コロナ下で正社員に在宅勤務を認める一方、派遣社員に出社を求めることの問題点
人事労務医療機器の販売代理を行う当社には、正社員と派遣社員の事務職員が在籍しています。現在は、新型コロナウイルスの感染防止のために正社員については在宅勤務を行っていますが、派遣社員には毎日出勤し、電話対応等を行ってもらっていたところ、一部の派遣社員から「これは差別で違法ではないか」という声が上がってきました。このような扱いは違法なのでしょうか。
改正労働者派遣法は派遣社員と正社員との不合理な待遇の相違を禁止しており、合理的な理由なく正社員にのみ在宅勤務を認め、派遣社員に出社させるのは不合理な待遇に当たり、違法な取扱いになります。
解説
正社員と派遣社員の均衡待遇
いわゆる日本版同一労働同一賃金の取り組みとして、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「派遣法」と言います)を改正し(2020年4月1日施行)、期間雇用従業員のみならず派遣社員についても正社員との均衡待遇を求めることになりました。均衡待遇とは職務の内容等が異なる場合は、その違いに応じてバランスのとれた賃金を支給しなければならないというものです。
派遣法30条の3第1項は以下の通り定めて、派遣社員と正社員(条文上は「通常の労働者」)との均衡待遇を求めています。
派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣先に雇用される通常の労働者の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
同一労働同一賃金指針
派遣法30条の3第1項を受けて短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針において、以下の定めがあります。
派遣元事業主は、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の業務環境に置かれている派遣労働者には、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の安全管理に関する措置及び給付をしなければならない。なお、派遣先及び派遣元事業主は、労働者派遣法第45条等の規定に基づき、派遣労働者の安全と健康を確保するための義務を履行しなければならない。
在宅勤務は「安全管理」そのものではありませんが、今回のコロナ禍において在宅勤務の目的は従業員を感染から守ることにあります。そのため、上記指針の趣旨は会社で働く従業員の安全と健康を確保するための在宅勤務にも当てはまります。感染防止の必要性は、正社員であろうと派遣社員であろうと変わりません。労働者の感染防止の必要性に変わりがない以上、派遣従業員にだけ在宅勤務を認めない取扱いは不合理というべきです。
そのため、正社員のみに在宅勤務を認め、派遣社員に在宅勤務を認めないのは上記指針および派遣法30条の3第1項違反となります。
派遣契約と在宅勤務
派遣契約においては就業場所を記載しなければならないとされています(派遣法26条1項2号、34条)となります。新型コロナウイルスの影響で派遣社員に在宅勤務を行わせる場合、派遣契約を変更しなければならないのでしょうか。
「派遣労働者に係るテレワークに関するQ&A(令和2年8月26日)」において、以下のQ&Aがあります。
答 労働者派遣契約には、派遣先の事業所だけでなく、具体的な派遣就業の場所を記載することが必要となる。このため、派遣労働者がテレワークにより就業を行う場合には、労働者派遣契約の一部変更が必要になる場合がある。
なお、緊急の必要がある場合についてまで、事前に書面による契約の変更を行うことを要するものではないが、派遣元事業主と派遣先の間で十分話し合い、合意しておくことが必要なことに留意すること。
また、派遣労働者がテレワークにより就業を行うことがあらかじめ予定されている場合においては、当初からテレワークを行う就業場所を労働者派遣契約に記載することが必要とな るため、問1−1の回答も参考に対応すること。
(※下線は筆者による)
上記の通り、緊急の必要がある場合、今回のような新型コロナウイルスの影響で派遣社員に在宅勤務を行わせる場合、事前に書面による契約の変更を行う必要はありませんが、派遣会社と話し合い、合意しておく必要があります。

杜若経営法律事務所