「金銭又は有価証券の受取書」の範囲に要注意
税務「領収書に印紙を貼らなければならない」と言われますが、「領収書」に印紙を貼らなければならないのはなぜでしょうか。「領収書」という課税文書があるのでしょうか。
印紙税の課される課税文書のなかには、「金銭又は有価証券の受取書」(第17号文書)という文書があります。いわゆる「領収書」に印紙を貼らなければならないのは、「領収書」が「金銭又は有価証券の受取書」に該当するためです。しかし、「金銭又は有価証券の受取書」に該当するのは、「領収書」だけではありませんので、どのような文書が「金銭又は有価証券の受取書」に該当するのか理解しておく必要があります。
解説
「金銭又は有価証券の受取書」とは
課税文書の1つとして「金銭又は有価証券の受取書」(第17号文書)があげられます。第17号文書には、第17号の1文書(売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書)と第17号の2文書(金銭又は有価証券の受取書で第17号文書の1以外のもの)という2つの課税文書が含まれます。
すなわち、売上代金として金銭又は有価証券を受領した場合には第17号文書の1になり、それ以外の場合には第17号の2文書になります。両者を区別する実益としては、第17号文書の1の場合には受領した金額が大きくなるほど印紙税額も大きくなりますが、第17号文書の2の場合には受領した金額の大きさに関わらず印紙税額は一律200円となる点があげられます。
このように第17号文書は、2つの課税文書に分けられますが、いずれの文書の場合もそれが「金銭又は有価証券の受取書」といえることが必要になります。そして、この「金銭又は有価証券の受取書」には、意外と広い範囲の文書が含まれることに注意が必要です。いわゆる「領収書」がこの「金銭又は有価証券の受取書」に該当することは明らかですが、それ以外の文書であっても「金銭又は有価証券の受取書」に該当する場合があります。
「金銭又は有価証券の受取書」に関する誤解によって発生したと推測される多額の過怠税事案
過去の新聞報道された事案を分析しますと、「金銭又は有価証券の受取書」に関する誤解によって多額の過怠税が発生したと思われる事案があります。なお、過怠税とは、文書の作成時にその文書に印紙を貼るなどして印紙税を納付しなかったためにペナルティーとして課される税金をいいます(印紙税法20条)。その金額は、通常、元々の印紙税額の1.1倍となりますが、印紙税と異なり、損金算入ができないという大きな違いがあります。
新聞報道された事案の概要は下表の通りです。
番号 | 報道年 | 業種 | 文書の表題(課税文書) | 過怠税額 |
---|---|---|---|---|
① | 2009年 | 鉄道運輸業 | 駅回金書(第17号文書) | 約8,600万円 |
② | 2009年 | 冠婚葬祭業 | 挨拶状(第17号文書) | 約3,000万円 |
③ | 2014年 | 小売業 | 入金票(第17号文書) | 約2億9,000万円 |
①の事案
鉄道運輸業を営む鉄道会社が子会社との間で作成していた2つの文書が問題となりました。具体的には、(ア)親会社が子会社から切符の販売代金を受領した際に子会社に交付していた「駅回金書」と(イ)子会社が親会社から補充用つり銭を受領した際に親会社に交付していた受取書のそれぞれについて、「金銭又は有価証券の受取書」に該当すると判断され、約8,600万円の過怠税の納付を求められました。
(ア)の文書は、切符の販売代金という「売上代金」を受領した際の受領証として作成されている文書ですので、第17号の1文書(売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書)に該当することは明らかです。しかし、文書の表題が「駅回金書」となっており、通常の「領収書」とは異なりますので、第17号の1文書に該当することに気づかなかった可能性があります。
(イ)の文書は、子会社が親会社から補充用つり銭を受領した際に作成されている文書です。補充用つり銭は、「売上代金」ではありませんが、先に述べたとおり、売上代金として受領した場合でなかったとしてもそれが「金銭」である限り、第17号の2文書に該当し、課税文書となります。通常、「金銭」は、「売上代金」として受領することが一般的であるため、「売上代金として受領していないから印紙は不要」と誤って理解されている場合も少なくないと思われます。
②の事案
冠婚葬祭業を営む葬儀会社が葬儀の終了後に遺族らに宛てて交付していた「あいさつ状」が問題となりました。この「あいさつ状」には、主に葬儀の依頼に対する御礼の言葉が記載されていましたが、文書の末尾に「●月●日付にて金●万円を領収いたしました」という葬儀代金を領収した旨の記載されていました。この葬儀会社は、葬儀代金を領収した後、この「あいさつ状」とは別に正規の領収書も発行していたとのことです。
しかし、税務調査において、この「あいさつ状」は、「金銭又は有価証券の受取書」に該当すると判断され、約3,000万円の過怠税の納付を求められました。「あいさつ状」の主たる目的は遺族らに対する謝意であり、代金の領収報告は付随的なものであったこと、「あいさつ状」に印紙を貼ることは違和感があったことなどから「金銭又は有価証券の受取書」に該当するとは思い至らなかったものと考えられます。
③の事案
