印紙税の判断方法(1)- 他の文書を引用している文書、記載金額の取扱い
税務印紙税の判断をする際、他の文書も確認する必要があるのは、どのような場合でしょうか。
印紙税の判断は、個々の文書ごとに行われるため、基本的には他の文書を確認する必要はありません。たとえば、文書Aの印紙税の判断をする際、当事者間で他に文書Bという文書を作成していたとしても、基本的には文書Bの内容を考慮する必要はないということです。
しかし、例外的に他の文書を確認しなければならない場合もあります。たとえば、次のような場合があげられます。
- 他の文書を引用する旨の文言の記載がある場合
- 第1号文書、第2号文書または第17号の1文書の記載金額の判断をする場合
- 個別契約書の印紙税の判断をする場合
- 同じ事項を別の文書でも記載している場合
本稿では、上記のうち1と2について解説します。なお、3と4については、「印紙税の判断方法(2)- 個別契約書、重複事項の取扱い」で解説します。
解説
目次
他の文書を引用する旨の文言の記載がある場合
他の文書の内容も当該文書に記載されているものとして判断される(原則)
たとえば、文書Aのなかで、文書Bを「引用する旨の文言」の記載がある場合には、文書Aのなかに文書Bの内容が記載されているものとして扱われます。すなわち、文書Aの印紙税の判断をする際、文書Bの内容も考慮しなければならないことになります。
この点については、印紙税法基本通達4条1項において定められています。
1 一の文書で、その内容に原契約書、約款、見積書その他当該文書以外の文書を引用する旨の文言の記載があるものについては、当該文書に引用されているその他の文書の内容は、当該文書に記載されているものとして当該文書の内容を判断する。
「当該文書以外の文書を引用する旨の文言の記載」としては、たとえば、以下のような文言があたります。
- 「…のとおり」
- 「…に定めるように」
- 「…に基づき」
したがって、ある文書中に、「…原契約書のとおり」、「…約款に定めるように」、「…見積書に基づき」といった記載がある場合には、それぞれ原契約書、約款、見積書に記載されている内容が当該文書にも記載されているものとして扱われます。
記載金額と契約期間は引用されない(例外)
上記1-1で述べたとおり、ある文書中に他の文書を引用する旨の文言の記載がある場合には、他の文書の内容も当該文書にも記載されているものとして扱われます。しかし、その場合であっても、他の文書に記載されている「記載金額」および「契約期間」については、当該文書に記載されているものとは扱われません。すなわち、他の文書の「記載金額」および「契約期間」については引用されない、ということになります。
この点については、印紙税法基本通達4条2項において定められています。なお、「(注)」については、下記2で後述します。
2 前項の場合において、記載金額及び契約期間については、当該文書に記載されている記載金額及び契約期間のみに基づいて判断する。
(注)第1号文書若しくは第2号文書又は第17号の1文書について、通則4のホの(二)又は(三)の規定が適用される場合には、当該規定に定めるところによるのであるから留意する。
たとえば、「エレベーター保守契約書」(原契約書)を締結し、当該契約書には「月額保守料100万円」、「契約期間1年間」という定めがあるとします。エレベーターの保守の法的性質は「請負」と考えられますので、この原契約書は第2号文書(請負に関する契約書)にあたります。また、各月ごとに個別契約が成立し、原契約書はこれらの個別契約に共通して適用される事項を定めていると考えられますので、この原契約書は第7号文書(継続的取引に関する契約書)にもあたります。
原契約書は第2号文書と第7号文書という異なる種類の文書に当たりますので、所属の決定が問題となります。そして、この原契約書の請負金額(記載金額)は、100万円×12カ月で1,200万円となるため(印紙税法基本通達29条)、記載金額があるといえ、第2号文書に所属が決定します(印紙税法基本通達11条 (2)、(3) )。
なお、ここでは簡略な解説を述べるにとどめましたが、この「エレベーター保守契約書」の印紙税の判断については、国税庁質疑応答事例第2号文書23「エレベーターの保守契約書」に詳細に解説されています。
それでは、後日、「原契約書の月額保守料を●年●月分より150万円とする」旨の変更契約書を作成した場合、この変更契約書の印紙税はどのように判断されるでしょうか。
仮に、原契約書に記載されている「1年間」という契約期間を引用することができるのであれば、原契約書と同様に、月額単価に月数を乗じることで請負金額(記載金額)を求めることができる余地があります。しかし、先に解説したとおり、他の文書の「契約期間」を引用することはできませんので、請負金額(記載金額)を求めることはできません。この変更契約書は、原契約書と同様に第2号文書と第7号文書の両方にあたりますが、記載金額がありませんので、第7号文書に所属が決定します(印紙税法基本通達11条 (3) )。
この具体例においては、原契約書は第2号文書にあたり、請負金額(記載金額)によって印紙税も異なりますが、変更契約書は第7号文書にあたり、印紙税は一律4,000円となります。仮に「契約期間は引用できない」という点を見落としてしまうと、変更契約書についても第2号文書と判断してしまい、過小あるいは過大な印紙税を納付してしまうことになります。
第1号文書、第2号文書または第17号の1文書の記載金額の判断をする場合
第1号文書、第2号文書、第17号の1文書の記載金額の特例的な扱い
