税務上の中小企業、「中小法人」と「中小企業者」の違い
税務法人税では中小企業に対して大企業より手厚い優遇措置が多いと聞きますが、どのような法人が中小企業に該当するかご教示ください。
法人税では、制度ごとに優遇措置の対象となる法人を規定しているため、中小企業についても正確には制度ごとにその内容を確認する必要があります。一般的には、資本金の額1億円以下の法人が中小企業とされます。しかし、その場合でも、「中小法人」に該当する場合と、「中小企業者」に該当する場合で、受けられる特例の内容が異なるため、それぞれの概念を正確に把握する必要があります。
解説
目次
「中小法人」とは
「中小法人」に該当しない場合
「中小法人」とは、通常、次に掲げる法人をいいます(この用語は便宜的に使用される表現であり、これを直接規定した条文はありません)。
中小法人に該当しない場合
大法人(資本金の額が5億円以上である法人等一定の法人)との間に当該大法人による完全支配関係がある普通法人。
つまり、「中小法人」とは、原則として、期末資本金が1億円以下である法人をいいますが、たとえば、親会社の資本金が5億円以上であり、その親会社との間に直接間接を含め100%の支配関係がある子会社や孫会社などは、期末資本金が1億円以下であったとしても「中小法人」には該当しません。
中小法人に該当する場合の特例措置
「中小法人」に該当する場合、以下の特例措置の適用を受けることが可能です。
- 法人税の軽減税率(租税特別措置法42条の3の2第1項)
- 欠損金の繰越控除制度の特例(法人税法57条1項、11項)
- 欠損金の繰戻還付(法人税法80条1項、租税特別措置法66条の13第1項)
- 交際費等の損金不算入制度の特例(租税特別措置法61条の4第2項)
- 特定同族会社の留保金課税の適用除外(法人税法67条1項)
- 貸倒引当金の適用(法人税法52条1項、2項)など
「中小企業者」とは
「中小企業者」に該当しない場合
「中小企業者」とは、次に掲げる法人をいいます(租税特別措置法42条の4第8項7号、同施行令27条の4第12項)。
中小企業者に該当しない場合
- その発行済株式(自己株式を除く、②において同じ)の総数の2分の1以上が同一の大規模法人の所有に属している法人
- その発行済株式の総数の3分の2以上が複数の大規模法人の所有に属している法人
※大規模法人とは、次に掲げる法人をいう。
- 資本金の額が1億円を超える法人
- 大法人(資本金の額が5億円以上である法人等一定の法人)との間に当該大法人による完全支配関係がある普通法人
つまり、「中小企業者」とは、原則として、資本金が1億円以下である法人をいいますが、たとえば、資本金が1億円超の法人により株式を50%以上保有されている法人や、資本金が5億円以上の法人との間に完全支配関係がある法人(資本金の多寡は関係ない)により株式を50%以上保有されている法人は、資本金が1億円以下であったとしても「中小企業者」には該当しません。
なお、上記に記載した大規模法人の定義のうち、②については令和元年の税制改正で追加されたものであり、改正前後で中小企業者に該当するかどうかの判定が異なる場合があるので注意が必要です。
「中小企業者」に該当する場合の特例措置
「中小企業者」に該当する場合、以下の特例措置の適用を受けることが可能です。
- 試験研究費の税額控除の特例(租税特別措置法42条の4第4項)
- 機械等を取得した場合の特別償却または税額控除の特例(租税特別措置法42条の6)
- 経営改善設備を取得した場合の特別償却または税額控除の特例(租税特別措置法42条の12の3)
- 特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却または税額控除の特例(租税特別措置法42条の12の4)
- 給与等の引上げおよび設備投資を行った場合等の税額控除の特例(租税特別措置法42条の12の5②)
- 特定事業継続力強化設備等の特別償却(租税特別措置法44条の2)など
「中小法人」と「中小企業者」の相違
参考までに、簡単な設例により「中小法人」と「中小企業者」の相違を図解で示すと以下の通りになります。
まとめ
このように中小企業といっても、「中小法人」と「中小企業者」では適用が受けられる特例の内容が異なりますし、上記図解で示したように、親会社など他の法人との関係いかんによって判定が微妙に異なることがありますので、特にグループ会社では、法人ごとに税務上の取扱いをきちんと整理することが肝要になります。
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