EUのカルテル規制の域外適用

競争法・独占禁止法
吉村 幸祐弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 日本でのカルテルを理由に欧州委員会が日本企業を摘発することはあるのでしょうか。また、摘発された場合にはどのような制裁が課されるのでしょうか。

 欧州委員会は、たとえ日本でのカルテルであったとしても、当該カルテルの態様や、当該カルテルによるEUに対する影響等を踏まえ、摘発することがあります。摘発された場合の制裁としては、制裁金の支払いが課される可能性があります。

解説

目次

  1. はじめに
  2. EU機能条約101条1項の域外適用にかかる3つの考え方
    1. 経済的一体性の理論
    2. 実行理論
    3. 効果理論
  3. カルテルに対する制裁
  4. さいごに

はじめに

 EUでは、EU加盟国が各々の競争法でカルテルを規制するとともに、EU機能条約101条1項において、「加盟国間の取引に影響を与えるおそれがあり、かつ、域内市場の競争の機能を妨害し、制限し、若しくは歪曲する目的を有し、又はかかる結果をもたらす事業者間の全ての協定、事業者団体の全ての決定及び全ての共同行為であって、特に次の各号の一に該当する事項を内容とするものは、域内市場と両立しないものとし、禁止する。」1 と定め、カルテルを規制しています。

 このEU機能条約101条1項の域外適用の範囲について、EU機能条約には明確な規定が置かれておらず、欧州裁判所(European Court of Justice)や欧州委員会(European Commission)が、事案の処理を通じてその考え方を示してきました。以下では、日本企業が特に問題に直面する機会が多いと思われるEU機能条約101条1項の域外適用について解説します。

EU機能条約101条1項の域外適用にかかる3つの考え方

経済的一体性の理論

 EU機能条約101条1項の域外適用にかかる考え方のうちの1つが、経済的一体性の理論(economic entity doctrine)と呼ばれる考え方です。同理論は、EU域外に所在する親会社がEU域内に子会社を有する場合、当該子会社の行為をもってEU域外の親会社の行為として扱いEU競争法の適用を認めるものです。欧州裁判所がDyestuff事件(1972年)2 で採用しており、親会社が子会社を支配していることが親会社の責任を問う根拠と解されます。

 しかし、この考え方の下ではEU域外でEUに影響を及ぼす行為を行った事業者がEU域内に子会社を有しない場合等においてはEU競争法違反を問うことができない、との指摘がなされました。

実行理論

 欧州裁判所が次に採用した考え方が、実行理論(implementation doctrine)です。この考え方は、EU域外においてなされた行為等であっても、EU域内で「実行」された場合にEU競争法の適用を認めるものであり、欧州裁判所がWood Pulp事件(1993年)3 で採用したものです。

 この考え方に対しては「実行」の範囲が明確ではない等の指摘がなされましたが、EU域内に子会社を有しない場合等においてもEU競争法違反を問うことが可能となり、EU競争法の適用範囲は拡大したと言えます。

効果理論

 最後に紹介するのは、効果理論(effects doctrine)です。効果理論は、EU域外においてなされた行為等であっても、EU域内において効果をもたらす場合にEU競争法の適用を認める考え方です。「効果」を評価する点において、アメリカのシャーマン法の域外適用のルール(FTAIA法)と共通していると言えます(アメリカのカルテル規制の域外適用については「アメリカのカルテル規制の域外適用」を参照)。

 EU競争法を執行する欧州委員会は、EU機能条約101条等の適用範囲を定めた「EC機能条約81条・82条における取引への影響概念についてのガイドライン」(2004年)4 の100パラグラフおいて、EC機能条約81条および82条(※現EU機能条約101条および102条)違反の行為は、契約または慣行が域内で実施されるかまたは域内に影響をもたらす場合には、事業者の設立場所や契約の締結場所にかかわらず適用されると定めています。したがって、欧州委員会としては、「実行理論」と「効果理論」の両方が域外適用の根拠となり得るとの立場にある、と評価されています。

 他方で、欧州裁判所は、長年にわたり、効果理論を採用しないものとされてきました。しかし、Intel事件(2017年)5 において、EU機能条約102条違反(市場支配的地位濫用)にかかる事案ではありますが(すなわち、カルテル等を規制するEU機能条約101条1項違反の事案ではありませんが)、EUの管轄権の根拠のアプローチとして効果理論を認めるに至りました。すなわち、欧州裁判所は、効果理論はEU域外で行われたがEU市場に反競争効果を及ぼした行為の規制を目的とする点において実行理論と同様であるとし、効果理論が認められるべきではないとのIntelの主張を否定しました。また、効果理論の内容としては、即時(immediate)かつ実質的(substantial)な効果が欧州経済領域(EEA)内に生じることが予見可能(foreseeable)な場合にEU競争法の適用が肯定されるとの一般裁判所(General Court)の判断を是認しました。

