申込書が「契約書」になる場合とは 印紙の扱いに要注意

税務
山田 重則弁護士 鳥飼総合法律事務所

 契約は、一方の申込の意思表示と他方の承諾の意思表示が合致することで成立します。そうすると、申込書には、申込の意思表示しか記載されていないため、およそ「契約書」に該当することはないように思います。申込書が「契約書」に該当することはあるのでしょうか。また、どのような場合に申込書が「契約書」に該当するのでしょうか。

 申込書は、原則として、「契約書」に該当することはありません。しかし、仮に文書の表題が「申込書」となっていても、それが契約の成立を証明することができる場合には、「契約書」に該当します。そのような場合として、印紙税法基本通達21条2項は、3つの場合をあげています。

解説

目次

  1. 申込書、注文書、依頼書などの文書
  2. 「申込書」に関する誤解によって発生したと推測される多額の過怠税事案
  3. 申込書が「契約書」に該当する3つの場合
  4. まとめ

申込書、注文書、依頼書などの文書

 申込書、注文書、依頼書といった表題のつけられた文書(以下、単に「申込書」といいます)の取扱いには注意が必要です。「契約書は印紙が問題となる」ということは広く知られていますが、それゆえに「文書の表題が申込書であれば印紙は問題にならない」と誤解されていることも少なくありません。

 確かに、文書の表題が「申込書」の場合には、通常、そこには一方の申込の意思表示しか記載されていませんので、これが「契約書」に該当することはありません。しかし、印紙税法上、「契約書」に該当するかどうかは、その文書の表題を問わないとされているため(印紙税法別表第一課税物件表の適用に関する通則 5)、文書の表題が「申込書」であっても、それが契約の成立を証明することができる場合には、「契約書」に該当することになります。

「申込書」に関する誤解によって発生したと推測される多額の過怠税事案

 過去の新聞報道された事案を分析しますと、「文書の表題が申込書であっても契約の成立を証明することができる場合には契約書に該当する」という点を見過ごしていたために多額の過怠税が発生したと思われる事案があります。

 なお、過怠税とは、文書の作成時にその文書に印紙を貼るなどして印紙税を納付しなかったためにペナルティーとして課される税金をいいます(印紙税法20条)。その金額は、通常、元々の印紙税額の1.1倍となりますが、印紙税と異なり、損金算入ができないという大きな違いがあります。
 新聞報道された事案の概要は下表の通りです。

番号 報道年 業種 文書の表題(課税文書) 過怠税額
2012年 冠婚葬祭業 葬儀申込書(第2号文書) 約1,100万円
2016年 金融業 住宅ローン申込書(第1号の3文書) 約3,100万円

 ①の事案は、冠婚葬祭業を営む葬儀会社が葬儀申込書に遺族の署名・押印を求め、その控えに受付担当者が署名・押印したうえで、遺族に交付していたというものです。大阪国税局は、契約当事者双方が署名・押印する葬儀申込書は「契約書」に該当すると判断し、約1,100万円の過怠税の納付を求めました。

 ②の事案は、金融業を営む信用組合が住宅ローンの申込者に交付していた複写式の顧客控えに印紙が必要との指摘を受け、約3,100万円の過怠税の納付を求められたものです。報道では、その理由は明らかにされていません。おそらく、①の事案と同様に、顧客控えには信用組合側と申込者側双方の署名が記載されていたことを理由に「契約書」に該当するとの判断がされたものと考えられます。

 このように、文書の表題が「申込書」となっていても、そこに契約当事者双方の署名が記載されている場合には、「契約書」に該当するとの判断がされるといえます。契約当事者双方の署名が記載されていれば、その文書は契約の成立を証明することができますので、ある意味、当然の帰結ともいえます。しかし、文書の表題が「申込書」になっている場合には、通常、印紙が問題になるということに思い至らないため、印紙の貼り漏れが生じてしまったと思われます。

申込書が「契約書」に該当する3つの場合

 これまで述べてきたとおり、文書の表題が「申込書」であったとしても、それが契約の成立を証明することができる場合には、「契約書」に該当するとの判断がなされます。もっとも、どのような場合に契約の成立を証明することができるのか明確とはいえません。そこで、印紙税法基本通達では、「契約書」に該当する3つの場合をあげています(印紙税法基本通達21条2項)。印紙税法基本通達21条は、以下のとおりです。

1 契約は、申込みと当該申込みに対する承諾によって成立するのであるから、契約の申込みの事実を証明する目的で作成される単なる申込文書は契約書には該当しないが、申込書、注文書、依頼書等(次項において「申込書等」という。)と表示された文書であっても、相手方の申込みに対する承諾事実を証明する目的で作成されるものは、契約書に該当する。
2 申込書等と表示された文書のうち、次に掲げるものは、原則として契約書に該当するものとする。

