緊急事態宣言下で従業員に強く出社を求めることにどのような問題があるか

人事労務
平野 剛弁護士 杜若経営法律事務所

 新型コロナウイルス感染症の影響を受けて売上が低迷したものの、ようやく事業に回復の兆しが見えてきたところで、当社は今後、緊急事態宣言が発出された場合でも、感染防止対策を講じたうえで営業を継続することを考えています。緊急事態宣言下で従業員から出社したくないと言われた場合に、強く出社を求めることに問題はありますか。

 まずは、緊急事態宣言下で、従業員に出社を命じる業務上の必要性、相当性があるか否かを検討する必要があります。
 出社を命じることが可能な場合であっても、業務における感染リスクの蓋然性がある場合には、会社として十分な感染防止対策を講ずることなく従業員が新型コロナウイルスに感染してしまうと、安全配慮義務違反となるおそれがあります。
 また、緊急事態宣言下における出社には、特有の不安を感じる従業員が出てくるおそれもありますので、そのような側面でのケアも必要になります。

解説

目次

  1. 出社命令の可否・有効性
    1. 使用者の業務命令権と労働者の義務
    2. 出社命令の必要性と相当性の検討
    3. 基礎疾患を持つ従業員への出社命令の可否
  2. 安全配慮義務としての対策
    1. 緊急事態宣言下の安全配慮義務
    2. 基礎疾患を持つ従業員に対する配慮
  3. 従業員の各種不安へのケアについて
    1. 出社命令が可能な場合の従業員への配慮
    2. クレーム等に対する不安への配慮
    3. 措置を講じたものの出勤を拒む従業員について

出社命令の可否・有効性

使用者の業務命令権と労働者の義務

 一般論として、使用者は、業務遂行全般について労働者に対して必要な指示・命令をする権限(業務命令権)を有しており、基本的には、個々の業務命令が合理的で相当なものである限り、労働者はその命令に従う義務を負っています。

 他方で、業務命令が必要性を欠く場合や、労働者の受忍できる限度を超えて相当性を欠く場合には、労働者はその業務命令に従う義務を負いません(砲撃の対象となり得る危険海域への出航命令について労働者は意に反して強制されないと判断した判例もあります(最高裁昭和43年12月24日判決・民集22巻13号3050頁))。

出社命令の必要性と相当性の検討

 今後、緊急事態宣言が発出された場合、休業もしくは在宅での勤務を希望する従業員に対して出社するように命じることについては、具体的な状況のもとでの必要性と相当性を検討する必要があります。

 命令の必要性については、緊急事態宣言下においても事業主として事業を継続していくにあたって当該従業員が出社すべき必要性について、当該従業員が従事する業務の性質や内容を踏まえて検討することになります。

 私見となりますが、出社命令の相当性については、以下にあげたような諸事情を総合して検討することになると考えられます。

出社命令の相当性判断のポイント(私見)
① 出社による具体的な感染リスクの蓋然性
② 感染拡大防止に向けて使用者が講じている対策
③ 当該従業員の健康状態
④ 感染した場合の重篤化の傾向 など

 出社命令の可否について、梅本茉里子「新型コロナへの感染を恐れて出社を拒否する(リモートワーク継続を要求する)社員・従業員への対応」において、店舗勤務と内勤業務の従業員に分けて検討しています。緊急事態宣言下においても、基本的にこの記事で検討されている内容が当てはまりますので、同記事をご参照ください。

基礎疾患を持つ従業員への出社命令の可否

 また、緊急事態宣言下においては、宣言が発出されていない時に比べて感染リスクが高まっていると考えられますので、新型コロナウイルスへの感染により重篤化するおそれのある基礎疾患を抱えている従業員に対して、意に反して出社を命令することは相当性を欠くと判断される可能性が高いですし、実務的にもそのような従業員に対して出社を命じるのは控えるべきと考えます。

安全配慮義務としての対策

緊急事態宣言下の安全配慮義務

 使用者は、労働者が生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務を負っています(労働契約法5条、安全配慮義務)。