第1号文書とは不動産等の譲渡に関する契約書、第2号文書とは請負に関する契約書、第17号の1文書とは売上代金に係る金銭または有価証券の受取書のことをいいます。第1号文書、第2号文書、第17号の1文書の印紙税額は記載金額によって決まるため、その記載金額は正確に判断する必要があります。
そして、その文書そのものには記載金額が記載されていない場合であっても、その文書に他の文書の名称等があることにより当事者間においては契約金額、受取金額が明らかな場合があります。たとえば、一方の文書に単価の記載があり、他方の文書に数量の記載がある場合には、単価と数量を乗じることで契約金額を明らかにすることができます。このように、他の文書の記載により当事者間で記載金額を明らかにすることができる場合には、その金額が当該文書の記載金額となります。
この点については、印紙税法「課税物件表の適用に関する通則」の4のホ(二)(三)で言及されています。
(三)第十七号に掲げる文書のうち売上代金として受け取る有価証券の受取書に当該有価証券の発行者の名称、発行の日、記号、番号その他の記載があること、又は同号に掲げる文書のうち売上代金として受け取る金銭若しくは有価証券の受取書に当該売上代金に係る受取金額の記載のある支払通知書、請求書その他これらに類する文書の名称、発行の日、記号、番号その他の記載があることにより、当事者間において当該売上代金に係る受取金額が明らかであるときは、当該明らかである受取金額を当該受取書の記載金額とする。
ここで注意が必要なのは、上記1で述べた引用の扱いとの区別です。両者は、他の文書に記載されていることが当該文書にも記載されているものと扱われるという点で共通します。しかし、適用要件と効果には、次のような違いがあります。
まず、引用の扱いが適用されるためには、「…のとおり」というような他の文書を引用する旨の文言が必要です。他方で、第1号文書、第2号文書、第17号の1文書の記載金額の特例的な扱いでは、他の文書を特定するような名称、番号などのいわば「手がかり」があれば足り、引用する旨の文言までは必要ありません。
次に、引用の扱いは、文書の種類に関係なく適用がされますが、第1号文書、第2号文書、第17号の1文書の記載金額の特例的な扱いは、あくまで第1号文書、第2号文書、第17号の1文書という限られた文書にのみ適用があります。
そして、効果の面においては、引用の扱いでは、「記載金額」は引用することができませんが、第1号文書、第2号文書、第17号の1文書の記載金額の取扱いでは、他の文書に記載金額が記載されている場合には、その金額が当該文書の記載金額となります。
このように第1号文書、第2号文書、第17号文書では、本来、引用されないはずの記載金額があたかも引用されるかのような扱いを受けます。そのため、記載金額は引用されない旨を定めている印紙税法基本通達第4条2項においても、「(注)第1号文書若しくは第2号文書又は第17号の1文書について、通則4のホの(二)又は(三)の規定が適用される場合には、当該規定に定めるところによるのであるから留意する。」との注意書きが付されているのです。第1号文書、第2号文書、第17号の1文書の記載金額を判断する際には、他の文書についてまで目配りすることが必要といえます。
新聞報道された過怠事案
過去に新聞報道された事案を分析すると、上記の第1号文書、第2号文書、第17号の1文書の記載金額の特例的な扱いを見落としたために、多額の過怠税が発生したと思われる事案があります。なお、過怠税とは、文書の作成時にその文書に印紙を貼るなどして印紙税を納付しなかったためにペナルティーとして課される税金をいいます(印紙税法20条)。その金額は、通常、もともとの印紙税額の1.1倍となりますが、印紙税と異なり、損金算入ができないという大きな違いがあります。
新聞報道された事案の概要は下表の通りです。
報道年 | 業種 | 文書の表題(課税文書) | 過怠税額 |
---|---|---|---|
2012年 | 旅行業 | (旅行サービスの)引受書(第2号文書) | 約1,100万円 |
この事案では、旅行業を営む会社が顧客に対し発行していた、旅行サービスの提供を約する旨の引受書(第2号文書)が問題となりました。当該会社は、この引受書が第2号文書として課税文書になることは認識していましたが、記載金額なしと判断し、200円の印紙を貼るにとどまっていました。引受書それ自体には旅行代金(請負金額)の記載はなく、旅行代金は他の文書に記載されていたためです。
しかし、東京国税局は、引受書と旅行代金が記載された他の文書は一体ととらえるべきだと判断しました。そのため、引受書にも他の文書に記載されている旅行代金が記載されているものと扱われることになり、当該旅行代金の多寡に応じた印紙を貼るべきだったとの結論となりました。これは、上記の第1号文書、第2号文書、第17号の1文書の記載金額の特例的な扱いが適用された事案と考えることができます。
まとめ
印紙税の判断は、個々の文書ごとに行われるため、基本的には他の文書を確認する必要はありません。しかし、その文書だけではなく、他の文書の記載も考慮した上で印紙税の判断をしなければならない場合もあります。今回解説をした引用の扱いと第1号文書等の記載金額の特例的な扱いは、他の文書に記載されていることが当該文書にも記載されているものと扱われるという点において共通するため、適用される場面が混同されがちです。両者を整理して理解する必要があるといえるでしょう。
他の文書を確認すべき別の場合として、個別契約書の印紙税の判断をする場合、同じ事項を別の文書でも記載している場合については、「印紙税の判断方法(2)- 個別契約書、重複事項の取扱い」で解説します。

鳥飼総合法律事務所