諸外国におけるカルテル規制と執行状況

国際取引・海外進出
吉村 幸祐弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 諸外国におけるカルテル規制と執行状況の概要を教えてください。

 130以上の国・地域において競争法が整備されていると言われており、カルテルは、多くの国や地域において規制されています。カルテル規制の内容は国・地域により異なっており、たとえば、アメリカやEUにおいては、日本と異なり、一定の類型のカルテルについては、競争の実質的制限が生じているとの認定なしに違法と判断される点が特徴的です。また、アメリカやEUにおいて、カルテルが摘発されることがあれば、その罰金額等は非常に高額なものとなる可能性があり、また、アメリカでは個人の刑事責任を追及される可能性もありますので、十分な注意を払う必要があります。

解説

目次

  1. アメリカにおけるカルテル規制
    1. アメリカにおけるカルテル規制の概要
    2. アメリカにおける執行状況
  2. EUにおけるカルテル規制
    1. EUにおけるカルテル規制の概要
    2. EUにおける執行状況
  3. その他の地域におけるカルテル規制の概要

アメリカにおけるカルテル規制

アメリカにおけるカルテル規制の概要

   シャーマン法1条は以下のように定め、カルテルを規制しています。

【シャーマン法1条】
 各州間の又は外国との取引又は通商を制限するすべての契約、トラストその他の形態による結合又は共謀は違法であると宣言される。

(出典:公正取引委員会ホームページ(一部改変))


 日本では、カルテルは独占禁止法上「不当な取引制限」として規制され、「不当な取引制限」は、「事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう」(独占禁止法2条6項)と定義されています。すなわち、「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」との結果が生じなければ、カルテルとして規制されることはありません。

 これに対し、アメリカでは、競争制限効果が特に大きく、効率性も認められない一定の類型に該当する行為は、市場に与える影響の大きさに関係なく、当然違法(per se illegal)とされています。価格協定や市場分割協定といった典型的なカルテルはこの類型に該当しますので、協定による効果が生じておらずとも、違法行為となります。

アメリカにおける執行状況

 当然違法(per se illegal)の類型に該当するカルテルの場合には、刑事事件として訴追するのが米国司法省(DOJ)の基本的な方針とされています。
 シャーマン法1条違反の罰則は、法人は1億ドル以下の罰金、個人は100万ドル以下の罰金または10年以下の禁錮(または双方)と定められていますが、特別法により、罰金額は、違法行為による利益または損失の2倍まで増額され得ます。そして、量刑ガイドラインでは、影響を受けた通商量の20%を基準として罰金額を決定することとされています。このような規制の下、カルテルによる罰金額は著しく高額なものとなる例も多く、たとえば、矢崎総業に対しては、4億7,000万ドルもの罰金が課されました(2012年)。

 なお、カルテルに限定するものではありませんが、米国司法省が発表する統計資料によれば、米国司法省が科した罰金額の総額は2015年度の36億ドルをピークに大幅に減少し、2018年度は1億7,200万ドルにとどまっています(下図参照)。

Total Criminal Fines & Penalties

出典:米国司法省ホームページをもとに編集部作成

EUにおけるカルテル規制

EUにおけるカルテル規制の概要

   EU機能条約101条1項は以下のように定め、カルテルを規制しています。

 加盟国間の取引に影響を与えるおそれがあり、かつ、域内市場の競争の機能を妨害し、制限し、若しくは歪曲する目的を有し、又はかかる結果をもたらす事業者間の全ての協定、事業者団体の全ての決定及び全ての共同行為であって、特に次の各号の一に該当する事項を内容とするものは、域内市場と両立しないものとし、禁止する。 (省略)

(出典:公正取引委員会ホームページ)

 EU機能条約101条1項の該当性判断において特徴的であるのは、「結果」が必須の要件とされていない点です。すなわち、要件として求められるのは「目的」又は「結果」であるため、競争制限的な「目的」を有する共同行為については、競争制限の「結果」が生じていなくとも、EU機能条約101条1項に該当し得ることになります。

 競争制限的な「目的」を有する共同行為の典型例としては、カルテル、すなわち、価格合意、市場および顧客の分割の合意、ならびに、生産量および生産能力の制限の合意があげられます。競争制限的な目的を有する共同行為に対しては、事業者間の共同行為に関するセーフハーバーの適用がなく、さらに、一般的には、競争制限的な目的を有する共同行為は、EU機能条約101条3項に定める個別適用免除の要件を満たさない場合が多いと考えられています。したがって、競争制限的な目的を有する共同行為であるカルテルは、EUにおいても、広く規制の対象とされていると言うことができます。

EUにおける執行状況

 欧州委員会は、EU機能条約101条に故意または過失により違反した事業者・事業者団体に対して、その前年度売上高の10%を上限とする制裁金を課すことができます。欧州委員会は、制裁金の算出方法をガイドラインで示しており、制裁金は、概要、①違反行為に関連する売上高と違反期間を踏まえて基礎金額を算定したうえで、②基礎金額を種々の事情により増減させる2段階のステップを踏んで算出されます。カルテルに対する制裁金の額も高額なものとなる例も多く、過去には10億ユーロ以上もの制裁金が課された事例も存在します(2016年、Daimler)。
 欧州委員会が発表する統計資料によれば、カルテル事件に係る制裁金の年間賦課総額は、2016年には37億2,700万ユーロにも上っていました。2018年は8億100万ユーロにとどまりましたが、2019年は7月時点ですでに14億5,300万ユーロの制裁金が課されています(下図参照)。

制裁金の年間賦課総額

出典:欧州委員会ホームページをもとに編集部作成

その他の地域におけるカルテル規制の概要

 経済産業省は、2017年4月、「新興国等における競争当局の執行状況に関する調査報告書」を公表しています。
 同報告書によれば、130以上の国・地域において競争法が整備されていると言われており、カルテルは、多くの国や地域において規制されているとされています。
 また、同報告書には、中国、韓国、台湾、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピン、インド、ブラジル、メキシコおよび南アフリカにおける競争法の整備状況や執行状況等が記載されており、同報告書によれば、内容等の違いこそあれ、13か国すべてにおいて、カルテルは規制の対象とされています。

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