 多くの企業において既に様々な感染防止対策を講じていると思われますが、緊急事態宣言下という新型コロナウイルスのまん延防止のために各種要請がなされている中で営業する場合には、従業員を感染リスクから守るためにも、よりよい感染防止対策がないか改めて検討しておく必要があると思われます。店舗での営業など、外部からの来店客との相当程度の接触機会のある業務に従事する従業員との関係では、特に十分な感染防止対策を講ずることが必要です。国、地方公共団体、医療等の専門家団体、業界団体等が出している指針やガイドライン等を踏まえて、従業員が従事している業務に適した感染防止対策を講じる必要があります。

 未知の部分が多く手探りの対応に迫られた第一波のときと比べると、従業員の感染リスクについての予見可能性が肯定されやすくなったり、求められる感染防止対策の水準も高くなったりすることも考えられますので、十分な対策を講じる必要があります。

基礎疾患を持つ従業員に対する配慮

 また、出社命令の相当性とも関係しますが、新型コロナウイルスに感染すると重篤化するおそれのある基礎疾患を抱えている従業員との関係では、安全配慮義務との関係でも、緊急事態宣言下においては、外部からの来店客との相当程度の接触がある業務に従事させることは適当ではないと考えられます。

 基礎疾患を抱えている従業員をそのような感染リスクの蓋然性のある業務に従事させないためにも、定期健康診断での情報をキャッチアップするとともに、そのようなリスクのある基礎疾患を抱えている従業員には自主的に申告をするように告知をするのが望ましいと考えられます。

従業員の各種不安へのケアについて

出社命令が可能な場合の従業員への配慮

 緊急事態宣言が発出されているもとでの出社命令が可能であり、従業員がこれに応ずる義務がある場合でも、実際に一定数の感染者が出ている地域において相当数の来客のある店舗での業務のように、感染リスクの蓋然性のある業務について、従業員の意に反して出社を強く命じる場合には、従業員が心理的な不安を抱え、メンタル不調をきたしたりすることも考えられます。

 こうした感染リスクに対する不安を少しでも緩和するためにも、感染防止対策を充実させ、その内容を従業員に説明するなどし、出勤に協力してもらえるように協議することが望ましいと思われます。

クレーム等に対する不安への配慮

 また、2020年4月から5月にかけての緊急事態宣言のもとでは、例えば、ドラッグストアにおいてマスクその他の衛生用品等の品不足に対して来店客がクレームを述べたり、営業を継続している飲食店や小売店に対して第三者が自粛を強く求める行動(いわゆる自粛警察)に出たりすることがありました。今後、緊急事態宣言が発出された場合に営業を継続する中で、こうした第一波のときのような行動がなされることを恐れて不安に思う従業員が出てくることも考えられます。

 顧客や第三者の行動については、事業主の側で制御し難い面もありますが、品不足については来店客が従業員に直接確認しなくてもそのことがわかるように表示や案内を工夫するなどして、こうしたクレームが少しでも少なくなるように工夫することが望まれます。また、営業継続に対する非難(特に、営業自粛要請の対象事業である場合やその類似の事業である場合には、非対象事業よりも第三者から非難を受けるリスクが高いと思われます)については、一般の従業員に対応させずに事業主や店舗責任者が対応するようにするのが望ましいと考えられます。

 こうした不安を少しでも緩和するための配慮をしないまま、出社した従業員にクレームが述べられてメンタル疾患に罹患した場合には、会社の安全配慮義務違反となる可能性もありますので、注意が必要です。

措置を講じたものの出勤を拒む従業員について

 このように緊急事態宣言下において、事業主として各種不安に配慮した措置を講じたとしても、従業員が出勤したくないという場合には、従業員が有給休暇を申請すれば時季変更権を行使できる事情がない限り認めなければなりませんし、有給休暇の申請がないときにも無理に出勤を強制するのは避け、欠勤扱いにする方が望ましいと思われます。

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