した点から、この「伝票」が印紙税法上の「契約書」に該当することに思い至らなかったものと推測されます。

 ②の事案は、大手下着メーカーが全国の店舗でセミオーダーの下着を販売した際、顧客に渡していた「お客様控え」に印紙を貼っておらず、税務調査において約3,200万円の過怠税の納付を求められたというものです。既製品の下着の販売であれば、売買契約にとどまりますが、セミオーダーの下着の販売となると、顧客の注文を踏まえてサイズの調整等を行う必要があるため、法的には請負契約と判断されます。この事案では、①の事案と同様の理由から、この「お客様控え」が印紙税法上の「契約書」に該当することに思い至らなかったものと推されます。

 ③の事案は、ある地方銀行が住宅ローンの申込者に交付した「審査結果のお知らせ」と題する文書に印紙を貼っておらず、税務調査において約2億3,500万円の過怠税の納付を求められたというものです。金銭の貸付は、法的には消費貸借契約と判断されますので、消費貸借契約に関する契約書(第1号の3文書)の該当性が問題となります。新聞報道によれば、この銀行では、文書の表題が「審査結果のお知らせ」であったため、単なる契約手続の案内文書と判断し、印紙を貼っていなかったとのことです。しかし、東京国税局は、この文書に融資の承認の事実などが記載されていたことから「契約書」に該当すると判断し、過怠税の納付を求めたとのことです。

 以上のとおり、会社において印紙の要否を判断する担当者が、「文書の表題が『契約書』となっていないから、印紙税は問題とならない」、「契約当事者の双方が署名、押印した文書ではないから、印紙税は問題とならない」と誤解をしていると、本来、印紙が必要になることに気づかないまま、課税文書を大量に作成し、後に税務調査で多額の過怠税の納付を求められる事態となりかねない、ということがわかります。実際に多額の過怠税が発生した事案を踏まえますと、どのような文書が印紙税法上の「契約書」に該当するのかという点は、正確に理解しておく必要があるといえます。

契約当事者の一方のみが作成する文書の「契約書」該当性

 3で紹介した事案は、いずれも契約当事者の一方のみが作成した文書が「契約書」と判断されたものです。そこで、以下では、契約当事者の一方のみが作成した文書のうち、どのような文書が実務上、「契約書」と判断されるのかについて解説をします。

文書の表題

 文書の表題が、念書、請書、承諾書、覚書、差入証、約定書等となっている場合、基本的には、「契約書」と判断されます。取引通念上、このような表題の文書には、当事者間で合意に至った事実を記載することが多く、契約の成立を証明することができる文書と扱われるためです。「契約書」の該当性は、文書の表題だけから判断するものではありませんが、ここであげた表題の付された文書は、実務上、基本的には「契約書」と判断されるため注意が必要です。
 国税庁の質疑応答事例においても、不動産の売主から買主に対して交付される「売渡証書」という表題の文書、不動産賃貸の賃貸人から賃借人に対して交付される「〇〇苑墓地使用承諾証」という表題の文書について、それぞれ「契約書」に該当するとの解説がされています(国税庁質疑応答事例1号の1文書の11、同1号の2文書の6)。

契約書と判断されるポイント① 文書の表題
  • 念書
  • 請書
  • 承諾書
  • 覚書
  • 差入証
  • 約定書
  •  

合意の成立を示す文言の有無

 文書中に「…合意した」、「…契約を締結した」といった文言が使用されている場合、「契約書」に該当することは明らかです。また、文書中に、「承諾する」、「引き受ける」、「請ける」、「確認する」というような文言が記載されている場合、そのような文書は「契約書」と判断される可能性が高いといえます。契約は、一方当事者の申込とそれに対する他方当事者の承諾によって成立するため、一方当事者の申込を他方当事者が承諾したという事実が読み取れる文書については、「契約書」と判断されます。
 国税庁の質疑応答事例においても、請負人から注文者に対して、「注文お請けいたします」と記載された注文請書について、「契約書」に該当するとの解説がされています(国税庁質疑応答事例2号文書の7)。
 先の新聞報道された事案の①、②については、文書上、顧客からの請負に関する申込を事業者が承諾したという事実が読み取れたために「契約書」と判断されたと推測されます。>

契約書と判断されるポイント② 合意の成立を示す文言
    「契約書」に該当することが明らかな文言
  • 合意した
  • 契約を締結した
    「契約書」と判断される可能性が高い文言
  • 承諾する
  • 引き受ける
  • 請ける
  • 確認する

債務の承認の有無

 文書中、契約の債務者が自らの債務について自認する旨が記載されている場合には、その文書は「契約書」に該当する可能性があるといえます。裁判実務上、自らの債務を自認する旨の文書は契約当事者間の合意の事実を証明する有力な証拠となります。通常、人が自らの債務を自認する場合、特段の理由がない限り、それは真実である可能性が高いといえるためです。
 国税庁の質疑応答事例においても、金銭消費貸借契約の借主が貸主に対して交付する借用書は、「契約書」に該当するとの解説がされていますが、これは借主が自らの債務である金銭の返還義務を認める旨の文書に該当するためです(国税庁質疑応答事例1号の3文書の2)。また、金銭消費貸借契約の貸主が借主に対して交付する貸付決定通知書は、「契約書」に該当するとの解説がされていますが、これは貸主が自らの債務である金銭の貸付義務を認める旨の文書に該当するためです(国税庁質疑応答事例1号の3文書の4)。
 先の新聞報道された事案の③については、文書に融資の承認の事実などが記載されており、貸主である銀行の金銭の貸付義務を認める旨の文書に該当したために「契約書」と判断されたと推測されます。

まとめ

 印紙税実務上、最も避けなければならないのは、課税文書に該当することに気づかないまま大量に文書を作成し、後に多額の過怠税の納付を強いられるという事態です。印紙が必要になるということに気づいていれば印紙代を低く抑えるための対策をとったかもしれませんし、そもそもそのような文書の作成を中止したかもしれません。しかし、課税文書に該当するということに気づかなければ、そもそも対策を講じることができません。印紙税実務上は、意外な文書が「契約書」に該当することがあるため、日頃、大量に作成している文書が「契約書」として課税文書にならないかという点は、社内において定期的な検証が必要になると考えられます。

この実務Q&Aを見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する