カルテルに対する制裁

 それでは、日本でなされたカルテルに対してEU競争法の域外適用が認められた場合、日本の企業にはどのような制裁が課される可能性があるのでしょうか。

 まず、欧州委員会は、米国司法省とは異なり、カルテルに対する制裁として刑事罰を課すことはできません。欧州委員会が課すことができるのは、行政罰としての制裁金です(欧州における執行状況については「諸外国におけるカルテル規制と執行状況」を参照)。

 この制裁金の算定は制裁金ガイドライン 6 に従って行われ、概要、①違反行為に関連する売上額と違反期間を踏まえて基礎金額を算定したうえで、②基礎金額を種々の事情により増減させる2段階のステップを踏んで算出されます。そして、制裁金ガイドラインでは、①の基礎金額の算定に際して考慮される売上高について、原則としてEU域内における売上額とされていますが、国際カルテルなどの場合にはEU域外における違反行為に関連する売上高も考慮される場合があるとされています。つまり、制裁金の算定に際しては、日本等での売上額も考慮される可能性があります。

 ただし、EU域内に対して違反行為による影響があった場合、実際にどの範囲の売上額を制裁金の対象とするかは、基本的には欧州委員会の裁量に委ねられています。たとえば、欧州委員会は、液晶パネルの国際カルテルが問題とされたInnoLux事件における欧州委員会の決定(2010年)7 では、①違反行為者がEU域内の顧客へ部品を直接販売する類型、②部品が違反行為者の企業グループ内で販売された後、グループ内企業がEEA域内の顧客へ完成品を販売する類型、③部品がEEA域外の顧客に販売された後、当該顧客が加工してEEA域内の顧客へ完成品を販売する類型の3類型に分類し、①②の類型は制裁金の考慮対象としましたが、③の類型までは考慮の対象とはしませんでした(ただし、欧州委員会が③の類型一般について制裁金の考慮対象外と判断したものではなく、③の類型についても考慮の対象とし得るが、当該案件では①②の類型を考慮すれば抑止効果として十分であるから③の類型は考慮しないとしている点にはご留意ください)。

 なお、InnoLux事件に関する欧州裁判所の判断(2015年)8 では、②の類型において、完成品の売上すべてを考慮対象とするのではなく、完成品に組み込まれたパネル価格相当分が考慮対象とされています。また、InnoLuxは、グループ内企業と1つの経済的単位(Undertaking)を構成することについて異議を述べておらず、同判断では、グループ内企業間における指示の有無等について判断していません。

 また、上述した域外適用とは問題とされる場面が異なりますが、子会社が違反行為者の場合、EUの域外に所在する親会社に対して制裁金が課され得る点にも留意が必要です。すなわち、子会社が欧州機能条約101条1項に違反し、親会社が子会社に対して「決定的な影響力」(decisive influence)を行使する場合には、欧州委員会は、子会社の行為を理由に親会社に対して制裁金を課すことがあり得ます。なお、子会社が完全子会社の場合には「決定的な影響力」の存在が推定されます。

子会社によるEU競争法違法行為について親会社が制裁金を課される場合のイメージ図

子会社によるEU競争法違法行為について親会社が制裁金を課される場合のイメージ図

さいごに

 以上のとおり、欧州委員会は、カルテルの態様や当該カルテルのEUに対する影響等を踏まえ、日本のカルテルであっても摘発の対象とし、制裁金の支払いを命じる可能性があります。

 そのため、日本のカルテルを発見した際には、欧州委員会に対してカルテルへの関与を報告してリニエンシーを申請することを検討することも視野に入れ、そのカルテルが影響する範囲を慎重に検討することが求められます。


  1. 公正取引委員会ウェブサイト参照。 ↩︎

  2. Judgement of the Court of 4 July 1972, Imperial Chemical Industries Ltd., v. Commission of the European Communities, Case 48/69. ↩︎

  3. Judgment of the Court of 27 September 1988, A. Ahlström Osakeyhtiö and others v Commission of the European Communities, Joined cases 89, 104, 114, 116, 117 and 125 to 129/85. ↩︎

  4. Guidelines on the effect on trade concept contained in Articles 81 and 82 of the Treaty(2004/C 101/07) ↩︎

  5. Judgement of the Court(Grand Chamber)of 6 September 2017. Intel Corp. v European Commission, Case C-413/14 P. ↩︎

  6. Guidelines on the method of setting fines imposed pursuant to Article 23 (2)(a) of Regulation No 1/2003 (2006/C 210/02) ↩︎

  7. Commission Decision of 8 December 2010 relating to a proceeding under Article 101 Treaty on the Functioning of the European Union and Article 53 of the Agreement on the European Economic Area(COMP/39.309-LCD-Liquid Crystal Displays) ↩︎

  8. Judgement of the court(Third Chamber)of 9 July 2015, InnoLux v. Commission, Case C-231/14 P. ↩︎

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