(1)契約当事者の間の基本契約書、規約又は約款等に基づく申込みであることが記載されていて、一方の申込みにより自動的に契約が成立することとなっている場合における当該申込書等。ただし、契約の相手方当事者が別に請書等契約の成立を証明する文書を作成することが記載されているものを除く。

(2)見積書その他の契約の相手方当事者の作成した文書等に基づく申込みであることが記載されている当該申込書等。ただし、契約の相手方当事者が別に請書等契約の成立を証明する文書を作成することが記載されているものを除く。

(3)契約当事者双方の署名又は押印があるもの

 

 まず、第1項では、申込の意思表示が記載されているにとどまる単なる申込書は、「契約書」に該当しないということが述べられています。他方で、文書の表題が「申込書」であっても、契約の成立を証明することができる場合には「契約書」に該当するということも述べられています。つまり、文書の表題で判断するのではなく、その文書の内容から「契約書」の該当性を判断するという考え方が示されているといえます。

 次に、第2項では、文書の表題が「申込書」であっても契約の成立を証明することができる場合として、3つの場合をあげています。すなわち、(1)基本契約書等に基づく申込書、(2)見積書等に基づく申込書、(3)当事者双方の署名・押印のある申込書です。この3つの場合については、「国税庁質疑応答事例印紙税(契約書の取扱い)8 」において詳細な解説がされています。

(1)基本契約書等に基づく申込書

 以下の①~③の要件を満たす申込書は、「契約書」に該当すると判断されます。

① 基本契約書、規約、約款等に基づく申込みであることの記載がされている
② 一方の申込みにより自動的に契約が成立することとなっている
③ 申込書を受領した相手方が別途、請書等契約の成立を証明する文書を作成することが記載されていない

 ①の要件については、申込書に基本契約書等に基づく申込みであるという文言が明記されているもののほか、基本契約書等の記号、番号等が記載されていることにより、実質的に基本契約書等に基づくことが文書上、明らかな場合もこの要件を満たすものとされています。

 ②の要件については、まずは、基本契約書等の定めから判断されます。たとえば、基本契約書等に、「個別契約は、申込書を提出した時に成立するものとする」という定めがある場合には自動的に契約が成立するといえます。他方で、基本契約書等に、「個別契約は、申込書提出後、その相手方が応諾した場合に契約が成立するものとする」という定めがある場合には自動的に契約が成立するとはいえません。そして、基本契約書等にこのような契約の成立に関する定めがない場合には、実態判断となります。すなわち、一方当事者が申込書を提出したことで事実上、自動的に契約が成立している場合にはこの要件を満たすものとされています。

 ③の要件については、申込書にその相手方が請書等を作成する旨の記載があるかどうかで判断され、実態として申込の相手方が別途、請書等を作成しているかどうかは問われません。

(2)見積書等に基づく申込書

 以下の①、②の要件を満たす申込書は、「契約書」に該当すると判断されます。

① 申込書に見積書といった契約の相手方が作成した文書等に基づく申込みであることが記載されていること
② 申込書を受領した相手方が別途、請書等契約の成立を証明する文書を作成することが記載されていない

 ①の要件については、申込書に見積書等に基づく申込みであるという文言が明記されているもののほか、見積書等の記号、番号等が記載されていることにより、実質的に見積書等に基づくことが文書上、明らかな場合もこの要件を満たすものとされています。

 ②の要件については、上記(1)の③で述べたとおりです。 見積書等に基づく申込書の場合には、上記の(1)の基本契約書等に基づく申込書と異なり、一方の申込みにより自動的に契約が成立することとなっているかどうかは問われません。これは、実質的には、先に相手方から交付されている見積書等が契約の申込みであり、これに基づいて作成されている申込書が契約の承諾をするものといえるためです。

(3)当事者双方の署名・押印のある申込書

 申込書に契約当事者双方の署名または押印がある場合には、「契約書」に該当すると判断されます。
 文書の表題が「申込書」であったとしても、契約当事者双方の署名または押印がある場合には、当事者双方はその文書に記載された内容を承認したと考えられます。「署名又は押印」とされていますので、たとえば、一方が申込書に署名をして、他方がこれに押印をすれば「契約書」に該当することになります。前述の新聞報道された過怠事案は、この要件を満たしたために、「契約書」であるとの判断がなされたと考えられます。

まとめ

 「契約とは、一方の申込と他方の承諾によって成立する」という契約の基本からすると、「申込書が契約書になることがある」という結論は意外に感じられたものと思います。申込書、注文書、依頼書といった表題の文書は、印紙税法基本通達21条2項に照らし、契約書に該当しないか慎重に確認することが必要です。

この実務Q&Aを見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する