小売業を営む大手スーパーがテナント業者から毎日、売上金を回収した際に交付していた「入金票」が問題となり、約2億9,000万円の過怠税の納付を求められました。報道では詳細は明らかにされていませんが、国税局はこの文書を第17号の1文書(売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書)に該当すると判断したようです。多数のテナント業者に対し、毎日、交付していたということは、相当な作成枚数に上ったことが推測されます。第17号の1文書に該当したことで一律200円の印紙代では済まなかったということもあり、このような多額の過怠税が課されたものと思われます。
小括
以上のとおり、「領収書」という表題の文書だけが「金銭又は有価証券の受取書」に該当するわけではありません。また、「売上代金」として受領していない場合であっても、17号の2文書として課税文書となります。二者間で金銭のやり取りが発生した際、金銭を受領した者からその相手方に交付される文書は、通常、「金銭又は有価証券の受取書」に該当するため、注意が必要です。
預貯金の「金銭」該当性
預貯金口座に入金があった際、振り込んだ者に対して入金の事実を報告する文書が「金銭又は有価証券の受取書」に該当するか問題となります。預貯金口座に入金があった場合、厳密にいえば預金債権という請求権を得たにすぎず、「金銭」を受領したといえるか疑義があるためです。
しかし、結論としては、口座振替や口座振込で預貯金を得た場合であっても実質的には「金銭」を受領したものと扱われます。印紙税基本通達では、次のとおり述べられています。
売買代金等が預貯金の口座振替又は口座振込みの方法により債権者の預貯金口座に振り込まれた場合に、当該振込みを受けた債権者が債務者に対して預貯金口座への入金があった旨を通知する「振込済みのお知らせ」等と称する文書は、第17号文書(金銭の受取書)に該当する。
先にあげた新聞報道②の事案(「あいさつ状」)では、遺族の大半が葬儀代金を銀行振込によって支払っていたとのことですが、このような事実は結論に影響しないということになります。
預貯金口座への入金があった旨を通知する文書もまた、「金銭又は有価証券の受取書」に該当するため、文書中、「入金」、「振込」、「振替」、「返済確認しました」といった記載がされている場合には、第17号文書として課税文書にならないか検討する必要があります。たとえば、次のような文書が「金銭又は有価証券の受取書」に該当するということは一般的には気づきにくいと思われます。
振替済の通知書
株式会社B 御中
振替金額 108,000円
上記金額を口座振替により●年●月●日付で引落しさせていただきましたのでお知らせいたします。
株式会社A
甲 様
ローンご完済のお知らせ
このたびは、当社の住宅ローンをご利用いただき、ありがとうございました。
●年●月●日をもって全額ご返済いただきましたのでお知らせいたします。
乙株式会社
正規の領収書があった場合の取扱い
先にあげた新聞報道②の事案(「あいさつ状」)で注目すべき点は、この「あいさつ状」とは別に正規の領収書が交付されていたにもかかわらず、「あいさつ状」もまた「金銭又は有価証券の受取書」に該当するとして過怠税の納付を求められたという点です。文書の作成者としては、「正規の領収書に印紙を貼っているのであるから、これとは別の文書にも印紙を貼らなければならないというのは不合理な結論ではないか」との疑問が当然生じるものと思われます。
しかし、結論としては、その文書に「金銭又は有価証券を受領した事実」が記載されている限り、他に正規の領収書があったとしても、第17号文書として課税文書となります。印紙税基本通達では、次のとおり述べられています。
仮受取書等と称するものであっても、金銭又は有価証券の受領事実を証明するものは、第17号文書(金銭又は有価証券の受取書)に該当する。
このように文書の作成者としては、「金銭又は有価証券の受領事実」を別の正規の領収書によって証明する意向を有していたとしても、そのような主観は結論に影響しないということになります。また、金銭を受領した事実は1回であったとしても、その事実を証明する文書が複数作成された場合には、作成された文書ごとに印紙の納付が求められるということになります。
なお、ここでは「金銭又は有価証券の受取書」という第17号文書が問題となっていますが、ここでの問題意識は「請負に関する契約書」(第2号文書)などの「●●に関する契約書」(第1、2、2、7、12~15号文書)でも共通しています。すなわち、契約の成立等を証明する文書が複数作成された場合もまた、作成された文書ごとに印紙の納付が求められます。仮の契約書や契約内容の骨子部分を定めたにすぎない契約書であっても、正規の契約書とは別に印紙税が課されるということです。
まとめ
「金銭又は有価証券の受取書」として最も一般的な文書は「領収書」です。そのため、これ以外の文書も「金銭又は有価証券の受取書」に該当する可能性があるという点は見落としがちといえます。
「金銭又は有価証券の受取書」は消費者に交付することが多く、相当な枚数を作成する点、売上代金として受領している場合には、受領した金額が大きくなる印紙税額も大きくなり、一律200円の印紙の納付では済まない点などから、多額の過怠税が課される可能性が高いといえます。当事者間で預貯金を含め何らかの「金銭」のやり取りがあった際に交付される文書については慎重な検討を要するといえるでしょう。

鳥飼総合法律事務所